表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
93/111

第九節 成そうとする者達⑦

「まったく! いくら傭兵とはいえ、やって良いことと悪いことの分別ぐらいあるでしょうに!」


「すみません……」

「はい……」


 ぷんぷんと言う表現が相応しいレオナの説教に男達は揃って恐縮していた。


 城から距離を取らされていた彼女はこの集団の哨戒に付いたことがあり、顔見知りと言う程度には知った間柄だったのである。


「いいですか、彼は剣技も弓技も自由自在の魔法騎士ですからね? 絶対に暴れたり騒いだりしてはいけませんよ?」


「「へ~~い……」」 


 言われなくても抵抗する気など欠片も残っていない。

 全員正座でうなだれている男たちは自分たちの処遇が気が気ではなくて、ようやく立ち返ったギルガメシュとリョウの会話に聞き耳をたてていた。


「すまない、足手まといになってしまった」

「いや、大勢相手によく守ってくれた。訓練の成果が出てたな」


 周囲の警戒を怠ったことに加え、冷静さまでも失ってしまったギルガメシュは指示も守れない未熟者で済まないと反省しきりだが、リョウはこの人数差でよくやれたと褒めた。


 しかし、今はとても言葉通りに受け取れない彼が俯いていると、胸の中のもやもやが嫉妬だとわからないシスティーナが無理に気持ちを入れ替えながら再度問いかける。


「それで、彼らをどうするの?」


 口を封じて早々に花園へ向かっても良いはずなのに、わざわざ生かして回復までしてやるからには何かしらの利用価値があるのだろう。


 窮する権威よりも時勢だと剣を向けられた怒りが無いわけではなかったが、利用価値があるなら任せようと考えた王女ににやりと笑った彼は、腕章を付けている男の前に立った。


「野盗ではなさそうですね。第二の大増員に加わった傭兵団で合っていますか?」

「ああ。俺は元暁の傭兵団長、バラックだ」


「なら目的は金ですよね。向こうの契約金の三倍を前払いで出すので王女に協力してくれませんか。逆賊に組した件も不問としますので」

「―――は?」


 ジャラと重い音を立てて目の前に置かれた硬貨袋。

 開かれた口の中で輝く金貨と真面目な表情の少年とを見比べたバラックが、耳か頭がおかしくなったのかと周りを見てみると。


(なにそれ怖い)

(意味がわからん。王族に刃向かった件を不問っていいのかよ?)

(あれ? 俺たち負けたから座らされてるんだよな?)  


 やりとりを聞いていた部下のほとんどがきょとんとしているか、ぽかーんとしているか、自分同様に周りの反応を確かめていた。


 どうやら耳に悪い魔族が入り込んだわけでも、良くない呪いを受けて頭がおかしくなった訳でもないらしい。

 だからと言って少年の申し出を鵜呑みにできるかは別問題であるのだが。


(落ち着け! ひっかけかもしれん!)


 傭兵とは金に素直で雇用主に従う者である。

 迷宮探索や素材集めなど自主的な稼ぎ方もする冒険者と異なり、掲示板の依頼のように雇用関係のある仕事しかやらないから傭兵なのだ。


 その代わりたいていの者が、見合った報酬が約束されるなら汚れ仕事も厭わないし、開拓団の護衛がてら開墾作業や土木作業を手伝うこともある。


 また、割り切りもはっきりしていて昨日までの仕事仲間と今日は殺し合うなんてざらであり、逆に本気で殺し合った相手と酒場で出くわしても喧嘩になったりしない。


 すべての契約は自己責任と考えられている。

 法的に黒かろうが予期せぬ危険や問題が発生しようが下調べの甘い自分が悪いのであり、一度請け負った仕事を投げ出す傭兵はド三流の烙印をおされてしまうのだ。


 そんな元傭兵団の自分たちは一応第二騎士団と契約中の身であるし、簡単に向こうを裏切ったりしてよいものか。

 

 信用できるのか試されているのかもしれないし、金に目の色を変えるような奴は嫌いかもしれない。


 冷静になれ、と何度も何度も自分に言い聞かせたバラックはもう一度正座している自分たちと少年との力関係を思い返してみた。


 王女及び王族近衛騎士と明確に敵対し、完膚なきまで叩きのめされ、戦意を根こそぎ奪われ、生殺与奪を握られているのは重々承知している。


 命乞いをするのは生け捕りの自分たちであり、そのための容赦ない対価を要求できるのが彼らなのはこの国の法としても、弱肉強食の大地の掟としても確かだ。


(……だよな?)


 なのにこの少年は、その常識から外れたことを言っている。


 王女に敵対した罪を見逃した上に、命乞いを受け入れて欲しければ金を払え、ではない。


 命が惜しければ金を受け取れ。

 さらに正道である王女に協力する機会をやるという、百人中百人が罠を疑うような押し買いを仕掛けてきているのだ。


(フォレスト卿や王女様はそれでいいのか?)


 何かの間違いではないかと隣の近衛騎士をみてみれば、金満作戦に慣れてしまったギルガメシュは平然としており、斬首を申しつけてもおかしくないはずの王女も一任している様子。


「それが嫌なら、口を噤んでギュメレリーから出て行ってください」


 嫌ならここであったことを忘れてこれ以上関わるなと言う選択肢を告げる声は低く、報告しに王都に戻るような真似が許されないのは嫌でも分かった。


(何人かやられた分はそれでチャラって事か。そっちも情報漏れが困るってことだろうが……)


 四番目の選択肢として、彼から金を貰った上で第二騎士団に情報を売って褒美を貰うという最低の展開だって考えられる。


 そうなったらどうすると言う好奇心を抑えられなかったバラックが恐る恐る尋ねてみると、裏切られても大したことはないが、不義理は許さないと少年は言った。

 

「あんた、俺らが金だけもらって裏切るとか思わないのか」

「多少面倒にはなりますが、結果は変わらないよう考えています。その場合、次に会ったときは覚悟してくださいね? 三倍で返金させた上に全員死んだ方がましだと言う目に遭わせますので」 


(あ、こいつ本気だわ)


 相手が至って本気だと察したバラックは敵対と裏切りはねぇなと目を閉じる。


 しかし逆賊側とはいえ、逃げるか寝返れば近隣地域で再び傭兵団として活動するのは難しくなるだろう。


 この後ギュメレリーがどうなるかはわからないが、どちらにせよ噂は広まって命惜しさ、金に目がくらんで寝返るような三流傭兵団という誹りを受けるのは避けられない。


 かといって彼の強さを目の当たりにした今、傭兵としての生き方に従って敵対勢力に戻る気にはなれなかったのも確かなのだ。


「元傭兵団で今は騎士ですよね。騎士なら主君につくことになんの問題もありませんよ」

「う、うーん?」


 生き方はそう簡単に変えられないと身をもって知った元冒険者が建前で言うと、理屈は分かるんだがと大きく首を捻ったバラックは考え込んでしまう。


(とはいえ、選択肢は逃げるか協力するかの実質二つ。どっちにしても傭兵に戻れないんだったら、最後の大仕事といくしかねぇか)



 ―――後にバラックは、もちろん命は惜しかったし金も欲しかったが、一番の理由は興味だったと詠い手に語る。


 この規格外で非常識な少年が、自分たちになにをやらせたいのか。

 そしてその結果、この国がどうなるのかを知りたいと思ったのだそうだ。



「……俺たちを傭兵として使いたいなら、適正料金で雇ってくれればいい。まずは仕事の話を聞かせてくれないか」


 哨戒自体は安全地帯なら割がいい程度、王女を見つけて連れ帰れば金貨百万枚と言われているものの、本当に払われるかどうか怪しい口約束である。


 逆賊が報酬を惜しんで自分たちを消そうとする可能性だってありえるなと考えたバラックが、やはり仕事は適正料金で受けるべきだと言うと。


 割り引くなんてもったいないという顔、さすが団長と誇りに思う顔、様々な反応を見せる団員達を見回したリョウはなんと、さらにいくつもの袋を取り出しどさどさと山積みにしたのである。


「いいでしょう、この国の未来を護る仕事を安く見積もるつもりはありません。予定よりうまく事が運べば追加報酬も出しましょう」


「え……えーーーっ!?」

「はぁ!?」

「ひぇっ……」


 まさかの大増額に男達はあんぐりと口をあけた。

 夢かと自分の頬をつねったり、幻覚から覚めようと地面に頭を打ち付けるものもいた。


 おそらくこの金は濃厚な金満のにおいを感じさせる少年の私的なものであり、城を抑えられて逃げた王女の資産ではない。


 肩代わりをしているだけなら、この偶発的な調整に際して彼女に確認を取らないのは明らかにおかしいからだ。


「では、説明を始めても―――あれ? もしもし?」


「………こわいよー。この人こわいよー」

「いったい何やらされるんだよ? 噂の魔族をやれとか言われるんじゃないか……?」

「捨て駒かぁ……うまく生き延びられるかなぁ……」


 うまい話に必ず裏があるのなら、うますぎる話にはいったい何が潜むというのか。

 どれほど恐ろしくて凶悪な命令が下されるのかと男達は震え上がってしまい、会話が成り立たなくなってしまう。


「うーん? 効果からすれば当然だと思うんだけどな」


 リョウには彼らを騙すつもりなどこれっぽっちも無かったが、赤の他人の安全や周囲の被害低減のために自腹を切っても―――しかも小銭という桁ではない―――構わないという考えを今日初めて会った、しかも世知辛い世の中をよく知っている相手に理解しろと言う方が無茶である。


 結局、ギルガメシュやシスティーナが口を添えても指示を伝えるのに思わぬ時間を取られてしまい、四人が花園に向かえたのは草原が夕暮れに染まる時間になってからだった。


             ◇


「…へ…へーーっくしょん!」


 とっぷりと日が暮れた後。

 ようやく意識を取り戻した黒牙団の首領は痛む頭を抑えながら麦畑から這いだし、あたりの惨状に飛び上がる羽目になる。


 たった一人生かされた男は王都に逃げ戻ると、リョウのねらい通り仲間が皆殺しにされたことを周囲にまくし立てた。


「ほんとだって! 何人か上半身が吹き飛んだと思ったら、残りは切り刻まれて死んでたんだ!」

「すぐに確認を出せ!」


 非正規部隊の取りまとめ役から報告を受けたポールはすぐに確認部隊を派遣。

 男の言葉が嘘でも誇張でもないことが判明し、おそらく魔法による攻撃だとの報告に脅威を感じたことだろう。



「なに!? ゼッドが失敗した!?」

「は、はい。これが遺されていた退魔の剣です」


「聖地に嗅ぎつけられると厄介だな……プテロニア併合を前倒しせねばならんか」


 同様に連絡を受けたペテロもレオナの粛正に失敗したと察し、聖地の対応を恐れたに違いない。



 さらに第二騎士団を中心とした現場を混乱させたのは謎の賞金稼ぎの情報だった。


「別の小隊も、ダグスター検査官らを倒した相手と戦闘になっていたと言うのは本当か?」

「はっ。報告では黄金の全身鎧(フル・プレート)をまとった魔法騎士だそうです。場所と時間が共通していることから第六十三小隊を壊滅させた相手と考えてよいでしょう」


「聞かないな。何者かは分かっているのか?」

「先に手を出してしまった第四十二小隊は降伏と謝罪を受け入れてもらえたそうです。そのときのやり取りで、協会付きの賞金稼ぎと言ったとか」


「なるほど、大陸全土を行き来する番犬ならこれまで聞いたことがないのも頷ける。しかし、襲った途端に見つかるとは運のないことだ」

「仕方ありません、やつらは相当な数に及ぶと聞きますし。逆にそれで手打ちにしてもらえてよかったのかもしれませんぞ?」


「うむ。うかつな指示を出したハーヴ高司教はワール公から猛省を促していただかなくてはな。それより、その黄金の賞金稼ぎとやらが反乱側に引き込まれないよう手を打つべきではないか?」

「すでに捜索隊を出しております。なに、しょせんは賞金稼ぎ。口に金を詰め込んでやれば良いでしょう」


 当初、ポールや一部の者達は目立つ相手だと気楽に考えたのだが、実体を持たない存在を見つけられるわけがない。


 多数の部隊を割いての捜索がまったく収穫なしなのは、潜伏する第一騎士団に取り込まれてしまったからなのではと言う不安が次第に大きくなっていった。


「見つからないとはどう言うことだ! そもそも本当にその黄金の魔法騎士とやらは実在するのか?」

「北部から来た商人や旅人が何人か知っていたので本当だと思うのですが……」


「ではなぜ、それほど目立つ相手が見つからない!?」

「鎧を脱いでしまえばそれと分からないと言うのが一つ。それから……」


「何だ、言ってみろ」

「前後して反乱軍の陽動が止みましたよね。もしかして向こうに取り込まれてしまったとか……」


「むぐぐぐ……こちらも戦力を増やせ! 他の町からでいい、どんな連中でもいいからひっぱってこい!」

「わ、分かりました!」


 第一騎士団の陽動終息を、戦力増強による変節と考えたポール達はワール公に報告するとともに人集めを加速させる。

 しかし、王女からの連絡をうけていた補佐官らは人の流出に目を光らせていて勧誘はままならなかった。


 地方は逆に王都からの転移文書を検閲していて、ワール公に有利なものをすべて握りつぶしていたのである。

 さらには宛先になっていた連中にも監視を付け、怪しい事をしたそばから詰め所に連行していった。


             ◇


 地方の手足をもぐのと平行して、王都では遠方からきた商人に扮する盗賊ギルドの者が虚像の裏付けをしていった。


「ええ、黄金の魔法騎士の噂なら北部で聞いたことありますぜ」

「なに、やはり他地域からの流れ者か」


「黄金の全身鎧……ああ、黄金の賞金稼ぎさんのことかな? 駅馬車協会の仕事が無いときは単身で野盗団を壊滅させて回ってるとか」

「一人で!?」


 もちろんワール公側も彼らの抱き込みを図ってそれなりの金を出し、監視や情報集めをさせていたのだが、繋がりのあるメイドからの情報で事実を把握していたギルド側は王女側からの依頼があるなりどっちにつくかを決めたのだ。


 なにしろ自分たちの監視をくぐり抜けて本部に直接乗り込み、金貨を積み上げたのが例の少年とあってはほかに選びようがなく、虚像の流布のほかに時計塔の操作、どこかに軟禁されているはずの地方領主達の捜索などいくつもの仕事を請け負うことになる。


「おい、知ってるか? ぼんくら共が駅馬車に手を出したせいで、なんかやべーのを怒らせたってよ」

「聞いた聞いた! 黄金の甲冑をきた魔法騎士だってな!」


「ずいぶん悪趣味、いや成金趣味な賞金稼ぎもいたもんだな」

「協会付きってんなら稼ぎは良いだろうしなぁ。俺は顔を出さないって方が怖いよ」


「ああそうか、鎧を脱いじまえばそれと分からないもんな」

「北部から来たって話だけど、もっと前からギュメレリーに居たのかもしれんな」


「その人が王女様を助けてくれたらなぁ」

「そーだそーだ! ワール公は雑魚ばっかり集めてないで黄金の魔法騎士さんを頼ったらいいじゃないか!」


 とてつもない力を持った賞金稼ぎははたして、今の政変に関わるのか否か。


 反乱軍の戦力増強に怯える者だけではない。

 日に日に悪化する雰囲気に辟易していた住民達も現状を打開できそうな存在に少しずつ期待を寄せていき、王都では黄金の魔法騎士に対する思いこみが少しずつ膨らんでいった。


 そこにとどめを刺したのがバラック達である。

 這々の体で逃げ帰ったことを装った彼らは町中で噂をばらまき、詰め所では非正規小隊の不安を煽りまくったのだ。


「あれは(マス)……いや豪位(グランド)の魔法騎士かも知れん。まったく歯が立たなかった」

「そんなバケモンが反乱軍に加わったとか冗談じゃねぇな」


「正面からぶつかることになった場合、上は俺たちを盾にした消耗戦を仕掛けるという噂もある。非正規の口減らしになれば一石二鳥だと」

「はぁ!?」


「噂だ、確かな話じゃない。しかし恥ずかしい話だが、俺たちは隙を見て逃げ出すつもりだ。裏切り者の三流と言われようが、絶対死ぬと分かっていて立ち向かえるほどの報酬がもらえるわけでもない。お前達も身の振り方を考えた方がいいぞ」

「むぅ……」


 業界では名の知られた暁の傭兵団が恐れ戦き、これまで積み上げた実績を捨ててまで一番最初に夜逃げした効果は大きく、後に続く元傭兵団がいくつも現れる。


 元貧民は最低限の衣食住が保証された生活から離れがたいらしく変化はそれほど見られなかったが、もとより戦力外も同然のため大勢に影響はない。


 義理もへったくれもない元ならず者たちは風向きが怪しいと感じるや否やぞくぞくと姿を消しており、昨日は朝の点呼で三人足りず、今朝はさらに五人居ないという有様だった。 


             ◇


 その数日後、王都から逃げ出した元暁の傭兵団は分散して近くの農村に身を潜めていた。


 彼らの役目はまだ終わっていない。

 王女が城を取り戻せたならば、実は黄金の魔法騎士なんて虚像であり、うわさをばらまいたのも自分たちが逃げたのも王女の作戦だったと言って回る仕事が残っているのである。


 すでに前金で白金貨を貰っており、奪還戦で敵勢力が少なければ少ないほど追加報酬を渡すとあの少年は言っていた。


 あとは宿屋で決着を待つだけだと手持ち無沙汰なバラックに部下の一人がつぶやきを漏らす。


「なぁ、団長」

「なんだ?」


「ほんとのこと、喋ったらダメなんだよな?」

「ダメだ」


「でもよぉ、喋りてぇなぁ……」

「絶対にダメだ」


 復権がうまく行ったとき、酒場で鼻高々に実はこうだったのだと語りたいのはバラックを含めほとんどの者が同じである。

 しかし報酬には口止め料が含まれているのも確かなのだ。


「ああああああ! 実はあの人が裏で糸を引いてるって言いてえよぉぉぉぉぉ!」

「バカやめろ、どこで誰が聞いてるか分からないんだぞ」


「だってよ~」

「彼を敵に回したいか? 裏切ったら死ぬより辛い目にあわされるぞ?」

「我慢します!」



 ―――彼らはしばらく悶々とした生活を送る羽目になり、それはそれはつらい毎日だったとバラックは語る。


「だからよ、女王様から真実が語られたと知ったときは驚くのと同時に、秘密から解放された喜びでみんな飛び上がったさ」


 そして全員で酒場に突撃し、鬱憤をはらすように緩くなった口で喋り、飲み、強烈な二日酔いで動けなくなったと豪快に笑った。


             ◇


 不死鳥の月が二十五日をすぎる頃には王都近辺の哨戒すらままならない状況になってしまい、ポールを呼び出したワール公は王座から怒声を浴びせた。


「この無能め! どうせ再編を面倒くさがって監視役を混ぜていなかったのだろう! 烏合の衆を野放しにしていたとは呆れてものも言えぬわっ!」

「ももも、申し訳ございません……」


「素性も知れぬ余所者一人の噂話に踊らされるのも大概にしろ! 統制も出来ぬ愚か者を上に据えておくほど私は寛容ではないぞ!」

「……重々、重々承知しております……」


「テンペに潜んでいたという王女の行方は掴めたのか!?」

「お、恐れながら……」


「金ならいくら持ち出しても構わん、補充と再編をいそげ! 西方騎士団と余所者が手を組むとやっかいだ、ダイアナ方面の捜索も強化しろ!」

「は、はっ……!」


 絨毯にしみが残るのではないかと思わせるほど冷や汗を垂らしていたポールが足早に出て行った後。


「もっとまともな武官が居ればすぐにでもすげ替えてやるものを……!」


 忌々しげに呟く父親に、同年代と見まがうほど急激に老け込んだ息子が召喚術書を愛おしそうに撫でながら言った。


「黄金の魔法騎士とやらが加わったところで、絶対魔法防御を持つ魔眼種には手も足もでますまい。我々の有利は揺らぎませんよ」


 恍惚とした表情は上位魔族の力に魅入られているのか酔いしれているのか分からない。

 だが、隙だらけに見える契約者に危険が及べば禁書の中の魔眼種が黙っていないだろう。


 あまりに存在の格が違いすぎるせいか、正規の契約を結んだ召喚獣ではないからなのかは分からないが、絡みつくような殺気と上位者特有の威圧感はいまも禁書から漏れ出しているのだ。


(どうやらエンサイド司祭は無事のようだな)


 召喚術書の強奪や破壊を諦め、聖地を動かすように焚きつけた者としては途中で彼女に死なれたら困るし寝覚めも悪い。


 ポールの叱責に先駆けて行われたペテロの報告を思い返し、魔槍に寄りかかったフォートはまだ動く時ではないと平静を装い続けるのだった。

いつもお読みくださってありがとうございます(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ