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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第三節 避けられなかった戦いは④

4/9 推敲

 休憩時間も終わりに近づき、軽く体を動かしていた二人は最後に装備を確認している。


 筆記のまえに鎧を着込む必要はなかったなと苦笑いの彼らであったが、殆どの受験者がそうだったので目立ったと言うわけではなかった。


 いや、ミスリルの鎧を着ているリョウと、素早さが信条で防具らしい防具を装備しない―――三神で言う着流しの―――鬼丸は別の意味で目立っていたが。


「実技はギルが先だな」

「ああ。見ててくれ、僕はやってみせる!」


「魔剣を使いこなせば負けはない。難しく考える必要はないさ、血の通った腕の延長と考えればいい」

「腕の延長……」


「そうだ。すぐに切っ先にまで神経が通っていると感じられるようになる」

「わかった。じゃあ、行ってくる!」


 腕を組み、壁際に構えたリョウの言葉を受けて力強く頷いたギルガメシュは、試合場の側へ行くと武者震いを抑えるように魔剣の柄をぐっと握りしめる。


 ちょうどそのときだった。

 鍛錬の間の扉が開いたと思ったら、一人の女の子が入ってきて頭を下げたのである。


「済みません、遅くなりました」


 今年初受験の者の殆どが子供がなぜここにという疑問や、可愛い子だなという感想を含ませた視線を向けていると、二回目以上の受験生から今年もエンサイド司祭だと言う声が漏れる。


(えっ、この人が大けがをした時のために控えるという宮廷司祭さんなのか?)


 驚いたリョウがよくよく見れば確かにふんわりとした司祭の法衣を着ているし、稲穂を象った大地の女神の聖印を首からかけているのだが。


 大きい青紫(バイオレット)の瞳が印象的な童顔で、身長はおそらく百三十五センチ前後。


 肩の下まで伸ばされた銀髪は綺麗に切りそろえられており、リイナと同じぐらいの神学校生と言われても違和感はない。


 いや、一つだけ違和感があった。


 ぱたぱたと試験官の騎士に走り寄ったとき、法衣の下に隠れた胸部重装甲がたゆんたゆんと揺れたのである。

 残念ながら軽装甲のリイナではこうはならない。


「お疲れさまです、エンサイド司祭。今日はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 にっこり、と言うよりはにこーと微笑まれた試験官の頬が心なしかゆるんだように見受けられる。


 受験生の中にも試験中であること忘れ、子犬を愛でるようなほんわかした微笑みを浮かべている者もいた。


(うおおお、やっぱりぱたぱたさん可愛いな!)

(落ち着けアーニー、口が半開きになってるぞ)


「受験生の皆様、私は宮廷司祭のレオナ=G=エンサイドと申します。実技試験で怪我をされたらすぐ言ってくださいね」

「「「「はいっ!!」」」」


 自己紹介で頭を下げたらまた、ぷるんたゆんとなったのでうぶな少年たちは顔を赤くしながら直立不動で返事をしてしまう。


(あれが噂のエンサイド司祭か。あれで二十歳ぐらいだっていうから凄いな)

(俺、町の神殿でぱたぱたさんに怪我を治して貰ったことあるぜ!)

(なんだと羨ましい!)

(試合で怪我すれば治療してもらえるぜ?)

(負けと引き替えとか、神様は残酷すぎる!)

(ああ~、俺も癒されたいんじゃ~)


 自分は壁際で会釈したリョウが噂話に耳を傾けると、彼女は結構な有名人らしい。


 宮廷司祭として城に勤める傍らで町の神殿でも治療役を担っているらしく、受験生のなかには実際に神聖魔法をかけて貰った者も何人かいるようだ。


 『ぱたぱたさん』と言うのは、神殿と城を忙しく行き来する様子をよく見かける住民の間に広まった愛称のようで、あの軽い足音が理由と思われた。


「十四時より実技試験を開始する! 受験者は対戦表を確認し、呼ばれた者から試合場に上がるように! なお、怪我をした者はエンサイド司祭に癒してもらうこと!」


 今年、騎士募集試験の受験者は百八十名余りであったが、ギルガメシュもリョウも一回戦の出番はかなり早い。


 合格するのは三十名前後の狭き門、しかも一番重要視される実技が始まるとあって、筆記が出来た者も出来なかった者も険しい表情で準備を始めており、司祭が現れたときのほんわかした空気はすぐに緊張と熱気に払われていった。


 そして十四時十二分。


 今日は対面で開始線についての開始とあって、あっという間に決着がついてしまう試合が続き、いよいよギルガメシュの名が呼ばれる。


「続いて第三試合! ダミアン=K=マッセおよびギルガメシュ=V=フォレスト! 両名とも試合場へ!」


「フォレスト子爵家とマッセ男爵家の戦いだってよ」

「どうせ両方とも、勝っても負けても縁故で合格だろ? 今年は二名分席が少ないと思った方が良いな」


 周りの少年達も、さすがに騎士団長の息子である二人の名は知っているのだろう。


 色々囁き合っているとは言え、名門の跡継ぎ同士とあって注目の一戦である。


 自分達の準備を止めて試合場に注目し、室内の空気が緊張を増した。


(さぁ来いよ! すぐ殺してやる、切り刻んでやる!)


 ギルガメシュを殺せば己の恥辱が注がれるとでも思い込んだのだろうか。


 いち早く試合場に上がったダミアンは異常とも思えるほど暗い視線を隠そうともしていない。


 対照的に、相手の殺意にも無反応で試合場に上がったギルガメシュは長剣(ロング・ソード)を抜き放ち、その感触に嘆息していた。


(さすが魔剣だ。いきなり手に吸い付く……)


 ゆっくりと息を吸い込んで、一呼吸溜めてからはき出せば、鍔元の紅玉(ルビー)も呼吸に合わせるように光を明滅させる。


 リョウの剣のように向こうから合わせてくる感覚ではなかったが、集中すれば切っ先まで神経が通っているような一体感があったので、これならいけると雄々しく吼えた。


「ギルガメシュ=V=フォレスト! 参る!」


「始めッ!」

「くたばれ!!!」


 合図とともに、抑えきれなくなったダミアンが先手を取った。


 長剣を両手で握りしめ、脳天をかち割ろうと一気に間合いを詰める。


 その刹那、迫る凶刃を落ち着いて見極めたギルガメシュの脳裏に閃くものがあった。


 リョウがなぜ今日の日に、敢えて魔剣を持たせてくれたかの理由が分かったのだ。


(両手持ち、斬り下ろし―――ああ、そうか。『魔剣である事』も利用するんだな?)


 ならばと全身の集中を高めて柄を握り、自分の中心にある生命エネルギーを意識する。


 脈動する熱い力を込めた魔剣でダミアンの攻撃を受け止めれば、操気技術を備え、魔剣を使っている証拠―――青白いオーラの火花が試合場に舞った。


「魔剣だ!?」


 バチィと散った火花と、ある少年の驚きの声を切っ掛けにざわめきが鍛錬の間に満ちる。


「ほう……」


 審判の騎士も言葉を漏らし、少年達の羨望の眼差しがギルガメシュに集まっていく中。

 先程までの勢いは何処へやら、ダミアンまでも愕然とした表情で魔剣に目を奪われていた。


 特にこの年代の少年達にとって、魔剣は共通の憧れと言っても過言ではない。


 もちろんその一人であるダミアンはおねだりを執拗に繰り返し、今日の試験に勝ち騎士になったところで買ってもらう約束を取り付けたところだと言うのに。


「何故だ! どうしてお前がその剣を……!?」


 ギルガメシュがそれに先んじている事実がどうしても信じられず、魔剣を使う最低限の条件を備えている事が理解できず、二歩、三歩と後ずさった彼の精神状態はもうめちゃくちゃになっていた。


「今度はこちらから行くぞ!」


 ギルガメシュが攻撃に転じて試合が一気に加速し、その様子を見ていたギュメレリー王国北方警備部隊、つまり第三騎士団の団長が顎を撫でながら言った。


「フォレスト卿とマッセ卿のご子息でしたか。これは見物ですなぁ」

「二人ともあの年にして素晴らしい剣捌き。しかもギルガメシュ君は魔剣持ちとは。フォレスト卿、張り込みましたかな」


 その隣にはブライアンをちらりと見た第四騎士団長と、第五騎士団長、そして第六騎士団長も並んで座っている。


 彼らはそれぞれ北方警備、南方警備、そして東方警備の部隊を与る身であり、今日の試験のために王都までやってきたのだ。


「騎士達の噂によればダミアン君の方は剣技を使えるとか。これは早くも二人決まりですかな?」

「今回は剣匠火群のご子息、鬼丸君も居るのだろう。ここは三人と言うべきではないか」


 是非、我が団に入れたいところですなと第六騎士団長が言ったところで、じっと黙っていたブライアンが動く。


「ブルーシップ卿。お聞きの通り、今年は精鋭揃いの様子。もしかするといきなり貴方のところへ入団する少年がいるやも知れませんな」

「チッ」


 左隣のポールは不愉快そうに舌を鳴らすだけで何も言わなかった。

 ダミアンとギルガメシュの試合があまりに一方的でそれどころではないのだろう。


「あの二人程度ではまだまだと言わせて頂きましょう」


 ブライアンの右隣に座っていた、審査員の中でもひときわ存在感を放ち、胸に水晶で出来た一角獣の記章を付けた騎士。


 親衛騎士団長ギルモア=U=ブルーシップはそう言ったのだが、その実、ギルガメシュとダミアンの戦いを食い入る様に見つめていた。



 一方、試合中のダミアンは戸惑っていた。


 相手はあのリョウではなく、ひ弱なはずのギルガメシュなのに。


「くそっ!? どうなってるんだ! 何が起きてやがる!」


 それなのに、自分が押され気味である事を認めずにはいられなかったのである。


「当たれぇぇぇ!!」

「嫌と言うほど見てきたんだ、それは喰らわない!」


 ギルガメシュの重い斬り下ろしを何とか受けきり、魔剣の放つ火花に目を細めながら得意の三段攻撃を繰り出すも、左右からの袈裟斬りはその剣に阻まれ、最後の突きまであっさり避けられた。


「避けただと!?」

(―――危ない、避けるのが早すぎるところだった!)


 二人の精神状態や集中力に大差があるとは言え、リョウとの訓練に比べてダミアンの動きはなんと遅い事か。

 隙だらけであるし、攻撃も鋭いとは思えない。


(八割。いや、七割五分?―――七割、か?)


 あまりに想定と違うので逆に手間取ってしまったギルガメシュが、感覚を補正しつつ切り札の出しどころを悩んでいたら、大振りで無理矢理に距離を取ったダミアンが剣に気を込め始める。


「ハアアアアッ!」

(来る―――!)


 瞬間、ギルガメシュの中の歯車が一気に加速した。


 死線をくぐった時の記憶が鮮明によみがえり、全身の毛穴がぶあっと開く程の高まりを見せる。



 舞台の外でも、ただならぬ気配を感じた騎士団長達に緊張が走っていた。


「あの構えはオーラスマッシュですか。マッセ卿、良いご子息を持たれましたね」

「恐縮です」


 遠目から見切ったギルモアがダミアンを褒めるが、嫌な予感がしていたポールは大口を叩く事もできないでいる。


 また、側にいた少年達は団長らの話し声を聞きつけ、二人が自分達とは桁の違う受験者だと理解させられていた。


「聞いたかオットー、片方は魔剣持ちで片方は戦技使いらしいぞ?」

「だから跡継ぎ同士で試合してるのか、俺達に当てられても困るものな」


 あまり使い手を見ることのない、旋棍(トンファー)を腰にぶら下げた双子もそれなりに自信はあったのだが、ここまでレベルが違うと当たらなくて良かったと安堵の息を吐いてしまう。


 一方、詰めまでが見えたリョウの反対側。


 剣匠の息子もダミアンがあと数手で詰まされる事を予測して、自分の出番に備え始めていた。


「ああ、こりゃ駄目だな。時間かけすぎてバレバレだ」


 やがて、鬼丸の予想通りに終焉が訪れた。


 自分の勝利を信じる者が全力の刃を振り下ろし、絆により力を得た者がそれを見切って受け止める。


「喰らえぇェェェ!!」

(見える―――!)


 これまで最大の火花が散った瞬間。

 受け止められた手応えを感じ、九日前の嫌な記憶と、リョウに埋め込まれた恐怖がダミアンの身体を硬直させた。


「受けられ―――!?」


「ヤアアアッ!!」

「くそが! 嘗めんな!」


 そこへ、何度も見た斬り下ろしが迫ったので、体勢を崩しながらも受けて突き返そうと振り上げたダミアンの剣は、思いも寄らない下からの凄まじい攻撃に跳ね上げられてその手を離れてしまう。


 その場の数人しか何があったのか分からない中、ギィン、という金属音に続いてリョウの呟きが鍛錬の間に響いた。


「勝負、あった」


 次の瞬間、肯定するように乾いた音を立てて剣が床に転がり、我に返った審判の宣言が続く。


「それまで! 勝者、ギルガメシュ=V=フォレスト!」

「……勝った」


 室内の温度が一気に二度ほど上昇した。


「うおおぉぉ!? 今のなんだ!?」

「わかんねぇ!!」

「すげぇ! あいつ、出来損ないのギルガメシュだろ!? なんであんな強いんだ!?」


 興奮した少年達が声を張り上げる最中。


 避けられなかった戦いを制して大きく息を吐き出したギルガメシュは、こんどは残心を忘れずに剣を収めると、意外に疲労困憊の身体を引きずって試合場を後にする。


 後には何があったのか、自分が負けた事すら理解できないダミアンだけが残されていた。


「な、何で終わりなんだよ……まだ俺は負けてないぞ、まだ戦えるぞ! あ? なんで剣があんなところに転がってるんだ? ハハハ、おかしいぞ、俺はは負けていないのに、ハハハハ、アハハハ………」


 うつろな目でギルガメシュの背中と審判とを見比べてはぶつぶつと逃避していたのだが、やがて口の端からよだれをダラダラと垂らしながら気絶してしまったので、慌てた騎士達が部屋の外へと運んでいった。


「……役立たずがっ」


 ポールは息子であるはずの少年を冷淡に眺め、今度こそ利用価値がなくなったとばかりに吐き捨てている。


 対照的にブライアンは親友の下へ凱旋した息子を祝福していたのが、突然ギルモアから声をかけられたので、視線を戻してとんでもないと首を振った。


「……オーラスマッシュを見切って水月斬のカウンター。ご子息は剣の才能に恵まれているようですね」


「まだまだ若輩です、ブルーシップ卿。友には恵まれた様ですが、ね」


 つい十日前まで出来損ないと揶揄されていたはずなのに、親衛騎士団長に才能を誉められる未来がくるとはさすがのブライアンも想像ができなかった。


 ダミアンとの試合も宿命の対決だったはずなのに、蓋を開けてみれば噛ませ犬とのお遊戯会である。


 もちろん全部が全部、彼の力と言うわけではないだろう。


 しかし凝り固まった状況を打ち壊して新たな可能性を生み出すにはとてつもなく大きな力が必要なはずなのだ。


 言うなれば既成概念や状況に捕らわれない、常識の外に生きて、場の流れを変えてしまう存在。

 変革、発展、進化、成長を引き起こす者の(わざ)


(……転換者、とでも呼ぶべきか)


 納得してもう一度彼らに視線を向ければ、満面の笑みを湛えた息子が、待っていた親友と拳をごつんとぶつけ合ったところだった。


「リョウ、勝ったぞ! 君のおかげだっ!」

「良くやった、完璧だった」


 もはや他に言う事は無かった。


 魔剣の意味すら理解し、状況を動かす為に使って見せた彼は、リョウが用意した全ての手札をもっとも効果的に切って見せたのである。


「次は君の番だが、くれぐれも気をつけてくれ。さっきダミアンと一緒に居る奴を見たんだが、刀を持っているみたいだった」


 ギルガメシュは見慣れない武器が相手で大丈夫だろうかとだんだん心配になってきたのだが、そろそろ俺の番だと試合場を振り返ったリョウは余裕の表情で言ってのける。


「心配無用だ、ギル。必ず勝つと約束する」

「第六試合! リョウ=D=イグザート! 鬼丸=火群! 両名とも、試合場へ!」


 いよいよ、この日一番の戦いが―――



 一番、実力差のある戦いが始まろうとしていた。

次回は離れた場面から始まります。

いつもお読みくださってありがとうございます(´・ω・`)



7/9 ぱたぱたさんがさらに小さくなりました 約150cm→約135cm

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