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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第六節 動き出した悪意①

8/24 オットーが分身していたので片方をアーニーに変更、誤字修正

 入城してから三週間ほどが経ち、新人の二人は新しい生活に慣れ始めていた。


 リョウは城のしきたりやギュメレリー固有の文化などを覚える事が主となっており、ギルガメシュの方は少しでも腕を上げようと、無理にでも時間を作っては剣を振り回している。


「西側は湿原が近くてこえーから、開拓は東側が人気なんよ。村も増えてきたからこのへんに水路を引こうかって話がでてるんだわ」


 先輩達から引き継がれるのも仕事だけでなく、国土に対する情報や開墾計画、王国の抱える問題点なども含まれはじめていた。


「その分西側は護衛とか傭兵の相場が高くてな、荒くれどもや冒険者が集まっててちょっと治安がわりぃかなー? 西方防衛の基点であるダイアナの街は騎士の数も多くてまだマシなんだが、テンペなんかはスラムも拡大傾向にあって対策を迫られてるとこなんよ」


 このままほっといたら暗黒街になっちまうかもな、とアーレニウスが地図上のテンペをとんとんと指で叩き、ペンを止めたリョウも難しい顔で考え込んでしまう。


「悪党に逃げ込まれると足取りが掴みづらいって事か」

「そーそー。それがまた良くない連中を集めるらしくてなー? 悪循環になっちまってさ」


「スラムは何処の国でも対処に困ってるなあ」


 一概に奴隷制をなくした弊害とは言い切れないが、人口が大きく増えるか新しい役務や商品など、何かが生まれない限り街で求められる仕事には限界があって、仕事不足に喘ぐ者がでているのである。


 基幹となる仕事のギルドは依頼の分配のほか知識や情報の共有など、新人が仕事をしやすいように気を使う反面、既得権益を守るために新規参入の数を制限することもあるし、ギルドに参加しない者に圧力をかける例もあった。


 街道を敷いたり水路を引いたり、大きく森を切り開いたりと公共事業を興して税金を投入すれば一時的に改善はするものの、事業に大きな見返りがなければ国もなかなか動けない。


 それに仕事があると他国の貧民を呼び寄せてしまうこともあるため、どこの国も対応には二の足を踏んでいるのが実情のようだ。


「フィフトニスとの国境もちけーし、リョウもなんかやらかしたらテンペに逃げるといいぜー? ああでも、貴族の女に手を出しまくってから居なくなるのは勘弁な! 穴あきの中古品を引き取る物好きの貴族なんかいねーからよ」


「そのときはすぐに追っ手がこないようダイアナに逃げるふりをしてかな」

「ケーッ、逃げるときまでそんなんかよ」


 いくら見つかりにくいと言っても可能性の分散ぐらいはしたいといリョウに、そのときのアーレニウスは用心深いやつだと笑うだけだった。



             ◇



 鍛錬の間に通う回数も多く、時には二人で他の騎士団の練習に混じったりしていたが、リョウはもとよりギルガメシュも彼らと比べる事の出来ない実力者になり始めている。


 そう言った交流はギルガメシュの人脈を少しずつ広げていくのと同時に、いろいろな武器を使う騎士たちとの試合経験は彼をますます成長させていたのだ。


「では次は僕とオットーが組んで、他の六人の相手をしてみよう」

「足を引っ張らぬよう頑張ります!」


 また、問えば的確な答えが返ってくる―――そのときは分からなくても持ち帰って後日回答してくれる―――リョウの博識さや、模擬試合の相手をして貰うだけでどんどん強くなれるとの評判により、早朝訓練に集まる騎士も日に日に増えている。


 最初は恐縮と敬礼ばかり繰り返していたマーカスもだいぶ慣れたもので、後輩と一緒になって朝練に励んだ結果、これまで足下にも及ばなかった小隊長との試合に初めて勝ててしまい、食堂で大っぴらに自慢したらしい。


「イグザート様。『魔力』を持たない者が、『操魔技術』を用いて魔剣の力を使うにはどのような修行が効果的なのでしょうか?」


「まずは操気技術に長け、武器に気を流し込めるようになること、その量や強弱を自在に操れるようになることが大前提。それから先天的に『魔力』を持つ者、つまり魔法使いとか魔法騎士に同調を手伝ってもらうのがいいかな」


 またこのようなふとした問いにも、魔法の武器を持たぬ者に説明しても意味がないなどとは言わずに答えてくれるのがとても嬉しかった。


 もちろん性格もあるが、リョウはそう言った好奇心が成長の芽となること、無関係だった知識同士の結びつきから閃きが生まれること、相手の話を傾聴することは信頼関係の構築に大切だということを知っていたのである。


「同調ですか?」

「魔力を操るというのは気を操るのと似ているところがあって、訓練により体の中を流れる力として感じ取ることができるんだ」


 魔力を持っていないせいか、ぴんとこないマーカスが首を傾げると、壁の黒板の前に立ったリョウはチョークで波形を描いて続ける。


「そしてその流れは魔力を付加された武器にもあり、武器ごとの魔力の波長は一定だ。正確には付加した術者の波長が固有情報として残っているんだけど」

「ふむふむ」


 いつの間にか大勢の騎士たちが並ぶ中、教師のように解説を続ける彼は黄色いチョークで白い波線をなぞった。


「そして魔力の波長に気の波長を同調させると、気の操作に引っ張られる形で魔力も動かせることが分かっている。どちらも身体から生まれる力だし、なにかしらの共通部分があるんだろう。そうやって間接的に行うのが魔力が無い者なりの『操魔技術』だ」


「では、同じ術者の作った武器にはそのまま流用ができて、波長の異なる―――違う術者の作った魔法の武器の場合は再度修行のやり直しと言う事ですか」


 分かってきたマーカスが言うと、ぱんぱんと粉を払ったリョウは自分の背中の剣と向こうで試合をしているギルガメシュの剣とを指さして頷く。


「同調のやり方は分かっているから、新しい波長を知ればすぐ慣れると思う。会得した技術が全て失われるわけじゃない―――けど、魔力を持つ者に見てもらいながらじゃないとできないのが難点かな」


「よく分かりました、ありがとうございます。……まあ、我々が魔法の武器を手にする機会など、一生に一度あるか無いかですから杞憂でしょうね」

「マーカス先輩は剣だから可能性があるじゃないですか」


 口を尖らせるアーニーの呟きに、さすがのリョウも苦笑いを浮かべただけだった。



             ◇



 そしてイグザート様攻略会がその八まで増え、フィッツジェラルド侯爵令嬢がいろいろと頑張り、イグザート様見守り隊の餌付けがさらに進んだ頃。


 後から思い返せば、それが予兆だったのかもしれないことがいくつか起きていたのである。


「あれ、第二騎士団が遠征に出るのか」


 フォートの手伝いをしていたリョウは、ポールから提出された計画書を見つけて首を傾げていた。

 冒険者向けの依頼に厄介な怪物の討伐が出た記憶がなく、何を目的とした遠征か分からなかったためだ。


「……手柄が欲しいんだろう」


 最近ずっと顔色の良くないフォートが俯いたまま答え、討伐目標が記載されていない計画書に目を通したリョウは承認欄にあるフォートの署名と彼とを見比べる。


「なにかの出現情報でも掴んだのかな? 手柄ほしさで連れ回されちゃ、騎士たちもたまったもんじゃないな」


 遠征には金が掛かるし騎士達の負担も決して軽くはない。

 リョウは後ろに綴られている見積もりだの名簿だのをぱらぱらとめくった後、空振りだったら大変だぞと呟いて決済待ちの箱に書類を戻した。


「残りはこっちの束を主計に出すのと新しい賞金首の通達作成だろ? 後はやっておくから、今日はもう上がったらどうかな」


 奥さんが心配で仕方がないんだろうとリョウが早退を提案するも、両肘を机についたまま微動だにしないフォートはじっと難しく考え込んでいる。


「フォート?」

「……ああ、そうさせてもらう」


 やっかいな案件かともう一度声をかけると、はっと顔を上げた彼は立ち上がって魔槍を持った。


 そのまま部屋から出て行こうとノブに手をかけたところで立ち止まると、十秒ほど何かを言い悩み、そして絞り出すように謝罪を告げる。


「………すまん。本当にすまん」

「このぐらいなんでもない」


 それがあまりにも苦しそうで、泣きそうな声だったので、早く奥さんのところへと微笑んだリョウはフォートの背中を押して部屋から送り出す。


 それからしばらく一人になった室内で仕事の残りを片付けていたのだが。

 ふと、先ほどのフォートの横顔を思い出してペンを止めた。


「騎士の役目と家族、か。難しい問題だよなあ」


 もし自分がフォートの立場だったら仕事をしていられるだろうか。

 幸い金に困ることはないし、今なら独り身なので騎士を辞することは可能だろうが、人には人それぞれの立場、しがらみ、背負うものがあるため答えは一つでもないだろう。


(俺にできるのは、第三の選択肢を選べるよう努力することだな)


 いつか、大切なもの同士を秤にかけねばならないときが来たときは、後悔しない選択をしたいなと思うのだ。

 ―――両方を守りたい、と思うのが青さだとしても。



             ◇



 一方、アトゥム魔法学院の地下に続く階段前にて。


「う~ん……白符の生産を拡大するにはもっと質の良い―――あれ? その本」

「ふあっ!?」


 ちょうど通りかかった魔法使いの女性は、すれ違った中年の持っている古めかしい二冊の本が封印指定の召喚術書だったので、何をしているんですかと頭頂部が怪しい副学院長をじっと見据えた。


「副学院長、それを禁書庫から持ち出すには学院長の承認も必要なはずですが」


 この大陸ではほとんど見かけない技術職、『召喚師』が自ら契約した召喚獣を保管しておく道具とは異なり、古代魔法文明に作られた魔法の道具であるそれは、使い方を知っていれば誰でも召喚獣を使役できるものである。


 一冊に一体という制約はあるものの、一度強力な怪物や魔物を封じ込めてしまえば子供でも強大な戦力を手に入れられるため、中身によっては即封印指定とされて学院に管理されるものなのだ。


「じ、じつは、また学院長が魔具を売り払って練金術の研究費に充てたいと言い出してね……」


 冷や汗混じりの弁解に頭が痛くなった女性は、眉間に指を当ててまたですかとため息をついてしまう。

 封印指定の魔法の道具を一般に売り払うことはできないが、友好国の魔法学院なら売買が許されているのである。


「いい加減にして欲しいものですね。お言葉ですが、早く国王様に上奏して罷免していただいた方がよいのでは?」

「う、うん。僕もワール公にそう言っているんだけどね。国も学院長の実績を無視するわけにはいかないみたいでね」


「確かにセッケンの復活は素晴らしいことだと理解しておりますが……」


「予算が少ない上に学院の資産まで減っちゃうと悲しいよね。もう少ししたら何とかできると思うから、もうちょっとだけ我慢してくれないかな。僕も頑張るからね」


「副学院長がそう仰るのであれば……」

「じゃあ僕は行くね。みんなも不満に思うだろうから、この事は内緒にね」


 魔法学院にほとんど顔を出さず、副学院長に任せっきりにしているポタス学院長の練金術傾倒に不満のあった女性は、早く体制が変わればいいのにと期待するだけで自らどうこうしようとは思わなかった。


 そのためか、そそくさと副学院長が立ち去った後もすぐ自分の研究に思考を戻してしまい、このことはすっぽりと頭から抜け落ちてしまう。



 この件が表沙汰になったのち。

 各機関の内部統制はどうなっているのだ、運営管理は当事者や研究者に一任するべきではない、外部の監査を入れろなどと大鉈が振るわれる一因になったそうだ。


 なぜならポタス学院長は、一度たりとも魔法の道具を売り払えなどという指示を出したことはなかったのである。



         ◇   ◇   ◇



 リョウとギルガメシュの二人だけに限らず、新人騎士全員の謁見すら滞っていた。

 しかも国王の体調は芳しくなく、悪化の一途を辿っている事をギルモアが語る。


「万が一の事、覚悟してください」

「国王様……どうして……」


「ギルモア様、国王様にお会いする件は」


 桜花を始め、他の騎士達は好転を祈る事しかできずにいる。

 ただ一人、国王へのお目通りがかなわないかとギルモアを頼っていたリョウが首尾を問うと、団長はすみませんと眉をひそめた。


「やはり、武官に何がわかると断られてしまいました。すみません」


 秋の王休期間を終えても国王が復帰できないため、体調を崩されているという情報が先日大臣によって公開された。


 治療の奇跡(キュア・ディジーズ)でも治せない病気というのは決して多くないのにはっきりした情報が入ってこないため、どうしても違和感をぬぐえないリョウは国王を診たいと申し出ていたのだが、ギルモア曰く、武官が口出しする問題ではないと取り付く島もなかったそうだ。


(もどかしいな……)


 この状況に対して首筋に虫が這うような嫌悪を感じるリョウは、首を突っ込むことのできない自分に酷くもどかしい思いをしていた。

 それがまるで、冒険者向けの依頼を受けられずにいたあの頃と同じ歯がゆさなので、改めて己の小ささを実感してしまう。


 もしもこの時点で、一武官に過ぎない彼でも介入できる柔軟さがあれば未来は変わったのかもしれないが、それを国家という枠組みにのぞむのは難しすぎたし、余計な介入をされたくない者が向こう側にいたのもその難易度を上げていた。


 たとえば彼がすでに英雄や勇者といった称号に相応しい実績や名声を持っていたならば、枠組みや謀を超越して介入できたかもしれないが、今の彼はただの冒険者上がりの騎士見習いに過ぎなかった。


(潜入も難しそうだし、見つかると迷惑がかかりそうだし……)


 この階を行き来する宮廷司祭や宮廷治療師、侍女の数からするにトリオーン王の周囲にはつねに大勢がついていることだろう。


 囚われの身を救い出すとか、力業で制圧するとかならやってやれなくはないが、こっそり忍び込んで王の症状を確認し、誰にも気づかれずに戻ってくると言うのは今の状況だと難しい。


(今度シリルに会ったら聞いてみるか)


 腕を組んで考え込んだ彼は、こちらが駄目ならもう一人と伝手になりそうな少女のことを考えたものの、彼女はお出かけの誘いをしたその日から、リョウの前に姿を現していなかった。


 ―――こうした身動きの取れない状況と漠然とした違和感の足下で、悪意は静かに蠢いていたのである。


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