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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第九節 成そうとする者達④

「いやあああああっ!!!」


 絶望の瞬間。

 大きな体をはねのけることもできず、神に慈悲を祈ったレオナはぎゅっと目を閉じる。

 しかし次に感じたのは破瓜の痛みではなく、ボッという破裂音と上半身に降り注いだなま暖かい何かだ。


「あ……?」

「え……?」

「へっ?」


 数秒経ってもなにも起こらず、のし掛かってきた男は動かない。


 腕を踏みつけている男や周囲から呆けた声が漏れたのでおそるおそる目を開けてみると、赤くてぐちゃっとした見慣れない何かが目の前にあって。


「……………きゃああああああ!?」


 傍らに落ちているのが胸を揉もうとしていた腕だと知り、目の前の光景が胸から上が消失した聖騎士の断面だと気づいたレオナの絶叫で、固まっていた野盗達も我に返る。


「なんだ!? 攻撃か!?」

「どこからだよ! なにも見えなかったぞ!?」


 約三十人が躍起になって周囲を見回しても誰も居らず、まごついているうちにまた一人の上半身が吹き飛んだ。


「うわああ―――」


 左腕を踏みつけていた男は、右腕を踏みつけていた仲間の下半身が倒れ込んだあとに悲鳴をあげたのだが、その声も途中で途絶えて下半身だけがその場に残される。


「ひ、ひいっ!」

「女を盾にした方がよくないか!?」

「やばい怪物かもしれん! 話の通じない相手なら目立たない方が良い!」


「ヒッ!?」


 四番目に狙われたのは黒いローブを羽織った、集団唯一の妖術師だったらしい。

 一瞬なにかにおびえた反応をしたものの、避けたり伏せたりするまもなく上半身が弾け飛ぶ。


「お頭ァ! ブルーノがやられた!」

「全員外を向いて円陣を組めぇっ! 敵がどこにいるか見つけ出せ!」


 叫んだ首領はレオナに走り、まだのし掛かっていた死体を蹴り飛ばすと無理矢理立ち上がらせた彼女を盾にしながら首筋に刃を当てる。

 周囲の男達は二人を中心にした輪になると、それぞれに武器や盾を構えて外側に目を向けた。


 運が悪ければ次に殺されるのは自分かもしれない恐怖の中で、組織だった行動をとるのは簡単ではない。

 野盗然とした風体でも練度はかなり高いこの連中、元はプテロニア王国で幅を利かせていた黒牙団を名乗る集団だったのである。


「いたか!?」

「いや、こっちには何もみえん!」


「畑に伏せてるのかもしれん! 気を抜くな!」

「こんなだだっ広い場所で隠れ通せる訳がねぇ!」


投石器(スリング)や弓を持っている奴は準備しとけ! 近づいてくる奴がいたら撃て!」

「黒牙団の恐ろしさを見せてやる!」


 いい見せ物だと性騎士―――もとい、聖騎士の強姦を眺めていて遅れを取ったが、だてに多くの賞金をかけられているわけではない。


 かつて構成員は百人を超え、妖術師は二人、暗黒司祭も一人いただけあって『黒牙団』の名はプテロニア東部で恐れられていた。

 しゃぶり尽くされて滅んだ村は二桁を数え、王国の派遣した討伐部隊を撃退したこともある。


 入団希望者のならず者は後を絶たず、このまま勢力を拡大して東部一の大野盗団になるのも夢ではないと首領は本気で思っていた、ところが。


 最近になって急速に勢力を拡大してきた新興野盗団との縄張り争いに敗れ、ギュメレリーに落ち延びる羽目になったのだ。


「野郎ども、ここが再興への踏ん張りどころだぞ!」

「「おおぅ!」」


 あれは相手が悪かっただけ。

 まずは地力を回復させようと小さな村で略奪を繰り返していたところ、討伐部隊と思しき騎士団に取り囲まれてしまい、さすがギュメレリーは甘くないと諦めた。

 そこで妙な勧誘を受け、なぜか第二騎士団の名をもらったのが少し前の話。


 今は雌伏の時だと、軍資金や拠点を得るまでの我慢だと自分や部下たちをなだめ、良いようにこき使われる日々もいつか終わらせる。


 こんな危機だって何度も乗り越えてきた、と周囲に目を向ける仲間たちの背中を頼もしそうに見回した首領であったが。


「ブルーノは何かに反応していた、理力魔法か魔法戦技ガッ!?」


 全く警戒していなかった真上から側頭部を蹴り飛ばされて吹っ飛び、地面に転がる前に意識は闇に沈んだ。

 

             ◇


 ほんのわずかだけ時間は戻る。

 丘の上からレオナの危機を見つけたリョウは、迷う事なく魔法の道具入れホールディング・バッグに左手を入れ、視線を外さないまま邪魔をしないでくれと叫んでいた。


「説明は後だ! 絶対に集中を邪魔しないでくれ!」


 しかし、もっとも長射程の弓技でも数キロを飛び越える戦技などない。

 魔術でも敵味方関係なくすべてを蹂躙する禁呪のほかにはとうてい届かない距離になる。


 そんなことは百も承知の彼は厳しい声に背筋の伸びた二人が頷くよりも早く、いくつかの魔具と数本の矢を取り出していた。


「フライト!」


 まず、『飛行』の力で一本の矢が浮いた。


「シュート・アロー!」


 次に『弓矢誘導(シュート・アロー)』の精霊珠を使うと、砕け散った水晶玉から風の精霊(シルフ)が現れて鏃の周囲に風がまとわりつく。


 これはカッツに渡した『投射防御ミサイル・プロテクション』の対抗魔法でもあり、ある程度の誘導性能を与え風の抵抗を除去する効果があるものだ。


「……行けぇ!!」


 そして、ほんの数瞬で集中力を最大限に高めた彼が魔石を握り潰すのと同時に、矢は目の前から消えていたのである。


 それから約三秒。

 空気抵抗を受けず、衝撃波もまとわず、ただ音よりも速く飛んだ矢は鎧ごと聖騎士の上半身を吹き飛ばしていた。



 ―――この攻撃は理力魔法が物理魔法と呼ばれていた鋼の時代のさらに前、世界がまだ黎明期であったころに生み出された原初の魔法の応用だそうだ。


 ただ、『古代の弾(エンシェント・ボルト)』と呼ばれるものの最高時速はおよそ時速六十キロ程度だったとされており、そこは物を飛ばす部分が派生して飛行の魔法(フライト)となってからもほとんど変わらない。


 空気抵抗を『弓矢誘導(シュート・アロー)』で打ち消せたとしても、音速の数倍まで加速させるような技術だか魔術は一般に知られていないため、魔法史をまじめに学んだ大魔導師ですら容易に解析できるようなものではないことだけは確かだった。




「フライト!」


 精霊魔法の効果が切れる前に二、三、四射目が行われ、泡を食った連中がレオナを人質にして円陣を組んだのを確認したリョウは、立ち尽くす二人に指示を出して空中に飛び上がる。


「二人は周囲を警戒しつつここで待機! もし他の何かが近づいてきたら、強引にで構わないから合流してくれ!」

「わ、分かった!」


 走るよりも速く遠ざかる背中。

 ローブを脱ぎ、魔剣を抜いたギルガメシュが青空にとけ込んでいく青いマントを見つめていたら、隣のシスティーナがぽつりと呟いた。


「……ねぇ、ギル? いま、リョウは魔符を使っていた?」


             ◇


 蹴り飛ばされた首領は頭から小麦畑に飛び込み、解放されてへたりこむレオナに毛布がかけられた。


「こちらは王族近衛騎士のイグザートだ! 全員武器をおろしてその場から動くな! 敵対の意志を見せた場合は容赦しない!」


 テンペの時とは異なって制式装備は一人も含まれていない野盗然とした連中のため、近衛騎士の権威がどこまで通じるかは分からない。


 だが彼ら自身のために警告をしたリョウは手ぬぐいを取り出すと、状況が飲み込めずにぽかんとしている女性の顔にそっと手を伸ばした。


「もう大丈夫」


 血や脳漿、その他もろもろで汚れた顔のまま目を瞬かせた彼女は自分を取り戻せないでいたが、顔を拭われているうちに涙があふれてくる。


「う、ううっ……うああああ……!」

「これ以上は指一本触れさせませんから」


 安心してくださいと微笑む顔はとても優しかった。

 最悪の状況から解放された心に染み入ってくる言葉には力強さがあった。


 王女誘拐犯らしいとか反逆者かもしれないとか、そんなことをすべて忘れたレオナはようやく親と再会できた迷子の幼子のようにわんわん泣き続けた。


 一方、警告は受けたものの、存在していないように無視されて戸惑ったのは男たちである。


(お、おい……なんなんだよあいつ)

(今、一斉に襲いかかられたらとか考えないのか?)

(くそっ。嘗められたもんだ)


 女を気遣う方がよほど大事とばかりに振る舞う少年のそれが、余裕なのか何かの思惑があってのことなのかすら分からない。

 不可視の攻撃は別の誰かによって繰り出されたもので、今もどこかから狙われているかもしれないのだ。


 やがて。

 ひとしきり泣いて、顔が綺麗になったところで落ち着いたレオナが立ち上がって頭を下げた。


「助けてくださってありがとうございます……」


 色々な意味で危機的状況だったとか、凄惨な光景を目の当たりにしたにしては立ち直るのが早いのは、あれは魔族を見逃すような高司教に従っていた自分に与えられた試練だったのだと、ぎりぎりのところで許されたのだと考えたことが大きかった。


 それは非常に司祭的な考えであるが、そうなるとリョウが神の使いになってしまうことに彼女は気づいているのだろうか。

 あるいは無意識に、同等に信じられる相手なのだと心が判断したのかも知れない。


「いえ、当然のことです。ですがどうして聖騎士に襲われていたのですか?」


 確認が後回しになってしまったが、リョウには関係なかった。

 誰かの尊厳が踏みにじられようとしているのなら全力で守る、ただそれだけのことだから。


 そのために王女の存在が明るみに出たとしても何とかするし、実はレオナの方に非があって罪に問われようとも後悔はしない。


 見つけたときにもう少し周囲を確認していれば、無惨に破壊された駅馬車の残骸や御者、護衛や他の乗客とおぼしき死体も確認できただろう。

 しかし、そこから行動を起こしていたら彼女の尊厳が守れていた保証はないのだ。


「え……」


 だからその問いを向けられたレオナは、彼が善悪の確証の無いまま、ただ己の信念に従って助けてくれたのだと驚いた。


 ならば自分も真摯に向き合わねばならないと、反乱側と言う先入観や王女誘拐犯という他人からの情報をすべて投げ捨てる。


「ワール公が魔族の力を得ているとの情報があります。神殿……高司教が、それを知っていたのに協力していることに違和感があったため、聖地に報告しようと王都をでたところ、駅馬車ごと襲われました」

「なるほど。向こうも上位魔眼種の討伐実績のある聖地に動かれたくないんだな」


 信仰ゆえなのか、もともと芯の強い人なのかは分からないが、今さっきまで犯されかけていたというのにしっかりした受け答えができるレオナにリョウも驚いた。


 その強さがあったからこそ、ギュメレリーに派遣された司祭の長であるペテロにも盲目的に従わず、たった一人で行動を起こせたのかもしれない。


「高司教がワール公に協力している理由はわかりますか?」

「分かりません……。魔族のことが知られれば、ワール公が聖地に口利きすることもできないはずなのに」


「高司教の目的は聖地の評価ではない……?」


 ワール公による後押しを期待してのことだと予想していたリョウは眉をしかめてしまった。


 ただ、動機が分からないと反応や動きを予測しづらくなるが、それが分かっただけでも大きな収穫とも言える。

 レオナから神殿側の最新情報も期待できるし、おそらく今後敵に回るはずだった聖騎士を一人始末できたのも有利に繋がるはずだ。


 次第に殺気を膨らませる周囲の男たちに注意を払いながらそんなことを考えていたら、もじもじと手を動かしたレオナが申し訳なさそうに言った。


「あの……リョウさんは王女誘拐犯として賞金をかけられていますが、真実なのですか?」


 助けてくれた相手に失礼とも思えたが、レオナはどうしても最後のひっかかりを取り払いたかったのだ。


 その疑いが晴らされたならば、自分は心底彼を信じることができる。

 と言うより、今すぐ心だけでなく頭でも信じさせてほしかった。


「逆賊はワール公の方で、俺たちは濡れ衣を着せられているだけですよ。……と口で言うより、さっさとこいつらを何とかしてシスティーナたちと合流しましょう」 


「ああ、やっぱり―――あぶないっ!」


 心からの安堵が警戒に切り替わる。

 彼の後方から弓を撃とうとしている野盗を見つけたレオナが叫ぶのとほぼ同時、空気を切り裂いて飛来した矢は彼の右手に捕まれている。


「んなっ!?」


 撃った男は離れ業に目をむくが、殺気がだだ漏れの、弓技でもない射撃など後ろからいくら撃たれたところで通用するわけがない。

 彼が父親から受けた訓練ではもっと近くから撃たれたし、慣れるにつれて数は増えて気配もどんどん薄くなっていったのだ。


「動くなと言ったはずだ!」

「撃て! もっと撃てぇ!!」


 それが最後通牒だと分からぬ男たちはここで逃げるか投降して心を入れ替えることを約束すれば助かったのかもしれないのに、数の優位を信じて同士討ち覚悟の一斉射撃を放った。


 彼がただの戦士だったなら、狙いがよければ深手ないし致命傷を与えられたかもしれない。

 範囲戦技の中には『爆裂陣』のように自分を中心として広がる攻防一体のものもあるが、味方を巻き込むという短所が必ず付きまとうためだ。


 黒牙団もそれを見越して円陣をそのまま包囲に切り替えたのだろうし、戦技使いも陣形や立ち位置など敵味方の位置関係にはかなり気を使う。


 希少な『投射防御ミサイル・プロテクション』はもう持っておらず、かといってレオナを巻き添えにする訳にもいかない以上、剣術や体術での防御は当然、自分だけ回避するわけにもいかない。


 もちろん考えなしに中央に突っ込んだ訳ではなく、こうなることも想定していた彼は小さくため息をつくと、周りを見せないようにレオナの肩を抱き寄せて一言だけ唱える。


「ウィンド・ストーム」

「……えっ? 理力魔法!?」


 瞬間、二人を中心としたすさまじい突風が渦を巻き、すべての矢や石をあらぬ方向に打ち払った。


 それだけではない。

 包囲網を組んでいた男たちも飲み込んだ嵐は、彼らを軽々と吹き散らかし、揉みくちゃにし、真空の刃がむき出しの皮膚という皮膚を切り刻んだのだ。


「ギャアアアアア!!」

「たす、たすけ―――!」


 血しぶきを巻き上げて赤く染まる半球は轟々と無慈悲な風音を響かせながら二十秒ほど吹き荒れ、効果時間の終了とともにその動きをぴたりと止める。


 あとにはただ、物を言わぬ数々の骸と円形状になぎ倒された下草だけがその攻撃の凄まじさを物語るだけだ。


「ま―――」


 半裸で抱き寄せられていることも忘れたレオナは少年の悲しげな瞳を見上げながら、ようやく一言だけを絞り出していた。


「―――さ、か…魔法騎士だった、なんて……」


 彼は絶対に魔符を使っていなかった。

 ただそれよりもレオナを驚かせたのは、かつて巡礼の際に見たことがあった『風の嵐の魔法(ウィンド・ストーム)』より、範囲と効果時間が倍はあったと思われることである。


 つまり四倍(二倍×二倍)の基本消費に、呪文の詠唱を省略した分も上乗せされているはずなのだ。


 どれほどの熟練と魔力がそれを低減しているのかは分からないが、決してそこらの魔法使い(第四位)にはできないであろうことを、しかも他の技術も超一流なはずの少年が繰り出したのは驚愕するほかにない。


「ええ、まあ。……こっちの方は下手くそなんですけどね」

「下手って、どこがですか」


「恥ずかしい話ですが、拡大はできても縮小ができないんです。味方を守る障壁も多く作れないですし」


 魔導師(第三位)を名乗るのに十分な嵐系を、無詠唱で拡大までしてなにが不満なのかと驚く彼女の肩をそっと離したリョウはこめかみを触る。


 ちなみに難易度で言えば縮小は拡大や無詠唱より簡単で、普通は先にできるようになるもののはずだ。


「それのなにが……」


 なにが恥ずかしいのかと尋ねかけ、一般的な魔法使いの目指す威力の強化や効率化とは真逆、手加減や味方の確実な防御こそ必要だと考えているのだと察して言葉が続かない。


(まるで命の女神の司祭ですね)


 神官戦士や聖騎士を除く司祭職にあるものは、直接的に血を流す刃物を武器として持たないことを聖地は推奨しているが、別に神々が禁じているわけではない。


 例外と言えるのは神官戦士と聖騎士がない命の女神の契約者であり、彼らはどの職階においても自己防衛や生命維持以外の殺生を避けるそうで、戦わざるを得ない冒険者や傭兵になる者も滅多に居ないそうだ。


(……でも、どのような理由でそのような考えに?)


 こういう人のパーティーならば、命の女神の司祭も加われるのではないか。

 ふと、そんなことを考えたレオナの疑問の答えには十年以上さかのぼる必要があった。



 リョウがまだ十歳にも満たない時の話である。

 とある事件の中で死とは取り返しのつかないことであり、その者の未来を閉ざすだけではなく、良くも悪くも関わるはずだったすべての道筋を変えてしまうと理解した彼は、なるべくなら殺したくないし殺させたくないと幼心に思ったのだ。


 それは人が弱い世界、弱みを見せたらつけ込まれる世間には不向きだと言われることもある、甘さと優しさが入り交じった考え方かも知れない。

 そしてなるべく他人と関わらずに、無関係なもめ事に首を突っ込まずに生きるなら構わなかったのだろう。


 だが彼はそういう生き方を選べなかったし、様々な物事を引きつけてしまう体質だったのである。


 また他人は、武術や体術だけでなく魔法まで大人顔負けの子供を恐れた。

 陰口を囁くなどかわいい方で、気味が悪いと疎外されたり、魔族が変化しているのではないかと神殿に通報されたことも一度や二度ではない。


 敵も幼さに騙されたり侮る者が多く、大人だったり有名人だったりすれば避けられたかもしれない戦いで何人も傷つけ、殺し、その度に心を痛めていた。


 その何倍もの人を救い、守れたとしても考え方と生き方がかみ合わない息子に父は、自分の心が傷つくような力は使うべきではないと言った。


 リョウもそれに異を唱えるつもりはない。

 ただ、守りたいものを失うほうがもっと痛いから。

 大切な人たちの笑顔を守るためになら構わないと思ったから、使うことを決めた。


 もちろん決めたからには縮小ができるように修行を再開するし、今もレオナを守れたのだから後悔はない。



「あ……気が利かずにすみません。とりあえずこれを着てください」


 頬を赤くして道具入れからローブを差し出したリョウは見ませんからと後ろを向いた。


 急に年相応の、慣れてなさそうな少年になってしまった彼がおかしくて、思わず微笑んでしまったレオナは自分も赤くなりながら厚手のローブを着るべく毛布を落とす。


 日が出ているとは言え、恐怖と緊張がゆるんだところに冬の空気は身に凍みる。

 下着もつけないのは心許ないが、全部見られてしまったし贅沢を言っている場合でもないと着たローブの上から毛布を羽織り直すなりのことだった。


 ギルガメシュたちが居る丘で、二人と二人を追う騎馬隊との戦闘が始まりそうなのを見つけたリョウが、後ろから彼女を抱き上げたのである。


「……まずい! すみません、急いで二人と合流します!」

「きゃあ!?」


 こちらに気を取られている隙に見つかりでもしたのだろう。

 まだ戦いは終わらなさそうだと厳しい顔に戻った彼は、その表情をじっと見つめるレオナの視線に気がつかないまま全力で丘へと駆け戻っていった。

いつもお読みくださってありがとうございます(´・ω・`)

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