第七節 剣の騎士と盾の騎士③
次の段落を合わせると一万字ぐらいになっちゃうので今回は短めです(´・ω・`)
静かなアトゥムに響いていた八つの鐘が鳴り終わるのとほぼ同時、ズドーンと言う爆音が夜空にこだまして王城最上階の窓がいくつか吹き飛び炎が吹き出した。
近隣の住人は何ごとだと窓を開けたほか、警笛を聞きつけて飛び上がった直後のことに城内の騎士達にも動揺が走っており、巡回中だった者は待機部屋へ急いでいる。
今夜は非番で寮や自宅に居た騎士や衛兵も詰め所に行こうと制式装備を着込み始めており、二十時を境に王都は一気に騒がしくなっていった。
◇ ◇ ◇
国葬の後片付けで中央神殿に残っていたレオナも異変を聞きつけて表に飛び出し、たまたまそこにいた受付係に何があったかを聞いていた。
「いったい何が!?」
「わたしー、見ちゃいましたーー! お城のー上の方の窓がどーんって! 炎がびゅーーって!」
「姫様……!」
手伝いをすっぽかして外にいた彼女は目をまん丸にしてあわあわと腕を振り回しており、王女の身を案じたレオナの目には蒼月に照らされる王城がいつもの見慣れた姿ではなく、不気味な伏魔殿に見えてしまう。
すぐに神殿にとって返し、高司教の私室に駆け込んだ彼女は聖騎士や神官戦士を連れて城に向かうべきではと意見したのだが。
「すべては神の御許に向かうための試練なのです」
まるで何か起こることを知っていたかのようにのんびりとお茶をすするペテロは、宮廷司祭長だと言うのに城の明らかな異常事態に動こうとはしなかったのである。
◇ ◇ ◇
また薬の分析結果が出たので自宅に来ていたギルモアも、『間違いなくルイヴォ・ヴァラーヒが含まれている』という報告を受けるなりの異変に屋敷の窓から城を眺めていたが。
忙しくてここしばらくまともに会話もできなかった妻と息子を見つめてゆっくりと言った。
「家の者に暇を出し、二人はカスタネアの実家を頼りなさい。今すぐにアトゥムを出るのです」
「あなた……」
「父上!?」
「嵐が来てしばらく会えなくなるでしょう。……カスタネア、健やかに過ごしなさい。ロンバルディアは母を支え、立派な領主になるのですよ」
そう言って踵を返した夫の、父の、まるで今生の別れと言わんばかりの言葉に、カスタネアとロンバルディアは立ち尽くしてしまう。
しかしギルモアは妻子を振り返ることのないまま足早に廊下を立ち去っていった。
その背に騎士の覚悟が見えて、残された二人も声をかける事が出来なかった。
◇ ◇ ◇
二十時を二分も過ぎたころには第一騎士団の待機部屋は喧噪に包まれていた。
「アーニー、オットー! 直前に警笛が聞こえなかったか!?」
「いえ、自分は聞いておりません!」
「マーカス先輩、俺は聞きました! 上からだったと思います!」
「さっきの音はなんだ! 上だったぞ!?」
「わからん!」
開けっ放しの大扉からは巡回中に警笛や爆発音を聞きつけた騎士や衛兵が次々に駆け込んできており、そう広くはない場所に詰めながら整列している。
ブライアンもすでに団長室から移動していたのだが、そこへ息せき切って駆け込んできた一人が敬礼もそこそに大声で言った。
「城門より敵襲!……それが、相手は第二の連中なんです!」
「は!?」
「なんで味方が襲ってきてるんだよ!?」
「あいつら遠征中だろ! いや、今日戻ってくるんだったか!?」
その報告に多くは耳を疑っていたのだが、荒い息を吐いていた伝令はもう一度大きく息を吸い込むと見間違いではないと声を張り上げる。
「解散式をしに入ってきたのかと思ったら、そのまま待機所と跳ね橋の制御室に攻め込んできて! ……それにあいつらおかしいです! 遠征帰りだってのに、いつもみたいにへとへとじゃありません!」
「この時のために戦力を集めていただけか……!」
初めから仕組まれていたのかとブライアンが眉間にしわを寄せていると、二つ目の爆音が響いて城が震えた。
「また爆発!」
「うおおおい、何が起きてるんだ!?」
今度は窓から飛び散る火の粉が見えたのでそう遠くないと思われる、おそらく宮廷司祭や魔導師が詰めている階層だろう。
ざわつく騎士達が顔を見合わせたり装備を確認したりと様々な反応を見せている中、戸口の伝令は言って良いのかと迷う表情で集団の前に立つブライアンとゴライアスを見比べている。
「それから、その……」
「団則その七、斉唱ッ!」
腰の後ろに腕をやり、胸を張った副団長が言うなりだった。
新人中堅年配関係無しに、カッと踵を揃えた全員が背筋を伸ばして団則第七条を口にする。
「「「「報告は整理して明確に! はきはきと大声で聞き取りやすく! 客観的事実を述べよ! 求められたら私見も述べよ!!」」」」
先程までの喧噪もどこへやら。
しんと静まりかえった待機所の注目が自分に集まっているのを知って、伝令の騎士はもう一度敬礼を繰り返した。
「第二の騎士達は、口々に『国王毒殺犯のフォレスト子爵を捕らえろ』、『証拠品もフォレスト子爵家から押収されたらしい』と言っておりました!」
騎士達がそのとんでもない内容を飲み込むには数秒を要した、が。
九割以上の団員がありえないありえないと苦笑いを浮かべてしまう。
「えっ? トリオーン様って毒殺されたの?」
「団長が犯人とか何の冗談だ」
「いくら何でもないだろ~」
「第二の連中だしなぁ。ガセじゃね?」
「むしろあっちの髭団長の方が胡散臭いやな、ハハハハ!」
「でも証拠品が……」
「出たらしいじゃん。未確定情報でこんなことして大丈夫かあいつら」
「出たといわれても怪しいもんだ」
「なー? こっちを動揺させたいにしてももう少しマシなネタは無かったんかね」
こういう時は日頃の行いや人徳の他に、密な交流による信頼関係が物を言う。
残念ながら敵の狙いは第一騎士団には通用しないようで、この程度の偽情報では内部崩壊を引き起こすことは出来なかったようだ。
(―――エリアンヌ。君なら上手くやってくれていると信じている)
そんな中、家族や屋敷の者達の安否が気がかりで一瞬反応が遅れたブライアンの代わりにゴライアスが口を開いた。
「国王が毒殺されたと言う情報は我々にも知らされていた! だが首謀者が掴めずにブルーシップ伯爵が内々に調査していた矢先の襲撃である! 第二騎士団が首謀者の手先なのか、我々の相打ちを狙う者に騙されているのかも分からない!」
(よかったぁ……ブルーシップ伯爵がご存じって事は、親衛騎士達は敵じゃないってことだろう?)
(あの人達めっちゃくちゃ強いからな。敵に回すなんてとんでもない)
(勝ったな)
国内最強の戦力が敵か味方か気がかりだった幾人かは、その情報でほっと息を吐き出してしまっていた。
きちんと戦ったことがないので正確には分からないとしても、六名六斑からなる一小隊ぐらいでは親衛騎士一人の足下にも及ばないと言うのが彼らの共通認識だったのだ。
「どちらにせよ大事になった以上、検査官の嘘発見にて真実が暴かれるであろう! 今は犠牲を最小限に混乱を収めるのが先決であり、諸君らが個人的に関与していないのであれば恐れることは何もない! ……団長、ご命令を!」
先ほどの爆発音に負けず劣らずの大声で部下達を引き締めた彼が指示を仰ぐと、出来た副団長に頷いたブライアンも声を張り上げる。
「ゴライアスは三小隊を率いて城入り口の防衛と裏門の確保に向かえ! 正門を取り返すことは考えなくて良い、裏門を死守! ただし気取られるな!」
「はっ!」
「賊が城内に入り込んでいる! 巡回は三人一組になれ! 二度目の爆発があった場所の確認は任せる! 残業中の文官が居たら部屋から出ないように警告しろ!」
「はっ!」
「伝令係は連絡を密に! 非番は城……いや、詰め所に招集! 衛兵にはこの混乱に乗じて騒ぎが起きぬよう巡回を強化させ、住民は家から出すな!」
「はっ!」
「一小隊は私に続け、上層の確認に向かう! 以上!」
「「「畏まりました!」」」
一気に指示を出し切るとその場全員の団員が揃って敬礼し、決して混雑することなく流水のようになめらかな動きで部屋を出た彼らは団長と副団長を先頭にあちこちへ散っていった。
◇ ◇ ◇
同じく二十時二分。
「何ごとであるかぁっ!?」
全身ずぶ濡れのまま風呂場から飛び出したのはアントンである。
連日の疲れを癒そうと湯に浸かるなりの轟音に全裸で飛び出しかけて、なんとか思いとどまったのはぎりぎり良識が働いたからに違いない。
「上層部で爆発音が二度。それから、南入り口の方から戦闘と思しき音が伝わってきます」
「敵襲であるか!? すでに上に入り込んでいるとは厄介な!」
お風呂番の報告で集中を高めた彼は脇に抱えていた手甲を装備しながら階段へと走り出し、深々としたお辞儀で見送ったモニクも入り口に『ただいま使用出来ません』の札をかけるとスカートをつまみ上げ、猫のようにしなやかな走りで第一騎士団の倉庫を目指した。




