表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
29/111

第三節 避けられなかった戦いは⑦

過去のトラウマ回想有(´・ω・`)

7/11 設定ミス修正

4/15 推敲

「酷い目にあった」

「受験者もだけど、重傷者を回復してた司祭さんが気の毒だったなぁ。精神力を使い果たしてふらふらになってた」


 大勢の受験者とちょび髭の団長を巻き込んだ大混乱の後。


 試合場近くで見ていたため、決して軽くない火傷を負ったギルガメシュに無傷のリョウが言った。


 幸い神聖魔法はちりちりになった髪も元に戻してくれ、軽傷者は他にもう二人居る宮廷司祭の待機部屋に向かうか、ベア師の手当を受けたのだが。


「んふふ~、若いコの身体ってみずみずしくてイイわねぇ」

「ひぃ…!」


 腕は確かなのだが、くねくねなお姉言葉の髭中年に診断と称して余計なところまで触られた受験者の心には、少々の傷が残ったかも知れない。


 また、軽傷のくせに貴族の強権でエンサイド司祭に癒して貰った者達のせいで、彼女の消耗が余計に膨れあがっていたりした。


 そんなこんなで鍛錬の間が落ち着きを取り戻してから一回戦が終わり、二回戦も終わり。


 リョウの相手を含め途中で逃げ出した者も多く、いくつかの試合が省略された試験をギルガメシュは余裕で勝ち抜けている。


「では、名前を呼ばれた者から順に面接室へ行くように!」


 筆記試験の採点も終わり、最終選考に残った四十余名の中には二人の名前が入っていた。


 ちなみに勝ち抜け以外で含まれていたのはダミアンと鬼丸のみであり、発表された時はほかの受験生から複雑そうなつぶやきが漏れている。


「ここまで来れば一安心だな」


 独り言を言いながらもギルガメシュは少し緊張していた。


 筆記試験はそれなりだが、実技試験は改心の出来だと自負できる。


 礼儀作法は普通にできるはずだから、あとはポールの物言いには気をつけよう、と気合いを入れたところで自分の名が告げられた。


「次、ギルガメシュ=V=フォレスト!」


「行ってくる!」

「ああ、落ち着いてな」


 ダミアンに勝利して実戦試験を突破した事が自信に繋がり、鬼丸とリョウの試合が慢心の芽を摘んだのだろう。


 良い表情で面接部屋に向かった彼をリョウは不安のない笑顔で見送った。


             ◇


「おい、リョウ」


 そろそろ呼ばれるだろうと面接部屋の入り口横に立っていたら、廊下の方から声をかけられた。


 振り返ってみると鍛錬の間の入り口で手招きしているのは、先ほど丸焼きにされたはずの鬼丸で。


「ちょっと良いか。帰る前に話がしてぇ」

「火傷の具合は大丈夫なのか?」


「あんなの屁のカッパよ、って俺のことはいいんだよ。あんた、半年前にミツカミに居なかったか?」

「居た、と言ったら?」


 濁らせた回答にやっぱりな、と得心した彼はそりゃあかなわねぇわけだと腕を組む。


「―――聞いたぜ? ガキの癖におっそろしく強い冒険者が三つの試練を制覇したってな。そいつは黒髪で背が高く、とんでもねぇ両手剣を振り回していたそうだ」


 半年ほど前に三神国で広まった噂話を聞くなり、表情を強ばらせたリョウは壁の方を向いた。


「何の事か分からない」

「オイオイ、隠さなくてもいいだろ? 白沢の姫様を助けるためにやったらしいじゃねーか」


「俺は誰も助けちゃいない。人違いだ」

「ほー? んならあそこの殿様が妹を諦めて、別の女を娶ったって話にも興味はねーな?」


「…………」


 護国三家が近親を繰り返しているのは何百年も続く話であり、三神に住む者ならほぼ常識になっている。


 そんな姫様を横取りするからにはすごい奴だと認めさせる必要があり、そのために冒険者は試練を突破したと言うのが鬼丸の聞いた噂話の一つだった。


 とはいえ、こんな近所で試験なんて受けているからにはもう姫様と一緒にいないのだろう。


 そこに興味のない鬼丸は、別の噂話にあったように姫の思い人は別に居て、雇われただけだったのかもしんねぇと思うことにした。


「まぁ良いさ。俺はこれでとんずらするんでな、後はポールとよろしくやってくれや」


 純粋な剣の腕だけでは絶対に超えられないとされる三神の試練の突破者であれば、霊刀のあの反応も納得できる。


 それだけを知りたかった彼は強者に対する敬服の証か、依頼人とも取れる名を出すとせいせいした様子で鍛錬の間を出て行った。


 一方、残されたリョウは壁を向いたままじっと肩を震わせている。


 記憶に抱える苦しみが堰を切ったようにあふれ出し、普段は絶対に誰にも見せない表情が出てしまいそうになって、強く両手で顔を押さえ込む。


(俺は誰も助けちゃいない。……助ける事が出来なかったんだ―――)


         ◇   ◇   ◇


 八ヶ谷を離れたリョウと(シズカ)は時に追っ手をまき、時にぶつかりながら賢者の石の情報を探し回っていたのだが。


 最初の満月の夜の事である。

 寝ていたはずの静が苦しみだしたので起こしてやったリョウは、彼女の右腕が白牛の前足に変化していく瞬間を見た。


「静さん、その腕―――!」

「み、見ないでほしいのじゃ」


 震えながら毛布で隠した静は、熱も出ているのか不自然なほど汗をにじませており、紺青だったはずの瞳の色も赤く変色している。


「大丈夫じゃ、大丈夫……」


 まるで自分に言い聞かせるように呟く彼女であるが、ミシミシと音を立てて変化する腕は肘を超えて上腕にまで達しようとしていた。


「痛いのですか?」

「痛くはない。ただ、妾が妾で無くなっていくように感じられて怖いのじゃ」


 回を追うごとに進行が進んでいることを目の当たりにした静は唇を噛んで俯いていたが、隣に膝をついたリョウが霊薬の小瓶を差し出す。


「これを飲んでみてください、治療の霊薬(ポーション)です」

「司祭の治療の奇跡(キュアー・ディジーズ)も効果はなかったのじゃ」


「念のためですよ。もしかしたら進行を遅らせられるかもしれませんし」


 言われた静は差し出された霊薬を飲み干したのだが、身体が薬効の光に包まれても前足に変化は現れない。


「やはり、駄目じゃ……」

「うーん、安物じゃ駄目みたいですね。明日、解毒の霊薬も試してみましょう」


 気を落とすことはありません、と優しく背中を撫でたリョウは内心訝しんでいた。


 安物なんて方便もいいところ、彼が出したのは治癒の最高級品ともいえる、末期黒死病や屍人化進行も癒せるほどの霊薬だった。


 値段で言えば平民が聞いたら助かるより死んだ方がましだと思えるほどのものである。


 あまりに効果が強く、続いて劇毒も解毒できるような強い霊薬を飲ませると中毒症状がでてしまうので、明日にしようといったのはそう言う訳なのだ。


(獣身症のような感染症なら、いまのでまったく変化が見られないなんてあるのか?)


 これが、彼女の症状に対する最初の違和感だった。


         ◇   ◇   ◇


 どうやら毒物によるものでもなかったようで、二度目の満月の夜には右腕が肩まで、左腕は肘まで変化した。


 繰り返される御三家との摩擦、お庭番衆や雇われたものとの戦いを繰り返し、静の言葉遣いや彼女との関係が少しずつ変わっていく中。


「大丈夫、必ず賢者の石は手に入れます。約束しますよ」

「ありがとう、リョウ。頼りにさせてもらう」


 絶対にこの人を助けてみせる、と決意したリョウは激しい戦いや困難な試練の末、三つの試練を突破してとうとう賢者の石を手に入れた。


 それは霊獣の頂点とも呼べる存在黄龍(オウリュウ)の力の結晶で、これを持つ者は封印された神刀を試練場から持ち出せるようになるというが。


(霊獣白沢(ハクタク)白沢(シラサワ)家。麒麟(キリン)麒麟(キリン)家。鳳凰(ホウオウ)(オオトリ)家。この符号は……)


 白沢家の試練で現れた霊獣白沢(ハクタク)が白い牛の身体に人面と複数の赤目を持った存在で、その姿が次第に進行が進んでいく静の姿に似ていたのも彼の違和感を強めていく。


 とりあえず土天宮の近くに戻り、明日、静に石を手に入れてくるように言った異国の学者と会うことになった。


 変化の頻度と進み具合に不安定になっていた静が、賢者の石を持っていると安心できると言うので、持たせたまま休んだその翌日。 


 朝、彼女の部屋を訪れてみるともぬけのからで、『普通の町娘になってくる』という書き置きだけが残されていたのである。


「静さん!? 一人で学者に会いに行ったのか!?」


 驚いたリョウは学者の屋敷に乗り込んだのだが、そこは完全に引き上げられたあとで、人が滞在していた痕跡すら見あたらない。


 何かの罠だと察した彼は、町に戻ると静の風体から目撃情報を集め、肩に(カラス)を乗せた静らしき女性が、土天宮の北西にある火山に向かったとの情報を得た。



         ◇   ◇   ◇


 火山の中腹にある洞窟の奥底。


 マグマだまりが海のように広がっている空間に、凄まじい熱気としゃがれ声の詠唱が満ちている。




「……本当に、使い魔の言った条件で完全に変化から解放してくれるのか?」


「本当ですとも。あなたもいつ再発するか分からない状況におびえるよりも、原因を根幹から取り除いた方が安心でしょう? ただし、相応の苦痛は覚悟していただきたい」


(リョウはきっと反対するだろうな。でも―――)


 別に私は最初の話でもかまいませんがと肩をすくめた学者に、ぐっと拳を握りしめた静ははっきりと言った。


「分かった。その申し出を受ける」




 そのようなやり取りがあったのが二時間ほど前か。


 詠唱の終わりとともに地面に描かれていた魔法陣が光を放つと、賢者の石の置かれていた中心から黒い煙のような腕が立ち上がる。


「これが、私の中の原因を抜き取ってくれるのだな?」

「覚悟の上でお進みなされ。呪いを呪いで無理矢理引きはがすようなものですからな、相当な苦痛を伴うはずです」


 瘴気のような禍々しさを感じさせる手を睨んだ静は、しばしの逡巡のあと魔法陣の中に踏み込んだ。


 贄を探すようにゆらりゆらりと揺れていた手は、獲物を見つけた狼のように鋭く静に襲いかかり、その胸を貫く。


「ぐっ……!」


 全身の神経を引きはがすような激痛のあと、ズボリと音を立てて引き抜かれた手が光り輝く何かを掴んでいた。


「これで、これでリョウ、お前と―――ぁああああっ!?」


 外傷はなかったが、魂のほとんどを持って行かれたような感覚の中、ドクンと身体が震え、四肢から感覚が消える。


 それが変化の前兆だと知っていた静がなぜ、と焦げ茶色のローブをまとった学者を振り返ると、フードの隙間から皺だらけの口角がニィとつり上がるのが見えた。


「ククク……白沢家の静姫、あなたは感染者などではない。護国三家は霊獣の血を引く一族であり、それが色濃く表れただけなのだからな。なにをしたって治るものではない」


「お前…私が白沢家の者だと―――」

「当然知っていたさ、そのために近づいたのだからな」


 脈動するように明滅する光に目を落とし、肩を振るわせているのは愉悦の笑みか。


 四肢はすでに変化し、胴体もめりめりと嫌な音を立てながら膨れ上がっていく。


 引き裂かれた衣の下からいくつもの赤い目が現れたのだが、そのすべてが狂気の光をたたえていた。


「だ、ました、の…か」

「心外だな。私は、変化に怯える必要を無くしてやると言ったはずだ。核を失って暴走してしまえば、そんな人間らしい感傷を持つこともなくなる。ただの獣風情になり果てるわけだからな」


「そん、ナ…」

「では、霊獣因子と賢者の石はありがたくいただいていこう」


 何かの魔法を使ったのか。

 男の姿はそこからかき消え、後には四つ足の獣が絶望して地に伏すだけだった。


         ◇   ◇   ◇


「静さん! どこだあああああっ!!! 罠だ、そいつの言うことに耳を貸して駄目だっ!!」


 むせかえるような熱気を貫き、洞窟を駆けた。


 溶岩の発する赤い光でぼんやりと明るい空間に飛び出すと、赤と茶色の二色の光景の中にぽつんと白い点が落ちている。


「静さん!!」

「ブモォォォォォ!!」


 白沢家の試験に現れた霊獣と同じ姿。


 人面の部分が(シズカ)なだけのそれは、接近者を感知して雄叫びを上げると凄まじい威圧を放ってくる。


「静さん!! 正気に戻ってくれ! 俺だ、リョウだ!!」


 しかし言葉は通じず、両腕を広げて完全に無抵抗の彼を、地面から立ち上がった岩塊が吹き飛ばした。


 立ち上がったところへの体当たりをまともにくらって十数メートルも転がった。


「静さん! 俺は敵じゃない!」

「ブルァァァ!!」


 鋭い角が、何度も、何度も何度も流白銀の鎧を削り、太股や上腕に突き刺さる。


 だが幾度となくはじき飛ばされ、蹴り飛ばされ、踏みつけられ、傷つけられても、リョウは一切抵抗しないまま呼びかけを続けた。


「静さんには夢があるんだろう!? 幸せな家庭を築いて、旦那にお帰りって言うんだろ!?」


 また突進を受けた彼は岩壁に叩き付けられてしまったのだが、そこを狙って地面が盛り上がり、壁と地面に挟み込まれてしまう。


 凄まじい圧力に魔法の板金鎧(プレート・メイル)がミシミシと悲鳴を上げた。


「静さ…ん!」


 このままではすり潰されるのが先か、追撃で致命傷を負うのが先か。


 いや、むしろ返り血で全身を赤く染めつつある静の方が、角がかけたり、ひびが入ったり、いくつかの目が死んだように白く濁ったりしており、良くない予兆をありありと示している。


 このままでは無為な共倒れも見えてきた時である。


 力を消耗したのが良かったのか、静の顔が残ったままの人面の瞳にわずかながら、理性の輝きがもどったのだ。


「リョ……ウ……」

「静さん! 俺だ、助けにきた!」


「モウ…手遅レ、ダ」

「手遅れだなんていうな! 俺が何とかしてみせる! 約束する! だからッ!」 


 圧力の止まった岩の隙間からなんとか這い出したリョウは、血の流れる足で一歩、一歩と、震えている静へと向かう。


 しかし彼女は、自分を引き戻してくれた全身の返り血と満身創痍の彼を見て、怯えるように一歩、また一歩と後ずさった。


「コレは、欲張っテしマった罰か……」

「罰なんてない! そんなもの、誰も与えようとしていない!」


「本当ハ薄々、自分は化物なノダと気づイてイた。ケレど、普通ノ人間になれタラもっト、一緒ニ、居られると―――」

「化け物なんかじゃない!! 静さんが望むならずっと一緒だ!」


「コウしてイる一秒一秒にモ、私はドンドン化物になっテイク。―――分カルンダ、次は戻れなイ。コレ以上、大切な人ヲ傷ツケたくナイ」

「何度でも俺が戻してやる! こんな傷、へっちゃらなんだ!」


 一歩でも近くにいたいのに。


 一秒でも早く追いついて、彼女を抱きしめたいのに。


 その悲しみと苦しみの全てを、自分が払ってやりたいのに。


 二人の距離は縮まらないまま、やがて終焉が訪れる。


「オ前ガ、引き戻シテくレタおカゲデ人としテ逝けル。ありガトウ。私ノ魂を救ってくレテ―――」


 背後に迫った、溶岩の海をちらりと見た視線。


 その諦観の眼差しに、彼女が何を思ったかを察ったリョウは悲鳴を上げた。


「頼む、やめてくれ!! 死んじまったら何にもならないじゃないか!!」

「命ハ失われテモ、魂マデ奴の思い通リにサレテなるモノか」


 その瞬間。

 彼女は間違いなく、もとの彼女だった。


「リョウ。今まで私の我が儘に付き合ってくれて本当にありがとう。……さようなら」

「静さ―――!!」


 血を流しすぎて身体に力が入らない。


 霊薬を飲んで回復してでも捕まえる、と踏み出しかけた少年の目の前で、最後に微笑んだ彼女は溶岩の海に消えていった。


         ◇   ◇   ◇


(俺は本当に、貴女の魂を救えたんだろうか)


 脳裏を暴れ回る三神(ミツカミ)国でのさまざまな光景を押さえつけようと、全身を震わせながらの深呼吸を三度。


 ようやくにして落ち着きを取り戻し、おそるおそる離した手のひらには少し濡れた跡があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ