15_夏休み旅行②
目的の駅に到着すると俊介が車から出て待っていた。
「こんにちは~お世話になります」
奈々が俊介に挨拶すると俊介もニコリと挨拶する。
「今日も可愛いね」
「ちょっと、お兄ちゃん、やめてよ」
車に乗り込む三人だ。俊介は運転席に座り、後ろの座席に紗希と奈々が着席した。
「俊介さんの友達の親戚の家にお邪魔するって聞いたんですが…」
早速、奈々が質問する。
「大学の友達で倉梯真一っていうんだけど、そいつの親戚の家だよ」
運転しながら俊介は答える。ちなみに、と補足説明する。
「真一は大学を現役合格したから、歳はおれの一個下ね」
「お兄ちゃんは一年浪人だもんね~」
「ま~な。で、もう一人が君らと同い歳の谷村渉」
「倉梯さんと谷村君…」
ブツブツと紗希が名前を覚えようとする。
「あの…豪邸って紗希に聞いたんですけど、実際どうですか?」
奈々は車の窓を少しあけて、街並みを見る。
「うん、期待してていいと思うよ」
車は目的地の自宅に着いたようだ。俊介がリモコン操作すると、車庫のシャッターが自動で開いた。
「わぁ~すごい~」
「お庭が広~い」
二人が思わず感嘆の声をもらす。
「なっ、スゴイだろう」
三人は車から降りる。
門が開くと模様がついたコンクリートが玄関先まで誘導している。
玄関前には、大きな噴水があり西洋の雰囲気がする豪邸だ。
「お兄ちゃん、私あっち見て来ていい~?」
紗希は庭を指差しながら俊介に尋ねる。
「いいけど、あんまり遠くには行くなよ」
「はぁ~い!」
紗希は駆け出す。
「しょうがないな…」
ブツブツ言いながら紗希の荷物を持つ。そんな様子をクスクスと奈々が笑う。
「大変ですね、俊介さんも」
「紗希も奈々ちゃんみたいにしっかりしてくれると助かるよ」
俊介は奈々の荷物も持ち、二人は玄関へ歩き出す。
庭の散策を開始した紗希は裏の畑まで来ていた。
(こんなところに畑がある)
スゴーイ、と思った紗希は畑に近づきながら野菜に触る。
「…おい、何してんだよ」
と、突然後ろから声がした。そこにいるのは真一だったが、紗希には分からない。
「えっ、私は怪しい者じゃありません」
「じゃあ、誰だよ?」
ジリジリと距離をつめてくる真一だ。つり目がさらに吊り上がる。
「あの、私は、あの…」
完全に紗希は怖気づいている。
(どうしようーお兄ちゃんっっ!!)
真一の後ろ、紗希の前から声がかかる。
「…ッ真一さーん!」
渉はミルクベージュに染めてある髪の毛をフワフワと揺らす。
「…どうしたんですか?」
「知らないやつが畑のものを取ろうとしててさ」
「違うんです、ただ触っていただけで、怪しい者じゃありません」
びくつきながら紗希は誤解を解こうと必死に説明する。
「あれ…?もしかして、俊介さんの妹さん…じゃないですか?」
渉が紗希を見る。真一も「あっ!」という顔をした。
「俊介の妹が後から合流するって言ってた…ような…?」
どうやら不審者のレッテルが取れたようだ。
「はい、宮永紗希です!」
俊介の妹です、と言う紗希に真一は謝った。
「ごめんな!」
真一はパンッと両手を合わせる。
「真一さん、忘れるなんてヒドイですよ」
わりーと謝る真一だ。
「誤解が解けて良かったです。倉梯さん…ですか?」
「そう。で、こっちが」
真一が紹介する前に紗希が答える。
「…谷村渉君。同い歳なんだよね?」
「そうなんです!よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね~」
真一は畑の野菜をカゴにしまう。
「悪かったな、お詫びに美味しい夕飯作るぜ」
「はい、私もお手伝いします!」
夜ご飯の支度ができて、テーブルには全員が着席していた。
献立は、夏野菜キーマカレー、トマトとバジルのサラダ、コンソメスープである。
「もう一回自己紹介するね~」
俊介が食べる手を休めて一人一人紹介する。
「俺の妹の紗希と友達の沖林奈々ちゃん」
「よろしくお願いします」
紗希と奈々は明るく挨拶する。
「紗希と奈々って呼んでもいいか?」
真一は二人に質問する。
「大丈夫ですよ~。ね、奈々」
「うん、谷村君も名前で呼んでね」
「はい…紗希さんと奈々さんって呼びます」
渉はスープを飲みながら答える。
「俺たちのことも名前で呼んでくれよ、なぁ、渉?」
「そうですね、真一さん」
「それじゃあ、真一さんと渉君って呼びます」
呼び名が決まったところで、俊介は話題を変えた。
「ところで明日はどこに行くんだ?」
「私と奈々はアウトレットに行く予定です」
奈々は頷き男性陣をグルッと見渡す。
「真一さんたちは、どうするんですか?」
「俺たちは…まぁゲーセン巡りっていうか…」
回答を濁す真一だ。紗希と奈々は首をかしげる。
「それ、楽しいんですか?」
「おれたちは、楽しいの」
俊介が話をまとめた。
次の日、俊介はアウトレットモールまで運転する。
紗希と奈々を降ろして、三人はそのままゲームセンターへと遊びに行くようだ。
「16時頃に迎えに来るからな…」
「ありがとう」
奈々もお礼を言う。車が動き出し行ってしまった。
「ゲーセンに行って何するんだろうね?」
アウトレットを歩きながら紗希は疑問顔だ。
「渉君がいるから変なことはしてないと思うけど…奈々…?」
奈々は首をかしげている。
「ねぇ…真一さんってトラのマーチの真一さんだったりして…?」
「あっ!確かに名前が一緒だね…。だけど私…トラのマーチの真一ってハゲ親父だと思ってた」
「男性とは限らないわよ、女性かもしれないし…」
「あっ、そっか~!」
「まぁ、そんなことよりショッピングしよう!」
「おぉぉ~!」
近くのショップから入る紗希と奈々だった。
男性陣の方はその後、車で郊外のゲームセンターへ来ていた。トレジャーバトルの台を探す。
「あそこの台に座ろうぜ」
真一が指した席は角の席だ。真一と渉が台に座り俊介は後ろから見るだけにした。
「GUNは、やっぱり負けなしですね~」
渉がゲーム画面でGUNのIDをチェックする。
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ゲーム・ユートピア・(野日店)
334勝0敗
※NO PALY
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真一はオンラインバトルをしていた。
「そういえば、俊介さんってトラのマーチに入ったんですか?」
「正式には来月からだって小林さんに言われたけどな…」
「そうですか…だけど一発合格なんて、すごいです!おめでとうございます!」
「いや、たまたま運が良かっただけで…」
「俊介、俺と勝負するか?」
真一の方はゲームが終了したらしい。画面には『 YOU WIN !!』の文字がチカチカしている。
「真一には勝てね~から、いいよ」
「何だよ、やる気ねーな」
真一はオンラインバトルを再開した。
「入団テストを一回でパスするなのは、なかなか難しいんですよ」
渉は話を戻す。
「そうなのか…?」
「はい。チームに入りたい人はたくさんいるんですが、ほぼ落ちます」
「どうして…?」
「ただプレイが上手いだけじゃ合格できません。その後の面接で落とされる人もいるんです。変な人がチームに入っては困る…というのが小林さんの考えなので…」
真一が口を挟む。
「怠けてるとチームから外されることもあるぞ」
「優斗さんが決めること…ですけどね」
「広瀬か…。おれも気をつけないとな…」
「な~んか、俊介ってマイペースだよな」
調子狂うぜ、と真一はゲームをやりながら言う。三人はゲームセンターで遊んでいた。
二日目は、五人で富士山を観光した。車で五合目まで上る。山に登るとヤギや羊がいた。
紗希や奈々はソフトクリームを食べ、男性陣はフランクフルトや地元のB級グルメを堪能する。その後、箱根の温泉に行く。
お風呂上りは五人で集まりトランプをして盛り上がった。
豪邸に戻り、奈々は寝る前にリビングを通る。するとテーブル席で渉が勉強していた。
「…夏休みの宿題?」
「あっ、奈々さん。そうです。宿題の山で…」
奈々はパジャマ姿で大きなリボンのヘアバンドをしている。その姿を見た渉は奈々が可愛い、と初めて意識した。
奈々は平然と渉の隣に座り、数Ⅰの参考書を覗き込む。
「大変だね…ここの集合、苦手意識があって…」
ハッとしながら渉は問題のページを見る。
「あの…求め方が何パターンかありますが、僕が分かりやすかったのは…」
震える手で2つの円をノートに描きながら説明する。
「なるほど、問題文のみだと分かりづらいけど図だと整理できるね」
「はい…ベン図に慣れれば楽に解けるようになりますよ」
「そうだね、ありがとう。この一枚、参考にもらっていい?」
慌てる渉だ。
「えっ、走り書きですし、汚いから…」
「無理にとは言わないけど、私にとっては分かりやすいよ?」
渉は奈々の顔が見られなくなってノートに視線を移す。
「…こんなので良ければ」
ピリピリと慎重に破く。
「ありがとう~。勉強の邪魔してごめんね!もう夜遅いからほどほどに~」
「あっ、はい…」
おやすみ、と言って、奈々は颯爽と歩いて行ってしまった。
急にドキドキして、勉強に手がつかなくなってしまう渉だ。
コーヒーでも飲んで落ち着こうか、いや、もう寝た方がいいかと、ミルクベージュに染めてある髪の毛をクシャクシャにして、あたふたする渉だった。




