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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第四節 王城へ③

「それは命令ですか?」


 自分に向けられる四対の眼光を緩やかに受け流しながら、おいおいと呟いたリョウが真意を問いただすと。


 部下の修行になる―――親衛騎士としてもっとも要求される強さを高めるためなら、何でも使う主義のギルモアは至って本気です、と繰り返した。

 

「もちろんです。あなたがどれだけの実力者かを知らしめる事は、いざ共通の敵と戦う際の連携にも関係してきます。戦技も使用して構いませんので五秒以内。出来ますね?」


「分かりました」


 その有り様に少し父の姿を重ねたリョウは、逆らっても無駄だと思ったので先輩方すみませんと思いつつ頷いたのだが。


 共生スライムを炙るようなものですと言われたも同然の四人の視線がますます厳しくなっており、ギルガメシュの居心地は最悪なことこの上ない。


(おいリョウ! 皆さん怒ってるぞー!?)



 ―――ちなみに共生スライムというのは攻撃性が皆無であり、その辺に落ちているゴミや動物の糞や死骸、枯れ葉などを食べて生きていけるスライム種のことで、松明の火で炙ればすぐに死んでしまう程度の怪物のことだ。


 スライム類は環境や食べ物への適応能力が非常に高く、流白銀を食べて液体金属のようになった種もあれば、非常に攻撃的で魔術を使うようになった種、迷宮で罠のように息を潜めて通りがかったものを捕食する種などもいるという。


 その中で、人の生活に寄り添って安全かつ手軽に栄養を得ようと変化したものが共生スライム種だと言われている。


 謳い手などはずいぶん賢い奴らだと思うのだが、スライムに知能があるかどうかは、学者達が長年に渡って議論と研究を繰り返しているものの結論は出ていないらしい。


 なお、スライムの生態だけで分厚い本が何冊も書けるそうで、ドラゴンとともにうかつに口にしてはならない怪物にあげられる。

 もしも会話を専門学者が聞きつけたなら、軽く一晩持って行かれるうんちく話が始まるからだそうだ。



 どうやら四人とも苛ついているようだし、自分の手の内はまったく見せていないので、初見ならできるだろうと考えたリョウはギルガメシュの試合を事細かに思い返していた。


(……ギルとの試合を見てしまったしな)


 数分かけて身体を温める合間に、長剣、単槍、格闘、刀持ちの士位と、二刀流の匠位を想定した脳内模擬戦を繰り返す。


 やがて初戦のアーレニウスとどう戦うかで、第二戦のフォートがどのような反応をするか、さらにはその結果をもとにアントンや桜花がどうでるかのあたりも大体つけられた。


「お待たせしました」


(僕が手も足も出なかった人達を相手に、君が五秒でどうするのか見せてもらう!)


 背中の両手剣バスタード・ソードを抜いたリョウがゆっくり試合場に上がり、ギルガメシュは彼の戦いぶりをしっかり覚えようと呼吸を整えて集中を高める。


「良いですか? 始めますよ?」

「桜花、降りてろ」


 向かい合った二人に確認して試合開始を告げようとした桜花に、アーレニウスが危ないから下がるよう言った。


「制限時間は九十秒、完全装備、全戦技解禁、降参宣言や意識を失う、負傷による審判の停止判断、また武器を失ったり武舞台から落ちた時点で負けとします! 開始位置は自由、三秒後より試合開始! 二! 一!」


(大抜擢クンがどんだけか知らねぇけどよ、親衛騎士をなめんじゃねーぞ!!)


 死んだらその程度だったってことよ、と魔剣を握る右手と下半身に気を集めたアーレニウスは開始の声とともに猛然と突進し、間合いに入るなり刹那の五回攻撃を叩きつけた。


「うおおおおおっ!!」


 五段斬り。

 二段斬りから派生していく多段攻撃は四段を超えれば士技、八段を超えれば匠技となり、一段一段の威力は下がるものの、一行動単位の総攻撃力を格段に跳ね上げるアーレニウスの得意技だ。


 ザザザザザンと縦横に駆け抜けた五つの剣閃はリョウを捕らえた、かに見えたが。

 手応えがなく、残像だと気づいたときには死角から剣を突きつけられていた。


「それまで!」

「マジかよ………」


「速度自慢も良いですが、相手が自分を上回っていた時のことを考えないのはどうかと思います。アーレニウス君より早い人も怪物も世の中にはごまんと居るのですから」


 自分の言いたい事を体現してくれた、と満足げなギルモアの忠告に、今のアーレニウスは反論できない。


(とんでもなく速い。気をつけろ)

(ああ、分かってる)


 悔しくて拳を震わせながらの囁きに頷いたフォートは、取りあえず待ちだなと試合開始早々に防御体勢を取った。


「―――始めっ!」

「要は懐に入らせなきゃ良いんだろ!」


 が、予想していたリョウは剣に大量の気を流し込みながら、操魔技術によって剣の魔力を励起させている。


 ビュゴウッと突風が吹き付けるような音がしたときにはもう剣の周りが歪むほどの空気が圧縮されており、フォートが防御態勢を取り終えるのとほぼ同時に解き放たれた。


烈風剣れっぷうけん!」

「は!?」


 試験で放った渦旋斬かせんざんが渦なら、烈風剣は扇形に広がる巨大な壁だ。


 ほとんど溜めなしで範囲攻撃を放たれては逃げ場などなく、淡緑色に光る風のあまりの風圧に吹き飛ばされたフォートはそのまま鍛錬の間の壁に叩きつけられてしまう。

 士技とはいえ手加減はしてあったらしく、大きなダメージを受けずに済んだものの、場外に出てしまったので負けとなった。


「くっそおおお!!!」

「言いましたよね? 戦技使い同士では、武器による近距離以上の間合い差など無きに等しいと」


 戦技の攻撃は距離、範囲、角度、速度、威力、効果とどれを取っても千差万別。

 単純な武器同士の戦闘では一歩抜きんでているフォートだが、戦技使い相手の経験が圧倒的に不足している、とギルモアが補足する。


「新人に良いようにあしらわれて情けないぞ! ワッハッハッハ!」


「うるせー」

「思いっきり油断していたからな」


 続いて、上半身裸のままのアントンが手甲を打ち鳴らしながら台上にあがったのだが。


(とっつぁんも負けちまえ)

(鬱陶しいから負けちまえ)


 もし彼だけ勝つと非常に面倒くさいことになるのが分かり切っていたので、この時ばかりは先行の二人も仲間の敗退を心から願った。


「―――始めっ!」

「近距離以上が得意なら! 格闘の間合いで戦えば良い事!」


 そんな二人の期待を背負ったアントンは武器相手にも一歩も退かぬと、体つきに似合わぬ軽快さで間合いを詰める。


(剣技を使う暇はあたえぬ! 一撃目を手甲で弾き、一気に懐へ―――)


 そのまま組み技に持って行こうと考えた彼は、武器が振れない接触距離ならたとえ剣匠相手でも勝つ自信があると左腕を盾のように突き出して攻撃にそなえた。


(ん!? リョウは体術も出来るんじゃ―――)


 ギルガメシュが思い出した時にはもう、攻撃する素振りを見せないリョウに掴みかかっていたのだが。


 右手の剣の柄でアントンの左腕を跳ね上げた彼は、右腕に掴まれないよう左足を退いて半身を引いている。


 それがただの回避と高をくくったのがまずかった。

 流れるように残された右足に軸足をひっかけられ、左手でベルトを掴まれてしまったのである。


「むおっ!?」


 次の瞬間、ポイッと音がしそうなぐらい軽々と巨体が舞った。


「は!? 体術も使えんのかよ! しかもとっつぁんよりキレそうだぞ、おいっ!」

「冗談じゃねぇ! 戦技無しでもあのスピードで懐に入られたらどうしようもねえぞ!」


「接触距離は体術、近、中距離は剣術、遠距離は戦技で来られちゃ、超遠距離からの弓や魔法ぐらいしか太刀打ち出来ないじゃないですか!」


 アントンが猫のように身を捻って場外に着地する間に、アーレニウス達から悲鳴が上がる。


「無念ッ! まさか剣術に加え、体術もこなせるとは……」

「そう。武器を使う相手の懐は体術の得意距離。しかし、相手が体術も使えたら?」


 自分の得意な距離で戦うのは戦術の基本。

 しかし世の中には剣と魔法、剣と拳など、二技術使いはごまんといる。


 体術に固執して他の技術に目もくれようとしないアントン君には良い薬ですね、と気まずそうに歩く彼を見れば、待ち構えていた負け組に冷たく迎えられてさめざめと涙を流していた。


「とっつぁんよー? 『新人に良いようにあしらわれて』……なんだっけー?」

「アントンさんよ? 大きな事言った割にゃぁ、自爆に近かったな?」


「くうっ! このアントン=L=シタデル、一生の不覚である!」


 続いて四人目の桜花が試合場に上がったのだが。


「お願いします」

「よろしくお願いします」


 これまでの三戦で相手が自分より強いと思い知らされ、打つ手のない彼女が迷っていると、リョウも覇気を薄れさせて困った表情でいる。


(速度、力、技、どれも私の方が劣ってる。こういう場合、どうしたら良いのかな)

(女性相手は嫌だな……)


(おや、リョウ君も青いですね)


 フォレスト子爵夫人の心配も分かる気がします、とギルモアは笑みを漏らした。

 しかし、それはおそらく杞憂だとも思うのだ。


 戦うことは苦手でも忌避するわけではないと言うことは、最後の線引きは明確であり、必要であれば女性でも手にかける覚悟があると言うことだろう。


 そういう、譲れない線を持っている者は簡単に色仕掛けに引っかかったりはしない。

 ―――英雄色を好むではないが、好色でない限りは、であるが。


「じゃあ、リョウ対桜花なー? 条件はこれまでと同じ。開始までよーん、さーん、にー」

(ままよ!)


 後手は対応しきれず、単純な斬撃などすぐに見切られるに違いない。

 そう判断した桜花が鋼牙こうがの構えを取った瞬間、三歩程度の間合いで立ち止まったリョウが自分と寸ぷん違わぬ構えを取った。


(同技返し!? いけない、私が不利―――)


 完全に見切られている上に、武器と腕の長さも、素早さも負けているとなると一方的にカウンターを食らうことになる。

 慌てて構えを解いた桜花は斜め後ろに跳び退って間合いを開けようとしたのだが。


「始め!」

鋼牙こうが―――なんちゃって」


 開始の合図と共に突きかかってきた彼は、桜花の横を通り過ぎて裏に回ると剣の腹で尻をペチンと打ったのだ。


「きゃんっ!?」


 痛みではなく、恥ずかしさに悲鳴を上げて勝負あり。

 贔屓はいけませんねぇと苦笑いのギルモアの補足も、顔を真っ赤にした彼女はあまり聞いていない様子だ。


「あー、その。桜花さんは戦技に頼りがちなところがあり、しかも出かかりにまだ隙が多いって事ですね」

「う~~~っ」


 納得いかない様子の桜花が覚えていなさい、と尻をさすりながら試合場を降りると、まだ笑っているギルモアが入れ替わりに上がってきた。


「さて。最後は私ですね」

「五秒と言うのは勘弁してくださいね」


 まるで感情のない殺戮者と相対したかのような、冷たい殺気を感じたリョウは再度自分の中の集中を入れ替えながら無茶ぶりは終わりですよと言ったのだが。


「ふふふ。これが試合ではない単純な戦闘でかつ、リョウ君が全ての手札を見せたなら。私もどれだけ立っていられるか分かりませんよ?」


 やろうと思えば出来るのではありませんか、と見せていない一枚の確信は得ている団長に、彼は手を挙げてやりませんとはっきり否定した。


「いえ、何の事か分かりません」


(ん?リョウは剣術と体術の他にまだなにか技術があるのか?)


 やり取りを聞いていたギルガメシュは三つ目があるのか、あるとしたらそれはどんな技術かと興味を覚えたのだが、桜花の合図で試合が始まってしまったので、まずは見学だと試合場に視線を向ける。


「―――始めっ!」


(ふふふ。私の目は間違っていなかったようですね)


 楽しくて仕方が無い様子で全身に力を込めたギルモアは、向かい合うこの少年が途轍もない強敵だと分かっていた。


 巧みに押し隠しているが、超一流の戦士だけが纏うオーラのような物を彼は持っている。


 ギルモア自身、他の四人にあそこまであっさりと試合で勝利する自信がないのだ。

 彼らが新人を見くびっていた分を差し引いても、五秒でやろうと思えば致命傷ないし深手を負わせる事になるだろう。


 剣の腕、今まで積んできた経験。

 年齢はギルモアの方が二十程上であったが、どちらもおそらく負けている。


 それは平穏な国の騎士団長と、常に戦いに身を置く山野の冒険者としてもかけ離れすぎている。

 一体彼は、今までどのような訓練を積み、戦いに身を投じてきたのか。


 思わず口にして尋ねたい所ではあったが、せっかくこうして向かい合っているのだから剣で語る事にした。


「ムゥン!」


 鋭く飛び込んでからの、叩き付けるような一撃。

 ズゴンッ、と試合場の敷石をめり込ませる程の斬撃はしかし、すでにその場を離れて右に回り込んでいたリョウにはかすりもしない。


 反撃に繰り出された片手での薙ぎ払いは、速度重視の一撃と思いきや、ギルモアはそれを二刀で受け止める必要があった。


「く! 何と重い!」


 ぎりぎり受けきれるだけの速度と威力。

 試合用の自分が見切られている。


 その事実はギルモアには楽しくもあり、プライドを傷つけられる事でもあった。


「リョウ君。戦技は―――無しにしましょう」

「分かりました」


 思わず戦闘用の力を出しそうになり、自分が異常なほど昂ぶっている事を自覚した彼はそう自らを戒めて剣を握り直す。

 頷いたリョウも剣を握り直したのだが、不意に小さく二度、飛び跳ねて集中を高めると凄まじい速度で斬りかかった。


「っく!」


 何とか反応したギルモアは右へ跳んだのだが、その方向に追撃があって足を止め防御せざるを得ない。


 このままでは防戦一方と牽制の蹴りを放ち、間合いを開けて流れを断ち切ろうとしたのだが、リョウはその先を制して回り込み、どんどん攻撃を仕掛けてくる。


「くっ! こ、この小僧が……」


 五度、六度と攻撃を受け止め、弾いて距離を取ろうと必死になったが。

 その都度、先を読まれては厳しい角度からの攻撃に舌を巻く羽目になり、やっと相手が間合いを開けてくれた所で戦士の本能がギルモアを突き動かした。


「……リョウ」

「はい」


「本気で行く。ぶち殺されない様に覚悟しろ!」

「はい!」


 大きく息を吐き、試合用の自分から戦闘用の自分に切り替えるとリョウも呼吸を合わせてレベルを変える。


「ぎゃあっ! 団長の裏が出た!」

「うわあっ! やっぱり怖い人だったんだ!」


 アーレニウスとギルガメシュの悲鳴と同時、雄叫びを上げたギルモアが動いた。

 二振りの剣が魔法のオーラを輝かせ、光の尾を引きながらリョウに斬りかかる。


「ウォォォォ!!!」

「ハアアアッ!!!」


 迎え撃つリョウの両手剣バスタード・ソードも光を湛えながら試合場の上を駆け、ガギン、とぶつかって広い部屋を照らし出す程の火花を散らせた。


 受け損ねれば肉を易々と切り裂き、頭をたたき割るのに十分な攻撃が五度、十度とぶつかりあって台上のあちこちでパッ、パッと火花が散る。


 二刀流による高い攻撃密度をしかし、リョウは弾き、かわし、受け、ギルモアの手元が狂うような反撃で去なし続けた。


「すげー……うちの団長ってこんな強かったんだなー?」

「それに対等以上のリョウもバケモンだ……」


 ある時、片手だけで両手剣バスタード・ソードを操り続けていたリョウの両手が柄にかかった瞬間、ギルモアは左右の魔剣を十字に構えて全力防御態勢を取ったのだが。


 受けられないとの直感により回避に切り替えた彼が、直前まで立っていた場所に鋭い斬りおろしが放たれて、ビッと敷石に線が走る。


「何という剣圧! それを可能とする肉体! 素晴らしい筋肉である!」

(でも、なんだろう? 団長の剣は冷たい。けれどリョウ君の剣はむしろ、温かい―――)


 アーレニウスも、フォートも、アントンも、桜花も。

 常人にはとても再現不可能な、目で追うのも苦労する程の二人の戦いにじっと見入っている。


 一方、試合中のギルモアは戦技を禁止した事にほっとしていた。

 もし戦技を使ったのなら自分の攻撃はあっさりと見切られ、逆にリョウの戦技で致命傷を負いそうな気がしたのだ。


(こりゃ参った。俺は全力だってのに小僧の涼しい顔はどうだ。試合を楽しんでやがるんだぜ、こいつ)


 それにしてもこの少年は強すぎる。

 認可を受けていないだけの、実質匠位の自分より確実に上なのは間違いない。


 何度目か分からない思いを感じ、そしてギルモアは不意に動きを止めた。


「んー、これは私の負けですねぇ」


「ええっ!?」

「ギル、よく見ろー? 団長は息切れしてるが、リョウは汗を滲ませているだけだぞ」


「うむ。体術を身につけているのでよもやと思ったが、内功も随分と積んでいる様子」

「内功?」


 そう言えば修行の時にリョウが何か言っていたな、とギルガメシュが納得している様子の四人を見回すと、頷いた桜花が解説をしてくれた。


「剣術や槍術のように武器を使って行う戦技には繰気技術のうち、外への出力が中心となる外気功が必要です。体術にはその逆の内気功が必要になるの、自分の肉体を強化して戦うから」


「内功とも言うがそれに長けると体力、持久力、回復力などが格段に向上するのである。外功による底上げとは桁が違うのであーる」


「それにしてもリョウ君。二技術使いとは言え、どれもかなりの腕前の様子。どれだけ修行と経験を積んできたのですか」

「親父が厳しい人でしたし、冒険者も体力が勝負でしたから」


 私も歳ですかねぇと剣を収めたギルモアは、剣神ハスラムと剣聖ウェンダートの戦いは、剣術と体術を身につけているハスラムが、剣術のみのウェンダートを圧倒したといううわさ話を思い出していた。


(良い師に巡り会うと言うのは人生の財産ですね。ギュメレリーにも剣術指南役が欲しかったのですが、リョウ君がそれを十二分に担ってくれるでしょう)


 腕は立つのだが、人に教えるのが苦手なギルモアは本当に良い人材が手に入りましたと終わりを告げ、ありがとうございましたと頭を下げたリョウが試合場を降りると、呆れたギルガメシュがやってきて遠慮無しに呟いた。


「リョウ。君が負ける所を見てみたい、と思うのは罰当たりだろうか」

「ギルー? 『見てみたい』じゃなくて、『自分が負かせてやる』ぐらいの意気込みじゃないと、離されるばっかりだぞー?」


「まったく、親衛騎士の面目丸つぶれであるっ!」

「今度は私達がリョウ君に挑戦する番ね。覚悟してもらわなきゃ」


「もうちょっと手加減してくれても良かったんじゃないか」

「文句は団長に言ってください」


 常人離れした戦力を有しながらもすでに輪の中心になりつつあるのは、ここが力が最優先の場だからだろうか。

 それとも、その穏やかな雰囲気の成せるわざか。


「皆さんはしばらくの間、二人に王族警護以外の業務について教えてあげてくださいね。これで終わりにしますが、午後の立ち番は誰ですか?」

「引き続き我が輩とフォートであります」


 アントンに頷いたギルモアは、お疲れ様でしたと先に鍛錬の間を出た。


(史上、名のある者の殆どが冒険者出身なのも分かる気がしますね。世界は広い、城に閉じこもる我々には想像もつかない経験が彼を育てたのでしょう)


 ふと外の世界に思いを馳せて外に目をやると、空を往く渡り鳥の群れが目に入る。


(大空を知る渡り鳥は、果たして籠の中で満足できるんでしょうか?)


 あるいは停滞した空気に吹き込んできた一陣の風か。


 良くいる冒険者のように公的な後ろ盾がほしいだとか、最終的には国の重鎮になり、貴族として安泰に暮らしたいとかいう目的があればいいのだが。


 居心地が悪いとすぐ居なくなってしまいそうですねと考えたギルモアは、盟友であり、幼なじみでもあるブライアンと彼の取り扱いについて相談しておくことにした。

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