第六節 動き出した悪意⑥
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「そう言えば、お見舞いじゃなくなっちゃったね」
「下っ端が無理を言って悪かった」
「そんなことないわ」
王女の先に立って控え室を抜け、厚さ十センチは下らない鉄扉の鍵を外す。
と、入ってくる時は気が付かなかったが扉の裏側に硬質化施錠の魔符が張り付けられていた。
これは硬質化の魔法と施錠の魔法を複合させたもので、物理鍵で解錠できなくなる上に魔法の保護を与えるとあって戦技使いでも簡単には破れなくなる理力魔法だ。
緊急時に即座に発動できるよう、魔符に手を触れて鍵となる言葉と解錠の合い言葉を唱えればいいだけとなっている備えにさすが王族の部屋、とリョウは感心してしまった。
(さすが王族の部屋、緊急時に立てこもりも出来るように準備されているのか。侍女部屋の入り口も同じなんだろうな)
術者によっては壁に穴をあける方が楽とまで言われているが、解錠の魔法や魔術解除の魔法を使える魔法使いや魔符が相手だと、魔力と消費と熟練から導き出された魔法強度の勝負になる。
高位の魔導師が制作した魔符ならば魔法強度も高く解除されにくいため、保存食その他の備蓄があれば立てこもりもできるだろう。
ちなみに町の井戸水、つまりサクタール河から引いた水路とは別の水源となる、深い深い地下水脈から水を汲み上げている王城の上水に関わる部分はすべて、この魔法や罠などで厳重に封印されていたりする。
いざというときのために個別の取水口がある王族の部屋とて上から毒を入れられてはひとたまりもないからだ。
それで鉄扉を押し開けたリョウが廊下にでると、国王夫妻の居住区がある左手の方から押し問答が伝わってきた。
「なぜ入れぬのだ」
「団長から何人たりとも入れるなと命令されています」
「この私よりも上の権限などないはずだが」
「家族を亡くされた姫様たってのご依頼のため、最優先で対応するよう団長より仰せつかっております」
「フォレストの奴が何を。そんな命令は解除だ、通してもらおう」
「私に与えられた命令を解除できるのは団長のみです。団長を通してください」
「貴様はトリオーン様が呪われても良いと言うのか」
押し入ろうにも押し入れないのは白髪交じりの貴族の老人と法衣を羽織った老人で、鉄扉の前にどーんと立ちはだかっているのは鎧を着込んだ大柄な壮年の騎士だ。
「マルコス、ペテロ。どうしたの?」
システィーナが声をだしてやっと、人が来たことに気が付いた二人は王女を振り返り、側に立つ背の高い少年にも視線を向ける。
「これはこれは姫。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません、心からお悔やみを申し上げますぞ」
沈痛の面もちでゆっくりと両腕を広げた老人の名はマルコス=G=ワール公爵、この国の大臣である。
リョウやギルガメシュも一応顔合わせだけは済ませているが、敵対派閥であるブルーシップ伯爵の飼い犬程度の認識しか持たれていないらしく、廊下ですれ違ったときに敬礼をしても手で答えるどころか視線すら合わせてもらえない。
「まだ国葬の日取りも決められない無能ではございますが、ご遺体に万一のことがないよう高司教に祈りを捧げさせようと思いましたところ、この騎士に妨害されておりましてな」
「私は団長命令に従っているまでです」
ギロリと老人たちを睨んだのは第一騎士団副団長のゴライアス=センチネルだった。
ブライアンの良き片腕であり、団長が飴なら彼は鞭、質実剛健命令絶対、無骨で寡黙、リョウよりやや低いぐらいの身長ではあるが、一回り横に太い重量級の槍使いである。
ちょっと浅黒で顎が大きく、頬骨がごつごつと角張っているわりに目がつぶらでゴリラに似ていてるせいか、女子供には恐がられがちな事を少し気にしていているらしい。
部下に厳しいが自分にはさらに厳しく、一本気で筋が通っているため団内でも決して嫌われているわけではないし、趣味は園芸で酒にも弱いと可愛いところもあるため、裏では『ゴリさん』の愛称で呼ばれていることを本人は知らない。
ちなみにリョウの誕生日に花束を贈ってくれた一人であり、大輪のガーベラはずいぶん長いこと部屋で咲き誇り、ラピスが楽しそうに世話をしていたそうだ。
「葬儀が遅くなり、万一にでも不死化されましたらこの国の名は地に落ちまする。ご祈祷はお早めがよろしいかと」
第三位以上の司祭職に与えられる護符を首から下げているのは宮廷司祭長であり、アトゥムの神殿を束ねるペテロ=Y=ハーヴ高司教である。
彼の言うように死者は早めに、かつ適切に埋葬しないと腐死者など不死の怪物として再び動き出す可能性があるのは確かだ。
それは生前の執着や強い思い残しといった本人の気持ちの他に、老衰だったのか病死だったのか、ならず者に殺されたのかなど死因や状況によって大きく異なるが、悪い死に方だった者を放置した場合の確率は決して低くない。
それを防止するためには早めに埋葬して司祭職にある者が祈祷するのが一番だと言われている。
肉体を土に返して大地の女神の循環に加わらせることで、腐死体や闇死体として動き出さないように落ち着かせるのと同時に魂との結びつきを解し、解けた魂を死の神に導いてもらう事で幽霊、悪霊、死霊になることを防ぐと言うわけだ。
疫病や呪殺、毒殺といった苦しみを受けた者の場合は火の神の浄化の力を借りるために火葬にすることもあるが、そこまでするのはまれである。
特に体裁が大事な貴族を火葬なんてしたら、あの家の者は良くない死に方をしたと囁かれて家名が地に落ちるのは明白だ。
とはいえ、噂を恐れて火葬をしなかった結果、不死者として出てこられてしまったら火葬どころではない悪評が広まってその家は終わりなのだが。
「聞けば人払いを頼まれたのは姫のご様子。いったいどういうおつもりですかな?」
「あら。彼をお父様に会わせたくて頼んだのをすっかり忘れていたわ」
二十二時の約束をして鍛錬の間から戻る途中、すれ違った第一の騎士に人払いを頼んでいたシスティーナは部屋に戻るなりのあれこれですっかり解除を忘れていたのである。
そこで初めてマルコスは後ろに立つ長身の少年を訝しげに眺めた。
「……親衛騎士を聖域たる場に招くのはいささかお転婆が過ぎますな。武官が口を挟む領域ではありませぬ」
「順番は逆だけれど結果的には問題ないわ。今の彼は王族近衛騎士なのだから」
その意味は分かるわよねとでも言いたげな王女の言葉に白眉がぴくりと動く。
「そのような若者が、私の上……?」
普通の人なら不機嫌になったのを感じる程度の変化だった。
しかし、かすかに滲み出た殺気を敏感に感じとったリョウは一歩前にでると、ここは敬礼よりもと頭を下げる。
「人手不足の折り、貴族との繋がりもない新入りにも出来ることと団長が取りはからってくださいました。やっと上の立場の方々と接する機会を頂けましたが、不明なところも多くご迷惑をおかけするかもしれません。どうかご指導ご鞭撻を賜りますようお願いいたします」
「フン、小癪にも身の程は弁えているか。生意気な連中に見習わせてやりたいぞ」
どうしてあなたが頭を下げるのと不満そうな王女と、遜る騎士を見比べた大臣の口角がにいっとつり上がった。
規則上のことですと遜った少年に見所のある奴と思ったのか、あるいは目端の利く奴とでも思ったのか。
ここまでされて大人気ない態度で返してはどちらが小人か分からない。
先ほどの王女の表情で明らかに気分を良くした様子のワール公は大仰に一つ頷き、仕方がないから先を譲ってやろうとでも言いたげな視線で若者らを見回す。
「仕方ありませんなぁ、私共は私室に居りますゆえ終わったらお声がけください」
「分かったわ」
―――あるいは、そんな若造に何ができるという気持ちもあったのかもしれない。
彼はそのとき無名だったゆえに敵味方を含めた誰も彼もが似たような感想を得たのは当然で、その為に逃した機会もあれば、得られた機会もあったと言うことなのだろう。
老人達が斜向かいの扉に消える様子を見つめていた三人のうち、ゴライアスがすっと横にずれてお通りくださいと言った。
「姫様、どうぞお通りください」
「ありがとう、面倒をかけたわね」
高さ一メートル二十センチはあろうかという塔大盾を左手に、今は屋内なのでいつもの斧槍ではなく短槍を右手に握っている彼はカッ、と踵を揃えて答えると扉が閉じるのを待ってまた正面に戻る。
その顔はいつも通り厳つかったが、つぶらな瞳には王女が茫然自失になったり自暴自棄になったりしていないのを見て安堵が浮かんでいた。
システィーナが控え室に入るのを待って扉を閉めたリョウが今度は奧の扉を開けてみると、しんと静まりかえった部屋はまだランプや燭台が燃え尽きていなかったらしく普通に明るかった。
どうやらゴライアスに退室を指示された侍女達が新しいものに交換していってくれたらしい。
これは助かると取り出しかけていた明かりの魔符を魔法の道具入れに戻したリョウは中に入ると室内を見回し、奧のベッドに向けて踵を揃える。
「お初にお目に掛かります。王族近衛騎士に任命されたリョウ=D=イグザートと申します」
「……兼、私のお友達。もう一人、ブライアンの息子のギルガメシュもそうなのよ」
きちんと最敬礼までして見せた彼を王女は笑わず、まるでそこに父の魂があるかのように紹介を続けた。
それからベッドに歩み寄ったリョウがカーテンを開けてみるとやせ細った国王の亡骸が横たわっていたので、改めて長い黙祷を捧げてから調査を開始する。
「……国王は一体何のご病気だったんだ?」
「最初はただの風邪だって言われてたわ。ベアに相談したら神聖魔法に頼ってばかりだと抵抗力が落ちて良くないので、今回は投薬のみにしようって事になったの」
なぜ奇跡は適わなかったのか。
結局の所、一番引っかかっているのがそこだった。
治療の奇跡による快復が適わない程の病気となれば、その数は片手で数えられる程しかないはずなのだ。
「なるほど、それで?」
「でも全然良くならないばかりか、咳が止まらなくなって……結局神聖魔法に頼る事にしたの。でも、効果が現れなくて―――」
右手で左の二の腕をぎゅっと握りしめた王女は、俯きながらぽつりと言った。
「……不治の病である、『精裂病』だと診断されたわ」
「精裂病? 精裂病だって?」
精裂病の名はリョウも知っている。
症例は過去を遡っても数える程しかないが、高位の治療の奇跡でも治らない真の不治の病であることは確かだ。
だが。
「どうしたの?」
「いや、とんでもなく珍しい病名だから驚いた。その後の症状は?」
「咳は続いてたわ。あとは身体の節々が痛くなったり、微熱が続いて呼吸が辛そうだったり」
「意識はあったのか?」
「うん、昨日までは」
症状を手帳に書き留めていたリョウはペンを止め、一つ深呼吸をしてから核心に触れる。
「とても忙しい方だったのか? たとえば何か目的や目標があって、その為に粉骨砕身……」
「ううん。私が言うのもなんだけどのんびり屋だったと思うわ。王休だって他の国に比べたらかなり多いはずよ。公務中も必ずおやつのために休憩は取っていたし」
おかげで少し太り気味だったんだから、と言われて違和感が確信に変わった。
国王には精裂病に犯される前提条件が足りていない。
そして死に至るまでの症状も、リョウが実際に目にしたものとは一致していなかった。
(誤診か? いや―――)
そこで改めて部屋を見回せば、ベッド脇のナイトテーブルの上に置かれている水差しと薬包紙が目に止まる。
「その薬は?」
「身体が辛いときに飲んでくださいってベアが処方させたの。飲んでしばらくは楽になるってお父様も言っていたわ」
不治の病に投薬を続ける理由はなんなのか。
身体に痛みがあったのならば鎮痛剤を処方されてもおかしくはないのだが、精裂病は決して痛みを伴うような病気ではない。
「鎮痛剤の類かな。ときどきギルが筋肉痛で辛そうだから、そこのをもらってしまってもいいかな」
「ギルも頑張り屋さんねえ。そんな余り物をもらわずとも、個別に処方してもらえばいいじゃない」
「効果があるようならそうするよ」
「それもそうね。じゃあ、もらっちゃえば?」
いまここで中身を確認するような真似をして王女に不信感は抱かせたくない。
とってつけたような理由で許可を得たリョウは、二つの薬包紙が空でないことを確認してから道具入れにしまいこんだ。
(後は水か。部屋の取水口から都度汲んでいるとは思うが……)
念のためと水差しを持ったリョウは半分ほど残っていた水に口を付けてみたが、他の取水口から採れる井戸水と味は代わらない。
「喉が渇いていたのを忘れてた。さっき、俺も紅茶をもらえばよかったよ」
「ふふ、あとで頼んであげるわ」
それからいかにも物珍しいというふうにあちこちを見てみると、初めて入室する王族の居住区はシスティーナの部屋以上にこの中で生活が回るようにできていた。
「この扉は便所、隣は風呂、こっちは侍女さん達の部屋……厨房もあちら側か。衣装部屋に物入れ、暖炉……」
間取りとあるものを把握したリョウは専門家と言うわけでもないが、怪しい雰囲気を放っている呪いの道具なども特に無いようだ。
そう言った良くない効果を付与するにはいくつかの方法があるが、どのようなものであっても近づくと背中の両手剣が反応すると経験上分かっているのである。
「なんだかお見舞いと言うより現地調査ね」
手帳に間取りや気がついたことなどを書き留めながらうろうろしていたら流石に言われてしまった。
「ごめんごめん。元冒険者には珍しいものばかりだし、継承したら君が住むことになる部屋だと思ったらさ」
「そうだね。でも、侍女が一緒のときはまだ良いけれど、一人には広すぎるよね」
大量の水を使う風呂などは別としても三つある子供部屋はそれなりに暮らせる広さと機能を持っており、二人部屋を一人で使っている王女は、お父様は寂しくなかったのかなと少ししんみりした表情だ。
(支持してくれる臣民とは別に、信頼できる仲間とか家族とかがシスティーナには必要なのかもしれないな)
力のある者や影響力の大きい者など、その言動が簡単に周囲を動かして状況を変えられてしまう者が孤独になりがちなのは為政者に限らない。
取り入ろうとするもの、奪おうとするもの、利用しようとするもの、理由はさまざまであるが、人格ではなく力を目的に近づいてくる者と良き絆を結べる例はあまりなく、その力を失った時には壊れてしまう程度のものだからだ。
商人で言えば『金の切れ目が縁の切れ目』、冒険者なら『必要なのはお前の技能』であり、貴族社会では『爵位がすべて』である。
お帰りと言える旦那を欲しがったあの人のような、自分が考えた冒険者仲間のような、立場に寄らない絆で結ばれた輪が作れればこの女性はきっと立派な女王になれる。
そんな、直感めいた考えがふとリョウの脳裏を過ぎった。
「……大臣達をあまり待たせてもなんだし、そろそろ戻ろうか」
「うん」
一通りの事は調べたリョウは、まだ元気のないシスティーナを連れて部屋を出るとゴライアスに入室制限の解除を告げた。
「終わります、ご苦労様でした」
「はっ!」
がしゃん、がしゃんと鎧のぶつかる音を立てながら去っていく彼を見送り、大臣の部屋をノックするとメイドが出てきたので入室制限終了の伝言を頼む。
そのまま王女の部屋に戻ろうと身体を東に向けたのだが。
「あ、ちょっと便所に寄ってから戻るよ。俺かギル以外が来ても扉は開けないでな」
「部屋のを使っても良いのよ?」
流石にそれは遠慮させてくれ、と苦笑いのリョウはふふふと笑っているシスティーナを部屋まで送り、すぐ戻ると告げて北西の便所に急いだ。
個室に隠れて鍵をかけ、取り出した薬包紙を広げて燭台の明かりに向けると、さまざまな素材を混ぜられた灰色の粉薬にはちらほらと緑や黄土色の粒なども混じっている。
幸いここは清潔に保たれていて臭いは混じらなかったものの、そっと嗅いでみても香ばしさと土の匂いがごちゃ混ぜになってよく分からない。
味で分かるものなら良いがと奧の棚に解毒の霊薬を用意してから少しだけ嘗めてみると―――苦みや渋みの奥底に、僅かに引っかかるえぐみがあった。
(……解熱作用のある葛根、葛葉皮に鎮痛作用の甘草。だが、それだけじゃない。……ルイヴォ・ヴァラーヒか、古めかしい手を使いやがって)
記憶だよりでしかないが、幼い頃に父親にありとあらゆる毒と解毒の霊薬を交互に飲まされ続けた訓練は伊達ではない。
薬を飲んだ後は身体が楽になるという証言や、国王の症状にも納得がいった彼はこの程度を飲んだところで影響を受けないぐらいの耐性を身につけていたものの、一応便器に唾を吐きだしてから腕を組む。
(となると毒殺、か。こいつは大事だぞ)
鑑定違いでなければなのだが、誰がどうやって毒を混ぜたか、何のために毒殺したかという大きな問題が残っている。
この薬も鎮痛剤を作らせたあとに誰かが毒を追加したと考えれば薬草師は無関係になるし、宮廷治療師のベアとて単純な誤診と痛み止めを処方しただけに過ぎないかもしれない。
動機にしても自分が知っているだけの情報で考えると、いま一番怪しいのは突如狙ったように共和制を唱えたワール公が主犯に思えるものの、確信を得るような証拠はなに一つないのだ。
現時点では毒殺と大臣の提言は偶然の一致だとか、単純な提言を考えていただけの大臣の動きを察知した誰かが罪を擦り付けようとした可能性だってあり、誰が敵で誰が味方なのかを見誤ったらそこで終わりだろう。
下手に騒ぐと誰かを毒殺犯に仕立て上げたいリョウの自演だとされる恐れだってあった。
(動き方を一つ間違えると証拠を消されて終わりだな)
ただ毒殺の可能性を拾えたことと、証拠品を抑えられたことは僥倖だった。
国王が逝去してからのギルモアの素早い動きとリョウの違和感、そしてなによりも王女の人払いが功を奏した形である。
(味覚で判別できるようなもので助かった。相手も早めに回収したかっただろう)
無味無臭なものを使わなかった以上は犯人も薬を早期回収したいに違いない。
別の用事で出遅れているのか、侍女達を退室させて自分だけになる状況を作り出せないうちにゴライアスが来たのかは分からないが、あとで大臣達の他に誰が居住区に入ろうとしたかを確認するべきだ。
(……回収現場を押さえても証拠としては弱い、向こうが単独犯で無かったとなると尻尾切りも怖いな)
近いうちに薬が誰かに回収されたと犯人にも気づかれる。
薬包紙を戻してその現場を抑えるか、ゴライアスから出てきた名を片っ端からしょっ引いて口を割らせる案もあるが、上級貴族の名が出てきた場合、証拠が自白だけでは検査官の嘘発見の奇跡にかけるのは難しいかも知れない。
あの神聖魔法には検査官と被疑者の声が届く範囲に何十人も集めなければならないという制限があるため、ほとんど公の裁きの場でしか使えないのだ。
しかし大勢の前でいろいろ追求した結果、具合の悪い真実が転がり出てきてしまうと逆に大事になってしまうため、大きな事件であればあるほどおいそれとは試せない。
出てきた悪人を全員処刑したら国を含めた重要機関が回らなくなることだってあるかも知れないし、他国が絡んだ場合に処理の仕方を間違えれば国交問題になったりもする。
大きな派閥が消えることで余計な混乱を招く恐れもあるが、かといって罪と刑罰の軽重を変えてものちにしこりが残るからだ。
現在はさまざまな調査や聴取を経て証拠などが固まり、影響範囲が見えたところで最後のとどめにと言う使われ方が多く、不特定多数の者に白黒を付けるような使われ方がされないのは、安易に嘘発見の奇跡だよりの裁きをやって大事になってしまった事例が多く存在するからである。
(政治的判断とやらが絡むとなると、俺一人で考えるのは危険だ。ギルが戻ってきたらすぐギルモア様に会いに行こう)
その辺りはギルモアと相談する必要があると考えたリョウは、薬包紙を包み直して霊薬を回収すると便所を出て王女の部屋へ急いだ。




