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下級婬魔とお世話やき

『魔族』………そう聞いて何を思い浮かべるだろう?



 人の形を基本に角や尾、鋭い爪や牙を持ち合わせていたり。

 はたまた人とは違う別の動物がベースになっていたり。

 はたまた動物なのかすら判断し難い形状で存在していたり。

 統一性は無いものの一概に言えることもある。


 彼らには知能がある。自ら考え行動できる。

 毎日の生活も、縄張り争いも、支配するされるの阿鼻叫喚。


 人間と似ている。

 似ている箇所もあるだろう。が、実際、知能を持つと最終的に()()にたどり着く。


 彼らは種族として別々の個性を持ち合わせている。生きるために個性を振りかざすのである。個性=力という認識で良い。


 知能を持つ彼らは自己防衛の為、個性を振り回し縄張り争いに勝利を重ね、他人を支配することをさらに重ねていくと、やがて頂点が産まれる。


 その頂きの存在を彼らは魔族の王『魔王』と称えた。


 魔王は支配を維持する過程で力の関係性を表すピラミッドを造り上げた。

 頂点を魔王とし、その下に魔王に近かった三つの種族、その下は倍、さらに倍……


 結果としてその中央集権政策じみた支配は成功した。

 先にも言ったが彼らは個性を持つ。すなわち強者が絶対の弱肉強食。

 魔王に近い『御三家』とも呼ばれる種族が主にピラミッドの運営をしている。


 世界の名は魔界。

 強者が絶対の歪な空間で『魔王』という格上の存在に怯えつつも、自分を強く見せようとしなければ生きていくことさえ難しい世界。



 ◆◆◆◆◆



 静かで真っ暗な部屋の中にコツコツと足音が鳴る。

 人型魔族・メイヴィスは部屋の隅まで歩み寄ると、窓全体に垂れかかっているレースを手に取り勢いよく開けた。魔界特有赤い月の光が部屋を照らす。


「お嬢様、朝です」


 メイヴィスは赤い光を背中に受け部屋の壁 中央にそって置かれているベッドに視線を送る。

 寝返りで布が擦れる音が鳴ると共に美しく幼い声音がメイヴィスに答える。


「………ん……んん………もうちょっとだけ……」


「いけません。朝食が冷めてしまいます」


 喚起しながら掛け布団を剥がす。

 上半身を起こし、柔らかそうなお腹を無意識に出し、婬魔・リーチェは伸びをする。


「ん~~~―――ふあぁ……おはよ~メイヴィスぅ~」


 まだ眠い目を擦り、二人は寝室を後にした。


 ◆◆◆


 婬魔であるリーチェは幼い体つきであるが、いっちょまえに肌の露出が多い。どこを触ったとしても軟質で、その微かに膨らんだ胸部や腰などはまだまだこれからと言ったところである。

 薄い紫色の瞳に合う、ピンク色で二の腕辺りまで伸びる髪。耳の上辺りの髪の隙間から、小さな角がちょこんと顔を出している。

 くびれ辺りの背中に羽が生えており、先端がハートの形をした尾が歩く度にクネクネ動く。


 人型魔族のメイヴィスはリーチェのことを『お嬢様』と慕っていることは明確なのだが、実のところ謎が多い。

 彼自身 記憶喪失なのであった。記憶はリーチェと出会った時からのもので、それ以前の記憶や自身の正体を覚えていない。なので記憶が戻るまでリーチェのお世話をしている。


 人型魔族と言えば、邪人、オーガ、ゴブリン、サイクロプス等々おり、この魔界にも存在している。だが、メイヴィスの容姿は人間にほとんどそっくりで、魔族らしい魔族の容姿ではない。

 強いて言うのであれば八重歯が魔族らしく長くて鋭い。あとは光によって赤みがかっていると思わせる色合いの黒髪黒目が特徴で顔の整った男性である。



「今日は何をして過ごそうかなぁ~」


 朝食を食べ終えたリーチェはソファーにうつ伏せ足を交互に動かす。


「食べてすぐに横になってはいけませんよお嬢様」


「むしろお肉をつけたいから良いんだも~ん」


 皿を片付けるために手をつけるメイヴィスが良かれと思いリーチェに注意するが、本人は気にしていない様子。ワガママな彼女に呆れて皿洗いを始めた。


 メイヴィスが『お嬢様』と呼ぶだけであって住んでる家はお城お屋敷などではなく、ただの一軒家。

 それにかなり古い。メイヴィスが定期的に点検、掃除を行っているため住めなくはないのであった。




「ちょっとリーチェ! 居るんでしょ! 出てきなさい!」


 突如として玄関の扉が叩かれる音と共に女性の声がリビングまで響いた。ただでさえボロいのに強く叩いてほしくないとメイヴィスは声には出さずとも心に留める。


「ゲッ! ブランドル怒ってる……また私何かやらかしたのかな? ……いや今回ばかりは大丈夫だったと思うんだけど……」


 独りブツブツ言うリーチェは玄関を見向きもしない。メイヴィスに関しては毎度のことで全く気にも止めていなかった。


「リーーーーイーーチェーーー!」



「………お嬢様」


「ああぁ分かった分かった! 今行くから!」


 近所の子供を呼ぶように、うるさくしつこくブランドルが呼ぶのでリーチェも同じような声量で返す。二人の住む家は町から離れ孤立しており、近所迷惑とは無縁の領地に建っている。


 リーチェは自分に(怒られないはずだから大丈夫)と言い聞かせて玄関を開けると、腰に両手をあて同じ婬魔のブランドルが彼女を深緑色の蔑んだ目で見ていた。

 ブランドルはリーチェより年上であり背丈も高く、橙色の髪が真っ直ぐに腰辺りまで伸びている。そして婬魔として活躍出来る十分な胸をぶら下げている。


 ぶら下げているのは胸だけではなく、手には何やら紙をぶら下げていた。その紙を目線の先の者に見せるとリーチェは葡萄の如く顔が真っ青になった。


「メイヴィスどうしよう。報告書の提出今日、というか昨日の夜までだったんだけど……」


 ハァァと、ブランドルと駆け寄ったメイヴィスのため息が見事にハモった。


「バカね。仕事はやったのにその結果を伝えなくてどうするんのよ。今日という今日は庇えるか分からないわよ」


「えええぇぇ!」


「嘆く暇があるなら書ける所書いて来なさい!」


「うわあああぁぁん!」


 弁解の余地もないくらい言い負かされたリーチェは涙目で自室へ走っていった。


「メイヴィスも大変ねぇ」


「はは、まあ……」


 同情の言葉にメイヴィスは乾いた返事をした。


 ◆◆◆◆◆


 報告書を書き終え三人は町へと足を運んだ。町外れた一軒家と違い、しっかりとした建物が広がる大きな町。黄色やオレンジ色のネオンが町を輝かせて少し眩しいくらいだ。

 丸く人々の中に人間など居ない。婬魔やオーク、ミノタウロスなどが人と変わらぬ生活をしている。


 町をしばらく歩き、報告書を渡すべく場所へと着いた。婬魔の仕事場である。明かりがより多く使われており眩しい町でもより目立っている。


(ここ苦手だからあまり来たくはなかったんだが)


 婬魔の経営する所へ男一人で入るのは気が滅入るメイヴィスの思いを放っておき婬魔の二人が入っていくのでついていく。

 中は多くの仕切りや小部屋があり、二階まで吹き抜けた構造。客とみられる多種多様な魔族が婬魔に連れられて小部屋へと入っていく。中央から二階へ登る階段はあるものの、羽を利用して飛び仕事場の婬魔達が働いている。


「あ、リーチェよ……」

「今日はメイヴィスも来てるのね」

「出来損ない」

「メイヴィスにあの欠陥品は必要ないわよ……」


 柱に隠れ数人の婬魔達の陰口がメイヴィスの耳に届く。リーチェの顔に目をやるが本人は表情を変えずそのまま歩いている。


 中央階段を登り正面にある扉を近くの婬魔が開ける。

 中は明かりが弱く、一つのランプで部屋を照らしている状況だ。正面の椅子に足を組んで座る一人の婬魔が性欲をかき乱す煙をタバコとして吸っている。

 扉の前で足が止まったリーチェの背中をブランドルが押し、無理やり入らせた。


「今さらどんな面下げてここに来てるんだいリィーーチェェェ」


 店の婬魔達を統べる婬魔が怒ってるのが分かる吐息でリーチェを見下していた。

まだまだ練習中の身です

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