第二十七話 挿入短編:隼の選択肢
四守隼は、東北にいた。
大阪との合戦中、混乱するなか、名隊を抜けた。
これは、身勝手で、許されないことだとわかっていた。
けれど、隼は混乱のなか、名隊を独断で抜けて、東北に行った。
隼はいろんなものから逃げて、名古屋に来たはずだった。
けれど、状況は変わってしまった。
もはや、守りたいと思い、守るべきですらなくなった日向は、名古屋にはいない。
そして、隼は、家系の使命のため、伝書鳩によって伝えられた言葉に従って、東北へ来た。
この戦乱の世は、もうすぐ終わる。
「時は近い」
隼は、逃げたかったはずの家にやってきた。
四守家。
そこに、六死外道の、"餓鬼道"をつかさどる子孫がいる。
「隼、よく帰ってきた」
わがままな女性の声。
「蘭さま、久しぶりです」
頭を下げた隼に、くすくす笑う。
「あんたがいないせいで、退屈だった」
穢縢蘭は、そう言って笑った。
「家出した、馬鹿息子をお許しください」
隼の頭をつかんで、さらに下げさせる、兄姉たち。
その身体には、隼と同じ黒い幾何学模様の刺青が彫られている。
「よいよい、どうせ隼には期待してない。これからわたしは、来る"時"のために、準備をする。迎えももうすぐ来るだろう」
蘭はそう言って、部屋に戻っていく。
その両腕には、黒い菊のあざ。
「ねえ、隼、阿修羅の龍は、どうだった?」
振り返りざまそう聞いた蘭に、隼はうつむく。
「あんたのことだから、なにも言わずに出てきたんでしょ。あの子は気にしないわ、阿呆だから」
ひらっと手を振った蘭は、隼の携帯している武器を指差した。
「その黒い武器は、見るだけでも気分が悪いから、あたしの前では隠しておきなよ」
そう言って、今度こそ部屋にこもっていった。
四つの呪いをつけられた、餓鬼道の子孫。
四守隼は、その守人の家系だ。
「隼、あんたも、戻ってきたなら、覚悟はできてるんでしょう。はやく準備をしなさい」
姉や兄たちとともに、隼は、倉庫へ向かった。
そこには、大量の糸車が置かれていた。
「餓鬼道の蘭さまは、これから外に出る。蘭さまが暴走しないように、私たちで、最大のお守りを作るのよ」
病にかかり、一度身体を壊した蘭は、呪いが不完全になった。
だから、結界を張ってある屋敷の外に出たとたんに、暴走する。
だから、隼の家系は、蘭を屋敷にとじこめ、常にその身にお守りをつけさせていた。
隼は、昔からそのお守りをつくる手伝いをしていた。
蘭は、もう自由を諦めていた。
だから、日向を見た時、自由に生きてほしいと思った。
けれど、四守の家から、家出をするとき、血の契約を結ばされた。
家系の秘密、子孫の秘密、それに関係することを言わないこと。
言えば死ぬ、呪いのようなものが、身体中の刺青にはあった。
だから、隼は日向に真実を話せなかった。
隼は、薄暗い倉庫のなかで糸車を回しながら、陽だまりのような日向のことを思い出した。
日向、お前は、お前の好きなように生きろよ。
時は、近い。




