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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
32/111

第三節 避けられなかった戦いは⑩

4/23 推敲

 ブライアンはまだ帰ってきていない、フォレスト家の談話室。


 遅くまで待っていた家族にまずは、と今日の結果を報告するとエリアンヌはとても喜んでくれた。


「まあ! 二人とも凄いわ!」

「お兄様が親衛騎士に!? 妄想とか勘違いではありませんの!?」


 母も妹も、帰ってきたギルガメシュが満面の笑顔だったのでてっきり第一騎士団に合格したとばかり思っていたのだ。


 それが二人揃って親衛騎士団に入団である。

 不合格の衝撃でおかしくなってしまったのかと室内の空気は硬直しかけたのだが。


「本当だよ。なぁ、リョウ?」

「ああ。みなさんに記章を見せるといい」


 ほら、と見せられた記章が確かに親衛騎士を表す一角獣だったので、困惑に震えていたリイナの縦巻き髪がぴんっと跳ね上がる。


「こ、これは確かに……!」


「ぼ、坊ちゃまが騎士の中の騎士に……!?」

「ギルガメシュ様が……!」


 壁際のメイド達は目と口を丸くして硬直している中、一人家令のシーバスだけが当然ですとばかりに頷きを繰り返していた、そして。


 母と妹と、彼らを見回したギルガメシュは深々と頭を下げる。


「全部、リョウと……それから、情けない僕を支えてくれていた父上、母上、リイナ、屋敷のみなのおかげです。ありがとうございます」


 今の自分が誰の支えによって立っているか。

 それを知り、感謝した心からの言葉に、リョウも自然に笑みをこぼしている。


「あなた、いったいどうしたの? 昨日戻ってからまるで別人みたい」

「気づいただけです。僕はずっと、多くの庇護の下で生かされていたのだと」


 戸惑いを隠せない母に、息子は僕だっていつまでも子供ではありませんと苦笑いを浮かべた。


「でも明日からは違う。僕は貴族の息子という庇護された立場から、一人の騎士として立たなければならない。だから今日の内に言っておきたかったのです」


 だから今までありがとうございますともう一度頭を下げた息子に、母は嬉しさと寂しさをごちゃ混ぜにしたような表情で家族なのですから当然です、と首を横に振る。


「なんだか急に大人びちゃって。ちょっと寂しいわ」

「茶化さないでください、母上。それでいきなりなのですが、僕たちは明日から城に住むことになりました」


「えっ!? それは駄目ですわ!」

「決まりだからとは言わない、これは僕の意志でもある。せっかくリョウと一緒に居られるんだ、リョウが城に住むなら僕もすぐそばに居なければ駄目だ」


「お兄、さま……」


 あまりに突然の独り立ち宣言に抗議の声を上げたのはリイナだったが、遮るように続けた兄の固い決意に言葉を飲み込んでしまう。


「僕なんかが親衛騎士だなんて理由があるに決まっている。おそらく、元冒険者のリョウを繋ぎ止めておく鎖役なんだろう」

「いやギル、それは……」


 自分は親衛騎士として認められるほどではないと確信する彼に、それは違うと言いかけたリョウであったが。


「良いんだ、僕自身が一番分かっている。もちろんそれだけじゃない、だけどそれが無いはずがないだろう。君は格が違うんだからな」

「…………」


「だけど、こうなったからには一日でも早く、おまけだなんて言わせないようになってみせる。その為には少しでも君のそばにいて、もっと自分を高めなければならないんだ」

「そうか。なら、なにも言うことは無い」


 これからの目標を見据えた彼の強い眼差しに、余計な慰めは不要かとリョウが頷いていると。


「二人とも居なくなってしまうなんて、嫌、ですわ……」

「リイナ、ここは黙って祝福するのが良い女ですよ。ずっと戻って来ないわけでもないし、あなたも卒業したらお城勤めを希望してみてもいいのですよ?」


 文官見習いぐらいなら奥様茶会の繋がりを使えばなんとでもなるからと頷いたエリアンヌは、息子の嫁探しと娘の婿捜しを全部白紙にして考え直さないとと内心息を吐いていた。


 なにせ出来損ないから、親衛騎士最年少入団記録保持者への華麗なる転身である。


 これまでは足元を見られる立場だったのが、よりどりみどりの中から一番良い条件の候補を選べるようになったのだ。


(特にリョウさんについては要注意ね。装備を見れば大金持ちなのはすぐ分かるでしょうし)


 もちろん、まだ誰も伝手を持っていないリョウの情報も安売りするわけにはいかなかった。


 彼こそが今年の募集試験の主役であり、まだ正式にどこの派閥にも所属していない大金持ちなのだ。


 将来は最低でも子爵が約束されており、玉の輿という表現で足りるレベルではなく、嗅ぎつけた貴族から嫁候補の話を押しつけられるのも避けねばならないだろう。


 親衛騎士団長であるブルーシップ伯爵の派閥は武官畑において最大最強だが、何事もない平和が保証されているわけではない。


 別の派閥の上級貴族からのちょっかいのほか、少年達に対する色仕掛けを含めた搦め手を警戒する必要もあるはずだ。


(この子たちにつくメイドは、それこそ王女様の侍女候補ぐらいに有能な子じゃないと駄目ね。二人とも薄そうだけど、青い衝動を受け止められる子ともなれば、それなりに器量も良くなければ……)


 貴族の嫡男が、意図しない相手の色仕掛けに引っかかって責任をとらされる例など枚挙にいとまがない。


 そういう下半身暴走の危険を避けるため、高い金を出して夜の仕事も可能なメイドを雇う家もあれば、大胆に高級娼婦をあてがう家も少なくなかった。 



 ―――貴族にとって子供の婚姻は家の隆盛に直結する大事な事柄である。


 特に相続権を持つ者の制御に苦心する親が多いのは、神殿の努力により平均寿命が延びて、貴族の結婚する年齢が高くなってきた影響もあるだろう。


 より優秀な子を成させて実績でのし上がろうとしている家が、子供や相手の能力をじっくり見極めようとするのも年齢上昇に拍車をかけている。

 

 継承権乗っ取りや派閥内の足場固めをたくらむ家のように十四、五で結婚させてしまえば、直後に旺盛になろうとも子沢山になるだけなのだが、見極めている間に十七、八になっても特定の相手がいないとなると少年たちは悶々としてしまうのだ。


 そのため色仕掛けの成功率が高まり、危機感を覚えた親は防衛に必死になり、高級娼婦や夜のメイドなどと言う存在が世の中に広く認知されるようになった。


 ちなみに平民の悶々とした需要に対しては、とある産業や文化が発展しつつあるのだが、それはまた別の話である。


 ―――閑話休題。




 手を出してしまっても最悪、第二婦人とか愛人扱いでお茶を濁すこともできようが、騎士の血にこだわるフォレスト家は一夫多妻を認めるつもりがない。


 王国法的に問題がなくともそうすることでいくつかの面倒を排除できるし、相手側にも生半可な候補を出させないというけん制になるからだ。


(うちの子はもとより、リョウさんも遊び慣れているふうではないし、経験は無いけどしっかりした知識のある子がいいわね。ブルーシップ伯爵がうまく差配してくれるとは思うけど、念のためハニトゥーラ侯爵夫人に連絡を入れましょう)


 王侯貴族向けの執事、メイド養成施設を切り盛りする傍らで、いくつもの娼館を抱えているハニトゥーラ侯爵夫人は、神殿や農場などとは別の行き場のない者の受け入れ場所となっており、エリアンヌの茶飲み仲間の中でも超やり手の一人である。


 学のない貧民出身でも希望すれば読み書き計算、礼儀作法に仕事としっかりたたき込まれるため、彼女の施設で教育された執事やメイドの評判はとてもいい。

 それはこの家のマリーの働きぶりを見ても分かることだ。


 その分安くはないのだが、常時いつでも出せる人員を確保しており、一からいろいろと教える必要が無いため利用者は年々増えている。


 城の担当無し上級メイドで条件に合致する者が居ればいいが、足りない場合はここからの調達になるだろうから、今夜中なら要望を差し込む余裕があるだろう。


(城は関係者以外簡単に立ち入れないけど、文官や宮廷関係者の中には独り身もいるし、舞踏会なら踊ることもあるだろうし。念には念を入れておきましょう)


 頼み事の対価は彼女が欲しがっていた裸夫像と政敵の情報で良いか、との考えまでをさっとまとめたエリアンヌは、そんなことはおくびにも出さずに息子ににっこり微笑んだ。


「あなたはもう親衛騎士への階段を上り始めたのですから、一人の男として好きなようにしなさい。ただし、フォレスト家の跡取りである自覚を持って、時々は顔を見せに来ること」


 母の承認を得て、晴れて明日から城暮らしの城勤めとあいなったギルガメシュは親友であり、明日からは同僚でもある男に右手を差し出して言った。


「分かっていますよ、母上。リョウ、そんなわけで明日からもよろしく頼む」

「こちらこそだ」


 頷いたリョウも一緒の夢を見ようとその手をがっちり握りかえす―――と、良い雰囲気を壊すようにギルガメシュの腹がぐぅぅと鳴った。


 あれだけ試験を頑張って夕食がおにぎり二つとスープでは、さすがに物足りなかったらしい。


「ところで僕はかなりお腹がすいているぞ」

「俺は四つもらったから平気だけど、小腹は空いた感じだな」


「じゃあ、メアリに頼んで軽く何か作ってもらおう」


 遅い食事を取ろうと二人が食堂に行った後。


 大至急ハニトゥーラ侯爵夫人に連絡をと立ち上がったエリアンヌも出ていってしまい、後にはむくれるリイナ一人が残されていた。


「むぅ」


 むくれている理由は兄が六割、リョウが四割と言ったところ。


 リョウがフォレスト家を訪れたばかりの頃ならば考えられない事であったが、彼女とて一人の少女である。

 兄以外の男性を初めて身近に感じて、何か特別な感情を覚えることもあるだろう。


 ギルガメシュ本人は知るよしもないのだが、貴族学級の一年目までは多くの貴族の娘達から注目を浴びていた兄である。


 リイナが鼻高々ながら気が気ではない毎日を送っているうちに、フォレスト家の嫡男は出来損ないだとか期待はずれといった噂が出回って、それはなりを潜めたのだが。


 それでも町と学級しかしか知らない妹にとっては優しい二枚目の兄であり、いつかは父のような立派な騎士になると信じられる、最高の男性だったのだ。


 年々、お兄様が駄目なら駄目で私が守ればいい、と家族愛を少々こじらせていたところに、突如現れたのは―――


(リョウさん……)


 良くを言えば身元の知れない冒険者ではなく、どこかの国の王侯貴族とかであったら最高なのだが、そう言う野性味も彼の魅力なのだと気づいたのは今し方のことである。


 そんなリイナが、兄はもとよりリョウまで独り占めしたくなったのも不思議なことではない。


 突如現れたのは、悪漢から自分を助けてくれた王子様だったのだから。


(……親衛騎士に釣り合うお仕事って、なにがあるのかしら?)


         ◇   ◇   ◇


 夜食の最中に上機嫌のブライアンが帰ってきたようなので、リョウとギルガメシュは挨拶をしようと私室を訪ねていた。


「二人とも本当に良くやった。リョウはともかく、ギルガメシュまで伯爵の目にとまるとは思わなかったぞ」


「父上、驚いたのは僕も同じです。……それで、僕たちは明日から城で生活する事になりました。今まで本当にありがとうございました」


「分かっている。一角獣騎士団の者は城でもかなり位が高い。その胸の記章に恥じぬよう、精進するのだぞ」

「はいっ!」


 見習いが終われば親衛騎士となるギルガメシュの方が、騎士団長であるブライアンよりも公式な場での立場が上になってしまうのだが。

 父も子も、お互い複雑さは胸中にあるものの、それ以上の喜びがあるので特に触れずにおいた。


 それで一歩下がったギルガメシュに替わり、前に出たリョウが深々と頭を下げる。


「ブライアン様、大変お世話になりました。鍛錬の間での約束、何とか果たせました」

「何を言っている、こちらが礼を言わなければならないのに。ありがとう、そしてこれからもギルガメシュをよろしく頼む」


「それにしても、ブライアン様に呼ばれなかった時はどうなる事かと焦りましたよ」


 ギルなんか真っ白になってましたよと彼が笑ったので、大騒ぎだった指名調整会を思い出したブライアンも愉快そうに肩を揺すらせる。


「ははは。今年の指名はリョウとギルガメシュを巡って喧々囂々のやり取りだったさ。しかしブルーシップ卿が二人を指名したので他の皆が我慢したのだ」


「父上。ポールまでリョウを指名したと言うのは意外でした」

「力ある者と言うのはな、権力者にとってひどく魅力的に見えるものなのだ。英雄や勇者などの傑物を配下にすることで、支配欲を満たそうとした者の話が無数にあるように」


 父の言になるほどと頷いた息子は、リョウを親衛騎士にする事で国王様は喜ばれるのだろうか、などと思ってしまったが。


「二人ともまだ若い。失敗を恐れず、精一杯学ぶが良い」


「はいっ!」

「はい」


 時間も時間なので二人は部屋を辞そうと思ったのだが、ブライアンがリョウをだけを呼び止めた。


「―――それから、リョウ」

「何でしょう?」


「強い力を持つ者は、それだけ多くの選択を迫られる。それ故に他人の何倍も迷い、選ばなければならないだろう」


 面接の際に彼の告白を聞いたブライアンは親衛騎士に合格した今も、否、だからこそ言っておかねばなるまいとゆっくりと言葉を紡ぐ。


「翼を休める事は必要だ。だが、他人の夢は所詮、他人の夢でしかない。自分の心の道標が何処を指しているのか、それを常に忘れないようにな」


 そこは君の終着点ではない。

 翼の傷が癒え、飛び立つ時は後顧の憂い無く往けと暗に含ませれば、じっと聞いていた少年はおそらく伝わったのだろうと取れる笑顔で頷いた。


「はい。ありがとうございます」


 頭を下げたリョウは今度こそブライアンの部屋を辞し、待っていてくれたギルガメシュに頷いた。


「なんだかんだでもう二十三時か。準備は終わったか?」


 自分は全てが魔法の道具入れホールディング・バッグに詰まっている彼が尋ねると、とんでもないと首を振ったギルガメシュは自分の部屋の前で立ち止まるとまた明日と言った。


「まだ全然だ。今からバタバタするから風呂は先に入ってくれ」

「分かった、先にいただくよ」


         ◇   ◇   ◇


 今日は一人だけの風呂場にて。

 リョウは一日の汚れを洗い流していたのだが、ブライアンの言葉が頭から離れずについ手が止まりがちになっていた。


「他人の夢は、他人の夢でしかない、か」


 共に同じ夢を見ることが悪い、とはブライアンも言っていなかった。


 だが、夢なら覚める時が来る。

 それが他人の夢ならなおさらだ。


 その時は周りに囚われる事なく自分の道に戻れ、と言われてしまったのだ。


「………夢、無いんだよな。親父も親父で教育はしてくれたものの、どう生きろとは教えてくれなかったし」


 父は言っていた。

 自分の目的は、息子であるリョウを鍛えることだと。


 お前がお前であるために。

 万難を排し、あらゆる宿命に斃れず。

 運命の大河を渡る力を身につけさせることがこの父の願いであり、目的でもあると。


 息子になにを見てそう決めたのか、本人の口から語られることは無かったが、父はその為だけに生き、そして旅路の途中で帰らぬ人となった。


 一人になってからもそういう力を身につけようと努力を積み重ねているが、それは目標の一つであって目的ではない。


 その努力はなんのため。

 この力はなんのため。


 性格がらいろんな厄介ごとに首を突っ込んではいるが、それがなんのためかを問われると今は明確なものが自分の中に見つからない。


「……分からないな、今は。まずは明日からの生活に集中しよう」


 そこで思考を停止させたリョウはきりがないと風呂から上がる事にした。


 なにしろ明日から城暮らしである。

 お貴族様のきらっきらのぴかっぴかのふわっふわな世界に住まうことになるのだ。


 礼儀作法を知っていることと、その空気に慣れることは別なんだなと改めて実感し、覚悟を決めなきゃなと客室に戻った彼はしかし、シーツにしわ一つ無いベッドに唾を飲むと、結局床に座る格好で身体を休めたのだった。


 ―――翌朝、ふたたび首を傾げたメアリがシーツをくんかくんかしたのは言うまでもない。


         ◇   ◇   ◇


 ギルガメシュがこれからは一人でできなければと、シーバスやメアリの手伝いを断ってどたばた荷造りをしていたら、『今なら城にちょうど良い姉妹が空いている』という返事と革袋を手にエリアンヌがやってきた。


「持って行くのは最低限のものにして、必要な物があればこれで買いなさい」

「いえ、しかし」


「このぐらいは母親面させなさい。可愛い息子の門出ですからね、支度金くらい持たせないと」

「ありがとうございます、ありがたく頂戴します」


 それなりに金貨が入っている革袋を手渡した母は頑張りなさいと言い残して去っていき、ようやく荷物がまとまったのが夜更けの話。


「ふぁぁ……さっさと寝ないと明日が辛そうだ」


 風呂で火照った身体がようやく冷めて、髪も乾いたギルガメシュが寝床に入ろうとすると、未明だというのに扉がノックされた。


「こんな時間に誰だ? リョウか?」

「私ですわ……」


「ああ、リイナか。うるさくしてすまない、もう荷物はまとめ終わったから」


 立っていたのが寝間着姿のリイナだったので、騒がしくて眠れなかったのかと謝ると、妹はそうじゃないですのと首を振る。


「お兄様……明日、出て行ってしまいますのね? ……一緒に寝ても……」

「まだまだ甘えん坊だな。そう言えば昔は良く一緒に寝たっけ」


 妹と二人のときだけ口調が違うギルガメシュは、これも最後かとリイナを招き入れてやった。


 甘えん坊とは違いますのと口を尖らせた妹はベッドの中央に飛び乗り、あくびをした兄も燭台のろうそくを吹き消してその後に続く。


 しばしの沈黙の後。

 もぞり、と寝返りを打ってリイナが呟いた。


「……お兄様が居なくなると寂しいですわ」

「合格した事を喜んでくれないのかい?」


 親衛騎士に選ばれた事はもちろん嬉しいに決まっている、再び手のひらを返すであろう貴族の娘達に胸を張って回りたいほどだ。


 しかし、それでも家から出て行ってしまう事は嫌だった彼女はしばらく黙り込んでいたが、今の気持ちに一番相応しい一言を選び出す。


「……複雑、ですの」

「リイナもそろそろ僕から卒業しても良い頃だよ。なんならリョウなんてどうだい、お薦めだ……ってなんだ、寝てしまったのか」


 言うだけ言ってすやすやと寝息を立てる妹の頭を、少し撫でてやった兄ももう寝る事にした。


 今日まで考えもしなかった新しい生活が始まる緊張で寝付けないかとも思ったが、試験だなんだでそうとう疲れていたらしい。


 瞼を閉じるなり睡魔が襲いかかってきて、ギルガメシュの長い長い一日は終わりを告げたのだった。

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