新山陽実の場合 1
宜しくお願いします。
記憶を取り戻す前と後とで違ったことと言えば、実はそんなにないのかもしれない。
両親の営んでいる喫茶店の二階、自分の部屋で陽実は昔を思い出して苦笑する。だって生意気な小娘が、輪を掛けてクソ生意気な小娘になっただけなのだから。
新山陽実の住んでいるここは、どんなに贔屓目に見たところでおよそ都会とは呼べない小島だ。意図的に都会から隔離されているに違いないと、引っ越して来たばかりの幼い頃、陽実は本気で考えていた。
そしてちょうどその頃、たまたま隣の家だったという理由で笹田高嗣に出会えたわけだが、それを運命の出会いだと思えるほど陽実は純粋な少女ではなかった。
お転婆、じゃじゃ馬、ガキ大将。そんな陰口(というか、近所の大人からも直接そう呼ばれていた)にも負けず、島の小学校に転入して三ヶ月も経つ頃には暴君の二つ名が定着した。同時に高嗣は哀れな生贄、子分というポジションだと皆に認識されていたし、陽実はと言うと自分のそんな噂にも高嗣のそれにも無頓着で、むしろ陽実のような高貴な身分の人間には当然だとさえ思っていた。哀れだろうが何だろうが、自分に子分が居るのは当たり前と。
陽実が最初に取り戻した記憶が、異世界でいちばん偉い王様の子供だったという事実だからだ。
当時陽実はその記憶を何の疑問もなく受け入れたし、その頃は陽実に向かって生意気な態度を取る同級生に「わたしに向かってえらそうだぞ!」なんて言葉を平気で吐いていた。いつもそれを取りなしてくれていたのは高嗣で、でも陽実はそんな高嗣にも苛立ちを隠さなかった。
わたしはあんなやつらとは身分が違うんだから当然のことなのに。
おまえはわたしのいちばんの子分なんだから、もっとわたしの味方をしなきゃダメなのに。
なんでへなへなした風に笑ってえらくないあいつらにも、ずっとえらいわたしにも、もういいじゃんか、なんてことを言うんだ。
もっとわたしの味方になって、あいつらの方をやっつけないとダメなのに。
友達を作るなんて考えられない、今は高嗣だけを特別に傍に居させてやるけど、わたしがもっと大人になったら高嗣なんかよりずっとずっと言うことを聞いてくれる人間を子分にするんだって、島に馴染んでいない頃の陽実は真剣に考えていた。
自分が我慢するなんて考えもしなかった。
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