14_夏休み旅行①
8月、窓の外はセミがけたたましく大声で鳴いている。
「お兄ちゃん、なに読んでんの~?」
宮永家のリビング、紗希はテレビを見ていて、俊介は自動車の地図を眺めていた。
「旅行に行くんだよ。運転するからさ~」
「えーいいな、私も連れてって~」
行きたーい、とねだる紗希だ。俊介は携帯電話を取り出す。
「俺はいいけど、友達が嫌だって言うと思うぜ?」
「聞いてくれるの~?ありがとう!」
携帯を耳に当てる俊介の隣に紗希は移動する。
「あ、真一?今度の旅行の話だけど妹も連れてって平気?」
紗希は胸を躍らせる。
「ああ…そう…いいの?」
電話が終了したようだ。
「一緒に来てもいいってさ」
良かったな、と言う俊介に紗希は元気いっぱいに喜んだ。
「じゃ、奈々と大輔も誘っていい?」
「あぁ、何人か増えるのは大丈夫だそうだ。旅行はお盆休み明けの4泊5日だ」
「えっ、ちょっと待って…」
紗希は学校の登校日を思い出した。
「えっと…その日は登校日だから次の日から行っていい?」
「電車で来れるなら平気だぞ」
「やったー!」
そのまま紗希は『GAME☆ユートピア』に早足で向かう。入ると大輔がいち早く気がついた。
「大輔、こっち来て」
大輔は、クレーンゲーム機の景品を補充しようとしていた。テーブル席には奈々の姿も見える。
「奈々、大輔、突然だけどさ…旅行に行かない?」
奈々は本から目を離してニヤッと笑う。
「いいじゃん、旅行!いついつ?」
「オレも行きたい…!」
「登校日の次の日から3泊4日」
ピースする紗希だ。奈々もテンションが上がる。
「行く!ヒマだし~」
「登校日の次の日…親父に聞いてくる」
大輔は父親の聡史に予定を確認し、しょんぼりして帰ってきた。
「その日さ、お袋のところに行くんだって…」
「真理さんの出張先って奈良だっけ?」
真理とは大輔の母親だ。長らく単身赴任をしている。
「うん、そう…」
落ち込む大輔だ。
「じゃあさ、帰ってきたら三人でどこか遊びに行こうよ」
「う~分かった。約束な…」
紗希の提案に渋々ながら了承する大輔を奈々もフォローする。
「大輔、お土産買ってくるから」
「おうっ!オレも買って来るぜ」
少しだけ元気を取り戻した大輔は紗希にトレジャーバトルのゲーム機で使う鍵を渡す。
「これ、渡しておくな」
「ありがとう」
大輔は景品の補充整理に戻った。
「で、旅行ってどこに行くの?」
ワクワクした様子の奈々に説明する。
「お兄ちゃんが言うには…」
――簡単に言うと友達が、親戚の家の留守番を頼まれたんだ。
「留守番?」
「うん、豪邸で家を空けるのは怖いから…」
うんうん、と頷きながら奈々は紗希の話を聞く。
「その豪邸に泊まりつつ観光もしちゃおうって計画らしい」
「なるほど~楽しそう」
「でしょでしょ~」
旅行の話で盛り上がる。話が一段落つくと紗希は、トレジャーバトルの台に座る。奈々は携帯電話を取り出していた。
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『トレジャーバトル3』 ※コインをいれてね!
Now Loading・・・
『トレジャーバトル3』
○ 対戦バトル
○ ストーリーバトル
○ トレジャーバトル掲示板
○ 対戦成績
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(対戦バトルけって~)
『対戦バトル』を選んで『決定』ボタンを押すと、チカッとゲームの中央に表示された。
『あなたに対戦の申し込みが来ています 21件』チカッチカッ
『白湯 とバトルしますか? YES OR NO』
YES、決定
『フィールドを選んでください』
方向キーを動かして、決定
『キャラクターを選んでください』
シャイニー、決定
(やっぱりオンラインバトルは楽しいな~)
紗希は笑顔でオンラインバトルに熱中していた。
旅行当日、紗希と奈々は電車の中にいた。
紗希はマリン柄シャツ、ショーパン、ベルト付きサンダルとカジュアルコーデである。
奈々は透け感のある花柄ワンピース、ヒールサンダル、麦わら帽子と涼しげだ。
「ご殿場駅に着いたらお兄ちゃんが車で迎えに来てくれるって」
「大輔には悪いけど楽しみだねー」
電車の中でポッキーを食べる。
「そういえば、トレジャーバトルの掲示板ってネットで見れるんだよ」
奈々は携帯を取り出した。
「そうなんだ…知らなかった…」
「だと思った。GUNのIDも見れるわよ」
奈々が携帯画面を操作する。
「あのさ…奈々に報告があるんだよ~」
紗希が言いにくそうに切り出す。
「また広瀬先輩と知らぬ間に会ったのねー」
ムムと言いながら奈々もポッキーを食べる。
「じゃなくて、トラのマーチの真一とバトルしたの…」
「有名な人よね、それにメモも残してたし…」
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俺と勝負しろ!
お前に初めて黒星をつけてやるよ!
ID名は「真一」だ。
トラのマーチ 真一
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「うん、その後に真一って人からチャットで『お前の弱点は分かった』って書き込みがあって…」
「紗希の弱点?」
「そう、気になっちゃって~」
「で、対戦したわけね」
「実はそうなの」
紗希はまたポッキーを取り出して食べる。
「で、勝ったの?」
「勝ったけど、強いと思った」
紗希は真一のプレイを思い出す。無駄な動きがなかった。
「対戦したってことは真一にメールを送ったのよね?」
「メール?メールってなに?」
奈々は携帯電話の画面を操作して紗希に見せる。
「…GUNのページ画面に飛べたわよ」
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GAME・ユートピア(野日店)
メールを作成する
受信ボックス・・・・・・・・・・72件(未読72件)
送信ボックス・・・・・・・・・・0件
*あなたの成績*
GAME・ユートピア(野日店)((NON TEAM)) 282勝0敗
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「んっ?受信ボックスってなに~?」
驚く紗希だ。紗希の言葉に奈々も驚く。
「えっ?真一って人と対戦した時はメール送らなかったの?」
「うん、普通に対戦の申し込みして待ってた」
なるほど、と納得し、奈々は画面を操作する。
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受信ボックス(72)
2008/8/15 TANAKA 『こんにちは』 20:01
2008/8/1 仕事してYO 『お誘いメール』 16:41
2008/7/15 ROBOTTO 『お礼メール』 23:55
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「…いっぱい溜まってるわね~」
「私、今まで受信ボックスがあるなんて知らなかった」
「トラのマーチと対戦する場合はメールを送ったほうがいいわよ?」
「そうなんだね~、今度からそうする」
奈々は指でスライドしながら受信ボックスの履歴を見る。
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受信ボックス(72)
2008/7/8 真一 『今日の勝負について』 17:38
2008/7/1 梅っ子 『こんばんは』 02:33
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二人は画面を見てハッとする。
「ちょっ、紗希」
「うぇぇ~真一からメールが来てるぅぅ~」
二人は顔を見合わせる。
「…怖くない?」
完全に怖がる紗希をよそに奈々は面白いと感じていた。
「怖くないわよ、読むわよ」
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『今日の勝負について』 2008/7/8 17:38
TO GAME☆ユートピア(野日店)
FROM 真一
今日の勝負は俺の負けだ。
俺はお前の弱点が分かったと思ったが、俺の考えが甘かった。
また今度勝負してくれ。
俺はチームに入っている。
お前もトラのマーチに入らないか?
交流会に参加するだけでもいい。
返事を待っている。
真一
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「だって~」
声に出して読んだ奈々に紗希はギャーとなった。
「ムリムリムリ~!!」
完全否定する紗希に奈々も頷く。
「そうね~まだ高校生だし」
「うん、変なチームに入って怖い思いしたくないよ~」
「正体がバレない方が得策だと思うしね…」
「そうだよ、せっかく理恵さんが色々してくれたのに」
うーん、と二人で悩む。
真一に返信をしない、という紗希の強い思いだけが奈々には伝わった。




