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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第五節 期限つきの平和⑦

8/12 誤字修正

2/22 治癒の奇跡(キュア・ディジーズ)治療の奇跡(キュアー・ディジーズ)

「失礼します、ポタス様にお届け物です」

「……来たか!!! 待ちわびたぞ!!」


 開け放しだった扉からリョウが一歩入るなり、部屋の中をぐるぐると歩き回っていた白衣姿の男性がすっ飛んできた。


 十七時までに荷物が届かなかったので相当に焦れていたらしく、文句の一言でも言いたかったのだろうが、荷物を持ってきたのが執事服ではなく剣を背負った少年達だったので、おやと首を傾げている。


「君たちは?」

「……おお、リョウとギルではないか!」


 そこへ本棚の裏に隠れていたアントンがやってきて二人の新人達の名を呼んだ。


「アントン? どうしてここに?」


 普段は上半身裸でほっつき歩いているくせに、今は巨体に合わせた白衣を着ているので、まるで錬金術師だとリョウが問うと、がっはっはっはと笑った彼は簡単な事だと答える。


「がっはっはっは! なに、我が輩は練金術もたしなんでいてな。時間のあるときはこうしてカッツと共に研究に励んでおるのだ」

「そうだったのですか」


 幸い、意外だという言葉はギルガメシュからこぼれなかったものの、部屋の中にある試験管などのさまざまな実験器具はどちらかというと小さく繊細で、アントンの巨大で節くれ立った手には似合わない。


「彼らを知っているのかね?」

「知っているもなにも、先ほど話した期待の新人達である! こちらの黒髪の少年が元冒険者のリョウだ」


「お初にお目にかかります、ポタス子爵。リョウ=D=イグザートと申します」

「そしてこちらの栗髪の少年がギルガメシュ。彼は第一騎士団長のフォレスト卿のご子息であーる」


「ギルガメシュ=V=フォレストです。ポタス子爵のお噂はかねがね」

「私はカッツ=ポタスだ、堅苦しいのは面倒くさいのでカッツと呼んでくれればいい」


「どうして二人が荷物運びをしていたのであ―――」

「そんな事はどうでもいいから早くここに置いてくれ。中身を確認したい」


 分厚い眼鏡をくいっと押し上げたカッツが、研究以外のことに興味がないと言わんばかりにアントンを遮ったので、頷いたリョウは木箱を言われた場所に下ろした。


 すると、歩み寄った彼は乱暴に蓋を引きはがすと並んでいたガラス瓶をいくつか取り出し、中に入っている緑色の液体の様子を確認してうむうむと一人頷いている。


「……で、どうして運んでいたのである?」

「実は―――」


 邪魔をしないよう小声で尋ねてきたアントンに、リョウが腰を痛めた執事の事や重量物注意の札のこと、魔法使いに荷運びの手伝いの事を言ってみると。


 腕を組んだ彼はここで言っても無駄であろうと、ランプの明かりに透かしたり振って粘度を確かめているカッツを横目で見た。


「ここで言っても耳に入らないであろう。なんなら、我が輩が出ている宮廷従事者定例会に同席してみてはどうかね?」

「新人が出ても平気なのかな」


「それほど他の技能職の事情に通じているのであれば十分である。我が輩が出られないときの代理も欲しいので、こちらからもお願いするのであーる」

「わかった、じゃあ先ほどの話はそのときに」


「……いいじゃないか! これが量産化の暁にはギュメレリーの公衆衛生はますます改善されるに違いない!!」

「いったい、それは何なのですか?」


 状態に納得したカッツが瓶を高々と掲げながら叫んだので、ずっと様子を眺めていたギルガメシュが好奇心に負けて問うと。

 満面に怪しい笑みを浮かべたカッツは、つかつかつかと彼に歩み寄ると眼前に瓶を突き出して言った。


「これは『うがい水』だ! 現状の練り歯磨きをさらに強化したものと考えてくれたまえ!」

「うがい水?」


「うむ! 君たちは食事の後、歯磨きはしているかね?」

「はい、一応」


「おそらく使ってるのは、雑貨屋にある練り歯磨きと房楊枝であろう?」

「ええ、そうです」


 カッツが言うのは一般的に使われる壺に入った粘液と、煮たりして柔らかくした木の枝を叩きつぶして房状にした、歯磨き用の道具のことである。


 値段はそれほど高くなく、平民でも普通に買えるような価格で流通しており、粘液―――練り歯磨きの方はミント風味の他に果物風味など、いくつかの種類があった。


「俺は糸も使ってますね」

「ふむ! リョウ君はだいぶ口腔衛生に気をつかっているな、良い事だ!」


 ニカッと笑ったカッツ自身も綺麗な歯をしている。

 綺麗というか、身だしなみに気を遣うお嬢様や貴族達が羨むような白くてぴかぴかの歯だ。


「そんな君たちに朗報だ! このうがい水を使えばもっと簡単に、そして完璧に口の中の汚れを除去できる! ミント風味で口臭もさわやかに!」

「凄いですね。でも、お高そうな……」


「大丈夫だ、一度買えば再利用可能! むしろ、毎日毎食後に使った方が長持ちする!」

「ええっ、再利用可能なのですか?」


 うがいした水を再利用と言われて嫌な顔をしてしまったギルガメシュに、気がつかないカッツは蓋を開けた瓶をぐいっと押しつけてきた。


「とりあえずは試してみたまえ! 口に含んで何回か噛んだあと、ぐちゅぐちゅと歯の間を通すようにかき混ぜて、最後にがらがらっとうがいをしてから吐き出すのだ!」

「は、はあ……」


 大丈夫だろうかと不安になった彼が手元の瓶に視線を落とすと、緑色の液体はかなり粘度が高く、わずかにミントの香りがする。


(随分ねっとりしているな。 これが汚れを取ってくれるのだろうか?)


 正直やりたくなかったのだが、カッツとアントンから早くしろという視線を向けられたギルガメシュが仕方なく瓶をあおってみると。

 うがい水とは言うが、水とは思えない粘度で瓶底にへばり付いていた固まりがどろん、と口の中に転がり落ちてくる。


(あ、意外に悪くない)


 ほのかに甘酸っぱく、ミントの爽快感が口の中に広がるので、こういうお菓子があっても良いんじゃないかなどと思い始めたギルガメシュがもぐもぐやっていると、顎に手をやったリョウがカッツに聞いた。


三神(ミツカミ)国で見たこんにゃくに似てるかな? カッツさん、一体これはなんでできているのですか?」

「スライムだ!」


「ブグフォ!?」


 聞くなり被験者は吹き出してしまい、しぶきとなった粘液が床や壁、テーブルに飛び散ってあたりが清涼感あふれる香りに包まれる。


「ああっ、何をするか!? もったいないのである!」

「なななななんてものを口に入れさせるんですか!?」


「スライムだが」

「怪物じゃないですか!!」


 緑色の粘液が鼻から垂れていることにも気がつかないほど凄まじい剣幕の少年を、理解できないというようにカッツは肩をすくめた。


「何を怒っているのだね? 君たちが普段使っている練り歯磨きも主成分はスライムだぞ」

「えっ!?」


 少し飲んでしまったギルガメシュは身体の中から溶かされるのではないかとお腹のあたりを抑えているが、もう一本取り出してきたカッツは中身を一気に飲み干して問題ないと笑っている。


「この通り、丸ごと飲んだところで胃酸に負けて消化されてしまう。安全性はばっちりだ!」


「それに怪物だからといって差別はいかんのである! 怪物とて食べられるものは多く、長期に野外探索をする冒険者などは普通に食べているし、一部は町中でも売られておる!」


 そう言うアントンは床やテーブルに散らばった粘液を指でつまんで瓶に拾い集めており、驚くギルガメシュがよくよく見てみれば、絨毯にも染みこんでいない粘液は軽く盛り上がってぷるぷると震えているではないか。


「リ、リョウ!? そうなのか!?」

「そうだよ。俺は時間がもったいないから弁当派だけど、食べたこともある」


 父親の訓練で、鋼鉄の剣一本持たされただけで右も左も分からぬ危険地域に放り出されたこともあるリョウは、そのまま二ヶ月ほど生き抜いて周辺のヌシ化したぐらいの野外生活力をもっている。


 そこまで厳しい条件でなくとも、魔法の道具入れホールディング・バッグを持たない冒険者が長期に町を離れるとなると、どうしても保存食だけでは食いつなげないために現地調達が主となることから、怪物食に対する抵抗は殆どない。


 むしろ町中で食べられるような動植物より栄養が豊富で美味な物も多く、舌の肥えた飽食貴族や金満商人が食材を求めてこっそり依頼を出す例もあるほどだ。


 とは言え一般には怪物食に対する忌避は根強く、とくにそんな物を食べなくても十分な貴族の食卓に上がることはないため、ギルガメシュの反応が普通である。


「干しスライムとか珍味であるしな! 我が輩などはよく酒のつまみに食べているぞ。あのコリコリと、噛みしめると出てくる深い味わいがたまらんのである」


 アントンが言うのはマッシュルームや椎茸など、出汁の出るキノコを好んで食べるスライムを下処理して干したものであり、そのまま食べても、料理に入れても滋味深い味わいが楽しめると言われている。


 似たようなものに傷んでしまった肉ばかりを食べさせて上質な干し肉にも負けない味にしたものや、くず野菜や魚の骨など、料理の出汁取りに使われるような廃棄品を与えて味を付けた干しスライムなどもあるそうだ。


 なにげに高級食材であり、野外で料理をする懐事情の良い冒険者の多くが買い求めるため、農村の冬の間の仕事になっていたり、大手の商会などが専門の養殖場を持っていたりする。


「ギルだってスライムは嫌でもドラゴンステーキは食べてみたいだろう?」

「うっ! ……た、たしかに、究極至高の逸品とまで言われては、食べてみたいと思わなくもないが」


「町の中と外の文化の違いだよ。いい物は次第に浸透していくさ」

「で、でもスライムだぞ? とても凶暴で魔法を使ったり金属まで溶かしたりするそうじゃないか」


 さすが元冒険者と言うだけあって考え方が柔らかいリョウと、町の中の貴族的な反応を見せるギルガメシュを見比べたカッツは、顔に手を当てて嘆くといつもの持論を展開する。


「じーつーにー嘆かわしい! スライムほど我々の生活に深く関わっている怪物もいないというのに! やはりスライム生態学を学級の必修科目にしたほうが良いのではないか!?」


(むっ! 我が輩は今のうちに退散するのであるっ! 若人達よ、あとは任せるのであ~る!)


 これが始まると長くなると知っていたアントンは、集め終わったスライムの瓶を机に置くと二人に目配せして部屋から出て行ってしまった。


(あああっ、アントンさん逃げたぞ!)

(これ、長くなるのかな)


「聞いているのかね、君たち!?」

「「は、はいっ!」」


「いいかね? スライム生態学では無数のスライムを大きく三つに分けている。一つ目はギルガメシュ君が想像するような捕食性。二つ目は動植物、怪物などを宿主として栄養を得る寄生性。最後に、環境に適応し周囲の生き物に良い影響を与える共存性だ」

「はい……」


 あちこちに計算式やら納品日やら思いつきやらが書き込まれている黒板の右端に、カッカッカッと少しずつ重なり合う二つの円を描いたポタス魔導師長―――今は錬金術師長は、バンッと黒板を叩く。


挿絵(By みてみん)



「数、種類の多い捕食性スライムが一般的な認識なのは仕方がないがな。僅かながら植物や動物に寄生するスライムも居ると知っておくといい」


「冒険者に討伐依頼が出るのも基本捕食性ですね。寄生性は……捕獲依頼を一度見たことがあるぐらいかな」


「そんなもの捕まえてどうするんだ!?」

「植物に寄生するとか動物の身体の中に入り込む種類じゃなかったから……なんだろうな」


 深い闇を感じたリョウは見なかったことにしたのだが、あの依頼は果たされたのだろうかとすこし気になってしまう。


「補食性はそこらの怪物となんら変わらん。寄生性は食べ物に気をつけていれば恐れるものではない」


 動物や怪物の腹を割いてみたら寄生スライムが入っていることもあり、内臓は食べるなとか食べるなら必ず入念に下処理して火を通せと言われる要因の一つだ。


 内臓に寄生するスライムの多くが耐酸性を持っているため、僅かでも生きているまま食べてしまうと消化されずに寄生されてしまうことから、急激に食事量が増えたり体重が落ちた場合に疑われる理由の一つでもあった。


 治療の奇跡(キュアー・ディジーズ)が効かないものの、薬草師の処方したスライム下しを飲み続ければ退治は可能なのだが、ちょっとでも残っているとまた増えてしまうことから根治には数週間かかると言われている。


「そして、その間に存在して我々の生活に深く根付いているのが共存性スライムだ。これらは環境に寄生する捕食性と言い換える事もできる。両方からの特徴を受け継ぎ、静かに環境に馴染もうと世代を重ねていく」


 はいそうですかとは言えないギルガメシュが反応に困っていると、手帳を取り出してページをめくっていたリョウの方は過去の記述と今の説明が一致する事を確認してなるほどと頷いていた。


「アトゥムでも恩恵を受けているのは浄水スライムで、これの歴史は古く、古代魔法文明にはすでに活用されていたらしい。発生は吐き出された練り歯磨きに含まれるスライムが下水に適応していったと考えられており、下水が流れ込む川の汚染防止、公衆衛生の向上にともなう疫病発生の低下といまでは無くてはならない存在となっている」


「ええっ!? じゃあ、下水路はスライムだらけなんですか?」

「うむ、かなりの数がいるはずだ。時々流されてしまったうっかり者が、もとの場所に戻ろうと移動しているのを見かけるだろう」


「町の側にスライムが多いのってそれが理由なのですか!?」


「生活廃水などに含まれるもろもろを取り込むことだけに特化したスライムが、外敵だらけの町の外で生きていけるわけがないだろう。あれは人の住む安全地帯で増殖した共存スライムの迷子とか、増えすぎたために新しい住処を探して移動中なだけだ。優しくしてやってくれたまえ」


 カッツは見かけても放置するか家に持って帰って下水に流してやってくれと言うが、練金術協会の公式見解としては増えすぎると別の栄養を求めて変異する可能性があるから、あふれた分は適当に処理した方がよいとなっている。


 剣や斧などによる物理攻撃は意味がないが、移動速度は遅くぷるぷる震えているだけで攻撃してくることもないため、松明などの火で炙ってやればすぐに死んでしまう。

 そのため、超初心者向けの常設依頼として掲示板に乗せている酒場も多い。


「なんと言うことだ! 僕らの足下に無数のスライムが蠢いていたとは……!」


 驚いてばかりのギルガメシュはいままでできて当たり前、あって当たり前の生活の裏側にある技術に興味がないほうだった。


 サクタール河から引いた水路があるからこそアトゥムは発展できていると学級で習ったし、町のあちこちにある噴水も上水道の水量監視のために存在することまでは知っていたのだが、下水には汚水を処理するスライムがいるなんて思ってもみなかった。


「このうがい水はそうした共存スライムの特性をもつ雑食種を改良したもので、食べかすなど口の中の汚れを餌に生きていくと言うわけだ。時々ミントの葉をやれば清涼感も保てる」

「うわぁ、うわぁ……!」


 理屈は分からなくもないのだが、どうしても生理的嫌悪が先にでる彼が全身に鳥肌を立てている隣では、手帳をめくったリョウがなるほどなあと納得していた。


「超長命で滅多に変異せず、個体数の少ないドラゴンの正反対に位置する生物と言われるのも分かる気がするな」


「リョウ君の言うとおりスライムはこの主物質界プライム・マテリアル・プレーンのなかでもっとも変異性に富み、可能性に満ちた存在と言われている。なぜだか分かるかね?」


「ドラゴンと正反対ということは―――寿命が短く外からの刺激に弱いから、ですかね?」


「その通りだ! 長命で最強であり、普段は食べなくても大気中の光やマナ、精霊力などを吸収して生きていけるドラゴンには変化、進化する必要がない。逆に短命で弱く、食べなければ生命活動を維持できないスライムは、素早く環境に順応しなければならないのだ!」


「すると、凶悪な捕食性のように、環境に順応して食物連鎖の上位に上がってきたスライムが短命でなくなるのもそのあたりに理由が?」


「素晴らしい考察だよ! 捕食で強い因子を取り込める捕食性は世代交代を急ぐ必要がなくなるのだろう! 弱い者ほど変異のために世代を重ねるのは基本法則なのかもしれないっ!」


 創世記に存在したとされる、二千年以上の寿命を持つ古代森妖精(エンシェント・エルフ)族は、主物質界に適応できずに妖精界へ戻っていたと言われている。


 変異して生まれた上位森妖精ハイ・エルフ族は、妖精界から流れ込んでくる力の強いところでしか生きられないが今も主物質界にわずかながら残っており、寿命は千年程度に縮まったそうだ。


 五百年も生きられない森妖精エルフ族は人間族と変わらない行動範囲を得たものの、変わり者が町に住んだり冒険者になったりする程度で、少数の部族が森の中でのんびりと暮らすことが多い。


 一方、古代魔法文明前までは平均寿命がいいとこ五十年と言われていた人間は集い、町を作り、知恵の力で文明度を高めることで、都市部なら平均寿命を七十歳に届かせようとしている。


 そんなふうに人の中でも種族によって寿命と生活様式、文明度が反比例するような形になっているため、スライムも同様に違いないと鼻息の荒いカッツは優秀な生徒を見つけて興奮しているらしく、またそれが彼の講義熱を燃え上がらせてしまう。


「いまやドラゴンと同じぐらい専門で研究する学者も多く、北部では油の絞りかすを与えて可燃性のスライムオイルを取り出す研究が始まっており―――」


 結局。

 スライム談義に端を発した練金術講義は留まるところを知らず、空きっ腹で疲れ果てた二人が研究室から脱出できたのは夜二十二時を過ぎてからだった。


「疲れた、な……」

「まあな。でもいろいろ聞けて面白かったよ」


 便利に使っている日用品にスライムを始めとした怪物素材が使われていると知ったり、いろいろと常識を打ち壊されたギルガメシュは途中から死んだ魚のような目で言葉を失っていたが、セッケンの作り方の他、さまざまな知識の吸収や再確認ができたリョウはずいぶんとページが進んだ手帳を片手にほくほく顔になっていた。



         ◇   ◇   ◇



「―――ということがあったんだ」


「まぁ……!」

「だから駄目だ。あんなわけの分からない世界は駄目なんだ……」


 立て続けの衝撃を思い出してしまったのだろうか、がっくりと項垂れているギルガメシュは力のない声で妹を諭そうとしているが、右手を口に当てて驚いているリイナはまったく聞いていない。


(スライムが水を綺麗に? 練り歯磨きの材料がスライムですって!?)


 そこには貴族学級では教えてくれない未知があった。

 書類の数字を右から左へ移す生活では決して関われない、知識ある者を師事して初めて触れられる不可思議な法則と可能性の世界だ。


(―――困りましたわ。むしろ、俄然興味が湧いてきてしまいましたの)


 別にスライムをこねくり回すだけではない。

 新しい練金製品を開発したっていいし、古代魔法文明の文献からなにかを復活させたって良い。


 何ができるか、何をしたいかを探すことから始めれば良いのだと、今の話で好奇心がとても刺激されてしまったリイナは両手を頬に当ててどうしましょうと困り顔になっている。


(もう少し考える時間はありますの。文官見習いになるか、ならないのか。じっくり考えませんと―――)


 うん、と頷いて結論を急がないことにした彼女は、今日二人の話を聞けて本当に良かったと思った。


 そしてうっすら自覚した。

 保守的な文官見習いよりも、刺激と興味に向けて突き進む錬金術師の方が性に合っていそうですわ、と。

【妄想暴走すぴんおふ】

リイナのアトリエ ~ギュメレリーの錬金術師~


第一話 あれから三年

第二話 冒険者への依頼

第三話 試行錯誤と消えゆく素材

第四話 爆誕!豊胸スライム

第五話 変異!育毛スライム

第六話 超進化!スライム融合炉

第七話 スライムマスターって私のことですか?

第八話 服だけ融かすスライムなんてできるわけないでしょう

第九話 スライム大脱走

第十話 マーオさんからの依頼

第十一話 マーオさんは魔王でした

最終話 来てくれたあの人



     *      *

  *     +  うそです

     n ∧,_,∧ n

 + (ヨ(´・ω・)E)

      Y     Y    *

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