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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第五節 期限つきの平和①

第五節は日常回&システム(世界観)説明

第六節から一気に話が動くため一休み期間です


7/22 誤字修正



 総歴一九九二年人間の月三十日、土の日。

 時刻は午前五時を数分回ったあたり。


 かすかな寝息が止まった次の瞬間、カッと目を見開いたラピスが跳ね起きた。

 実は寝たふりをしていただけなのではないかと思わせるほどの起床はむくり、とかむくっ、などではなく、がばりっが相応しいほどの勢いだ。


 ベッドから飛び降り、窓のない暗闇のなかでもぼんやりと光っているランプに明かりを灯すと、身体に異常が無いことを確かめるように大きく伸びを一つ。


「ん~~~っ」


 これはほやの一部が蓄光するランプで、前の晩に使っていれば翌昼ぐらいまで光り続けるため、窓のない部屋に住む者にとってありがたい品の一つだ。


 いまの時代では作れないのだが、魔法文明期の遺跡から蓄光ガラス製品はそれなりに発掘されるし、割れた物の再利用も可能なため、貴族であれば買えなくはない値段で流通している。


 それから彼女は脱がせやすい―――もとい、脱ぎやすい寝間着からメイド服に着替えると髪をとかし、身だしなみを整え、最後に白銀のカチューシャを頭に乗せた。


「よしっ」


 姿見の前で一回転し、お辞儀の角度を確かめ、最後に笑顔の練習。

 隣室に続く扉の前に立つと深呼吸を一つしてからノブに手をかけた。


「失礼します」


 十番目の人間の月の今、日の出にはまだ早いが東の窓から望める空は明るくなりはじめており、右手のランプが無くても部屋の中は見通せる。


 と、寝室に続く扉が開いているので、今日も出遅れたことを知ったラピスはがっくりと肩を落とした。


「また間に合わなかった……」


 行ってみればやはりご主人様の姿はなく、日課の早朝訓練に行ってしまったあとらしい。


 これで三連敗の彼女は―――リョウからは朝は起こしに来なくても平気だと言われていたが―――明日こそは、と堅く心に誓うと窓を開け放ち、掃除を始めることにした。



 ラピスがリョウの担当になってからすでに一週間以上が経っている。

 言葉通り彼の影となり、二十四時間完全役務を目指した彼女が最初に突き当たったのが早起き勝負の壁だった。


 もともとアトゥムの住人は六時を告げる鐘の音を合図に目覚めるもので、平民や下働きが寝床をでるのがこの時間。

 朝の用意をしているうちに六時半の鐘が一つ鳴り、七時を告げる七つの鐘で貴族などが起き出してくる。


 そこから着替えだの朝食だのとやって、公務や各種店舗、学級が始まる九時までは街路を行き交う人が非常に多くなり、十二の鐘が鳴るまでが午前の仕事時間、というのがよくある流れなのだが。


 リョウは早朝から七時前後までの訓練を日課としており、それに付き合おうと思ったら鐘の鳴らない時間に自力で目覚めなければならなかったのだ。


 町にある時計台のような大がかりな物は今の時計技師でも作れるが、壁掛けや懐中時計となるとすべて古代魔法文明の魔法の道具となってしまい、一介のメイドが手に入れられる物ではない。


 ましてや特定の時間に鳴るものとなると、金貨が何枚必要になるか想像もつかない世界になる。


 早朝訓練は自分の都合だからラピスが早起きする必要はないと言われはしたものの、ご主人様の朝の顔色や声の調子を確認し、体調に異常がないかを知るのも大切な役割だと信じている彼女は受け入れず、翌朝から早起き挑戦が始まった。


 リョウが来て三日目、早起き挑戦初日。

 前夜、夜遅くまで勉強していた彼にお茶汲みなどをしていたとは言え、六つの鐘で目覚めて愕然とする。


 二日目。

 緊張でなかなか寝付けず、やっぱり六時に目覚めて自己嫌悪。


 三日目。

 侍女長に相談してみたところ体内時計の訓練と気合いだと言われたので、時間を意識するように生活しつつ、寝る前に五時に起きると三十回唱えてみた。


 結果、五時半ごろに目が覚めたものの、部屋はすでにもぬけの殻で。


 四日目。

 禁断の徹夜作戦で起き出してきたご主人様を出迎えたものの、寝ていても隣室の気配ぐらい感じられる彼に咎められてしまい、そんな目的の徹夜は二度としないようにと約束させられてしまう。


 五日目。

 前日の徹夜がたたって六時起き。


 六日目。

 これまでの経験から体内時計の訓練と自己暗示が効果的と思われたので五十回唱えて寝たところ、五時すぎに起きられたのだが。

 急いで着替えて部屋を出るとやはり出かけた後で、空っぽの寝室を前に悔し涙をこらえる必要があった。


 そして今朝。

 五時ちょうどぐらいに目覚めたというのに間に合わなかった彼女は、睡眠不足気味もあって少々落ち込んでしまう。


(三年ぐらい前に時計塔が故障して、夜中も鐘が鳴ったことかあったはず。どこかをいじれば早朝も鳴るようにできるんじゃないかしら)


 こうなったら二十時から翌朝六時までは鳴らない時計塔に鳴ってもらうしか、などと考えていたら、自室に姉がやってきて仕事の調子はどうかと言った。


「おはようラピス、仕事はどう?」

「おはようございます、姉さん。……芳しくありません」


「侍女長に聞いたわよー? 早朝訓練を見送りたいんだって?」

「おはようございますからお休みなさいませまで、ご主人様の暮らしを見つめるのが役目ですから」


「でも、例外もあると思うんだけど」

「イグザート様がそのような生活をされているのに、私がしないわけにはいきません」


 ラピスの隣、ベッドにぽすんと腰掛けたガーネットは、それは貴族向けの話であって例外はあるんじゃないかと言ったのだが。

 生真面目な妹は主人の生活習慣に合わせられてこそのメイドだと譲ろうとしない。


「でも寝不足で体調を崩したり、お仕事の質が低下したら本末転倒だと思うな」

「……………」


 眉をしかめる妹が苦悩しているので、ぽんぽんと頭をなでてやった姉は一つ助言をすることにした。


「だったら、睡眠の質を上げるしかないわね」

「睡眠の質?」

 

「施設で習ったでしょ? ご主人様快眠のためにできること。あれを自分にもやって、ちゃんと休息をとることが重要じゃないかしら?」

「姉さん……!」


「まずは日中の仮眠、それから寝具の見直しね。ただでさえあなた、枕が変わると眠れないんだから。お付きになって引っ越したこの部屋のベッドが合ってないとかあるんじゃない」

「そうですね、やってみます!」


 気合いを入れるラピスを見て、可愛い妹だと鼻が膨らむガーネットも実は少々家族愛を拗らせている部分があった。


 邪竜襲撃で両親を失い、辛うじて生き残った二人きりの家族なのだから仕方がないと言え、妹に害をなすなら親衛騎士相手でも逆らうくらいに溺愛していたりする。


 お付きに選ばれた時は、大切な妹を冒険者上がりにつけるなんてなんてとんでもないと警戒していたのだが、いざ蓋を開けてみればイグザート様は優しそうな少年で、ラピスから紹介された時もその腰の低さに驚いたのを覚えている。


(うちのご主人様も、口を開けばリョウがリョウはリョウならだしねぇ……)

「……ね、姉さん」


 まるで崇拝ねと呟いたガーネットが我に返ると、無意識のうちに両手でなで回していたらしく、瑠璃色の髪がぼさぼさになってしまっていた。


「ああっ、ごめんごめん!」

「もう……」


 すぐに鏡台から櫛を取ってきて、むくれている妹の前に立ち髪をとかしてやっていると、そう言えばと呟いたラピスが上目遣いに聞いてくる。


「姉さんの方はどうですか?」

「んー、ほとんど想像通りかな。研修でマダムのお屋敷に行ったときと変わらないかも。羨ましい?」


「いいえ、私はイグザート様に付けていただいて良かったと思います」

「ま、村に居たようなど三流の冒険者とは正反対みたいだしね。第一騎士団の人にも、もう何人か仲良くなった人がいるそうよ」


「そうなのですか?」

「うん。例の早朝訓練にときどき第一の騎士が混じっているって」


 驚いて立ち上がろうとする頭を、やんわりと抑えたガーネットは苦笑しながら髪をとかし続ける。


「……知りませんでした」

「あなた、イグザート様ばっかりで総務や休憩室にぜんぜん顔出さないんだもの」


 メイドの情報網を甘く見たらだめよ、と櫛を置いた姉は最後にカチューシャを付けてやって、はいできたと妹の肩に両手を置いた。


「いくつかの派閥が情報集めに躍起になっているって言うし、もう少し城内の噂に耳を傾けておいたほうがいいわよ?」


 まだ授爵もしていないリョウであったが、親衛騎士団に入ったことやフォレスト子爵令息のギルガメシュと仲が良いことから、やはりブルーシップ伯爵の派閥に入るのではないかと思われているそうだ。


 魔法の武具で全身を固めているのは見て分かるため、大層な資産家の息子ではないかとの見方が大半を締めており、金ではなびかないだろうとも考えられている。


 そのため妙齢の娘を持つ貴族の多くが目を光らせており、とりわけ懐状況が寒い家の令嬢達に、色仕掛けでも何でも良いからものにしろという指示も出始めているとか。


 げに恐ろしきはメイド達の情報網であるが、やはり主人につかず離れずお世話をしているといろいろと目にしたり耳にしてしまうものであるし、買い物に行った店先で知り合いのメイドに出くわすと、情報交換と言う名の雑談が始まってしまうのだ。


 闇に潜み、裏から町の治安に協力したり、情報を集めたりすることもある盗賊ギルドも彼女たちの情報網には一目置いており、城内にも専門で彼らと接触しているメイドがいると噂されている。


「そうですね、うかつでした。時間を作ってちゃんと顔を出すようにします」


 そんなメイド情報網に乗ってくる親衛騎士見習いイグザート様の評判は、今のところ決して悪くない。


 訓練を見てもらった騎士や重い荷物の運搬を手伝ってもらった執事達が、口を揃えてひじょうに気さくで話しやすく、貴族風ではないと証言しているのがその理由の一つだろう。


 また嫌われ者のマッセ親子の鼻っ柱をへし折ったこと、募集試験でも断トツだったこと、初登城時の中庭の堂々たる挨拶といった実績もあることから、今後の親衛騎士としての働きぶり次第ではその評価はますます高まるに違いない。


 貴族視点からすれば下の者と気軽に付き合うなどふしだらだとか、敵対と言うと言葉が過ぎるが、友好的ではない派閥に入られた時の影響などもあって要注意人物なのかも知れないが。

 少なくとも彼は、城内の平民には好意的に受け止められつつあったのである。


 ちなみにガーネットが仕えるもう一人は、さすがフォレスト団長の息子だとか、出来損ないとか期待はずれという前評判はマッセ家が流した風説だったのではないかと言われている。


 父であるブライアンの好感度と募集試験でダミアンに勝利した実績により、前評判を覆して見直されている最中といったところだろうか。


「さて、六つ半も鳴ったし私も仕事に戻らないと。ラピス、何かあったらすぐに相談するのよ?」

「ありがとうございます、姉さん」


 頷いた妹の表情から硬さがとれたので、これで大丈夫かなと頷いたガーネットはそれで向かいの部屋に戻っていった。

 ベッドから立ち上がったラピスもそろそろ七時になるので着替えを届けに行く事にし、扉に鍵を掛けて一階へと向かう。


「仮眠と快眠。……もしかしてリョウ様がベッドを使われないのも、その辺りに関係するのかしら?」


 自慢ではないが彼のベッドはいつもふかふか、シーツも毎日変えているし、枕には安眠効果があると言うラベンダーの精油とポプリを忍ばせてある。


 心地よい睡眠を取って欲しくて丹精をこめているが、逆に寝坊を誘発させると危惧されているのかも知れないと思ったラピスは、一度ご主人様とちゃんと話し合ってみることにした。



         ◇   ◇   ◇



 月が変わって十一番目の月が訪れ、神竜の月の二日。

 つまりラピスが挑戦を始めてから十日目の朝になる。


 いつも通り起き出したリョウが寝室を出ると、居間に満面に笑みを浮かべたラピスが立っていた。


「おはようございます、リョウ様!」

「おはよう、ラピス」


 自分とほぼ同時に起き出してばたばたとやっていたので、今日は起きられたんだなと思った彼は、いつもは隙のないラピスの髪が乱れているのを見つけてつい吹き出してしまう。


「ははは。ラピス、ここ。寝癖が残ってる」

「きゃっ!?」


 今日なら間に合うかも、と姿見の前の最終確認を省略して飛び出してきた彼女は真っ赤になると、何度か手櫛で髪を整えてからずっと言いたかった台詞を口にした。


「午前のご予定は七時まで訓練、七時からご入浴、八時からお食事、九時から正午までご公務、でよろしかったでしょうか」

「うん、それで合ってる」


「かしこまりました。では風呂焚きの者に伝えておきます」

「よろしく。俺は裏庭か鍛錬の間にいるから何かあったら呼びに来てくれ」


「行ってらっしゃいませ」


 廊下の十字路までついていき、深々と頭を下げて階段を下っていく主人を見送った。

 それから部屋に戻ったラピスはまず姿見の前に立ち、ぴょんと跳ねている髪を見てため息を一つ。


「これさえ無ければ完璧だったのに……」


 けれど、一歩一歩理想には近づいている。

 ご主人様の研鑽を怠らない姿勢、規則正しい生活をとても尊敬している彼女は、自分もかくありたいと決意を新たにして今日も仕事に励むのだった。


次回は下町の双子回予定(´・ω・`)

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