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11_優斗のリレーと隣のクラスの宣戦布告


翌日、高校の体育祭が始まっていた。学校の校舎にいたのは紗希と奈々だ。


「七夕だから雨が降ると思ったのにぃ~」


「私もーちょっと期待してた」


憂鬱そうな二人が歩いていると担任が声をかけてきた。


「宮永、今日はお前が日直だよな?」


「はい」


「頼みたいことがあるんだが、時間はあるか?」


「大丈夫です。奈々、先に行ってて」


「分かったー」


手を振って別れた。


紗希は担任の先生についていくと家庭科の準備室にたどり着いた。


「この保冷剤を保健室に運んでおいてくるか?」


「分かりました~」


クーラーボックスに入っているボックスを持ち上げると重かった。


(うわ~結構重たい…)


フラフラしながら廊下に出て歩く。


(そういえば、昨日の書き込み…)


紗希はトレジャーバトルのチャットが気になっていた。


――おい、俺はお前の弱点が分かった。


――トラのマーチの真一だ。俺と勝負しろ!


廊下をフラフラと歩く。


(対戦したいけど、やっぱりダメかな~~?)


「あっ!」


フラッとした瞬間に誰かに当たってしまった。


「痛っ!」


上級生らしい女子二人組みだ。ジャージの線の色で何年生か分かる。


「ちょっと、痛いんだけど…」


「スミマセン!スミマセン!!」


「一年生?名前は?」


ぶつからなかった方の女子が紗希に迫った。


「あの…本当にスミマセン……」


「いいから、名前教えて」


上級生の目が怖かった。


「えっ…と……私は…」


「あの…どうかしましたか…?」


緊迫した状況の中、落ち着いた声が響く。紗希は声の主に視線を投げると広瀬優斗が小さく会釈しながらこちらに歩いて来るところだった。


「ゆ…広瀬さ…ん…?」


優斗に話しかけられたことで紗希は完全にパニックになってしまった。


「こんにちは…何かあったんですか?」


優斗はいつもの柔らかい表情で紗希と上級生の二人を見る。


「広瀬優斗…」


「ちょっと、まずいよ」


上級生はあっという間にバタバタと逃げていく。


「えっ…?」


優斗は状況が全く飲み込めないが、紗希は腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。


「だ、大丈夫ですか?」


優斗も紗希の視線に合わせるため、その場にしゃがみこむ。


「はい…ありがとうございます…」


「それは…良かったです…?」


優斗はクーラーボックスの存在に気がついた。


「これ、どうしたの?」


「あっ、担任の先生に保健室に持っていくように頼まれたんです」


少し落ち着いた紗希は優斗に説明することができた。


「重いですよね…僕が運びます」


優斗は立ってクーラーボックスを持った。フラつくこともない。


「そんな、いいですよ!」


紗希が驚いて立ち上がると優斗は保健室の方向に歩き出した。紗希も後を追う。


「大丈夫です、これくらい…」


「…ありがとうございます」


「宮永さんと同じ高校だったんですね。さっき遠くから宮永さんを見て驚きました。それで思わず声をかけに来たところで…」


「あれっ、言ってません…でしたっけ?一年一組です」


保健室が見えてきた。紗希は小走りになって保健室のドアを開けると優斗はお礼を述べつつ部屋に入る。


「誰もいないですね…」


優斗は適当な場所にクーラーボックスを置いた。


「それじゃあ、僕はこれで…」


「はい、本当にありがとうございました」


優斗が出て行こうとする。


「あの、リレー出ますよね?応援してます!!」


「ありがとう…頑張って走るよ」




紗希はフラフラして椅子に座った。


(うぅ~~心臓に悪い…でも助かった。マジで神様、仏様、優斗さまに合掌)


優斗さまに幸せを、と念仏を唱える紗希だった。


「あらっ、あなた、どうしたの?」


ガラッとドアを開けたのは保健室の先生だ。


「先生、私…確実に大人の階段のぼってます」


「…どういうこと?」


慌てる先生だった。



奈々は校庭にいた。

クラスの女子とは話さず一人で椅子に座っていると女子二人から声をかけられた。大輔に甘えた話し方をする二人組みだった。


「沖林さん…だよね?」


「…えぇ」


警戒しながら奈々は言葉を発する。


「越尾君と仲がいいみたいだけど、付き合ってるの?」


「大輔と?私とは幼馴染なだけで、付き合ってないわ」


「じゃ、もう一人の子も幼馴染ってこと?」


「…紗希のこと?そうだけど…」


「私、相川萌。越尾君のこと狙ってるの」


「そう…」


「安心したよ、沖林さんたちより私の方が可愛いもん」


やだー悪いよ、と隣の子もクスクス笑う。


「じゃあね~」


入れ違いに紗希がクラスに戻ってきた。


「奈々~今の誰?他のクラスの子だよね…?」


奈々は何か考え事をしているようで反応がない。


「奈々…?どうしたの?」


「ちょっとね…それに今のは私に対する宣戦布告だと思うの」


「宣戦布告~?」


状況についていけない紗希だ。


「それより…紗希は先生に頼まれた仕事、終わったの?」


「う~ん、それがさぁ~」


紗希は奈々の隣に座る。先ほど起こったことを奈々に伝える。


「広瀬先輩っていい人だね。高感度上がる」


「でしょ~そうでしょ~?ドキドキしたよ~」


他愛もない話をしていると周囲がざわつく。


『続きまして三年生全員リレーを開始します。三年生は校庭に集合してください』


「広瀬先輩の走る姿、楽しみね」


「うん、優斗さま、どこかな…?」


紗希は優斗の姿を探そうとキョロキョロする。そんな中リレーが開始された。男女交互でトラック半周を走るようだ。


「ねぇ、紗希ー」


「…なに?」


「広瀬先輩のことは憧れてるだけだよね?」


「…どういうこと?」


奈々の言いたいことが分からない紗希だ。すると悲鳴が聞こえた。


「キャー優斗さまが走ってる!」


優斗は三番手で走る。足の動きに無駄がなく、地面を蹴って走る様は力強い。


「優斗さまー速い」


周りの女子がキャーキャーと騒いでいるが紗希には何も聞こえなかった。




紗希の目の前を走る一瞬が目に焼き付いて離れない。優斗は勢いそのまま次の走者へとバトンを渡した。




「広瀬先輩、一人抜いたねー」


紗希はボケッとしていた。


「ちょっと…どーしたのよ?」


「ハッ!」


ドキドキが最高潮に達している。紗希は胸を押さえた。


「私…好きかも…!」


「えっ?」


「私、優斗さまが好き」


紗希は自分の気持ちを自覚した。


「…憧れじゃなくて?」


「うん」


紗希は真剣な表情で頷く。


「そう…分かったわ。微力ながら応援するから」


「ありがとう~奈々」


紗希は奈々に抱きついた。





体育祭が終わりジャージ姿で下校する。紗希、奈々、大輔と三人一緒の下校だった。


「体育祭って、中学校ほどは派手じゃないね~」


「今日学校を休んだヤツもいたしな」


そこへ相川萌が走ってくる。


「越尾くーん、待って~」


手を大きく振っている。


「何だよ、相川」


「今から二組の打ち上げやるんだよ~。越尾君も早く早く」


強引に腕を絡める。


「おい、ちょっと離せよ。オレは行かないぜ」


「え~どうして?」


「わりぃーけど、この後、用事あるから」


相川萌の腕をやんわりと離し大輔は紗希たちに合流した。




「今の二組の子だよね~?いいの?」


「いいんだよ、メールで謝っておくし。それに…奈々の誕生日会が優先だろっ」


「大輔…」


「理恵さんの料理も楽しみだしな」


材料は豪華なんだよなー、と話す大輔の横を奈々は静かに歩く。




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