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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第三節 避けられなかった戦いは⑨

4/16 推敲

 十九時過ぎに終わっていた面接から、さらに待つ事一時間半。

 団長達が話し合っている部屋に呼ばれていた試験官から、やっと発表が始まる事を告げられた。


「受験者は鍛錬の間へ集合! 二十一時より合格者の発表を行う!」


「僕らの面接から実に四時間半。やっと合格発表のようだぞ」

「……結構掛かったな」


 そうは言いつつ、リョウは魔法の道具入れからなにやら難しそうな本を取り出して読んでいた。

 彼にとっては待機とは、休憩か勉強か修行に当てるべき時間なのだ。


 ちなみに全ての受験者が待つことに飽きてかなりの時間が過ぎていたが、リョウの他に時間を活用していたのは十名程度しかいなかった。


「アーニー、始まるぞ」

「やっとか。どうせリョウって奴の取り合いだったに違いない」


 なお、競うように腕立て伏せをしていた双子を含めた全員、空きっ腹を抱える羽目にはならずに済んでいる。


 一度様子を見に来たエンサイド司祭が去年よりも大幅に長引いていることを知って、何人ものメイドと共に軽食を差し入れてくれたのである。


             ◇


「受験者の皆様、お疲れ様です。おにぎりとスープを持って来ましたのでよろしければどうぞ」


 瞬間、鍛錬の間がざわめきに包まれた。


「ぱたぱたさんのおにぎり!?」

「どれだ!!!」


「お一人様お二つずつです」


 数名のメイドが持つ銀色のトレーには、大小三角四角俵型とさまざまなおにぎりが載っている。


 我先を争って並んだ彼らはそのうちのどれがエンサイド司祭が作ってくれたものかを当てようと、目を皿のようにして見比べては気合いを入れて二つずつを持っていった。


「きっと、この美しい三角の物に違いない!!」

「いや、エンサイド司祭の手は小さい! この小さな丸い奴だ!」


 肝心のエンサイド司祭は我関せずと鍋に入ったミネストローネをよそっており、顔を見合わせたリョウとギルガメシュはおにぎり側の大混雑を横目にスープからいただくことにする。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます、エンサイド司祭。治療もありがとうございました」

「その感謝は命の女神へ届くでしょう」


 ギルガメシュが礼を言うと、エンサイド司祭は右の手のひらをぽふんと胸に当てて頭を下げた。


 天界に住まいし神々はこの主物質界に住む者達の信仰や感情を糧としているため、奇跡をふりまいて感謝を集めるのも司祭の仕事の一つにあたるのだ。



 ―――ちなみにエンサイド司祭に限らず、司祭職にある者にうかつな愛の告白などしようものなら、その気持ちは愛と美の女神に届くでしょうとあっさりかわされるのは有名な話だ。




「次の方、どうぞ」

「ありがとうございます。司祭の気遣いと優しさに感謝を。くれぐれも、体調にはお気を付けて」

「あっ……ありがとうございます」


 だから司祭に礼を言う場合は、明確な本人への労いの言葉の方が伝わりやすい。


 ご迷惑をおかけしてすみませんでした、と爆発騒ぎの原因の一端でもあるリョウに少しはにかんだ彼女は、大人と子供ほどもある身長差でほとんど真上を見るようにしながらスープの入った器を差し出した。


「合格すると良いですね」

「ありがとうございます」

「あの……」


「エンサイドしさぁぁぁあい!!」

「ぱたぱたさーーーん!」

「俺にもスープ、くださぁぁぁい!」


 ちょっと小首を傾げた司祭が何か言おうとしたところで、おにぎりを受け取った受験者達が次々に押し寄せる。


 早く退けと言う何十もの視線を背中に感じたリョウは眉を動かすと鍋の前から離れ、ギルガメシュのところに戻った。


 あとは発表を待つだけとなって、受験者達も緊張が抜けているのだろう。


 マーカスを始めとした数名の騎士達が持ち込んでくれた、組み立て式のテーブルや椅子についた彼らは、元気を取り戻した様子で今日の試験を振り返っているようだ。


「受かりそうか?」

「試合は勝ったが、あいつらと比べられるとなぁ……」


「魔剣良いなぁ、俺も欲しいなぁ」

「やめとけやめとけ、お前じゃ振り回されるのがオチだよ」


「なんでギルガメシュがあんなに強いんだよ。もしかして替え玉じゃないのか?」

「さすがにブルーシップ様の目は誤魔化せないだろう」

「じゃあどうやって? もとから強かっただなんてもっと信じられないぞ」

「そうだなぁ。……あの男に教わったとか?」


「いろんな武器があるんだな。あのトンファーとか言うのに当たっていたら苦労したかもしれない」

「あいつら、ほとんど武器使ってなかったじゃないか」


 ただその話題のほとんどが、リョウと鬼丸、ダミアンとギルガメシュの試合だったので、熱いスープを啜っていた二人は顔を見合わせると苦笑いを浮かべてしまう。


「あああ、エンサイド司祭があぁ!」

「行ってしまわれたぁぁぁ!!」


 悲壮感丸出しの声が響いて来たので見てみれば、どうやら司祭はスープの配膳をメイドに任せておにぎりの方に行ってしまったようだ。


 貴族平民によらず優しく接しているとは言え、そもそも彼女は貴族の娘で宮廷司祭の一人なのである。


 神殿主催で貧民に炊き出しを行うこともあるそうだが、少なくとも城ではこんなメイドのような真似をすること自体が珍しい、というかおそらく初めてであろう。


 そんな彼女がほとんど残っていないおにぎりをちらちらと見ているので、時間も遅いし早く片付けたいのだろうと壁際を離れたリョウ達もいただく事にする。


「んー」


 リョウの順番になった時には残り十個程度まで減っていた。


 どれを選ぶかと一瞬考えた彼は角の方に列んでいる、まるで小さな手で頑張って握ったかのように不格好で大きい四つを左右の手で二つずつつかみ取る。


「鬼丸、帰っちゃったしな」


 トレーの前にいたメイドも残りの人数をちらりと見て足りることを確認していたし、受験者も一つしか取らなかった者、三つ取った者などがいるので別に問題にはならないだろう。


 早速右手の一つにかぶりついてみれば、ちょうど良い具合に塩がきいていて美味しかった。


「うまい」


 ―――呟きを聞きつけたエンサイド司祭の顔が、にぱっとほころんだ理由は語るまでもない。


             ◇



 短いようで長い数分が過ぎた。


 ようやく面接部屋から現れた団長達に視線が集まり、ざわついていた鍛錬の間がしんと静まりかえる。


「それでは、今年合格した新しい騎士を、各配属団長より発表していただきます!」


 最初に壇上に上がったブライアンが咳払いをすると受験者の緊張は否応なしに高まった。


 ギルガメシュも固唾を呑んで自分の名を呼ばれるのを今か今かと待ちわびて。


(父上……!)


「第一騎士団に配属になる五名を発表する。アトゥム南町のアーニー、並びにオットー。ヤンシュルのロン。アトゥム東町のヘクトール=G=フィッツ、並びにグイン=Y=ブガット。以上五名を合格とし、明日より見習いとして所属させるものとする」


「よっしゃあ!! 兄弟揃って合格だ!」

「しかも第一騎士団だなんて最高だぜ!」


 だが。

 拳を握りしめ、何かを我慢している様子のブライアンが読み上げた五名の中に彼らの名前は含まれていなかったのである。


「えっ……えええっ!?」

「あれ? まさか別の団長に取られたとか?」


 いくら何でも落ちてはいないだろうと顔を見合わせた二人は団長達がどのような優先度で合格者を選ぶのか知らないので、最悪ポールの団に配属される可能性も否めなくなってきた。


「第二騎士団に配属になる五名を発表する。王都のダミアン=K=マッセ、並びにジョリクール=ウモンヌ、並びにウンドラ=P=エリエール、並びにパスカル=ヘインツ、並びにコリー=ダッグ。以上五名を合格とし、明日より見習いとして所属させるものとする」


 しかし、推薦した鬼丸=火群が筆記試験を白紙回答したうえに面接を放棄した事で問責となり、三ヶ月の減俸となったポールの団にも二人は含まれていない。


「……ポールのところではなかったな」

「最悪の事態にはならなかったが、これ以降は地方警備隊だよな。アトゥムを離れる事になるか」


 第二騎士団に配属になるぐらいなら辞退するつもりだった二人は、何とか最悪の事態は免れたと安堵の吐息を吐きだしてしまう。


 ところが、続いて発表された第三騎士団の五名から第六騎士団の五名までの合計二十名の中に、結局彼らは含まれていなかったのである。


「あれ……? どこにも呼ばれなかった?」

「そんな馬鹿な。こいつは参ったな……」


 確かに面接に残ったのは四十余名、合格者は三十名。

 全員が全員合格できるわけではない、と計算上では分かっていたのだが。


 合格者もほかの不合格者も意外そうにしており、やっぱり替え玉だったんじゃないかとあざ笑う少年もいた。

  

「どうしてだ……! 僕もリョウも頑張ったじゃないか……」

「何か裏がありそうだ、ブライアン様に確認しよう」


 ギルガメシュはなにも落ち度は無かったはずと拳を震わせており、自分も納得できなかったリョウは彼の背を押して壁際のブライアンのところに向かう。


 すると、眉間にしわを寄せっぱなしのブライアンが来るなと首を振ったところで、親衛騎士団長のギルモア=U=ブルーシップが壇に上がってさらりと言ったのである。


「ああ、それから。今年は特例としてリョウ=D=イグザート君とギルガメシュ=V=フォレスト君の両名を、親衛騎士見習いとして一角獣騎士団に入団させます」


 とんでもない内容に、室内がどよめきで満たされるまでに数瞬あった。


「凄いな! 募集試験から直接親衛騎士になった人なんて今までいないんじゃないか!?」

「同じ新人として比べられるなんてまっぴらごめんだからな。さっさと上に行ってくれて有り難いさ」


「そんな!? 出来損ないが親衛騎士!?」

「まぁ、あんなのに枠を潰されるよりマシだよ」


 ずっと我慢していたのだろう。

 ブライアンがやっと遠慮のない笑顔を浮かべたので、ようやくリョウも何が起きたのか理解したが、ギルガメシュは頭の処理が追いつかないようで立ち尽くしている。


「げ、げ、幻聴が聞こえた! リョウ、僕はもう駄目みたいだ!」


「合格者は各団長の下へ集合! 今年受からなかった者も諦めずにまた来年挑戦してくれたまえ! これにて、九十二年度騎士募集試験を終了とする! 解散ッ!」


 九時間超に及ぶ長い試験も終わった。


 疲れ果てた身体を引きずって去る者、合格に歓喜して騎士団長の下へ走る者もいる中、荷物をまとめて帰ろうとするギルガメシュを引き留めたリョウは、予想外の事にはまだ弱いと思いつつ説明を試みる。


「よし解散だッ! 帰るッ!」

「待て待て、落ち着いて頭で処理するんだ。ギルは特例で親衛騎士に合格したんだ。分かったか?」


「君ならともかく、僕が親衛騎士に合格するわけないだろう」

「いいえ、そんな事はありません」


 冗談はやめてくれと理解を嫌がった瞬間にギルモアが現れた。


 丁寧な口調に潜む圧力を敏感に感じ取ったギルガメシュは、反射的に背筋を伸ばすと父と同期と聞いたことのある男性を振り返る。


「し、しかしブルーシップ卿! 親衛騎士団は、手柄を上げた者や技量の優れた者が集まる場所のはずです! リョウはともかく私などが入れるとは思えません!」


「君達なら他の騎士団に一度入ったところで、すぐこちらに来る事になるでしょう。わかりきっているのに二名の欠員を出す事もありません」


 騎士団はなんらかの理由で欠員がでても、春の昇級に合わせた衛兵からの推挙以外には、この募集試験以外に人員を補充する場が存在しない。


 変に入り口を増やすと悪意のある者が紛れ込みやすくなるからだが、つまりそれは遅くとも一年以内に親衛騎士に推挙されるという、確信や期待がこめられてのことだとギルモアは言ったのだ。


「あなたたち二人は各騎士団でひっぱりだこでしてね。収拾がつかないので私が引き取ることにしたのです」


 ちなみにギルガメシュは第一、第三、第五、第六の団長が指名し、リョウに至っては全員が指名した。


 地方の団長たちは自分達の防衛する地域の重要性を唱え、有望な若手を取ってくることは、そこに住む貴族からの強い要望でもあると繰り返し、果てには昨年そちらは誰を取っただの、一昨年は誰を取ったから今年は自重するべきだの、過去に遡ってまでのやり取りが行われたのだ。


 ポールはただ一言、強い者が欲しいのは同じと言っただけで真意は分からない。


 ブライアンがわざと場をかき回していると、喧々囂々のやり取りの末に察したギルモアがリョウ君はうちで引き取りましょうと言ったのだが。

 面接の回答を思い出し、根無し草にはおもりが必要だろうとギルガメシュも貰う事にしたのである。


 もちろん彼にも光る物を感じており、一年は言い過ぎとしても数年で推挙されてくるのを簡単に予想できたのも確かだ。


「ギルガメシュ君については、かなりフォレスト卿に渋られましたがね」


「こ、光栄でありますっ!」

「ご期待に添えるよう、精進します」


 父も自分を選んでくれていた。

 それが分かって嬉しいギルガメシュは大きく返事をし、隣のリョウも期待されているんだなと言葉を返す。


「取りあえずこの記章を渡しておきましょう。これを付けていれば、城の大体のところへは自由に出入りできるようになります。入城手続きも不要ですよ」


 そう言ったギルモアは自分の胸にあった水晶の記章をリョウに渡し、もう一つを懐から取り出してギルガメシュに握らせた。


 騎士の家柄に生まれた彼にとって騎士は夢であり、親衛騎士は夢のまた夢だった。


 その到底実現しそうもない憧れが、一角獣(ユニコーン)を象った、白水晶で作られている四センチほどの記章が、見た目ではない重さを伴って手の中で輝いている。


「あ……ありがとう、ございます。……夢みたい、です」

「もう遅いですね。今日は家に帰って荷造りし、明日十時にまた城に来なさい」


「荷造りですか?」

「そうです。私達親衛騎士は城での生活が必須です」


(城で生活、か。いよいよ慣れなきゃだな……)


 城に住むと言うことが、大貴族も羨む待遇であることは王都の国民なら半ば常識と言っても過言ではない。


 少年がそれを喜ぶどころか微妙に避けたそうな表情をしているので、価値観の違いを感じたギルモアはやはり重しを作っておいて良かったと思った。


「明日、他の団員に君達を紹介しましょう。本日はこれで終わりです、ご苦労様でした」


「はっ! 失礼します!」

「失礼します!」


 それで団長と別れた二人は鍛錬の間を出たのだが、廊下に出るなりギルガメシュがぺたりと座り込んでしまう。


「夢じゃないよな? 騎士になれた上に、親衛騎士に選ばれるなんて……」


「喜べ、現実だ。最高の結果じゃないか」

「何かあるんじゃないかと勘ぐってしまうよ」


「ブライアン様もご存じだし大丈夫だろう。とにかく帰ろうぜ、早く家族の皆さんにも報告しないと」

「そ、そうだな」


 結果を心待ちにしているはずだと言われ、なんとか立ち上がったギルガメシュは歩き出したのだが。


「ギル、階段、階段! そっちじゃないって! 壕に落ちないように……って危ない!」


 地に足がついておらず夢見心地で転びそうになるわ、壁にぶつかりそうになるわ、壕に落ちそうになるわで、結局冷静なリョウが腕を引っ張って帰る事となった。

次回で第三節は終わり予定です(´・ω・`)

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