霧の森の中で
テオは旅人だ、目的もなくあてもなくまだ知らない場所を探し旅をしている。
旅人だと普通の人より多くの人に会う。
どこかの世界に一期一会という言葉がある。
同じ人会うことはめったにない。
■
テオは霧に包まれた夜の森の中にいた。
どこまでも濃い霧と暗闇が周りを包んでいる。
目の前にはぱちぱちと音をならす焚火とその向こうに焚火を見つめている中年の男が一人。
名前をナキというらしい。
お互いこの森に迷った旅人だ。
困ったときはお互いさまという旅人の間のルールに従い今二人は一緒にいる。
「お互い運がよかった、これで少しは寝ることができる」
落ち着いたトーンの声でナキが言った。
それにテオも賛同する。
「そうですね、森の中で一人だと寝ることもできない。魔除けでもできれば話ですが、お互いただの旅人。本当に運がよかった」
交代制で見張りをし、片方が起きていれば何かあってもある程度は対応できる。
見ず知らずの森の中で一人で眠るなど自殺行為等しい。
お互いが食事を暫くしてナキが口を開いた。
「…すまないが、最初は私に寝かせてくれないか?最近寝れてなくてな、そろそろ限界なんだ」
確かにナキの目元にはクマがあった、顔も少しやつれている。
「わかりました、いいですよ」
体力的に余裕がテオは快くナキの頼みを受け入れた。
返答を聞くとナキは何やら小さい道具をいじると懐にしまい、バックから布を取り出し、身にまとい横になった。
すぐにナキの寝息が聞こえた。
どうやらそうとう疲れていたようだ。
パチパチと焚火の音と寝息以外は何も聞こえない、静かな森だ。
■
ボーっと焚火を眺めてどれほどの時間がたっただろうが、空を見上げても森と霧のせいで何も見えない。
いつもは大星の位置を見て時間を確認するがが今は見ることはない。
これでは、いつキナを起こすかべきかわからなかった。
「どうしようか…」
焚火が弱まってきたたら小枝を放り込み、またボーっと焚火を見つめる。
パチパチパチパチ
焚火の音だけ聞こえる。
ふとテオはキナのほうを見ると、ぐっすり眠っている。
あとどれくらいしたら起こすべきだろうか、そう考えていると体冷えてきたのか身震いした。
テオは自分のバックから布を取り出し身にまとった。
「まずい…眠くなってきた…」
体温が高まってきたせいかテオに激しい眠気が襲ってきた。
見張り中の激しい眠気は旅人の中ではあるあるで人によって対処法は変わってくる。
体をつねって紛らわしたり、飲みものでごまかしたり様々だ。
そんな中、テオはひたすらなにか考えることで眠気をごまかしていた。
始めのほうはいろいろなことについて考えた、この森について、持っている食料の残量など考えていたが次第にいま目の間にいるキナをいつ起こすかについてばかり考えた。
(今の状況は、森と霧のせいでどれくらい時間がたったのかわからない。せめて雲が見えれば時間の流れを感じるのに…、あとどれくらいで起こそうか…)
時間がわからない上に周りは静かな森と霧に包まれている、テオが見張りをし始めてから変化がなくテオの時間感覚は狂い始めている。
(まずいなぁ…時間感覚がなくなってきた…もう起こすか?そろそろよくないか?結構時間がたったんじゃないか?)
眠気による思考能力の低下、時間感覚の消失による焦りからかそんな思考が何回もテオの頭の中をぐるぐると駆け巡る。
しかし、テオの鈍った思考ではそれすらも気づいていないようだった。
それからどれほどの時間がたっただろうか、いつ終わるかわからない見張りに、げんなりしていとき突如静かだった森にヴーっと小さな音が鳴った。
最初は何事かとテオは驚いてあたりを見渡した。
原因はすぐに見つかった、どうやら音はナキの体から出ているようだ。
すると、先ほどまで眠っていたナキはむくりと起き上がり大きく伸びをした。
「んー、…もう時間か。見張りご苦労さん。ありがとな、おかげでだいぶ回復したよ。どうした…?そんな驚いた顔をして?なんかあったのか?」
■
次の日、無事にナキとテオは霧の森を抜けることができた。
しかし、テオはどこかふてくしているような表情だった。
「目覚めの箱なんて道具あるなんて、ちゃんと言ってくださいよ」
「いやー本当にすまない、このことを伝えるのを忘れていたとは」
テオが持っていたのは『目覚めの箱』というものらしく、時間を設定をすると振動してくれるらしい。
寝る前になにやらいじっていたのはその『目覚めの箱』だった。
「これは、昨夜のわびだ受け取ってくれ」
そういってナキは小袋を渡してきた。
中にはそれなりに通貨が入っていて少し重かった。
「こんなに!」
「気にするな、無駄な心配をかけた迷惑料だ。それじゃ、おれはこっちだからな。もう会わないかもしれないが元気でな」
そのまま、ナキは自分の目的地に向けて去っていた。
テオも目的地もないまま歩き始めた。
こんな感じの話ばかりをぽちぽち書いてきます。