表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
30/111

第三節 避けられなかった戦いは⑧

段落の都合上少々短めです(´・ω・`)

7/8 誤字修正

4/15 推敲

「ありがとうございました! ギルガメシュ=V=フォレスト、失礼いたします!」

 

 鬼丸が部屋を出て十分も経っただろうか。

 面節室の前で一礼したギルガメシュが興奮に顔を赤くしながらリョウのところへ戻ってきた。


「な、中に親衛騎士団長のギルモア様までいらっしゃった! 色々聞かれてしまったよ!」


「で、どうだったんだ?」

「緊張して上手く話せなかったが、僕が水月斬を使った事をご存じだったよ」


 褒められでもしたのだろうか、興奮冷めやらぬ様子で足をじたばたさせるギルガメシュはかなり良い手応えを感じた様子である。


 まんざらでもなさそうな彼の肩をお疲れ様と叩いたところで今度はリョウの名前が呼ばれた。


「リョウ! リョウ=D=イグザート! 速やかに面接会場へ入りなさい!」


「おっと。行ってくる」

「頑張れ!」


 ギルガメシュに手で応え、面接部屋に入ると七人の騎士が居た。


 ブライアンとポールはもちろん知った顔であるものの、他は今日初めて見た顔ぶればかり。


「失礼いたします。リョウ=D=イグザートです、宜しくお願いします」

「ようこそ。そこの椅子に座り、楽にしてくれたまえ」


(……随分ピリピリしてるな)


 勧められた椅子に座ってそれとなく全員の顔を確認すると。


 ギルガメシュの時からか、自分の番になってからかは分からないが、団長達の間に妙な緊張が満ちていると分かった。


(ずいぶん恵まれた体格をしている。戦士に向いているな)

(筆記試験も、国内関連以外は完璧。なるほど、冒険者であればその傾向は納得できる、が……)

(最高得点者が国外から来た冒険者というのは嘆かわしい限りであるな)


 椅子に座り直す者、腕を組んで息を吐き出す者、咳払いをして、自分を落ち着けようとする者。


 彼らは現れた少年の纏う雰囲気に圧されぬよう、平静を保つ努力をしていたのである。


 やがて、手元の推薦状と試験結果から視線を動かした一人が口火を切った。


「すばらしい試合を見せてもらった。三神の霊刀相手にひけを取らぬ超一流、と言わざるを得ない。その若さで非常に驚きだが……師匠はいったい誰なんだね?」

「私の師は父です」


「失礼だが、父の名は?」

「ハスラムです。ハスラム=D=イグザートといいました」


 リョウ自身、己がどのような力を持っているかは理解していたので、まずはそこに突っ込んでくるかと慣れた様子で答えた。


 ここまでは、今までも良くあったやり取りだったが。


「ハスラムとな。まさかあの、剣神ハスラムかね?」


 次の、いかにも用意してあったような台詞に、一瞬意味を測りかねた彼は面食らった様子でこめかみに手を当てる。


(―――剣神!? 親父からはそんな話、聞いた事ないが……)


 なお、身内か同門対決だったらしいという事もあって剣聖ウェンダートに勝利した者の話はあまりおおっぴらになっていなかった。


 そのためか、ブライアン達のように良い指南役を探して情報を集めていた者のみが把握していた程度なので、リョウのように存在すら知らなかった者がほとんどなのである。


「父からそのような話を聞いたことはありません。恥ずかしながら剣神ハスラムの名も初耳です」

「ふむ」


「自分のことや昔のことを話さない人でした。私が十五の時に亡くなったため、確かめることもできません」


 淡々と答える少年には剣神の息子だという驕りどころか、誇りすら無いようだった。


 本人でも他人でも関係ないという平常さを失わない様子に数名の団長がううむと唸る。


 反応に困った大人達が沈黙して十数秒、中央に位置する品格のある騎士が口を開く。


「それではあなたに尋ねます。何故、騎士になろうと思ったのですか? 何故、それはギュメレリー王国だったのですか?」

「私は……」


 根源となる問いかけに、リョウは珍しく本当の事を言うか、適当にそれらしい事を言うかで悩んだ。


 自分自身、騎士の道を選ぶ理由が、強く明確な想いによるものでは無いという自覚があったのかもしれない。


 だが、嘘で取り繕うぐらいなら沈黙が良い。

 口を開くなら、心から思う事を言葉にしなければならない。


 いつだってそうして生きてきたと心の内を吐露する事に決める。


「私は、物心つく前からずっと父について各地を旅する冒険者でした。それは父が亡くなった後も一人で続けていたのですが、特にあてや目的があるわけではありません」


 そうなのだ。

 彼の父ハスラムは、傍目には異常なほどの厳しい教育を息子に施してあらゆる知識や技術を授けたのだが、それが何故を語らずして逝ってしまったのである。


「この年で一人の冒険者と言うのは、何かと不都合が多くて………自分の存在の軽さ、自分の言葉の軽さを嫌と言うほど思い知りました」


 惰性、と言うのかは分からないが、彼は父亡き後も旅を続けた。


 各地をさまよい、厄介ごとに首を突っ込み、父がいたときと同じように自らを鍛え、そして、他の冒険者のまねごとをしてみた。


 しかし掲示板や立て札を見て依頼を受けたいと言えば笑われる。


 事前の依頼受託が要らない怪物退治をこなして首を持ち帰れば、横取りや漁夫の利を疑われる。


 すべての宿屋の主人が慧眼だったり目が肥えているわけではない。


 むしろ、実力を隠すようにしている事もあって無謀で生意気な小僧にしか写らない。


 世間の風は、独り身の少年には冷たかったのである。


「いろいろなことがありました。護りたい人を守れず、約束を違え、力不足を痛感しました」


(この腕で力不足だと? なんの冗談だ)


 第六騎士団長は耳を疑ったが、握った拳に視線をやる少年に浮かんでいたのは紛う事なき苦悩の表情だ。


 彼は(シズカ)を失った後、逃げるように三神国を出ながらも、未練からか国境の町ナイゴンに半年も滞在していたのである。


「……自分に何ができるのか、自分はどこへ行けばいいのか。そう迷いながらアトゥムへ来ていました」


(名声の足りない英雄候補、ですか。これはとんでもない拾いものですね。しかも、すでに挫折を知っている様子……)


 若くして強い力を得た者にありがちな、強さに眩んだ慢心や高慢、堕落の欠片もない。


 試合を見た感じではその強さをひけらかしたり、他人との差を自覚して無意味な混乱を呼び込まないように気をつけている。


 そして、挫折により折れた心が暗い感情に支配されている様子もない。


 それが分かったギルモアは、目の前の少年がギュメレリー史上でも類を見ない大当たりである確信を得た。


「そこで大切な友達ができました。私にできることがありました。その友達の見ている夢を、自分も見てみたくなったのです」


(ギルガメシュよ。もう一度だけで良い、リョウと出会った幸運に感謝するのだ。悲しみを知り、苦しみを耐え、それでも気高く前を向くこの男に、私は風に向かって立つ獅子王を見たぞ)


 ギルモアの隣に座っていたブライアンも、リョウの静かな告白に、彼が心の内に傷を隠している事を感じ取って驚きを隠せないでいる。


 しかし、同時に。

 彼が、自己実現欲求を探す間に傷つき、親愛を求めるようになってしまったのではと感じた。



 ―――ブライアンが大学で読んだ書物の中に、人にはいくつかの段階的欲求があると記すものがあった。


 その説が正しいとするならばまず食欲や睡眠欲といった、生きていくために必要な生理的欲求。


 次に、安全に暮らしたいという安全欲求。


 それらが満たされると仲間や恋人が欲しくなる親和欲求が生まれ、仲間や恋人ができるとその中で特別な存在だと認められたくなる承認欲求に繋がる。


 最後に人は自分の能力を高めたり、自分の存在価値を見いだす自己実現欲求に行き着くとされていたが、リョウはそれを探すうちに、そもそも自分には他の欲求が欠けていたとを本能的に察したのかもしれない。




(少々いびつ(・・・)だが、それも特異な育ちや強大な力ゆえ、であろう)


 力と金を持たされて、指示もなく広い世界にただ一人放り出された時、自分ならどうするだろうか。


 分からんな、とブライアンが自問の即答を避けたところでギルモアが大きく頷いて言った。


「友を思って、ですか。騎士にふさわしい、素晴らしい答えでした」


「君には家族は残っていないのかね? どこかに定住した事は?」

「家族は父しか居ませんでした。母はとっくの昔に亡くなったのだと思います、記憶にありません。住まいも、旅をしている覚えしかありません」


 第五騎士団長に、天涯孤独の風来坊ですと答えた他には趣味や特技など他愛もない事を二、三聞かれただけ。


 結局、他の受験者の半分程度の時間でリョウの面接は終わってしまった。


 もはや尋ねる意味はない。

 この少年を取らずして他の誰を採れというのか。


 会話はなかったが、それが騎士団長達の総意となったのである。


「そうか。面接はこれで終わりだ、お疲れ様」

「ありがとうございました。リョウ=D=イグザート、これにて失礼いたします」


 こんなもので良いのかなと部屋を出たところで、待ち構えていたギルガメシュが具合を聞いてきた。


「どうだった!?」

「まぁ、あんなもんだろう」


 時間が短かったのはリョウだからだろうし問題はないか、と納得した彼は次いで、矢継ぎ早にこれからの事を言い出した。


「君はどこに住むつもりなんだ、騎士団の寄宿舎か? 金があるのだからうちの近所に部屋を借りても良いんじゃないか、リイナも喜ぶと思う」

「気が早くないか? ……そうだな、集団部屋は慣れないし、しばらくは宿暮らしかな」


 彼の中ではすでに自分とリョウは第一騎士団に合格しており、明日からの見習い生活に希望を馳せているのだろう。


「でも、フォレスト家の近くって高級な宿ばっかりだよなあ」


「君もそう言うのに慣れなくては。見習いを卒業したら授爵して貴族になるんだぞ」

「ど、努力はする」


「お金があるなら屋敷を買ってしまってもいいんじゃないか。いや、新人がいきなり豪邸を買うと先輩方になにか言われるか?」

「気が早いよ。しばらくは宿で勘弁してくれ」


 冒険者暮らしが本当に長かったんだ、と呟いて壁際の椅子に腰を下ろしたリョウは、合格発表までの間にこの国と町の事をもう少し聞いておく事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ