第九節 成そうとする者達③
リョウ達がテンペを発ってから二日後、不死鳥の月十九日のお昼過ぎ。
哨戒らしき部隊を何回かやり過ごした三人は王都まで残り二時間程度のところまでたどり着いていた。
「さて、ここからが本番だな」
平原ではリョウの驚異的な視力による一方的な発見と回避が可能でも、王都に向かう街道は数多く、状況が状況とはいえ人通りも皆無ではない。
雑木林に隠れて休憩していた彼らは時間と安全のどちらを優先すべきか悩んでいた。
「行きよりも早かったよね?」
「ギルがだいぶ頑張ってくれたからな。当初の予定よりも五時間は短縮できたはずだ」
身体が慣れてきたのか、この強引な移動でさらに鍛えられたのか。
システィーナが頑張ったねと言うとおり、ギルガメシュが霊薬を飲んだ本数は行きよりも少なく、休憩の数も減らせたとあって暗くなる前に危険地域の手前までたどり着くことができたのである。
「王女がダイアナに向かったのか、それ以外に向かったのかまだ悟られたくないな」
行動を開始した王女達の姿を見せたのはテンペを出た日までで、それ以降は行きと同様の変装をしている。
最速でワール公側に情報が流れるのは、ラピスがテンペに着いた晩に早馬を出した誰かが隣町から転移文書を送れる明日になるだろう。
その前に花園に入りたかったリョウはまだ天頂付近にある太陽を見上げてうーんと唸ってしまった。
「せっかくの短縮を活用するか、予定通り暗くなるのを待つかだが」
「君的に優先したいのは?」
変節を感づかれないよう、自分たちが合流した後も何回か陽動を続けさせることはギルガメシュも聞いている。
予定では今夜の行動前に花園へ到着し、彼らの士気や疲労を回復させるつもりだったのだ。
「システィーナの安全が最優先。次にアル達の壊滅や情報漏洩前の到着、最後に戦闘回避だ」
「戦闘回避と、姫様の安全確保が別なのはなんでだ?」
王女の安全を確保したいとか情報を守りたいのなら、一番最初にくるのは戦闘回避ではないのか。
眉をしかめたギルガメシュが尋ねると、表情を厳しくしたリョウはそれも一つの手段だからだと答える。
「上位魔眼種以上の戦力があるとは考えづらく、同時に複数の魔術師が相手じゃなければ何とかできるからだ。それに全員の口を封じればある程度の情報は守れる。なるべく穏便に済ませたいと思っているが、な」
可能な限り戦いを回避することで味方は当然、敵の犠牲も減らしたいのが彼の本音だった。
しかしむやみやたらに忌避することで、さらに大きな戦いや犠牲を招くような真似をしてはならないとも分かっている。
「アルさん達がまだ無事だといいが……」
「哨戒がこれだけ出ている以上、まだ健在だろう」
ギルガメシュの心配通り、移動中に情報を得るすべがなかったため彼らがまだ無事かどうか分からない。
無事だとしてもかなり疲弊しているはずで、負傷者も日に日に増えていると思われる。
「リョウの判断に任せます。それで民の血が流れようとも、その責は私のものです」
「分かった」
強大な力を有しながらも戦いを好まず、皆が傷つかないやり方を模索してくれるのは嬉しいが、必要であれば責任は私が取るとシスティーナは言った。
しかし、頷いたリョウも自分が負わなければならないものはよく分かっている。
主権者や法が許そうとも諍いや摩擦で命を奪うことを決して正当化しない、そう心に決めているからだ。
真の邪悪や更生が期待できない愚か者はともかく、会話のできる相手なら必ずしも殺す必要はない。
自分の道を正義などと宣うつもりはないが、譲れぬ想いを貫く上でそうせざるを得ないのは、まだまだ未熟なせいだと思っているのである。
(場合によっては圧力をかけて、向こうからの離反を誘うのもありか)
予定よりも早まるが、王女の到着を知られたとしても強大な戦力を伴ってのものだと思いこませることができれば、金や地位を欲して加わっている大勢からも離反者がでるだろう。
その場合、ワール公達はさらに城に立てこもろうとするだろうが大勢に影響はない。
その後の清掃や修理に余分な金がかかるかもしれないが、相手が王都のどこで迎え撃とうとしても構わないぐらい対応策は練ってあるからだ。
腕を組み、眼を閉じて考え込んでいた彼はやがて、首筋に感じるいやな感覚を信じて進むことに決める。
敵との遭遇は可能性でしかないが、花園に隠れている皆の疲弊は一秒ごとに積み重なっていくから。
「行こう。戦いは避けるべきものだが、恐れ、目をそらしてはならない。本当に大切なものを失うことこそ恐れなければならないんだ」
なるべく戦わずに。
戦わなければならないのなら犠牲は最小限に。
犠牲が避けられないのなら、より意味のあるものとなるように背負っていく。
それが俺の覚悟だと気合いを入れ直す横顔を見て、ギルガメシュはローブの中で魔剣を握りしめてしまった。
(戦う覚悟、か……)
戦いが起こり、自分や守らねばならない人に危険が迫ったとき。
その結果、誰かを傷つけたり命を奪ってしまったとき、自分はなにを思い、どうそれを乗り越えるのだろう。
本格的な実戦が未経験な自分にとって、その試練は間もなく訪れてしまうことのはずだ。
(だが僕は王女様に忠誠を捧げた。リョウだけに任せないと決めたんだ)
忠誠を捧げた相手が戦いの責を負うと言う以上、怯んではならないと分かる。
戦いの意味を知りながら、それでも気高くあろうとするリョウを見ているから恐れてはならないのだと分かる。
父の死を乗り越え、システィーナを背負って走りだしたリョウを追う騎士の心にも大きな変革の時が訪れようとしていた。
◇
それは王都まであと三十分程度、と言うところだった。
目の前の丘を越えて平原を少し行けば王都と北の町を結ぶ街道に出るはずの地点で、急にリョウが立ち止まったのである。
「止まれ!」
厳しい制止の声を受け、つんのめりそうになりながらも急停止したギルガメシュはすぐにローブを脱ぎ捨てられる体勢になった。
「敵か!?」
「どうしたの?」
「しっ!」
訝しむ二人に静かにしてくれと眉をしかめた彼は眼を閉じ全神経を耳に集中させ、顔を見合わせた王女達も耳をそばだてる。
すると数秒して、かなり遠くからと思われる爆音がかすかに伝わってきた。
「何か聞こえたわ」
「爆発音……だろうか」
何となく葬儀の日の襲撃で暗殺者が使った魔符の音に似ている、と感じたギルガメシュが周囲を見回していると、システィーナを降ろしたリョウが警戒するように言った。
「爆発の魔法か魔符だ、近くで戦闘が起きている」
「こんなところで戦闘? まさかアルさん達か!?」
基本的にこの辺りにでる怪物は、迷子の共生スライムか調子に乗った低級妖魔ぐらいなものである。
人気のないところで魔法使いが練習している可能性もゼロではなかったが、人対人の戦闘が行われていると察したギルガメシュはその片方が第一騎士団かと焦った。
「丘の向こうだな。ギルはシスティーナを頼む。場合によっては俺が先行する」
「分かった!」
まだ暗くなっていないし、陽動するには王都から離れすぎている。
第一騎士団ではないだろうと予想しながらも、これから向かう先であるし確認はするべきなので、剣を背中に装備しなおしたリョウは鞘の留め金を外すと周辺に気を配りながら丘を登った。
そして、稜線から向こうに見えたのは。
街道沿いに広がる黄金色の冬小麦畑と地平線、その手前で立ち上る幾筋もの煙、最後に三十はくだらない人らしき点だ。
「ずいぶん遠いわね……どこの部隊かしら」
ここから現場まではまだ数キロほど離れており、手で日差しを遮った王女が目を凝らしたところで所属は分からなかったが。
すさまじい視力で状況を見て取ったリョウから、珍しく驚きの声が漏れる。
「……なっ! レオナさん!?」
宮廷司祭であり、神殿にも所属する彼女はワール公に組するハーヴ高司教の配下となる。
個人としての気持ちは分からないものの、所属としては敵側なのでせっぱ詰まった状況ではなさそうだと息を吐き出したギルガメシュが尋ねるも、返事はない。
「エンサイド司祭がどうしたんだ?」
「……………」
「レオナがどうしたの?」
自分もまったく見て取れないシスティーナが繰り返してやっと、ごくりと唾を飲み込んだ彼は躊躇いがちに言った。
「……聖騎士と思しき男に襲われている」
「「え!?」」
その瞳には衣類を引き裂かれ、左右に立つ男に腕を踏まれる形で押さえ込まれたレオナの恐怖に歪んだ表情と、いきり立つ下半身をむき出しにして今まさにのし掛かろうとしている男、そして散らばる装備や下着のそばに放り出された退魔の剣まではっきりと見えていたのである。
◇
時間は今朝に戻る。
「なぜ魔族を使うようなワール公に協力しなければならないのです!? システィーナ様がお認めになるとは思えませんし、聖地の耳に入ったら全員処罰されますよ!? 」
あまりの怒りに顔を真っ赤にして、ふぅふぅと荒い息をついたのはレオナだった。
彼女は中央神殿にある高司教の私室に怒鳴り込んでいたのだが、その剣幕もどこ吹く風とペテロはお茶を啜って余裕の表情を浮かべている。
「そうでもしなければ、ギルモア達にやられていたのはこちらだったかも知れませんよ」
「たとえ反逆者を処分するためとは言え魔族ですよ!? しかも無関係な者から死者がでています!」
反乱があった日の高司教の反応に疑問を覚えていたレオナは誰が敵とも味方とも分からない中、彼女なりにいろいろ調べてまわっていた。
司祭と言うだけで非協力的な城の執事やメイドからはなにも聞けず、第二騎士団も箝口令が敷かれているらしく口を噤んでおり、遅々として情報集めは進まない。
逆に余計なことはするなと何人かの司祭から目を付けられたり、連日第二騎士団の哨戒に同行するよう指示されてまったく捗らなくなっていた。
日が経つにつれて城や王都の空気は悪くなり、疑心暗鬼になる者が増えていく。
神殿に相談にくる平民も日に日に増えているらしく、息抜きもできない受付や担当司祭の顔色は青白くなっていく一方だ。
ワール公がダイアナ領主と西方騎士団を王女誘拐犯と断定し、システィーナ様を解放せねば攻め滅ぼすことも辞さぬと語気を強める一方で、第一騎士団の生き残りは王都の近くで大臣こそが逆賊だと触れ回っている。
もはや誰が王女の味方で誰が逆賊なのか分からなくなってしまった彼女が悶々としていると。
バストゥークの護衛をしているルース子爵がすれ違いざまに『高位魔族を封じ込めた召喚術書が使われた』と書かれた紙片を押しつけてきたのだ。
(……魔族!?)
突拍子もない内容に子爵は狂ってしまったのかと週次定例で様子をうかがったのだが、素知らぬ顔で通されてしまった。
混乱するレオナが対応を迷っていると、二回目にすれ違ったときには『召喚術書の所有者はバストゥーク』、三回目には『行方しれずの桜花はワール公によって東塔の牢屋に捕らえられている』という情報を渡されたのである。
半信半疑で東の塔に行ってみたら厳重な警備に追い返されてしまったので、逃げられたら困る誰かが囚われているのは確かなようだ。
それで第二の騎士や何人かの執事にかまをかけてみたところ、本当に、よりによって上位の魔眼種が現れて何人も魂を抜かれたことが分かったのである。
天界に住まう光の神々の信者として魔族は忌むべき存在である。
率先して追い返さなければならないはずなのに手駒として使うワール公に協力するなど、高司教達は邪神に宗派がえしたとでもいうのか。
「落ち着きたまえ。ペテロ殿には深いお考えがあるのだよ」
「これが落ち着いていられますか!」
身振り手振りの大きさが彼女の怒りの大きさを表していたが、その度に揺れる胸に嫌らしい視線を向けているのは老人の隣に立つ同僚だった。
退魔の剣と呼ばれる、聖騎士にのみ与えられる長剣を吊している彼は真実の神に仕えており、嘘発見の奇跡を啓示された王都の検査官でもある。
この場には他にも数人の司祭が居たが、みなペテロの機嫌を損ねて聖地の評価が下がったり僻地に飛ばされたりするのが怖いらしく俯いて口を噤むのみだ。
「すべては神の御許に招かれるために必要な試練なのです」
「魔族の手を借りて招かれるはずがありません! 失礼しますっ!」
王女が誘拐された夜からそればかりを繰り返すペテロに、話にならないと思ったレオナは一礼して部屋から立ち去った。
「降格どころか契約を解除されてもおかしくないのに……!」
憤る彼女が呟いたように、一部の厳しい神を除いた光側の神々は―――闇側の邪神もだが―――教義とするものはあるものの、信者が反する事をしたところで命に関わるような罰をあたえることはない。
人の世界の法を犯したところで関与する訳がないのはもちろん、いくつかの神聖魔法の対価として行動を縛ることはあっても、せいぜいが降格や啓示した神聖魔法の削除で済ませてしまうのだ。
まじめな司祭などはもっと厳しくても良いのではと考えているが、実在する高次存在ががんじがらめの監視をしてこないのは人々にとって助かる話で、そのおかげで広く受け入れられているのだとか、多神教が成り立つのだと言われていたりする。
だからと言って好き放題にしている司祭が多いわけではない、破戒僧と敬虔な司祭では同じ魔法を使ったところで他人の反応が異なるからだ。
裏を疑うような見せかけの感謝では神々は満たされないため、栄養となる素直な感謝が生まれやすいように徳と善行を積むべきだと聖地や多くの司祭が考えている。
「……それとも、何かあるのかしら?」
それを知っているはずの高司教達が、世界を闇に傾けて負の感情で満たそうとしている魔族を気にもとめないのには大きな違和感があった。
本当に降格や契約破棄を恐れていないと言うのか。
あるいは、それを覆せるほどの何かがあるのか。
廊下でふと考え込んだレオナであったが、どう考えてもまともな手段ではないように思えたので、やはり聖地に報告することに決めて自室へ急ぐ。
一方、高司教の私室では。
「フン。同じ大地の女神に仕える者として、恭順するなら慈悲を与えてやろうと思っていたが」
「……彼女も粛正いたしますか?」
「あれは愚民からの人気もあるからな、人目のつかぬところでやれ」
低い問いにペテロは無表情のまま頷き、聖騎士はその言葉を待っていた、と嫌らしい笑みを浮かべる。
王制の絶対権力者が国王であるように、独自の仕組みを持つ神殿代表者の権力も相当に強い。
だから顔色の悪い周囲の司祭たちはただ俯いて石のように押し黙るだけだった。
◇
アトゥムの、延いてはギュメレリーの神殿を統括するペテロに話が通じない以上は直接聖地に報告するしかないのだが、学院の転移施設は検閲されており、ワール公や関係者に不利な内容を送ることができなくなっている。
ならば他の町に行くしかないと、押し問答の末に休暇届を叩きつけたレオナは正午の鐘が鳴る頃に旅支度を整えて北の停留所に立っていた。
「午前の便に乗りたかったのに……」
さすがに無断欠勤する気にはなれず、杓子定規に休暇届を出そうとしたのが間違いだったのだろうか。
それが時間稼ぎだったと気づかぬ彼女は午後の便に申し込むと、待合い小屋で出発を待つことにする。
なお野盗相手なら三流の冒険者を雇うより、必ず護衛が居て大陸法に守られている駅馬車の方がよほど安全である。
話も大陸法も通じない大型怪物の縄張りを通る場合は腕のいい冒険者を雇った方が事故は少ないが、北の街までなら危険な怪物との遭遇率も高くない。
しつこかった勧誘はともかく、腕の評判は決して悪くなかったエリネド達がアトゥムを離れてしまったと酒場で聞くなり、彼女は駅馬車での移動を決めたのである。
「出発します」
御者台を除けば九人乗り、連結はなく一両四頭牽引での運行となった駅馬車がアトゥムを離れたのが午後一時過ぎ。
四人いる他の乗客は早くも居眠りを始めたのだが、一番後ろに座っている三人の護衛も上の空で本を読んだり目を閉じたりしているのでレオナは眉をしかめてしまった。
「あの、彼らは護衛をしなくていいのですか?」
「ははは、この辺なら大丈夫さぁ。怪物なんか滅多に出ないし、最近じゃ第二騎士団がこまめに哨戒してるせいか野盗もとんと現れないよ」
「それとこれとは話が別では……」
尋ねられた御者は安全な路線だよと軽く笑ったが、根が真面目な彼女は納得がいかず、頬を膨らませながら座席に戻る。
実際には哨戒を恐れて姿を消したのではなく、ならず者まで見境なしに第二騎士団に組み込まれた結果、近辺から減っただけだった。
そしてレオナが馬車の出発を待っている間に待ち伏せの指示を受けた部隊も、そんな元野盗の集団だったのである。
◇
一つ、二つ街道脇の農村を通り過ぎ、サクタール河から引かれた水路と畑が繰り返される平原のど真ん中。
街道の左右に広がる畑に伏せていた部隊が一斉に立ち上がり、御者と馬に向かって無数の矢と魔法が放たれた。
「なんだこいつら―――うわああああ! 黒ローブだっ!?」
「襲撃だと!? ちぃ、黒ローブがいやがる!」
「こんなところで!?」
「協会の馬車だぞ! 連中は正気か!?」
異変を察した護衛が外に飛び出そうと扉に手をかけたときにはもう、あちこちを射抜かれた御者は絶命し、行く手を爆発に遮られて制御不能になった馬は小麦畑に突っ込んでしまっている。
「きゃああああっ!」
「うわわわわ!?」
大揺れの車内で悲鳴が交錯し、レオナが頭を抱えた直後に横転した馬車は中破。
転倒して引き綱に絡まった馬はそれぞれに暴れ回り、荷物が散乱して折り重なった人も身動きのとれない間に周囲を取り囲んだ襲撃者らに武器を突きつけられてしまい、護衛がなんの役にも立たないまま決着が付いてしまった。
「助けてくれ! 金なら払う!」
「お、おまえら駅馬車に手を出してただで済むと思っているのか!?」
「おかしら、こいつらどうすりゃいいんで?」
「目撃者は消せ、とのことだ」
かなり襲撃に慣れている様子の男たちは縛り上げた護衛や命乞いを繰り返す乗客をあっさり殺してしまい、血生臭さがただよう街道脇でレオナだけが生かされる。
「はーん。上玉っちゃ上玉だがツラがガキっぽすぎだろ。胸だけは大人顔負けだがよ」
「そういうのがたまらんって奴がいるんだよ。娼館に放り込んだら三本指に入ると思うぜ、ヒャハハハ!」
短剣の血を払った一人が、目に涙をためていやいやをするように首をふるレオナを眺めて俺にゃわかんねぇなと肩をすくめていると、隣で護衛の首を斬っていたもう一人が需要はあるさと嫌らしく笑った。
(ど、どうして私だけ生かされているんだろう……もしかして……)
奴らの狙いは金や女ではなく、誰かからの指示で駅馬車を襲ったように思われる。
たった一人残された彼女が恐怖で鈍る頭をなんとか働かせて状況を読みとろうとしていたら、王都の方から馬に乗った誰かがやってきた。
「うむ、よくやった」
「ヘヘ、ご褒美は期待しますぜ?」
「ゼッド……」
もみ手をする男たちに迎えられたのは、今朝ペテロの隣にいた検査官。
筆頭としてギュメレリーに派遣された聖騎士や神官戦士をとりまとめる、神殿では実質ペテロに次ぐ立場のゼッド=T=ダグスターだったのである。
「どうしてあなたが野盗なんかと……」
「なにを勘違いしている? 彼らは第二の騎士であり、反乱分子逮捕に協力してくれただけだ」
「ああ、神よ……アトゥムの信仰は失われました」
聡いレオナはそれだけで、魔族の話が聖地に伝わるのは困る高司教の指示に寄るものだと察して天を振り仰ぐ。
だが、それを聞きつけたゼッドは心外だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「目先しか見えぬ者にペテロ殿のお考えは分かるまい」
「大切なのは結果ではなく、そこへ至ろうとする思いや努力です!」
「だが、結果が確約できる手段があるとしたら?」
「確約……?」
金や名声など冒険者の最終目的が様々であるように、司祭の最終目的もそれぞれによって異なる。
聖地や派遣先の重職の他に、天界、つまり仕える神の御許へ招かれることを願う司祭がそれなりにいるのは、それが夢物語ではないことを証明する実例が数件ながら過去にあるからだ。
言い換えれば永遠の命を授かるようなもののために条件は途轍もないらしく、聖地の大神殿をとりまとめる最高司祭ですら招かれた例はないのだから、人の常識や枠組みに関係することではないのだろう。
「どういう事ですか。神の御許へ招かれるための条件が、魔族を見逃すことだとでも?」
「それをお前が知る必要はない」
話しているうちに押さえられなくなってきたのか、なめ回すようなゼッドの視線はレオナの胸から離れようとしない。
嫌悪で全身が粟立った彼女は隠すように腕を組んだのだが、にやぁりと笑った聖騎士は周囲の男たちへ抑えつけるように言った。
「お前とお前、そいつの腕を抑えておけ」
「ヘヘ、旦那もお好きですなぁ」
「あとでおこぼれは頂けるんで?」
「やめて、近づかないで! ……ひぃっ!」
まるで年中発情期の妖魔さながらに息を荒くしたゼッドが剣を投げ出し、股当てや具足ばかりかズボンや下着まで脱ぎ捨てて大きくなった股間をあらわにしたので、青ざめたレオナは顔を背ける。
「フフフ、最初に見たときからずっと目を付けていたんだ。童顔司祭のくせに背徳的な体をしやがって」
―――のちの調査では、とっくに嘘発見の奇跡を削除されていたにも関わらず検査官の座についていたこの男の余罪は多かった。
犯罪を見逃したり、検査で偽りの結果を告げることを条件に強請りや性的嫌がらせをしていたらしいのだ。
「いやああああっ!!!」
「騒ぐなって。すぐにヒィヒィ言わせてやるからよ!」
派遣された当時は真面目で頼れる検査官として人気の高かった彼がいつからけだものに堕ちていたのかは分からない。
まっとうな道に戻るつもりのなさそうなゼッドは悲鳴にますます興奮すると、身動きのとれないレオナの法衣と下着を引き裂いて地面に押し倒した。
いつも読んでくださってありがとうございます(´・ω・`)




