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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第七節 剣の騎士と盾の騎士⑧

前回までのあらすじ


・裏庭の罠を予想したリョウが備蓄を解放

 →アーレニウスとカッツはいろいろ手に入れた!

 →二人は城に戻った!

・馬に逃げられたリョウ達は徒歩でアトゥムから脱出


 リョウ達が余裕でアトゥムを抜け出し、アーレニウス達が跳ね橋の制御室を奪還していた頃。

 カッツの指示で学院へ急いでいた宮廷魔導師は通用口に体当たりする形で建物の中に転がり込んでいた。


 定時はとっくに過ぎて受付の見習いは帰宅しているが、特に夜型の多い研究員などはまだ何人か残っているはずだと図書室や魔法を実験するための結界が張られた部屋に叫んで回る。


「謀反です!! 第二騎士団が謀反! すでに戦闘が始まっています!」


「……えっ? いまなんて?」

「謀反……?」


 残っていた魔法使い達は最初耳を疑っていたが、鬼気迫る叫びに冗談や何かの訓練ではないと察し、城から駆け通しで息の荒い宮廷魔導師の後に続いた、すると。

 普段はぴったり定時で学院を出て、繁華街で飲み食いしてから帰宅するのが常な副学院長が自室からのっそりと現れた。


「何ごとです?」

「ビカルド様! いまご自宅に人をやろうと思っていたところです! 謀反ですよ謀反! 第二騎士団が城を強襲! 学院長の研究室も襲われました!」


「そうですか。惜しい人を亡くし―――」

「幸い、親衛騎士のキンディ卿が居た事もあり、私や宮廷錬金術師ともども脱出できました!」


 さして衝撃を受けていない様子のビカルドは二重顎を挟むように俯いて故人の冥福を祈ろうとしたのだが、遮るような続きに素っ頓狂な声をあげる。


「ふぁ?」

「学院長は私たちに、学院と協会に謀反を伝えるように指示し、キンディ卿と共に城に戻られました!」


「え、え? いいい生きてるの? 学院長生きちゃってるの?」

「ええ、ご無事です」


「ほほ、ほんとに?」

「ご心配も無理はありませんが、怪我一つありませんでした」


「そそ、そうだね、無事でよかったね」


 あえぐような裏声でカッツの生死を繰り返し確認したビカルドは打ち上げられた魚のように口をぱくぱくさせていたが、急に顔色を悪くすると自分を取り囲む魔法使い達を見回した。


「と、とにかくだよ! 魔法使いは戦争に荷担しないという教え通り、ここから一歩も出ちゃだめだよ!」


「理想の教えは内戦にも適用されるのですか!?」

「学院長は撃退に向かったのでしょう!? 我々も援護に向かうべきでは!」


「戦闘力のない練金協会との違いを証明するときでしょう!」

「城が襲われているのになにもしないと、ますます予算が減らされたりしませんか!?」


「だめだめだめだめだめ、学院は中立を保つの! 僕が全責任を負うからみんな何もしちゃ駄目だよ!」


 理想の導師の時代から約千年。

 理力魔法は戦争に荷担しないという教えの解釈もそれぞれになってきており、血気盛んな魔法使いなどは戦うべきだと杖を振り上げるが、顔色を青から赤に変えたビカルドは唾を飛ばしながら何もするなとひたすら繰り返したのだった。



         ◇   ◇   ◇



 一方、城の裏門では。

 制御室を奪還し移動してきたアーレニウスが馬に乗って戻ってきたギルモアと出くわしたところだった。


「団長!」

「すみません、遅くなりました!」


 下馬したギルモアのサーコートはアーレニウスと同じようにところどころ返り血に濡れている。

 彼は城の東側から裏門を目指していた怪しい騎馬隊と接触したため、すみやかに皆殺しにした上で馬を奪って来たのだ。


「いったい何が―――」

「すんません団長! 時間がねーみてーなのでこっちへ!」


 半開きになっている搬出口の奧には騎士団の使う投光器の灯りがいくつも並んでいる。

 すぐにでも第一の騎士達が出てきそうだと思ったアーレニウスは、状況報告を求めようとするギルモアを遮って裏庭に駆け込んでいってしまった。


 眉間にしわをよせたギルモアもあとに続いたのだが、暗がりにも目立つサーコートが裏庭に入る様子を城北面にある窓からのぞき見ていた一人がほくそ笑む。


「……王女には逃げられたが些細な事だ。奴らを皆殺しにすれば結末は変わらん」


 呟いた男の手には血管のように脈打つ模様が浮き出た一冊の本が握られている。

 ―――それこそが萌芽してしまった悪意の種に他ならなかった。



         ◇   ◇   ◇



 二人が半開きの大扉から身体を滑り込ませると、隊列を組んだ第一騎士団本隊が点呼を取っている所だった。


 壁際ではアーレニウスの担当メイドであるアイーダのほか、ラピスにガーネット達五人が不安そうに身を寄せ合っていたが、桜花担当のエクレットとフォート担当のロジーが足りていない。


「チッ」


 アーレニウスがここでもあの二人かよと舌打ちしていたら、まだ生乾きのアントンとブライアンがやってくる。


「おお、団長殿にアルではないか!」

「済みません、戻るのが遅くなりました」


「とっつぁん、兄貴と桜花は?」

「いま、第一の騎士達が担当メイドともども捜している最中なのである」


「調査結果はやはり黒でした」

「向こうはそれを私に擦り付けるつもりらしい」


 不明の二人を確認するアーレニウスとアントンの横ではギルモアとブライアンが向かい合っていたが、ほとんどリョウが予想した通りになっていたためそれだけでだいたいの事が足りる。


 一瞬、厳しい表情で向かい合っていた四人にどうするかという空気が流れかけたところ、整列する部下と担当メイド達を見回したブライアンが情報を共有しようと言った。


「この先落ち着いて話せる時間などなかなかないだろう。いまのうちに認識を合わせておこう」




 二十時にシスティーナとカッツが襲撃されたこと。

 待機番のはずだった桜花がエクレットともども行方不明なこと。

 城内巡回中であるはずのフォートやロジーがどこにも見あたらないこと。


 敵や味方がはっきりしない状況のため、王女を脱出させたのちに第一騎士団も城を出るつもりでいること。

 リョウに対する人質や、情報漏れ防止のために親衛騎士の担当メイドを呼び集めている最中なこと。


 トリオーン王毒殺については今さら隠しても仕方がないので、毒殺犯を擦り付けられようとしていることをブライアンが言うと、制御室奪還時のやり取りで耳にしていたアーレニウスはまた舌を鳴らしていた。


「ち、やっぱりマジなんすか。リョウ達はそのことを?」

「リョウだけ知っています。そもそもこちら側で一番最初に気づいたのが彼なので」


「団長殿。どうして我々にも隠しておられたのですか」

「この騒ぎの中でもフォート君達が現れないのがその理由です」


「むぅ……」


 信用されなかったのは心外ですぞとギルモアを責めるように言ったアントンも、ここには居ない二組に触れられては押し黙るしかなかった。


「私が調査を依頼した薬草師達からも、トリオーン様のお薬に遅効性の毒が含まれていたとの報告がありました」


 それから戻ってくる最中に怪しい騎馬隊を見つけたので始末しておきましたよと事も無げに言ったギルモアは、次はあなたの番ですとアーレニウスに視線を向け、頷いた彼は三人だけに聞こえるような小声で話し出した。


「俺は、風呂に入るっつーとっつぁんと交代してポタス導師の警護についてたんですが―――」




 現在カッツは城壁の上に潜んでいることを含め、掻い摘んだ説明を終えたアーレニウスは、リョウから提供された霊薬などを見せたあと搬入口の大扉を見やった。


「……このまま裏庭に出たら何が起こるんすかねー?」


「フォレスト卿、どう思いますか」

「リョウの懸念はもっともだ。だが、何が起こるかと問われるとどれも確証はない」


 城を脱出したあとの潜伏先にあてがある自分達のように、相手が準備をしていた可能性は否めないとブライアンは言った。

 同感だったギルモアも、可能性は考えていたとは言え団員から裏切り者とおぼしき不明者がでて暗い表情でいる。


「残念ながら親衛騎士団も一枚岩ではなかったようですしね。魔法学院や練金術協会が同様でないという保証もありません」

「神殿がどう出るかも分からねーっす」


「……アル、団長殿。裏門の外や裏庭に伏兵の気配はありましたかな?」


 腕を組むアントンの問いに、顔を見合わせた二人は揃って首を振る。


「いんやまったく。たぶん団長とリョウが蹴散らした連中で終わりだ」

「手薄すぎて不気味なぐらいですね」


「となると、北側の窓から魔具―――魔符(スペルカード)による攻撃が一番濃厚でありましょうな。団長殿、我が輩が城内を見て回りましょう」


 少数で親衛騎士を含めた部隊を危機的状況に追い込める手段と言うのはそれほど多くない。

 匠技以上の戦技や魔符(スペルカード)による範囲攻撃が考えられるが、絶対数や入手難度からして魔符(スペルカード)の可能性が一番高いというアントンの考えに三人も同感だった。


 探索をかって出た彼の身体は大きいが、体術使いなので屋内では一番小回りがきくだろう。

 適任ですねと頷いたギルモアは第一からも応援を出してもらおうとブライアンに声をかける。


「アーレニウス君、アントン君に霊薬を分けてあげてください。フォレスト卿、十名ほど借りますよ」


「とっつぁん、気ぃつけろよー? あいつら平然と魔符(スペルカード)やら火炎瓶やら使ってくるからよ」

「うむ」


「取り残されないよう長居は禁物ですよ」

「分かっております」


 アーレニウスから二本の回復と三本の治癒の霊薬を受け取ったアントンはブライアンの指示に敬礼した二班十二人を引き連れて廊下に出ていった。


「上手く見つけられるかは半々と言ったところか。我々はどうする?」

「表から中庭に出ましょう。こちらが姿を見せれば相手にも動きがあるはずです」


「相手の動きを見れば裏庭になにがあるかも予想できる、か」


 相手の出方を窺い、正門を目指すか裏門から逃げるかを判断する。

 もし裏門から出ることになってもアントンの捜索が上手く行けば罠にかからずに済むだろう。


 方針を決めた二人の団長は頷き合うと待っている騎士団とメイド達を振り返る。

 そこへ荒々しい足音が駆け込んできたと思ったら、フォートの部屋で担当メイドの死体を発見したと報告された。


「報告! ルース子爵の私室でロジーの死体を発見! 頭部に鈍器で殴られたような痕があり、衣装入れに押し込まれておりました!」


「鈍器……」


 それが何を意味するのか、いまは分からない。

 しかし何らかの関連性はあると断定したギルモアは、現れない彼らを味方と思わないことに決める。


「これ以上は時間の無駄でしょう、残り三名の捜索は打ち切って結構です。現時点で所在不明の親衛騎士、フォート=D=ルースおよび桜花=葛葉の二名、担当メイドのエクレットは敵性として行動してください」


「……分かった」


 苦々しい表情の幼なじみに頷いたブライアンが伝令を出すと、まさか親衛騎士から裏切り者がでるとは思っていなかった騎士達からざわめきが漏れた。


「まさか、ルース様が……」

「俺、葛葉様に憧れてたんだけどなぁ」


「ロジー……」


 担当メイド達も自分たちの中から犠牲者がでたと知って青ざめている。

 アイーダの呟きを聞きつけたガーネットはなにがあっても妹だけは守るとラピスの肩に手をおいたのだが、とっくに覚悟が決まっている彼女だけは震えたり緊張に強ばったりしていないようだ。


「姉さん。私たちのご主人様はちゃんと姫様をお守りできているようです」


 自分の身の安全よりもご主人様が任務を全うできているかの方が大事と言わんばかりの妹に、その妹こそが一番大事な姉はそっとため息をついてしまった。


(まあ、私たちのことまで気にかけてくれるお方だものね)


 実は。

 リョウとギルガメシュが王族近衛騎士に任命されたあたりからきな臭さを感じていたガーネットは、万一のときラピスを連れて逃げようと考えていたのである。


 貴き血の前にはなんの価値もない自分達を護るのは自分達しかいない。

 大恩あるマダムには申し訳ないが、体制が変わったり城に何かあった場合、妹が乱暴されたり殺されたりしたらと考えるだけで我慢ならなかったのだ。


 その為の準備や貯金も自分なりにしてきたのだが、今日の今日になって人質にされないよう共に行動してほしいと呼び集められた時にはたかがメイドになんの真似だと驚いた。


 確かに自分達のご主人様と姫様が城から脱出したのなら、敵の手に落ちた場合に行き先に覚えはないかと拷問を受けたりするかも知れないが。

 無論、そんな重要情報が与えられているわけがなく、足手まといを連れて行くぐらいならば見捨てるのが正解のはずなのだ。


 そこへブライアンから言われた『特に君たちが傷つくとリョウが悲しむ』という言葉は、ガーネットにとって心底衝撃的な価値観だったのである。


(これは逃げられないなあ)


 もともとラピスに逃げるという選択肢はないだろう。

 無理矢理引っ張っていくつもりだったガーネットとしても、妹を含めそこまで自分達の事を考えてくれているリョウと、それに応えようとする第一騎士団を放って逃げる事はできそうになかった。


 戦う術を持たない身に何ができるのかは分からない。

 だが多かれ少なかれ他の担当メイドにも似たような気持ちはあったらしく、やがてブライアンから行動開始の号令が下された時には、全員が覚悟を決めた表情になっていたのである。



         ◇   ◇   ◇


「行きますよ!」

「あいさー!」


 正面入り口を防衛していたゴライアスの左右からギルモアとアーレニウスが飛び出すなり、白いサーコートを見た相手に緊張が走る。


「出ました! 親衛騎士です!」

「デニーよぉ! なんのつもりで攻めてきてやがんだぁ!?」


 警戒を発した第二の騎士がかつて所属していたころの顔見知りだったので、魔剣を向けたアーレニウスは少しやりづらいと思ってしまった。

 対照的に、運悪くギルモアの近くとなった三人は瞬時に斬り伏せられており、鋼鉄の鎧など意味を成さない攻撃にあちこちから驚愕の声があがっている。


「う、うるさい! 国王様を毒殺した大逆人を匿う裏切り者め!」

「裏切ってんのはてめーらなんだけどなー?」


 真実がどうであろうと、上からの命令に従うしかない彼らに哀れみの視線を向けたアーレニウスは剣を握り直すと盾ごと相手を弾き飛ばした。

 さすが親衛騎士二人の圧力は半端無く、城入り口だった防衛線はあっという間に二十メートルほど南へ押し上げられる。


「さって、食人鬼(オーガ)が出るか、斑大蛇(バイソン)が出るか」


 まだカッツは状況を窺っているらしく、敵味方のどちらにも魔法は降ってきていない。


 月明かりと騎士達が持つ松明や投光器だけが頼りになる暗がりの中で、来るなら来やがれとアーレニウスが唇をなめていると。

 ブオォォという低い笛の音を合図に第二の騎士達が大きく三方へ散ったかと思ったら、東西と南の城壁に張り付いてしまった。


「なんのつもりよ?」


 包囲と言うよりは場を空けたと思える動きに集中を高めていると、中庭の中央に半径数メートルもある巨大な魔方陣が二つ描かれる。


「召喚の魔方陣!?」


 中庭を見下ろしていたカッツは術者を捜そうとあちこちに目を走らせたが、東から東南にかけては距離も離れており、灯りも足りないとあって召喚者を見つけるには至らない。


 急ぎ『陽光の魔法(サン・ライト)』の呪文を唱える彼の眼下では、魔方陣からあふれ出す光が実体化して二体の巨人が姿を現そうとしていた。


「ウォォォォッ!!」

「……おいおい、こいつは反則じゃねーの」


 アーレニウスの前に立つ、身の丈五メートルはありそうな青黒い巨人は本来寒冷地方に住む種族で、知能は低く野蛮で攻撃的。

 装備は腰布と無骨な片手斧のみであるものの、巨人族共通の頑健な肉体をもつために物理攻撃に強く、弱点である火属性を用いなければ効率的にダメージを与えることは難しいはずだ。


「確か冷気のブレスを吐くんだったか!? 呼ぶなら夏にしやがれバッキャロー!!」


 一応、親衛騎士のたしなみとして怪物図鑑をそれなりに読んでいた彼は氷の巨人(アイス・ジャイアント)が持つ固有能力についても知っており、うかつに近づいたら範囲攻撃を食らうと間合いを測るところから始めざるを得ない。


「まさか禁書が持ち出されていたとは―――!」


 この場の味方において、その召喚術書の存在を知っていたのはギルモアとカッツだけだった。



 強力な魔術の道具は混乱を起こさぬよう学院にて厳重に管理されるべきものであるが、いざと言う時の戦力化という側面を持つ。

 つまり各国、そして各町は邪竜や凶悪な怪物の対応用として―――あるいは他国との戦争に備えるためにも―――高い金を出して遺物を買い集めたり、探索依頼を出しているのである。


 アトゥムも多分に漏れず、六年前の邪竜襲撃で多くの遺物を失ってからはさらに収集に力を入れており、二冊の召喚術書は四年ほど前に遺跡探索を生業とする冒険者から買い取ったものだった。


 無論、機会のあった品をすべて買い取れたわけではない。

 鼻息荒く売り込まれた割には大した事がなかったり、随分とふっかけられて予算と折り合わなかった場合もあれば、売り手の素性が知れずに詐欺を疑って断ったこともある。


 取り扱うのも憚られる危険な品や邪悪すぎるものについては持っていると知られるだけで他国にいらぬ圧力をかけてしまうことから、前例通り買い取らずに情報だけを近隣各国と共有することで、対策を講じさせつつどこも使わないようにとけん制したりもした。


 世にそのようなものが出回っているだけでも懸念材料になるが、所有者が皆聞き分けの良い善人で自分から放棄するわけではないし、破棄するためだけに自国が大金を支払うのも踏ん切りがつかないためだ。


 なお、過去にそう言った危険すぎる品を無理矢理取り上げて破棄した国があるのだが。

 その噂が出回ったのち、自分の魔具も奪われるのではないかとか、買い叩かれるのではないかという不安が冒険者達に広まってしまったために入手数が激減し、野心的な隣国にその隙を突かれて滅んでしまったというのはなんとも皮肉な話である。



 そんな遺物の売買の窓口になっているのは魔法学院の副学院長であり、予算の管理は主計が担当している。

 一定以上の力を持つものの購入判断は国王、大臣そして親衛騎士団長の三者会合で国王を含めた二人以上の賛成が必要であるが、誰にでも使える強大な力故に存在を知っている者は限られていた。


 なるほど、事が起こって情報が集まってくれば奴らが召喚術書に目を付けたのは当然とも言えるが、遺物の管理責任者であるカッツがこちら側だったこと、自分達とぶつかり合い、お互い消耗したところにもし外敵の襲撃や他国からの侵略があった場合に対応ができず国が滅びることから、内戦には用いられないだろうという先入観があったのは確かだ。


 もはや関与を疑う余地はない大臣親子の王位簒奪計画は、生きて主権を手に入れるか、失敗して死ぬかだけではなかった。

 ギュメレリー王国すべてを巻き込む背水の意思を感じたギルモアは、自分も決死の覚悟で挑まなければ相手の勢いに飲み込まれると唇を噛みしめる。


「―――甘かったのは俺、か」


 口調が変わるほどに―――上に立つ者として荒々しい部分を隠していただけだが―――気持ちを高ぶらせる彼の正面では、実体化した巨人が萎えたことを示すように鼻を鳴らしていた。


「呼び出されたのは何百年ぶりだが」「小人が相手とはな」「恨みはないが悪く思うな」


 三対の腕で広刃曲刀(カトラス)円形盾(ラウンド・シールド)、大木ほどもありそうな両手棍を持ち、三つの頭がそれぞれに声を出す。


 怪物の革を使ったと思しき革鎧を身に纏い、身長は八メートルほどもありそうなその種族は、冒険者で言う討伐難易度で言えば『魔術師の足りない一流以下は手を出すな』と言われるほどの存在。

 見かけ以上に強靱な肉体と高い魔術抵抗力や死角のない視界、独自に思考が可能な複数の知能など備えた多肢多頭の上位巨人(ヘカトンケイル)だったのである。

『常識的な先輩冒険者が考えるざっくりとした単体の討伐難易度例』

・何をしても無理だし怒らせたら国が滅びるから止めろ。絶対に手を出すな。

  千歳超え(エルダー)の上位竜


・バランスの取れた超一流のパーティなら入念な準備ととても凄い装備と潤沢な魔具でなんとかなるが、失うものは多いらしい。

  若い上位竜、上位魔族、上位神族


・一流のパーティなら入念な準備と凄い装備と潤沢な魔具でなんとかなるが、何人か死んだりするそうだ。

   竜、魔族、神族、上位巨人族、一部の魔獣


・二流のパーティでも入念な準備とそれなりの装備と潤沢な魔具でなんとかなるが、一つ間違えば全滅するぞ。

   下位竜、下位魔族、下位神族、巨人族、上位・大型魔獣


・魔術師が足りないなら二流以下は手を出すな。

   下位巨人、魔獣、上位妖魔


・連携がしっかりしているなら三流でも多分なんとかなるが、できれば熟練者をつれていけ。

   小型の魔獣、肉食動物、妖魔(オーク、ゴブリンなど)


・初心者?悪い事は言わない、これでも狩っとけ。

   共生スライム、草食動物、キノコ、果物


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