10_体育祭と好きな人
梅雨が明け、初夏の学校では放課後に体育祭の練習が始まっていた。
「高校でも全員リレーをやると思わなかったよ…」
グラウンドの芝生に座りながら、ジャージを来てグッタリしている紗希だ。隣には奈々もいる。
「分かる…私もリレーのことを聞いたときに思ったわ」
奈々も紗希も運動は得意ではない。二人が暗くなっているときに遠くの方から悲鳴が聞こえた。校舎から優斗が出てきたようだ。
「キャ~優斗さまがジャージ着てるぅ!!」
「近くに行って見に行こうよ~」
紗希と奈々のすぐ後ろにいた女の子二人組みも騒いでいた。グラウンドに向かって優斗は歩いている。
「広瀬先輩…相変わらずの人気ね…」
「優斗さま…ジャージ姿も似合う…」
紗希は遠くからでも優斗が見れて幸せだと思っていた。
「紗希は相変わらず広瀬先輩が好きなのね」
「まぁね…でも私は優斗さまの私服を生で見たからちょっと優越感かな…」
「先月の日曜日だよね?紗希のテンションが壊れてた…」
優斗が牛丼を食べていた、という話を何回も聞かされた奈々だった。
紗希と奈々が並んで優斗を見ていると、大輔が走ってやってきた。
大輔もジャージを着ている。
「よっ!」
「あれ、大輔のクラスも練習?」
紗希が聞くと大輔は頷いた。
「今からリレーの練習だってさ」
「越尾~」
同じクラスであろう男友達に大輔は呼ばれて「おうっ!」と叫ぶ。
「じゃな、お互い頑張ろうぜ」
運動神経抜群の大輔は友達の元へ走っていく。大輔が合流するとその場にいた女子二人が話しかけた。
奈々がなんとなく大輔を見ていると、女子一人と目が合った。その子はクスッと笑い大輔に甘えたように話しかける。
奈々はムッとした。
「大輔って2組ではモテるらしいよ」
ヘーという顔をする紗希だ。
「高校で初めての彼女ができちゃうかも…?」
「幼馴染として言うのはそれだけ?」
「それだけって言うか、どうしたら優斗さまと仲良くなれるんだろう…?」
そんなの無理かぁ~と言いながら芝生にゴロゴロする紗希だ。そんな紗希を遠くから大輔が見ていた。
(あいつ…何してんだ?)
遠くにいる大輔でも分かるぐらいに紗希はゴロゴロしていた。ゴロゴロしながら紗希は奈々に質問する。
「…奈々ってさ…好きな人いないの?」
それがねー、と言いながら奈々は大輔を見る。大輔は楽しそうにしていた。
「うーん…私はいないかな…」
紗希が疑いの目を向ける。
「…ホントに?」
「今のところ…紗希のことが一番好き~」
奈々は紗希に飛びつく。
二人で芝生の上でキャーと言いながらじゃれ合った。
(あいつら、本当にどーした…?)
芝生でじゃれる二人を大輔は見ていた。
体育祭の練習が終わって紗希と奈々は『GAME☆ユートピア』に来ていた。
「聡史おじさん、疲れたよ~」
店内にはほどほどのお客がいた。接客をするわけでもなく、いつものようにカウンターに座っている聡史だ。
「大輔から聞いてるよ、体育祭が近いんだってね?」
新聞紙を置いて、聡史はカギを紗希に渡す。
「そうなんです~。トレバトして元気出します~」
紗希はいつもの指定席、奈々は横の丸テーブルに荷物を置く。
「私、宿題してるから」
奈々は教科書とノートを取り出している。
「うん、私は赤シャイニーと対戦してるね」
時計を見るともうすぐ18時になろうとしていた。
『トレジャーバトル3』 ※コインをいれてね!
Now Loading・・・
『トレジャーバトル3』
○ 対戦バトル
○ ストーリーバトル
○ オンライン
対戦バトルを決定にして待つ。18時頃になると自然と赤シャイニーとのバトルになる。
ゲームはヒュンといって『Now Loading』が表示された。
シャイニーのムービーが流れる。
『BATTLE START!!』
いつもフィールドは工場跡地だ。紗希は白シャイニーを操作する。
(今日は左側から攻めてみようかな…?)
相手と自分の動きが分かる全体画面を見ながら白シャイニーを動かす。
(…あっ、近いっ!ヤバッ)
紗希はシャイニーを操作する。スライディングさせる。
バン!
赤シャイニーの攻撃をかわすことに成功した。紗希は急いでカメラを回転させる。
バン!
自らも攻撃する。銃弾は鉄パイプに当たったようだ。すぐに反撃が来る。
バン!バン!
ダッシュとジャンプで攻撃を鮮やかにかわす。
(今日の私、調子いい!)
赤シャイニーの死角に回ることを意識しているのがいいのかもしれない。
バン!バン!バン!
勢いに任せてハンドガンを撃ちまくる。だが、紗希の攻撃は赤シャイニーには当たらなかった。
バン!
バタッ…
『 YOU LOSE !! 』
(あー…)
油断したすきに撃たれてしまった。
ゲームの画面が変わる。赤シャイニーと白シャイニーが路地裏に移動していた。
「私の敵じゃないわね!」(赤シャイニー)
「負けたわ、あなた強いわね…」(白シャイニー)
赤シャイニーは不敵に笑うと背中を向け、賑やかな夜の町に姿を消す。
(負けたけど、今日は調子良かったんじゃない?)
嬉しくなる紗希は時計を見た。18時15分を指している。辺りを見回ると自分のことを見るお客もいない。
(…オンラインバトルしても大丈夫だよね!)
ゲーム画面を操作する。
『トレジャーバトル3』
○ 対戦バトル
○ ストーリーバトル
○ オンラインへ
(オンラインけって~)
『トレジャーバトル3』
○ 対戦バトル
○ ストーリーバトル
○ トレジャーバトル掲示板
○ 対戦成績
(対戦バトルけって~)
対戦バトルを選んで決定ボタンを押すと、チカッとゲームの中央に表示された。
『あなたに対戦の申し込みが来ています 33件』チカッチカッ
『サシャ とバトルしますか? YES OR NO』
YES、決定
『フィールドを選んでください』
工場跡地、決定
『キャラクターを選んでください』
シャイニー、決定
ゲームはヒュンといって『Now Loading』が表示され、すぐにムービーの画面に遷移した。
サシャは、マダムのケイトだ。
ケイトは毛皮のコート着て指には宝石が光っている。ショッピングをしているようで、その横にはボディーガードが二人いる。サングラスをかけているほうがボディガードが携帯電話をケイトに渡す。ケイトは何事か話してショッピングモールから出る。
続いてシャイニーのムービーが流れる。
『BATTLE START!!』
シャイニーとケイトは同時に走り出した。
今回のフィールドも鉄パイプが多く入り組んだマップだ。紗希が操作すると右側のチャットスペースも盛り上がり始めた。
シャイニーはジャンプして相手との距離を縮める。ケイトも俊敏な動きをする。ケイトの武器は宝石がついたナイフである。
ヒュン!ヒュン!
無謀な攻撃が飛んできた。シャイニーに当たるはずはない。シャイニーの方もカメラを回転する。鉄パイプの下をスライディングしながら撃つ。
バン!
バタッ…
『 YOU WIN !! 』
(よしっ~)
ムービーが始まる。宝箱が開きシャイニーは宝を取り出す。
手にしているのはハートだ。ハートに口づけすると鉄パイプのエリアが消えて路地裏に二人は立つ。
「私の敵じゃないわね!」(シャイニー)
「負けを認めるわ、私のボディーガードにならない?」(ケイト)
シャイニーが画面に向かってカツカツ歩いてくる。アップになると笑顔でウインクする。そのままシャイニーは賑やかな夜の町に姿を消す。
*************************************
YOU WIN !!
GAME・ユートピア(野日店) VS サシャ
DATE 2008年7月6日
TIME 7:33
*あなたの成績*
GAME・ユートピア(野日店)((NON TEAM)) 221勝0敗
*************************************
「勝ったのか!」
突然後ろから声をかけられた。紗希が振り向くとジャージ姿の大輔だった。
「…ビックリした…。遅かったね~」
「クラスの女子につかまってさ。……んっ?」
大輔が何かに気がついたようだ。チャットを見ている。
「どうしたの、大輔?」
紗希もチャットを見た。チャットの方は依然として盛り上がっている。
(No.44)発信はやはり新宿らしいよ
(No.45)GUNの動きカッコイイー
(No.46)おい、俺はお前の弱点が分かった。
(No.47)弱点……??
(No.48)トラのマーチの真一だ。俺と勝負しろ!
(No.49)えぇー真一さん?
(No.50)私ファンなんです!
「…紗希の弱点が分かったって…書いてあるぜ?」
大輔はチャット画面を指さしている。
「トラのマーチの真一って…聡史おじさんにメモを残した人だよね?」
「こんなヤツ無視だ、無視しろ、紗希」
プリプリと怒り出す大輔だ。
「…そうだね」
紗希は心に引っかかるものを感じながらゲーム画面を見ていた。
「紗希…ちょっと…」
大輔は店の奥へでコソコソと紗希を呼ぶ。
「…どーしたの?」
「なぁ、明日って7月7日だよな?」
「うん…」
今日が7月6日なので、明日は当然、7月7日である。
「プレゼント買ったか?」
「もちろんだよ」
いつも通りのピースをする紗希だ。そこへ奈々が話しに加わった。
「なに~私の話してるんでしょー?」
「奈々ッ…」
驚いたのは大輔だ。
「明日は7月7日で、私の誕生日ね」
ニヤリと笑う奈々だ。
「オレさ、まだプレゼント買ってなくて…」
「別にいいわよ、プレゼントなんて。それにママも帰ってくるみたいだし~」
「理恵さん、奈々のためにお料理張り切っちゃうんじゃないの~?」
笑いながら言う紗希だ。
「理恵さんの料理って新しい味がするよな」
大輔も腕組みしながら思い出している。
「私の誕生日のことを考えてくれるのは嬉しいけど、明日は体育祭だからねー」
「それが憂鬱だよ…」
「オレは楽しみだぜ」




