18_俊介の報告と奈々の心配
秋の風が涼しさを感じさせる頃――
サガ本社のオープンカフェでは、宮永加奈と沖林理恵がコーヒーを飲んでいた。
「どうしたの、話って?」
加奈はわざわざ外のカフェに理恵を呼びつけた。
「トレジャーバトルのことだけどさ…」
「休憩中も仕事の話?」
話の切り出しに嫌な顔をする理恵だ。
「違うのよ、トラのマーチの話」
「トラのマーチ…?あぁ…トレジャーバトルのチーム…よね?」
「何でも知ってるのね…」
「まぁ、トレバトの営業マンしてると嫌でも耳に入ってくるわ」
他のチームのことも詳しくなるわよ~と仕事の愚痴が始まりそうである。
そこへ加奈の息子、俊介がやってきた。
「母さん!」
「あっ、来た来た~」
加奈は手で招き、奥の椅子に移動する。母親の隣に俊介は座った。
「理恵さん、お久しぶりです」
「久しぶりね…加奈に呼ばれて来たの?」
はい、と言って立ち上がる。
「…その前に飲み物買ってくる」
俊介を見送りながら加奈は理恵に説明する。
「俊介にトラのマーチに入ってもらったの。それで理恵にも一緒に俊介の話を聞いてもらいたくて…」
「俊介君をトラのマーチに…?一体、何のために…?」
「ちょっと気になることがあって…」
加奈の言い方に理恵はピンッときた。
「分かった、紗希ちゃんがGUNだから心配って話でしょ?」
「まぁ…それもある」
俊介がメロンソーダーを持って席についた。
「それじゃ…簡単な報告からね」
加奈と理恵は聞く体制に入った。
「トラのマーチは普通のチームと同じような活動をしている。だけど来年から活動内容を大幅に変更するって話だよ。詳しくは今月の交流会で話すって言われたけど、この先ヤバイ動きがあるかもしれない」
「ヤバイって?」
「分かんないけど荒らすかも」
「荒らしね~」
理恵は額面通りに受け取らない。俊介は意に介さず話を続ける。
「あと、トラのマーチのリーダーはGUNのことをかなり意識してるよ」
「やっぱり?」
「うん、チームに入れたがってる」
「俊介君はGUNの正体って知ってるの?」
理恵の質問に俊介は、はい、と答える。
「知ってます」
そういえば、と俊介は加奈に顔を向ける。
「夏の旅行、トラのマーチのメンバーと行ったんだよ」
「紗希と奈々ちゃんを連れて行った旅行?」
「うん。だからトラのマーチのメンバーと仲良くなってるよ」
メロンソーダーを飲みながら俊介は話す。
「奈々がお世話になったわね」
理恵がお礼を述べると、いいえ~と俊介は答えた。
「その旅行で…何かあったの?」
「ないよ。紗希もGUNのこと話してなかったし…」
「やっぱり正体を隠しているのね」
賢明よ、と理恵が言う。
「あと、トラのマーチのリーダーなんだけどね…」
「広瀬優斗、でしょ?」
俊介が言う前に加奈は答える。
「母さん知ってたのかよ~」
俊介は目をパチクリさせる。
「確証はなかったんだけどね…」
「ちょっと待って…広瀬って…」
理恵はうそでしょ、と口に手をあてる。
「えぇ、伊織の息子よ…」
「ト、トラのマーチのリーダーが…伊織の息子?信じられない…」
理恵は衝撃を受けたが、俊介は伊織が誰なのか分からない。
「広瀬伊織って誰なの、母さん…」
「仕事仲間であり…私たちの幼馴染でもあるわね」
「へぇ~、母さんと理恵さんと広瀬伊織さん?」
「聡史も入れて4人で仲良かったのよ」
理恵が補足する。
「…今は仲良くないの?」
加奈は、そうね~と首をかしげてしまう。
「伊織は入社してからずっと仕事漬けで…」
「うん、一心不乱に仕事してるっていうかね?」
「たぶん家にも帰ってないんじゃないかしら」
加奈と理恵が心配している中、俊介は腕時計を見た。
「あっ、そろそろ大学に行かないと…」
「俊介、GUNが紗希だってバラしちゃダメよ!」
「分かってる。また何かあったら報告するよ」
じゃあ~と言って立ち上がる。ありがとね~と加奈も手を振る。
俊介を見送りながら理恵は加奈に向き直る。
「俊介君ってマイペースだけど頼りになるわね」
「違うのよ、留学資金を出してほしくて私のお願いを聞いてくれてるの」
「あら、そうなの…?」
コーヒーを飲み終えた理恵はトラのマーチのことを考える。
「伊織の息子の優斗君だっけ…?」
「うん。何か起こりそうな気がしない?」
「そうね~娘にも話を聞いておくわ」
加奈は理恵に話を聞いてもらえて良かったと思った。
一方、ゲームセンター『GAME☆ユートピア』では奈々がデジカメで撮った写真を広げていた。
テーブル席には紗希と大輔も座っている。
「すげぇ~楽しそうじゃん…」
大輔が写真を見る。夏休みに行ったご殿場の写真がプリントアウトされている。
「これは富士山に行ったときの写真だよ」
五人の笑顔の写真がある。観光客に撮ってもらったと説明する。
「それでね、大輔に話さなきゃいけないことがあるの…」
「どうしたんだよ」
大輔は持っていたコーヒー牛乳をテーブルに置く。紗希は富士山の写真を大輔に向ける。
「えっとね…この人がトラのマーチの真一だったの…」
「真一…?どういうこと…?」
紗希と奈々が旅行中に知った事実を大輔に告げる。
「マ、マジ?そうだったのか…」
「うん、ゲーセンで不良に絡まれたとき助けてくれたしね!」
「あっさり勝つのもカッコ良かったわ」
紗希と奈々はキャッキャッと話す。
「でも奈々、写真プリントするの遅かったね~」
「だって…プリントするとさ、渉君に会うことになるじゃない?」
憂い顔の奈々だ。
「うん、渡す約束したもんね」
シャラララ~と紗希の携帯が鳴る。
「あっ!もうすぐココに着くって」
「…誰が?」
紗希は携帯画面を二人に見せる。
「渉君だよ~」
「渉君が来るの?ここにー?」
なぜか奈々が慌てる。
「うん…奈々から写真ができたって言われたから渉君にすぐメールしちゃった」
まずかった?と聞く紗希だ。大輔の方も奈々がなぜ慌てているのか分からない。
「まずくはないけど…」
ゲームセンターの自動ドアが開き、渉が中に入ってきた。
「こんにちは~紗希さん、奈々さん」
手を振って紗希たちのテーブルへと歩いてくる。
「渉君、久しぶり~」
こっちだよ~と紗希は招く。渉は大輔と目が合って会釈する。
「渉君、こちら幼馴染の越尾大輔、私たちと同じ歳だよ」
「こんちは、よろしく!」
大輔が挨拶すると渉も表情を緩める。
「初めまして、渉って呼んで下さい」
「じゃ、俺も大輔って呼んで…」
男の友情が成立したらしい。
「渉君、これが写真ね」
封筒には「渉君」と「真一さん」と二通あり奈々は渉に渡した。
「まぁ、まぁ、座ってよ」
紗希が椅子を持ってきた。渉はお礼を言って座る。
「ここが有名な『GAME☆ユートピア(野日店)』なんですね」
僕、初めて来ました、と渉はキョロキョロ見渡す。
「俺の家でもあるんだ。GUN効果で客が大勢来たこともあったけど…」
今はそれほど人もいない。
「なるほど…。大輔さんの家の人が経営してるってことですか?」
「さん付けはやめてくれよ、呼び捨てでいいって」
渉ははい、と頷く。
「私と奈々は小さい頃からここでお世話になってるんだよね」
「まぁ…そうね」
歯切れが悪い奈々を不思議に思う渉だが、気にせず紗希に質問する。
「いつもここで遊んでいるんですか…?」
「うん、学校が終わったら18時過ぎまでここにいるかな~」
「毎日楽しそうですね!」
「渉もたまには遊びに来いよ」
「うん、遊びに来たい…」
ピリリリーと渉の携帯が鳴った。
「真一さんからだ…。僕、もう帰ります…」
そう言うと渉は写真を持って立ち上がる。
「奈々さん、写真ありがとうございました。あとこれ…」
渉は鞄から参考書を取り出す。
「この参考書が分かりやすいので、もし良かったら使ってみて下さい」
「…いいの?」
数Aの参考書を奈々に渡す。
「はい、分からないところがあったらいつでも連絡してください。それじゃあ…」
「渉君、またね~」
渉はペコッとお辞儀して、軽やかな足取りで立ち去った。
「…渉っていい奴だな」
「でしょ~」
紗希と大輔が笑い合っている中、奈々は難しい顔をしていた。
「どうしたんだよ、奈々?」
豆乳パックを飲みながら奈々は答えづらそうに話す。
「渉君に紗希がGUNってバレるんじゃないかって思って…」
「…考えすぎだよ、奈々~」
「そうかしら?」
奈々の心配をよそに紗希は大丈夫だよ~と言ってイチゴミルクのパックジュースを飲んでいた。
奈々は渉からもらった参考書を持ちながら考えをめぐらす。




