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束の間の事件1

 暗闇の中、物陰に隠れながら移動する者がいる。影と影の間に差す赤い光に一瞬だけ姿が露見するが、その者を確認しようとする者はいない。


 進んだ先は開け隠れられる物陰は無い。思い通りにならず舌打ちをする。

 魔界にも夜は来る。赤い月の光を太陽とするならば、夜は月が空から消える時間帯、すなわち魔界の夜。

 夜がくるまで極力見つからないように影に溶け込んだ。


 ◆◆◆◆◆


 晴天の空模様、メイヴィスは庭にて衣類を物干し竿に干していた。庭と言っても町から孤立している一軒家の回りは一面を除いて大地が広がっているので明確な庭という所帯は決まっていない。

 それに魔界なので草木は生い茂っていない。枯れ木などがその一面にあるだけだ。一言で言うなら殺風景というべきだろう。

 そこへ歩いてくる一人を見かけ、急いで支度し戻った。


「こんちはメイヴィス。リーチェは?」


 仲間のように親しげに挨拶をするブランドルがやって来た。


「どうも、お嬢様は中です。どうぞ上がってください、お茶を煎れてきますね」


 メイヴィスは一礼してリビングへ向かい、ブランドルも続けてお邪魔した。

 そんな中で彼女は困惑の目をあるものに向けた。


「何してんの…アレ……」


 それは窓の前にある植木鉢などを置くような少しのスペースに上半身を全て乗せ、窓の外に腕を伸ばしボーッとするリーチェが干されていた。


「お嬢様の放心状態です。昨日の事をまだ引っ張っているんです」


「まぁあれだけきつく言われればね……ああなるのも無理もない、か」


 ジュリアンヌ達に言われた口撃がまだ記憶に新しい。メイヴィスとの約束で笑顔になったが時間が経てば原因を嫌でも思い出す。

 結局リーチェは自分の非力さに放心しているのだった。


「ほらリーチェ! しっかりしなって!」


 ブランドルはリーチェの横腹を持って立たそうする。その様子を気にせず、机にカップを並べメイヴィスはお茶を煎れた。


「うううぅぅやだああぁやめてぇぇ!」


「そんなことしてても何も変わんないわよ!」


 まるでワガママを言う子供とその母親だ。


 ブランドルが手を出したおかげかリーチェは少し調子が戻ったようだ。煎れられたお茶をいただきながらブランドルは来た理由を話す。


「昨日二人と別れた後 私はとある物を買って来たのよ……ゴクッ…あらこれすごく美味しい!」


「それは何よりです」


 彼女の称賛にメイヴィスは頷く。




「ちょっと話が逸れてるんですけど。メイヴィスのお茶が飲みたいだけなら代金支払って行きなさいよ、お金無いなら体で、そのおっぱいを私に分けなさい!」


「私のおっぱいは関係無いでしょ///」


「だったら早く喋って、喋らないならそのむっちりとしたお尻のお肉を私に分けなさい!」


「一応私の方が年上よ。そろそろ言葉を選んだ方が良いわよ」


「なによぉ年上だからってぇ! 嫌みでも言いに来っモガモガッ……」


「そこまでですお嬢様」


 胸を腕で隠すように顔を赤くするブランドルに激昂するリーチェ。これ以上は酷くなりそうなのでメイヴィスがリーチェの口をおさえた。


「はぁぁ、それだけ叫べるならもう元気ね。いい、私はリーチェのためにこれを買って来てあげたんだからね」


 ブランドルは緑色の液体の入った瓶を机に置いた。リーチェは静かになり瓶を手にとる。人の目からするとかなり怪しい色の液体だが、魔族にとっては色などはどうでも良い些細なことだった。


「これは?」


「魔力増強剤よ。リーチェには魔力が足りない、もとい少ないんじゃないかと思って……」


 婬魔の店で行う仕事とは客に望み通りの夢を見させること。元々夢を扱うことに特化した魔族『婬魔』。夢を見させるのにも魔力が必要になる。リーチェにはそれが足りないという。


「それ使って力をつけて。後は……そのぉ……」


「どうイメージするかのイメージ力、ですね」


「そうそれ!」


 ブランドルの言いたかったことをメイヴィスが代弁する。夢を見させるのに魔力だけではなく客の要望を再現するための想像力も必要条件である。それはリーチェ本人でどうにかするしかない。

 彼は金銭的な意味で心配する。


「しかし宜しかったのでしょうか? ブランドルの負担に……」


「良いのよ……あの時庇えなかった分だと思ってくれたら…」


 本人は問題無いというが、魔力増強剤はそれなりに高い。誰でも簡単に強くなれるアイテムであり尚且つ簡単には作れない逸品でもある。


「ブランドル……」


「ん?」


 瓶を握りしめたリーチェは静かにブランドルに近づいて抱きついた。



「大好き♪」



「この態度の変わりようったら!」


 無事に仲直り出来たようだ。


(…? 今何か……)


 メイヴィスはその様子を微笑んで見守ると窓の奥で何かが通った気がした。


「どうかしたのメイヴィス?」


「いえ、夕食の用意をしてきます。ブランドルもご一緒にどうですか?」


「あ、お願いするわ。(ぶっちゃけお金無いってのはあながちウソじゃないから……)」


「(はは……)かしこまりました」


 ブランドルの本音をメイヴィスだけが聴いてキッチンへと向かった。


 ◆◆◆


 メイヴィスが夕食を作っている間、ブランドルは家事の手伝いをしてくれていた。

 リーチェは一人で先ほどの窓で瓶を指先で遊びながら待っていた。月が地平線に沈んで空が暗くなっていく様子を眺め時間を過ごす。


(今飲んでも良いんだけどせっかくなら向こうに着いてから………やっぱり行きたくないなぁ……)


 夕食が終われば婬魔の仕事が始まるのでまた町に向かわなければならない。昨日の今日なのでリーチェの気分は優れない。ジュリアンヌはまだ怒っているだろうと彼女は分かりきった推測をする。



 ガサガサッ……



「……?」


 店に行った時の対応を考えていると外から物音が耳に届いた。辺りは暗くてなり始めでよく見辛かった。風は吹いていない、なので自然に音がするのはあり得ない。


(小動物か何かかな……それよりどうしよう……きっとまたひどいことをコソコソして言うんだ……)


 物音がしようが今のリーチェには考える暇は無かった。



 ガサガサガサッ……


「え………っ?!」


 ヒュンッ……



 そのため物音の正体にも気づけないままリーチェは姿を消した。音速の出来事に、場にはその際に引っ掻いた傷による血が一滴だけ残っていた。

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