第五節 期限つきの平和②
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王城を中心として円形に広がる王都アトゥムでは、城から離れて外郭に近い方を下町、城に近い方を城下町と呼ぶ場合がある。
正式な住所は東の四番街のどこ、北の二番街のそこと言った感じになるのだが、選民思想の強い貴族は住んでいる場所からして違うのだと言いたげにその表現を使うのだ。
平民は平民で、お貴族様の住むような場所とは違うんでぇと考えているふしがあり、身なりの良い者やよそ者が紛れ込むと、監視まがいの良くない視線を向けられることも多い。
さて、そんなアトゥム南の下町で、早朝だと言うのに元気の良い声が響き渡っていた。
「起きろオットー! 今日は薪割りの日だぞ!」
「起きているともアーニー! さっさと終わらせてイグザート様に教えを請うぞ!」
彼らはご近所でも有名な二人組。
南下町で騒がしい兄弟を知りませんかと尋ねれば、七割はパッパスのところの馬鹿双子じゃないかと返ってくるほどで、一年くらい前から穀潰しだの徒食者だのといった二つ名もおまけでついていた。
しかしその悪評も今は過去の話。
二人が三回目にして騎士募集試験に合格したとの噂はすでに広まっており、手のひらを返したように下町期待の星などと呼ばれ始めている。
また騎士団には専用の寄宿舎があって、望めばもっと城に近いところから通勤できるのだが、利用料もただではないし、走ればすぐだと二人は実家からの通いを希望していた。
その代わり給料の五割を家に入れることになったのだが、朝晩の食事と雨露をしのげる部屋、洗濯までついているのだから文句のあろうはずがない。
もともと二人は十五をすぎてから小遣いなど貰っていなかったし、彼女なども居ないためお金の使い道がなかったのも関係するだろう。
「朝っぱらから大声を出すんじゃないよ! ご近所迷惑だろ!」
「ごめんかーちゃん!」
「いってきまーす!」
壁の薄い木造の家が建ち並び、ちょっと大声を出せば向こう三軒両隣まで筒抜けのため、どこぞの夫婦喧嘩から赤ん坊の夜泣きまで騒がしいのは日常茶飯事だ。
ご近所さんはああまたやってるな、と目覚まし程度にしか思っていないのだが、最近の双子の大声は城での仕事とイグザート様なるお方のことばかり。
そのせいか双子の母が水汲みに出ると、井戸の周りで噂好きなおばさん達に捕まってしまうのも最近のお決まりとなっている。
「ママサさん、聞いたわよぉ~? 二人とも騎士に合格したんだって~?」
「ええ、おかげさまでなんとか」
「しかも兄弟揃って第一だって言うじゃない! 凄いわねぇ、南下町の期待の星だわね!」
「ありがとうございます。一日も早くみなさんに恩返しできるよう頑張らせますので」
ママサは内心、繰り返されるやり取りにうんざりしていたのだが、一般学級を出てから五年間、働きもせずに訓練ばかりしていた二人が騎士に合格したとあって、ご近所の視線も一変しており鼻が高いことは確かなのだ。
別に旦那の稼ぎが良いわけでもなく、どちらかと言えばやりくりに苦労する家庭である。
募集試験の日、今年駄目だったら家から放り出すか無理矢理働かせようと夫婦そろって待ち構えていたところ、飛び込んできたのは二人とも揃って第一に合格という一発逆転大勝利だったのだ。
「ところで、イグザート様と言うのはどなたなんだい?」
「それがねぇ。二人の話によると、今年は募集試験から親衛騎士団に大抜擢された子が二人いたらしくって」
「ええっ!? 募集試験から親衛騎士に!?」
「一人が第一騎士団長のフォレスト子爵のお子さんで、もう一人が元冒険者のイグザート様。なんでもそのイグザート様が、うちの馬鹿息子らや、他の騎士達の訓練の面倒を見てくれてるんだってさ」
「面倒ってあんた、親衛騎士様って言ったら忙しいんじゃないのかい?」
「それがずいぶん気の良い人らしくてね。早朝の間だけだけど一緒に薪割りをしたり、助言をしてくれたりするそうだよ」
「はぁ。ずいぶん奇特な人がいたもんだねぇ……」
こうしてリョウのうわさ話は、メイド情報網の他に下町の井戸端会議からも広まっていった。
◇ ◇ ◇
騎士募集試験の翌日のことである。
初登城した第一騎士団見習いの五人は団長、副団長他役職者との顔合わせの次に研修期間の業務の流れ、新人の役割など一通りの説明を受けた。
最後に利用方法の説明がてら、食堂で昼食をとり、午後になって配属される斑の先輩のところにいったのだが。
揃って第三小隊第六斑所属となった二人に、新人教育担当となったマーカスが自己紹介を終えるなり言ったのだ。
「じゃあ明日朝六時半に、城の裏庭に集合な!」
「六時半!?」
「第一の若手は全員薪割り係になることが決まっている。ククク、辛いぞ~」
以前は薪その物を納品させていたのだが、煮炊きに風呂焚きにかがり火に、冬場は暖炉と城の消費は膨大なため、馬鹿にならない光熱費が掛かっていたのである。
さらに臭い対策に騎士団用の浴場も作る事になったので、購入するのを安い玉切り原木に変更し、新人の教育がてら、薪割りと城内各所への配布は第一騎士団が担当するとブライアンが提案したのだ。
かくして入団四年目ぐらいまでの騎士が持ち回りで薪割りを行う事になったのだが、たしかに若手に根性がつき、簡単には弱音を吐かなくなるという効果が現れたほか、城の裏手の薪置き場まで取りに行かなくても良くなったメイドや執事からの評判も上々であったとか。
「朝飯付きだから心配すんな。手袋は支給されるが、汗をかくから手ぬぐいや下着の替えはもって来た方が良いぞ」
「「分かりました!」」
◇ ◇ ◇
初日を終えての帰り道。
自分の名が彫り込まれた、金属製の通行証を眺めたアーニーが言った。
「六時半となると、六つで起きてからすぐ家を出ないと間に合わないな」
「走れアーニー。俺は走る」
それしかないかと頷き合った兄弟は、翌朝六時の鐘で目覚めるなり城へと走る。
早朝だとまだ表門の跳ね橋が下りていないために壕の外周を回らねばならず、かなり大回りして到着した裏門で立ち番に通行証を確認してもらっていると、パンッ、パンッと軽快に薪を割る音が聞こえてきたので出遅れたかと焦った。
「アーニー! もう始まっているぞ!」
「まだ六つ半は鳴ってないはずだぞ!?」
ようやく裏庭に入り込み、駆け足で薪割り場への角を曲がるとそこには、素手で薪割りを行う少年の姿があった。
黒髪の後ろ姿は一抱えもある玉切りの原木を薪割り台に置くと右手を振り下ろしてさくさくと割っていき、その、ピザやホールケーキを切り分けているのかと思える程の気安さに思わずオットーは言ってしまった。
「あれは手刀打ち!」
「知っているのかオットー!? って俺も知っているか」
体術よりで戦う二人もその初級技のことは知っている。
しかし内功により強化した手刀と言えば簡単だが、発動までの時間、威力に連続性、どれをとっても初級技とは思えない勢いだ。
地面に落ちた薪を拾っては魔法の道具入れに放り込み、次の原木を割っては拾っていく。
それを数回繰り返して薪置き場に行った彼は、今度は一気に道具入れから薪を取り出して並べていった。
「同じ戦技でも使い手により威力は大きく異なると言うが……」
「それにしたって、違いすぎるだろう」
「おい、ぼけっとしてる場合じゃない。いくぞ」
熟練の樵が薪割りをする何倍もの速度で原木を片付けていく姿に呆気にとられていると、いつの間にかやってきていた他の薪割り係もここで立ち尽くしていたのだが。
顔を見合わせた彼らの中で、一番年次が上だったマーカスが覚悟を決めて薪割り場へと進む。
「おはようございます! イグザート様!」
「あ、おはようございます。お邪魔してすみません」
声を掛けられて手を止めたリョウは、整列して敬礼する彼らを振り返った。
「その……どうして親衛騎士のイグザート様が薪割りを?」
「訓練で汗をかいたので風呂の追い焚きを頼みたかったのですが。時間外の利用の分ぐらい、自分で割ろうかなと」
「それでも親衛騎士のあなたが薪割りなどする必要は」
「自己鍛錬の一環として見逃してくれませんか。とは言え、良いところばかりなのであまり効果はないかな」
そこで手を下ろしたマーカスは、物足りなさそうな彼にどういう事ですかと聞いてみた。
自分たちがやるとひいひい言いはする物の、それなりに鍛えられているという実感があるのに、効果が無いと言われる理由が分からなかったのだ。
「どういう事でしょうか?」
「木にも節だったり又になったりと複雑な部分がありますよね。そう言う部分に向き合い、目を読んで薪割りをすることは、怪物や人の構造を意識して急所を狙う思考訓練になりますので」
「……そのお話、もう少し詳しくお聞かせ願えませんか。もっと安い原木を買うことで訓練になるのなら、きっと団長が喜びます」
「ええ、構いませんよ。ではさっさと片付けてしまいましょう」
そう言ってリョウが薪割りに戻ったので、飛び上がったマーカスは立ち尽くしている後輩達を怒鳴りつけて仕事を急がせる。
「おい! イグザート様ばかりに任せるんじゃない! 俺達も手を動かせ!」
「は、はいっ!」
それで小屋から鉈やら手斧やらをもって来た騎士達も一斉に薪割りを始め、裏庭は一気に騒がしくなった。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
マーカスからの報告を聞いたブライアンは、良い部分を選り分けた原木の見積もりと、選別なしの見積もりと、悪い部分だけの見積もりを机に並べてふむ、と唸る。
「……なるほど、彼らしい考え方だ」
「我々もそれを取り入れてはどうか、と」
一つの懸念を除いて悪くない案だったので、選別無しの見積もりに署名したブライアンは、書類をマーカスに返しながら補足を伝えた。
「やってみるといい。ただ最初は不慣れで時間ばかりがかかるだろうから、割りやすいものも混じっていた方が良いだろう」
「ありがとうございます!」
「ついでにリョウに手伝いと助言を頼んでみるか」
「よ、よろしいので!?」
今朝のことは特例で、親衛騎士が薪割りなどあり得ないと思っていたマーカスは、自分達が追い焚きの分を割るべきだと思っていたのだが。
彼を、彼のままで城に馴染ませたかったブライアンは、ついでに自分の騎士団の地力が上がるのなら一石二鳥ではないかとギルモアに相談してみることにする。
「ブルーシップ卿にも話を通しておく必要はあるだろうがな。薪割りが早く終わって時間が余ったら、彼に訓練を見てもらえると言えば若手のやる気も高まるのではないかね」
「た、確かに……!」
そして、ギルモアに許可を取ったブライアンがリョウに話を持ちかけると、彼は快く引き受けてくれた。
◇ ◇ ◇
大変なのがそれからだった。
初日、二日目は良かったのだが、七時までに薪割りが終われば噂の親衛騎士に訓練を見てもらえるという話はまたたくまに第一騎士団内に広まった。
その結果、薪割りを卒業したはずの中堅が混じったり、訓練時間をなるべく長く取ろうと早起きして六時前から薪割りをする者が現れたり、前日の夕方に搬入される原木を夜のうちに割ってしまおうと、灯りの手配をするものまで現れる始末。
早朝、裏庭に現れる騎士が日に日に増えて手狭になったため、鍛錬の間まで使い始めることになるとはさすがのブライアンも予想できなかった。
火を付けたのは貴族学級でのギルガメシュを知っていた新人達である。
彼らは出来損ないだったはずのギルガメシュが、親衛騎士に抜擢されるまでに急成長した理由がリョウにあると睨んでおり、自分も訓練をみてもらえば絶対に強くなれると確信していたのだ。
貴族の新人が、平民出に押しつけずに率先して働くことなど薪割りを始めてからなかったことで、先輩達はなにが彼らをそんなに駆り立てるのかと首を傾げていたのだが。
「右足に重心を掛けすぎかな。もっと膝を柔らかく、腰を落とし気味に」
「はいっ!」
「別に剣技にこだわる必要はないですよ。相手が斃せれば、罠でも毒でも良いんです。一つ目の巨人なんかはまともにやり合うと大変ですが、遠距離から目を潰したり、足場の悪い岩場に誘い込むなどすると有利に戦えます。騎士は罠をつかってはならないなんて決まりは有りませんし」
「戦術を考えるの上の者の役割なので……」
「班単位での偵察時に遭遇したらそうも言っていられないでしょう」
「ううっ」
「この鉈、ずいぶん鈍っているので研いでおきますね」
「お前ら! 道具の手入れを怠るとは何ごとだ!」
「すみませーん!!」
騎士同士の試合を見て助言をしてくれたり、時には自身が試合の相手をしてくれたり。
戦術や怪物知識の重要さを説いたり、道具の手入れを手伝ったり。
惜しげもなく戦技の手本を見せてくれた時は、その辺に転がっていた小枝で大きい原木が粉砕されて全員からの拍手がとんだ。
一人一人に関わる時間は多くないものの、平民出貴族出分け隔てなく対応してくれる上に、剣のことに限らずいろいろ相談に乗ってくれるのだ。
そして適切な助言を与えられた若手が少しずつ腕を伸ばし始めているのを感じ、先輩達が焦るようになって騒ぎはますます広がっていったのである。
そんなある日、アーニーとオットーの試合を見ていたリョウが凄いなと呟いた。
「二人はかなりできるようだけど、受験は今年が初めてだったのかな」
「我々は今年で二十歳になります。十八、十九と受験して三度目の正直でした」
「それにしてはずいぶんと……ああ、筆記で落ちたとか」
「いえ、実技試験です。初回は二人とも一回戦負け、翌年も二回戦負けだったので」
えっ、と納得がいっていない様子のリョウに、弟と顔を見合わせたアーニーは持っていた旋棍を差し出して言った。
「初回はほとんど使った事のない剣で試合に出てこてんぱんにされました。我々は小さい頃からずっととっくみあいの喧嘩ばかりしていたもので、体術もどきなら少し自信があったのですが」
「二年目はその反省を生かして、手甲を用いた体術で挑んでみたんですがね。武器を相手にしたことがなかったため、上手く間合いも測れずにじり貧になりまして」
オットーも、右手の旋棍に目をやるとしみじみと呟いている。
「これでは来年も負けるだけだと頭を抱えていたところに、旅の武闘家が相談に乗ってくれたのです。その人に教えてもらったのが旋棍術でした」
「旅の武闘家?」
「はい。使い手の少ない旋棍術を広めるのが目的だそうで」
オットーの言うとおり旋棍術は他の剣術、槍術などに比べて歴史が浅く、使い手もかなり少ない。
古代魔法文明が起こるその前の、鋼の時代から体系化され、何千年も鍛え抜かれてきた剣術などとは異なり、今から千年ほど前に天才と呼ばれた一人の武闘家が編み出したものなのだ。
「もともと体術もどきだった我々と相性が良かったんでしょう。三ヶ月ほど基本をみっちりと教わり、あとはひたすら試合を行いました」
「なるほど。常に『合わせ』をしているようなものだったんだな」
常に拮抗した相手と切磋琢磨し続けたからこそかと納得したリョウは、二人に旋棍術を教えた武闘家というのが、かなり腕の立つ人だったのだろうと感じた。
彼らの戦い方はギルガメシュに教えた判断、予測、対応をすでに行っており、思考法と言う意味では十分なレベルに達していると思われる。
後は拮抗した一人相手だけではなく、上の者、下の者、別の武器、一対多など思考の幅を広げてやり、繰気技術を習得すれば相当な実力者になるだろう。
旋棍術には厄介な点が二つあるが、それを補って有り余る利点もあるので双子の選択も悪いものではないはずだ。
剣術と体術を使うリョウのように接触距離と近距離を選ばないのは大きいし、使い手の少ない武器と言うことは、相手にとって未知という優位を得られる確率も高いのだ。
逆に、第一騎士団は旋棍術を相手にしたときの経験を得ておけるというのも大きな貢献になるだろう。
「二人は旋棍術の短所を聞いてるかな」
「はい。内功と外功の両方を必要とするため二倍苦労するか、魔法騎士のように器用貧乏になると」
「それから魔法文明期の後に生まれた武術のため、魔法の武器など無いだろうと言われました。ま、我々の財布で買えるような物ではないでしょうから関係ないも同然です」
「分かっているのならいいかな。二人とも体幹はしっかりしているし柔軟性も高いから、兄弟同士―――同じ武器の相手だけじゃなく、他の人達ともたくさん試合をして経験を積む時期だと思う。繰気技術は時間をかけておいおいと」
「「なるほど!」」
「ただ、あのフェイントはすぐ通用しなくなると思うけど」
「「うっ!」」
あのフェイントとは、募集試験で二人が見せた切り札のことである。
全試合、いかにも戦技を使うふうに技名を叫びつつ、まったく無関係な攻撃で相手を翻弄して勝ち抜けたのだ。
試験中二人も戦技使いなのではと大勢の受験生に勘違いされたのは、フェイントが堂に入ったものだったのと、その前に実際に戦技を使ったリョウや鬼丸、ギルガメシュにダミアンの存在が大きかったはずだ。
ただ基礎能力が突出しているのは確かなので、ちゃんと戦っても勝ち抜けたであろうと考えたブライアンが二人を真っ先に指名したのだろう。
そこに鬼丸の炎へ自分から飛び込んだ判断力と反応速度が加わっていたのかは分からないが、この慧眼はさすがだなとリョウも思うのだ。
このまま第一騎士団で揉まれれば、数年で親衛騎士に相応しい腕になるだろう。
そう感じたリョウはブライアンに頼まれていた通り、見込みのある者として双子を報告することに決めた。
◇ ◇ ◇
その日の帰り道。
茜色に染まる街路を歩きながらオットーが言った。
「なあアーニー。イグザート様をどう思う?」
「俺は好きだぞ。強いし」
即答した兄が、お前は違うのかという視線を向けると、眉を動かした弟も頷いた。
「ちゃんと目を見て話を聞いてくれるところとか、身分を気にしないところとか尊敬している」
「そうだな。下の者が身分を気にしないのはただの不敬だが、上の者が気にしないと言うのは非常に接しやすい」
「強者と言うのはそれだけで人を惹きつけると思っていたが、そこに人柄が加わると最強だな」
「ああ、最強だ」
狂戦士に刃物という言葉があるが、何を考えているのか分からない人や精神的に不安定な人が強い力を持つだけで、怖いと思うのが弱者の思考である。
強い力と言えば聞こえは良いが、やすやすと他人を傷つけ、殺める事のできる危険な力のことなのだ。
だから、力を持つ者ほど理知的で人格者の方が良い。
そうでないと尊敬や憧憬よりも先に、恐怖や疑心を覚えてしまう。
まだ若いせいかも知れないが、明確な利害関係があったり腹案があって利用しようとするならまだしも、職場の上司して接しなければならないのなら、ああ言う人が良いと二人は思うのだ。
「アーニー、俺は新しい目標ができたぞ」
「奇遇だなオットー。俺もだ」
二人が騎士になると決めた理由は、いまでは定かではない。
おそらくいつもの喧嘩の際にどちらかが俺は騎士になると言い出して、じゃあ俺も騎士になると言った、売り言葉に買い言葉程度のはず。
成長するに従って花形公務員と言うことを知ったし、両親や姉、妹も心から喜んでくれたので合格は当然嬉しいのだが。
それを達成した今、なんとなく虚無感のようなものが胸に去来していたのも確かだった。
そこへ現れた衝撃が、彼らをまた闘争の日々へと追い立てる。
双子なのだから同じ思いを抱いたのは分かりきっていた。
だからガッ、と拳をぶつけ合った兄弟は、生涯最大のライバルに向けて勝利を予告する。
「今度こそ俺が先だ」
「いや、俺が先だ」
運動も勉強もご飯を食べる量も、女の子に振られた回数から父親にもらったげんこつの回数まで、二人にとってはすべてが戦いだ。
だが、同じ血肉を分けた双子だからこそ絶対に抜け駆けや卑怯な真似はしない。
正々堂々正面から戦って、自分の方が上だと証明するのが目的なのだから。
「起きろオットー! 今日は薪割りの日だぞ!」
「起きているともアーニー! さっさと終わらせてイグザート様に教えを請うぞ!」
毎週水の日の恒例となったやり取りは、残念ながらそう長くは続かない。
されど新しい目標に向かって邁進し続ける二人なら、いつかその手に大金星を掴み取ることだろう。




