第四節 王城へ②
シリルと名乗った少女の説明通りに城内を進むと、確かに親衛騎士団の集会所が見つかった。
「ついた! シリルさんのおかげだな!」
「そうだな」
身なりからして貴族だろうか、シリル嬢と呼ばなくて大丈夫だろうかなどとリイナのことを思い出しながら重厚な扉の前に立ったリョウは、気合いの入った表情でギルガメシュに頷くとやや強めにノックして中に踏み込んでいく。
「失礼します! ブルーシップ伯爵はいらっしゃいますか?」
思ったよりもかなり広かった集会所には一人ずつの男女がおり、リョウが女性がいるのかと眉を動かしたところで雑談が止んだ。
「んー? ナニよお前らー?」
「朝礼で団長が仰ったでしょう。昨日の採用試験から二人、親衛騎士に抜擢することにしましたって」
まだ若い二人の胸に記章があるのを確認した女性が言うと、まじめに聞いていなかった男性はあー、なんか言ってたなと耳をほじっている。
「リョウと言います。これからよろしくお願いします」
「ギルガメシュです!」
二人が敬礼するのと同時に町の時計塔が十時の鐘を鳴りひびかせた。
どうやら初日から遅刻の失態は犯さずに済んだ、と安堵したところで奧の扉からギルモアが入ってくる。
「おはようございます、手の空いている者は揃っているようですね」
「おはよーございまーす」
「おはようございます」
それまで座っていた二人が立ち上がって敬礼したのでギルガメシュとリョウもそれに倣っていると、二人を中央まで招いたギルモアが肩に手を置いて団員達を見回した。
「二人ともいるようなので早速紹介しましょう、夕べ話した、今日から我ら親衛騎士団の一員となる二人です。こちらの少年がギルガメシュ君。第一のフォレスト子爵の息子さんです」
「ギルガメシュ=V=フォレストです! ギルと呼んでください! 今日からよろしくお願いします!」
二人に頭を下げたギルガメシュだが、皆が興味深げに見ているのが自分ではなく隣のリョウだと分かっていた。
緊張ににた空気がこの部屋を満たしており、その流れの中心が彼だと感じられたのだ。
「それからこちらが元冒険者のリョウ君」
「リョウ=D=イグザートです。至らぬ所もありますが、どうぞよろしくお願いします」
同じく頭を下げるリョウは、自分に向けられる様々な意味を込めた視線を泰然と受け止めている。
その物怖じしない態度を見て頼もしそうに頷いたギルモアは内心、戦いについては彼から教わる事になるでしょうねと思いつつも他の団員達に自己紹介をするよう促した。
「二人とも十七歳にして素晴らしい腕前です。皆さん、色々教えてあげてくださいね。では、アーレニウス君から自己紹介しましょうか」
「アーレニウス=キンディ、二十三歳だ。アルでいいぜー?」
語尾を伸ばし、妙な抑揚を付けながら言ったのはだいぶ軽薄そうな色男だった。
長い銀髪を頭の後ろで縛っていて、顔の作りは良いのだが雰囲気が軽いというか、口元が緩いというか、やんちゃな少年がそのまま大人になったような雰囲気である。
速度重視の戦い方なのだろうか、硬革鎧を基本とした一式に胸部鎧を重ねており、身体の線が細いせいもあってか腰の長剣がよく似合っていた。
「団の中じゃ唯一の平民上がりでよ。家名も授爵に合わせて適当につけただけだし、礼儀正しいのは性に合わねぇからざっくばらんにいこうぜー?」
人は悪くなさそうだが、まだ悪ガキが抜けきっていない様子のアーレニウスはもう一度よろしくなと片目を瞑ってから隣の女性に手を振った。
「桜花=葛葉です。えーっと、その、侍みたいな感じで……二十歳です」
唯一の女性団員である桜花は三神風の名だが、先祖が三神国から移民してきたギュメレリー生まれである。
リョウのような濡烏ではないが、やや青みがかった綺麗な青墨の長髪をポニーテールにまとめており、顔つきも三神人に近い。
腰に刀を吊してはいるが、板金鎧を装備しており重装侍といった様相だ。
「えっ? 女性が騎士ですか?」
「桜花君は特例中の特例でしてね、それはそれはいろいろ苦労してここに居るのですよ。腕の方は保証します」
聖騎士のような契約職や、魔法騎士のような技能職とは異なり、生き方として女性が国に認められた騎士になるなど滅多にない。
僻地など絶対的に戦力不足でやむを得ずという場合や、貴族の護衛や決闘代理人として腕の立つ冒険者が雇われるのとはわけが違う。
公的な女性騎士の前例を探そうと思ったら各国の歴史書を紐解く必要があるほどだ。
先に述べたとおり男には男の、女には女の役目があると思われているなかでも、特にその壁が厚い部分なのにとリョウが驚いていると、ギルモアがそこらの男よりよほど腕は立ちますよと言った。
「そう言えば何年か前に父上が話していた。男装したり、城の前に座り込みをしてまで騎士募集試験に潜り込もうとした女性がいたと」
「……その話はしないでくれますか」
恥ずかしそうにぽそりと言った桜花が斬りますよ、と柄に手をかけているので、ギルモアは話題を変えようとここには居ない二人の名を告げる。
「他には現在謁見の間で立ち番をしているアントン君と、王族区画の立ち番をしているフォート君の二人がいます。アントン君は体術を使う武闘家で、フォート君は槍戦士ですね。そして団長を任されている私と、君たち二人を加えた七人が一角獣騎士団の団員というわけです」
「そうか、今まで親衛騎士は五人しかいなかったんですね。六年前の邪竜襲撃のせいで」
暗黒竜の呪いに捕らわれ、闇に身を堕とした竜は邪竜と呼ばれるのだが、生きとし生けるものを憎み、引きよせられるように人里を襲う。
大陸法でも邪竜出現時の対応がいくつか定められている通り前例は多く、ギュメレリーでは十年前と六年前に国内で発生しており、六年前はアトゥムからすぐ近くが戦場となったのだ。
そのときに十三名いた親衛騎士の半数以上が命を落としており、今もまだそのときの人数まで戻っていないのである。
「人手不足は否めませんが、騎士団が頑張ってくれていますし、慌てて採用しても質が心配ですから。そこへ期待の新人が二人も入ったのは大変喜ばしいことなのですよ」
(丁寧に集めていると言うだけあって、アルさんと桜花さんを見ても一騎当千の強者だ。おそらく士位以上は確実だろう。装備も魔法の付加されたものが多いし、ギュメレリー王国に一角獣騎士団あり、と言われるだけのことはある)
大陸東部随一との評判に偽りなしだ、と感心したリョウは改めて彼らの装備を見回し、傷の付き具合や摩耗している箇所などを確認してどのような戦い方をするのかの予想を始めていた。
それは別に対戦を想定してのことではない、共闘時の連携のための思考であったのだが。
「さあ! これで二人も晴れて我が団の一員です! アーレニウス君、二人を部屋へ案内してください。リョウ君、ギルガメシュ君。荷物を置いたあと鍛錬の間へ来てください。午前の謁見が終わったら皆を集めて入団歓迎会を行います」
「鍛錬の間で歓迎会というと……」
「全員と手合わせですね」
「わ、分かりました!」
そらきたぞ、と内心悲鳴を上げそうになったギルガメシュではあるが、どうせやる事になるだろうとは予想していたし、悪意ある相手でもないので怖いとは思わなかった。
それよりも今は、彼らとリョウのどちらが強いのかの方が気になる。
「っし、二人ともついてきな。ついでにざっと城の説明をしてやんよ」
「お願いします」
と、後ろに続いたリョウがペンと手帳を取り出したのを見た彼は、メモを取るほどじゃないと笑ってしまう。
「おいー? そんな大したことは言わないぞ」
「ああいえ、癖なんです」
気にしないでくださいと手帳を開いた彼に、まだ笑っているアーレニウスは廊下の前後を指さして言った。
「この廊下の突き当たり、左手が団長の私室な。逆側は厨房や倉庫、便所に機械室。便所は男女兼用だから桜花に気をつけろよ、死ぬぞー? あいつ一番気が短いかんなー?」
「ずいぶん扉が多いですね」
この位置から見ても扉が左右に十以上並んでいるのでいったいなにが、とギルガメシュが言うと、アーレニウスは集会所の向かい側に並んでいる四つを左から指さした。
「ここはぜんぶ空き部屋だけど、左から団員室、メイド部屋、メイド部屋、団員室なー? メイド部屋の奧に団員の寝室があって、メイド部屋は廊下、おつきの団員室のどっちにも出られるようになってんだ」
「ふむふむ」
リョウはさっと見取り図を描いていき、十字路を左に曲がったアーレニウスは次の十字路で立ち止まった。
「あっちの奧の左右が桜花と俺、手前の左がフォートで右が空き。こっちの手前右がアントンで左が空き、奧の左右がお前らの部屋」
新人の癖に窓部屋なんて生意気だと笑った彼は、リョウ達にあてがわれる部屋の方に向かいながら説明を続ける。
「この廊下の前後は西棟と東塔に続いてんのさ。あとは偉い奴から順番に上に住むと覚えりゃいい。この上は国王様と王女様の区画と、大臣や侍女達の住む区画がある。分かるだろーが、最上層に続く北の階段は俺達の住む部屋の前を通らねーと絶対にたどり着けないようになってんのよ」
「絶対防衛線か。身が引き締まる思いです」
「下の階層にゃ宮廷魔導師長、宮廷司祭長の部屋、総務みたいな省のえらい連中の部屋があって、次には騎士団や衛兵の待機所があって―――」
「ううっ、覚えきれない」
たらたらと続く説明に、ギルガメシュはもう一杯一杯になってきたのだが。
城の外観と説明を頭の中で並べていったリョウは、先ほど見てきた城内の風景と結合させて、ほとんど完成に近い地図を作り上げていく。
(―――と、言うことはシリルさんと会ったのは王族や大臣、侍女しかいない階層ってことだよな? 警備のはずのフォートさんはどこに居たんだ?)
立ち番の位置はもう少し奧なのかも知れないが、あそこに侍女でもメイドでもない格好の少女が居たと言うことは。
違和感に眉を動かしたところでふと、三神国での記憶が脳裏を過ぎった。
「静さん。なんでお姫様ってこと、隠していたんですか」
「う。……決して悪気があったわけじゃないのじゃ。その…対等な付き合いに飢えていたと言うか、お友達が欲しかったというか……」
(……なるほど)
察したリョウがとりあえず知らんぷりしておくかと決めたところで、取り出した鍵で右手の扉を開けたアーレニウスがここだ、と二人を促した。
「こっちをリョウ、向かいがギルな。真上は王女様の部屋だから夜中に大きな音とか立てんなよー?」
「うわ。こんな部屋、俺一人で使っていいのかな?」
手帳を閉じて、中をのぞき込んだリョウは驚いた。
南東の角部屋で二面に大窓があり、日当たりがとても良いのもそうだが、ほこり一つ積もっていない毛足の長い絨毯、ゆったりと配置された家具、高級そうな調度品のどれ一つとってもフォレスト家の客室より二段は上の品ばかり。
「あったりめーだ。ここは亡くなった副団長が使っていた部屋だからな。しかも桜花の部屋と合わせて上位二人にしか与えられない角部屋だぞー?」
「なんで俺がそんな部屋に」
普通の部屋で良いんですが、と眉間にしわを寄せたリョウにアーレニウスは知るかとにべもない。
「団長の指示だ、知るか。まあ、せっかく空いてんのに期待の新人どもを窓無しに放り込むのはかわいそうだとでも思ったんだろ」
「では、団長を抜くと桜花さんが一番強いのですか?」
親衛騎士団員の強さに興味があったギルガメシュが尋ねると、ああん、と聞き捨てならない様子のアーレニウスはそんなこたぁねぇと首を振る。
「そーじゃねーよ。桜花は女だってのもあるが、祖父が文官を束ねるお偉いさんでな、ねじ込まれたんだよ」
「文官長というと……葛葉侯爵ですか」
「そそ。あのジジイ、桜花を騎士にするのには大反対だったくせによ。いざ騎士になっちまったら厚遇しろだの気をつかえだのうるっせーの」
やれやれだぜ、と笑っていたアーレニウスはそこで急に真面目な表情になると、今までとはまったく異なった口調で言った。
「親衛騎士はその腕で王族を危険から護るんだ。時には、自分の命を懸けてでも達成しなければならない戦いだってある。―――六年前の邪竜襲撃みたいにな」
六年前。
西の湿原から現れ、途中の村をいくつか滅ぼしつつ王都に迫った災厄に立ち向かって、騎士や衛兵、司祭、魔法使い、協力の冒険者などが大勢命を落としている。
アトゥム外郭まであと数百メートルの処まで迫った邪竜は、投入された八名の親衛騎士達とほぼ相打ちになる形で斃された。
もしも王都に侵入されていたらもっと多くの犠牲が出て、王族にも危険が迫っただろう。
当時町の悪ガキだったアーレニウスは外郭に上って、遠目から死闘を観ていた住人の一人であり、死地に赴く騎士達の横顔にひどく心が揺さぶられたのを覚えている。
「俺やお前、リョウ、それから女の桜花。子供や女、若造だけどよ。それなりの待遇で扱われる理由、分かるよな?」
「王族を必ず護りきるという安心をかわれているからだと思います。武官の最高峰である親衛騎士は若くても、女でも、王家の血を護れる強ささえあれば、それだけで良いと考えられているのでしょう」
「分かってんじゃねーか。まあ、実際は他国に特使として赴いたりするし、舞踏会じゃ貴族のお嬢さんの相手をさせられたりするし、それなりのお作法は覚えてもらうけどなー?」
ブライアンからの又聞きであるが理解はできるギルガメシュが答えると、政治のことは文官に、町や領土の防衛は基本騎士団に任せりゃいいんだと笑った彼は、最後に人間死ぬときゃ死ぬんだとさばさばした表情で笑ってみせる。
「ま、邪竜が出たら一緒に死のうぜ! ハハハハ!」
「ははは……」
なんとか愛想笑いのギルガメシュが向かいの扉を開けたところで、先客が居ないことを確認したアーレニウスが言った。
「そうだ、二人にも一人ずつメイドがつくからよ。いまごろ総務で手続き中のはずだ、午後には挨拶に来ると思う」
「メイド? 俺は要らないですよ」
総務の秘蔵っ子だぞとすけべな顔で笑われたので、人を使うことになれていない元冒険者が心底嫌そうな顔をすると、平民出のアーレニウスはその気持ちが分からなくもないらしく、肩をすくめて移動を促した。
「用がなきゃ呼ばなきゃいいんじゃねー? んじゃ荷物を置いたら行くぞ、そろそろ午前の謁見が終わってアントンが戻ってくるころだ」
(……ああ、リョウはメイドの意味を分かってないのか)
自分の部屋に荷物を置いてきたギルガメシュはそのやり取りを耳にして、あとで父より教わったことを教えてやることにする。
二人はそれぞれ、柄の装飾部分に『I』と『V』が刻印された鍵で施錠すると階段を下り始めたのだが、途中、前を歩く先輩の腰に吊されている長剣をギルガメシュがのぞき込んだ。
「アーレニウスさんは長剣を使うのですね。僕と同じだ」
「俺のことはアルでいいぜ。団長はともかく俺ら間に上下関係はないからな、ため口でかまわねーよ」
「ずいぶんと規律が緩いのですね」
リョウは驚いたのだが、年上の先輩だしと口調を崩さないでいると、踊り場で立ち止まったアーレニウスはちっちっちと人差し指を振ってやり直しを要求した。
「チッチッチ、丁寧語、敬語一切禁止。『随分と規律が緩いんだな』だ、言ってみろー?」
「ぼ、僕は年上にそんな言葉遣いなのを父上に見られたら大変なので」
「ああ、お前んちフォレスト子爵家だっけか。じゃあしゃーねーな」
リョウと顔を見合わせたギルガメシュは勘弁して下さいと説明し、厳格なブライアンの顔を思い浮かべたアーレニウスもそれなら仕方がないかと納得したようだ。
「んで、お前はどうよ?」
「わかったよ、アル」
相手と場所は選ぶが、砕けた口調でも良いのならそうできるリョウに満足した彼は、ふたたび鍛錬の間を目指して階段を下り始めたのだが。
「しかし、緩いと言うかいい加減というか……」
「緩いってことにしとけー? 記章さえ付けていれば上半身裸でも城内を歩けるぞ、とっつぁ―――アントンが時々やってる。流石に下着姿や全裸を試したやつはいねーけどよ」
えー、と顔を見合わせた後輩達に、昔は同じことを思った先輩は思考を止めるように言った。
親衛騎士に求められる価値の八割以上が強さだからこそ、彼のようなちゃらちゃらした言動も黙認されているのである。
◇ ◇ ◇
途中、すれ違う騎士や宮廷衛兵に敬礼を、メイドや執事達にお辞儀をされながら鍛錬の間に到着すると、すでに団長、桜花の他に二人の男性が待っていた。
どうやら彼らが、先程まで立ち番だった残りの親衛騎士らしい。
「団長、連れてました」
「来ましたね。ちょうど、第一の騎士に立ち番を変わってもらったフォート君も居るのでここで挨拶としましょう」
「フォート=C=ルース、二十七歳。よろしく」
あっさりと挨拶をした男は背が高く、眼光鋭い槍使いだった。
右手に持つ2メートルほどの短槍は魔法の品なのだろう、石突きと穂先に埋め込まれた宝石が鈍い光を放っている。
「趣味は釣りと料理、嫁の買い物の付き合い。時々はパスタを打ったりもするからそのうち食わせてやる」
「フォート君は既婚者なのですが私と同じで別居状態でしてね。暇さえあれば夫人に会いに行く愛妻家なのですよ」
それでも夫人が妊娠する前までは、文官として働いていたのでそれなりに接点はあったらしい。
親衛騎士は家族と言えど城に同居させるわけにはいかず、強制的に単身赴任になっていたのである。
「お前らが早いところ一人前になってくれりゃ、俺も休みが取りやすい。次、アントンだ」
「我が輩はアントン=B=シタデルである。少年達よ、そんな貧相な…」
この中で一番の巨漢はそこで、並の体躯ではないリョウを見てむっ、と唸るとギルガメシュに視線を動かして言い直した。
「少年よ、そんな貧弱な身体では親衛騎士がつとまるものか。まずは身体を鍛えよ、そして食え! ワハハハ!」
「は、はぁ……」
成人平均よりも頭一つ高いリョウより、さらに頭半分は高く、筋肉だるまのような大男は親衛騎士の制式コートをぶわさっと脱ぐと、上半身裸になって手甲をがちんと打ち鳴らした。
「我が輩の武器はこの肉体! そして拳である! フハハハハハ!」
「ギルガメシュ=V=フォレストです、よろしくお願いします。ギルと呼んで下さい」
「リョウ=D=イグザートです。よろしくお願いします」
「それでは手合わせを始めましょう。どちらからやりますか?」
「どうする? 俺は先でも後でもいいけど」
「僕が先にやりたい。自分が経験した上で、君がどう戦うのか見てみたいんだ」
くせ者ばかりなので、ちゃんと付き合っていけるのかと心配する暇もなくギルモアが開始を告げるので、顔を見合わせた二人はどうするか、と考えたのだが。
一歩前に出たギルガメシュから試合をする事になり、急いで身体を温めた彼はすでにアーレニウスが待っている試合場へ上がる。
「団長、今日は他の騎士は居ないのですか?」
「毎週、この時間は私達の貸し切りです。もちろん自由時間は他の騎士に混じって構いませんよ」
混み合っていては戦技の練習も出来ないでしょう、との言に納得したリョウが視線を向けると、桜花が審判でアーレニウスとギルガメシュの試合が始まった。
「制限時間は九十秒、完全装備、投射、放射戦技禁止、降参宣言や意識を失う、負傷による審判の停止判断、また武器を失ったり武舞台から落ちた時点で負けとします! 開始位置は自由、五秒後より試合開始! 五! 四!」
「おし! かかってこいや!」
「お、お願いします!」
だが、魔法の長剣を使う同士の戦いは、一瞬でアーレニウスの勝利となった。
ギルガメシュが猶予の間に距離を取ろうとしたのに対して、アーレニウスはずかずかと間合いを詰めてきて、開始の瞬間に突きかかってきたのである。
カウンター狙いに切り替えたギルガメシュは構えを深くして突きをかわしたのだが、崩れた体勢を立て直そうとした時にはもう眼前に剣先が突きつけられていた。
「んー、覚悟を決めるのが遅すぎたなー? 開始前に何手か読んでおかないから突然の事に驚くんだぜ」
「ありがとうございました!」
「んじゃ兄貴、こうったーい」
「槍相手は初めてか? まあ頑張れよ」
「初めてです! 勉強させていただきます!」
終始遊びの雰囲気だったアーレニウスと入れ替わりにフォートが上がってくるが、槍を相手にした経験のないギルガメシュはどう戦えば良いのか分からない。
結局、間合いの長さに翻弄されっぱなしの彼は二敗目を喫することになる。
「よく見えてはいるな。経験を積んで繰気技術を磨けば―――なるほど、団長がこっちに引っ張るわけだ」
「ありがとうございましたーーー!」
「さて! 我が輩の変幻自在な体術を堪能めされい! ハッハッハッハッハ!」
「武闘家相手も初めてです! よろしくおねがいします!」
次のアントン相手も同様、距離感が掴めないうちにぬるりと懐に入り込まれてまたもや負け。
「なかなかやりおる! だが残念ながら筋肉が足りないようである、精進するのだ! ハーッハッハッハッハ!」
「ぜ、全然間合いが掴めなかった……あ、ありがとうございました」
「じゃあ、刀相手も初めてね? 直剣とは勝手が違うから良く見てね」
「は、はいっ!」
今度はアーレニウスと審判を交代した桜花が相手となったが、武器の勝手が掴めず、風切り音が直剣とは異なる刀の素早さに肝を冷やすだけだった。
「うん、筋が良いですね。こっちに来るのも納得、です」
「ありがとうございました……」
そして最後に、魔法の長剣を左右に握る、二刀流のギルモアが舞台に上がってくる。
「最後は私ですね」
「よろしくお願いします!」
開始後はお互い様子見となったのだが、左右の剣のどこに注意を払えばいいのか分からなかったギルガメシュは、魚を捕るときのように全体を見つめるようにしてみた。
すると、左右どちらの剣を使っても、身体を動かしても防御や回避に一番手間取りそうな部分が右の腰にあるような気がしたので、思い切って斬りかかってみる。
「やあっ!」
残念ながら弾かれてしまい、キンッと魔剣同士がぶつかって試合場に火花が散る。
が、向き直ろうとしたときに、構えを変えたギルモアの左太ももに隙が見えた。
「はっ!」
そんなふうにわざと隙を作って攻撃させていたギルモアは、きちんと自分の意図したところを狙ってくる少年に微笑むと、十番目の攻撃を鋭くはじき飛ばして一方的に決着を付ける。
ごんっ、と重い一撃を受けた手がしびれてしまい、握力を失ったギルガメシュ手からぽろりと魔剣が落ちた。
「ぐっ!?」
「それまで!」
「良いですね、さすがフォレスト卿のお子さんだけなことはあります」
「ありがとうございましたーーっ!」
全員との手合わせが終わった後。
「リョウ、聞いてくれ! 呼吸が乱れる間もなく終わってしまった! 経験した事がない武器が相手というのは本当に難しいものなんだな!!」
「そうだな、勉強になったろ?」
「勉強にはなったんだが……だいたい、刀相手って滅多に無いと言っていなかったか? 団長を別にすればあれが一番怖かったぞ」
「あー。それについては俺も驚いてる。ミツカミに近いからかな?」
「―――そうそう、リョウ君」
「あ、すみません、すぐに上がります」
「いえいえ、準備は万全にしてください」
自分も試合場を降りたギルモアが声を出してきたので、話し込んでいたリョウはすぐに準備を終えます、と返事をしたのだが。
「実は最近、この四人は調子に乗ってましてね、君にへし折って欲しいのですよ。一人あたり五秒以内で軽く捻っちゃってください」
首を振った団長の異常とも思える指示を聞きつけ、四人の雰囲気がざわりと変化した。




