ねずちゅうの子
お話しましょう。そういえば……。
はあ、干支ですか。干支といえば、「ねぇうしとら……」と幼い頃よく唱えて、物覚えの良さを親類に自慢していたものです。
そう、そういえばわたくしのご先祖様……父の母の母の、母……くらいでしょうか。あるいはもう少し後だったか忘れてしまいましたが、とにかく昭和とか、大正とか昔の時代の人です。
父から聞いた話ですが、そんな人に「チュウ」さん、という名前の方がいたんですって。ねずみ年に生まれたから、チュウチュゥという鳴き声をとって「チュウ」という名前になったそうです。最初にこの話を聞いたとき、昔の人の名づけ方はなんて適当なんでしょうと驚いたものです。
その「チュウ」さんは、名前に反してとても猫好きな方だったと聞いています。わたくしの家にも猫が三匹おりますが、この子たちのご先祖さんも「チュウ」さんの時代から飼われているんですよ。
なにぶん広い家だったこともあって、家にはねずみが住みついていたのか、その対策も兼ねていたんですって。今はもう改築を繰り返しまして、そのようなことはありませんけども、ものかげからカリカリ、カサカサ……なんて音が聞こえてくるなんてどの時代でもきっと嫌でしたでしょうね。
そんな「チュウ」さんですが、猫好きが高じてか、彼女の子供には「ネコ」と名付けたらしいのです。漢字では「寝子」と書き、寝る子は育つからという理由を言っていたそうですが、親類たちにとって彼女の猫好きは隠しようもない周知の事実でしたから、一部には呆れられたようでもありました。
……まあそのような感じで、いいオチというようなものは無いのですが、せっかくですからこの二人の出来事についてもう一個わたくしが聞いたお話をしましょうか。
「ネコ」さんはすくすくと育っていきましたが、あるとき、ひとつの事件が起こったのです。
「ネコ」さんが「チュウ」さんを*してしまったんですって……!
さしずめ、ふふ、猫がねずみを取って食ってしまったというところでしょうか。我ながらちょっと上手いと思いませんか……ふふ、なんて。「チュウ」さんの性格に難があっただとか、「ネコ」さんの婚姻について反対があっただとか、そのような話を耳に挟みましたが、本当のところの原因は……もう昔のことですからね。もうあまり分かりませんでした。
そしてここからが面白いところなんですが、不思議なことに「チュウ」さんの代から直系の女の子はみぃんな、ねずみ年なんですって! すごいと思いません? 同じ干支が続いて何だか縁起が良いねなんて思う人も周りにいらっしゃいますが、こういう事件があったってことを知ると少し不気味に感じませんか? ……まるで「チュウ」さんの呪いのようだと、わたくしなんかはそう思ってしまうのです。
あら、少し刺激が強すぎたかしら。大丈夫ですか? お体は大事にしませんとね。叔母さまに心配をかけては申し訳が……ふふ、ごめんなさい。わたくしの性格の悪さが露見してしまっているようですわ。父にも、私の妹や君のいとこには迷惑をかけてはいけない……と言われてはいましたが、ついお話が楽しくなってしまって……ね、ごめんなさいね。
それで、そう、干支の話でしたね。来年はねずみ年ですが、元気なお子さんが生まれると良いですわね。たしか、診断では女の子だとか。……ふふ、珠子さん、顔が青いですよ。来年はあなたの生まれ年でもあるんですから……きっと良い年になりますわね。ふふ、あは……あはは…………。
この話は一部を除きノンフィクションです。