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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
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第十節 継承と新生③

 花園では、衣服が揃って人心地のレオナを加えた主要な者達が、あちこちから大量に上がってくる報告をこまめに吟味していた。


 広いテーブルの上では羊皮紙や木簡のほか、口頭だったものを書き起こした紙など様々な媒体が行き交っており、回し読みする手が止まったところでリョウが口を開く。


「まとまって逃げ出す非正規小隊が現れた。そろそろ陽動を止めて何かがあったと思わせたい」


 出入りの数を確認していた盗賊ギルドによれば哨戒に出たまま戻らなかった部隊が少なくとも三小隊あるそうで、怪物との遭遇で壊滅したとは考えにくい。


 いよいよこちら側の変節を示唆する時期だと言うと、何人かの司祭が町から出ようとして捕まったという報告に目を通していたレオナが呟いた。


「神殿にも動揺が広がっているようです。できれば、もっと早く動いて欲しかったのですが……」


 ゼッドが死んだことで早期に聖地が動くと思い、少しでも処分を軽くしようと高司教から離れることを選んだのだろう。

 しかし変装もせずに駅馬車に乗っては自分の二の舞だと、複雑な表情の彼女は持っていた木簡を置いてリョウに向き直る。


「私は賛成です」

「理由が姫様の合流と思われる可能性は?」


 それだと恐れをなして逃げ出さないのでは、と心配するギルガメシュにリョウはにやりと笑って尋ね返した。


「上層部は候補の一つにするだろう。だが、俺たちが動かしたい大多数は頭にないはずだ。なぜだと思う?」

「……そうか! 第一騎士団が本当に反乱軍なら、姫様が合流するはずがない!」


 よくよく考えてみれば、国王代理を自称するワール公の発表を信じている者からすれば、ダイアナ公から逃げ出した王女が助けを求めるのは第二騎士団でなければならないのだ。


 事情を知らぬ者がほかに陽動停止の理由を探すなら、消耗して動けなくなったか戦力が増強されて作戦を見直すことになった、あたりが本命だろう。


「でもよー、姫様が騙されてるってことも考えられねーかー?」

「騙すのは誰だ? 誘拐犯と大々的に発表されたダイアナ公か? そこから救い出した誰かか?」


「リョウ君の言うように、公式発表された状況から姫様が御自ら反乱軍に合流する筋書きには無理が生じやすいな。ダイアナ公と我々が結託していたとしても、人質をここに移動させる意味がない」


 嘘を嘘で塗り固めるにも限界があると納得したカッツも陽動終了に異がない様子で、しばらく考え込んでいたアーレニウスは手を挙げて降参を示す。


「多少は考えっかもしんねーけど、大勢が流されりゃいーのか」

「そういうことだ」


 黒牙団と暁の傭兵団の被害を検分すれば魔法使いと戦士が居たことは分かるだろう。

 口封じに皆殺しにしたあとなにも仕込まなければ、反乱軍の仕業、つまり宮廷魔導師であるカッツと親衛騎士であるアーレニウスが犯人とされた可能性は高い。


 そこに割り込ませた虚像で攪乱を狙うリョウは、うーんと考え込んでいた王女が一段落したようなので意見を聞いてみた。


「システィーナもどうだ?」

「引き続き注視が必要だけど、今のところ期待した効果が現れていると思うわ。罠の可能性を忘れないようにしながら進めていいんじゃないかしら」


 こちらの目をごまかすために戦力を動かしている可能性もゼロではないだろう。

 気をつけると頷いた彼はゴライアス達にも確認してから手帳をめくると、二重丸をつけて本命としておいた作戦の説明を始めた。

 

「向こうの戦力を削ったら、今度はシスティーナが第一騎士団に合流して逆賊を討とうと準備しているという噂を流す」

「あえて真実を流すというのかね。狙いは―――」


 公式発表を覆すためではなさそうだな、と考え込むカッツ。

 その手が無意識にエリザベスを揉みしだいていると、指の間から溢れんばかりにぷるんぷるんと形を変えるスライムとレオナの胸を見比べたアーレニウスがにやにやと笑った。


 気がついてはいるものの、彼のすけべは神聖魔法でも直せないと諦めているレオナはいつも通り知らん顔で通そうとしたのだが。

 同じことを考えてしまったらしいギルガメシュは頬を赤くしているし、横目の王女が羨ましそうに見てくるしでため息を吐きたくなってしまう。


(取り替えられるものならすぐにでもお願いしたいぐらいなのですが。それにしても……)


 スライムと女の乳なら間違いなくスライムを選ぶであろうカッツはともかく、報告を手帳に書き写しているリョウもこれまで興味を示したことがない。


 ギルガメシュと仲がいいし、御令嬢からの大攻勢もどこ吹く風と受け流す少年に男色の気があるのでは、と一部のメイドが興奮していたことを知っていたレオナは、ベア師じゃあるまいしと首を振って腐った考えを追い払った。


(い、いまは重要な会議の場だからですよね? それか、小さい方が好みだとか。……って、こんな時になにを考えているんでしょう、私は……)


 三人の視線に引きずられている場合ではないと反省していると、カッツが分かったぞと声を上げる。


「住民の認識を覆したいのではなく、敵戦力を城に集中させたいのか」

「はい。いきなり王都内でやり合ったら住民を巻き込みかねません。戦いが起きそうだと外出を控えさせるのと同時に、ワール公には城で守りを固めてもらいます」


 肯定した彼が野次馬は自己責任かなと肩をすくめると、横道にそれていた頭を切り替えたアーレニウスが城攻めは厄介だぞとまともなことを言った。


「補給線を断つとかチンタラやるつもりはねーんだろー? 奇襲を捨てて身構えさせてどーすんだ、跳ね橋だって上がってんだろーに」


 明確な見通しを立てて主導権を握ることが重要なのは分かるが、強攻となると戦力の消耗は多大なものになるだろう。

 混乱を避けるために夜襲をかけたくても、正門の跳ね橋が上がっていて裏門から攻めることになるはずだ。


 撤退戦で裏庭に本命が待ちかまえていたように、狙いを絞られたら危険だという意見はもっともなのだが、リョウは常識的危惧を非常識力業で何とかしてしまうつもりらしい。


「そこはそれ、俺が先行して制御室を抑えておくさ」

「は? ……ま、おめーがやれるってんなら任せるわ」


 いい加減、彼のできるできないに突っ込んでいたらきりがないと学んだアーレニウスは、そんならいいやとぷらぷら手を振った。


 その場のほとんどの者が似たような反応なので、思考放棄の先駆者だったギルガメシュは思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「アルさんもだいぶ染まってきましたね」

「そりゃおめー、ヒジョーシキの塊相手に考えたって疲れるだけじゃんよ。だいたい、城に忍び込めるって平時なら大問題だぜー?」


「内通者がいるのが大きいんだ。これもブライアン様のおかげだよ」


 モニクの調査によれば、現在城に詰めている魔法使いはカッツの後釜として宮廷魔導師長となったビカルドただ一人。


 学院側はかたくなに中立を貫いているようで、冒険者や傭兵など外部の者を雇わない限り魔術に対する防衛は薄いとみていいだろう。

 ただ、外部の者を中枢に招き入れる危険性を犯すとは思えず、ワール公側は対応に苦慮するはずだ。


 頼みの綱のビカルドは繁華街通いがやめられないようで数日に一度は城を抜け出しており、行きつけの店でかつて以上に豪遊していることまで調べがついていた。


 当事者意識が低いのか、宮廷魔導師としての教育を受けていないせいなのかは分からないが、捕縛や監禁がやりやすいのでこちらとしては大助かりである。


(しかし、モニクさんも謎な人だよな。ブライアン様が連れてきたんだろうか?)


 白髪赤目でぱっと見分からないが、三神風の顔立ちをしている彼女がどういう経緯でブライアンの機密になったのか。


 折あらば聞いてみようと心に留めていたら、魔法で飛ぶ姿を見ていたギルガメシュがそういえばと首を傾げた。


「魔法でいくのか? 魔法使いがいるとマナの動きを感じ取られてしまうのだろう?」

「動きが分かっている一人なら余裕だ。そのうち人数を増やすかもしれないが考えはある」


 彼が覚えていたとおり、魔法が使われる時に起こるマナの動きはある程度離れた場所からでも感知できるのだが、魔法の武具はそれなりに近づかなければ分からない。


 それに数名増えたところで大丈夫だろうと考えるリョウの身体能力があれば、わざわざ魔法を使わなくとも闇に紛れて濠を飛び越え、城壁を登るくらいのことはできるのである。


 父親の登攀訓練で繰り返し登らされた、つるつるで反り返っている上によく滑る油を塗りたくられた壁に比べれば、積まれた岩など凸凹だらけで余裕だし、引っかかりがなくても短剣を突き刺したり壁面を蹴りつけて足場を作ればいい。


 修理が手間だったり崩落の可能性があるからやらないだけで、あの両手剣があれば城壁をくり抜くことだって容易であり、罠のない構造物で彼の侵入を阻むのはかなり難しいはずだ。


 そこまで簡単ではないだろうが、もともと濠や城壁が阻めるのは大多数の軍勢で、超一流の数名を防ぐのに適していないのは一般常識の範囲内と言える。


 そのための親衛騎士や宮廷魔導師の数が足りないワール公側は数で補う必要があり、第二の騎士が多数回されることになるだろう。


(それも、こちらの狙い通りだ)


 ぶつかり合うのが中庭ならば、こちらは周りを城壁に囲まれた不利な場所になる。


 高いところからの投射攻撃に対抗するため、大盾を持ち込むことは向こうも予想しているはず。

 次に取り得る現実的で効果的な策が魔符による一斉攻撃で、多数の魔導師や司祭がいなければ防ぐことはできないと考えるはずだ。


(しかし、正規騎士が王女を攻撃できるはずがない。正規小隊に中庭で足止めさせて、魔符を持たせた非正規が上か。……あと、替え玉の心配をしておいた方がいいな)


 バラック達が王女の生け捕りを命じられていたことも気に掛かる。

 救出したと発表してから洗脳か替え玉による主権委譲を狙っていたとしたら、正規騎士の離反を防ぐために使ってくることもあるだろう。


 または、反乱軍に加わった王女は偽物だ、魔法で姿を変えることなど造作もないと両方偽物扱いの可能性も考えられる。


 邪悪な魔法として研究も禁止されている洗脳はともかく、変化の魔法を使われる可能性を考慮したリョウは、敵の指揮官が現れそうなバルコニーの対応を、直前に連絡を取るつもりの桜花に頼むことにした。


(塔から行けるし、正面は桜花さんに頼もう。あとは上、だが……俺が行くしかないか)


 残る問題は城壁上の戦力か。


 魔符の一斉攻撃が効かなくて焦ったワール公達は、確実に王女を殺すため上位魔眼種を中庭に投入しかねない。


 それを防ぐには戦局を見極めてから迅速に突入しなければならないのだが、三方にずらっと残る連中を処理できる駒が自分しかいなさそうなのだ。


 時間を取られないように気をつけなければ、と手帳を閉じたリョウはテーブルの上の書類をひとまとめにすると、魔法の道具入れに突っ込んで解散を告げる。


「今日はこんなところだ。二日ほど様子を見つつ、詳細を詰めよう」


 ゴライアス以下、小隊長達が作戦室を出て行った後。

 会議のあとの雑談が恒例になりつつあった者達が黙っていると、残っている面々を見回したレオナがぽつりと言った。


「……ですが、リョウさんこそが復権の立役者だと気づく者もいるでしょうね」


 内部の全員が口裏を合わせ続けられるとは思えないし、王座を取り戻したシスティーナの治世が拙ければ、本当に王女の立案だったのかと疑問に思われる。

 その場合、支持が王女ではなく救国の英雄に集まってしまう可能性もあると心配になったのだが、さすがにまだ早いと笑われてしまった。


「ははは、その心配は城を取り戻してからでも遅くありませんよ」

「す、すみませんっ。もう勝った気になっていました」


 余裕がでてきたのは良いことです、と微笑んだリョウも一時的なのは分かっている。

 その間に王女は実績を作る必要があるが、勧誘したアマレットや皆で支えてくれればきっと大丈夫だろうと思えたからこその作戦でもあるのだ。


 するとアーレニウスが、すっげぇ名案思いついたわと膝を打った。


「そんときゃ、姫様と結婚しちまえばいいんじゃねー?」


 別に彼はブライアンの提唱したくっつけ作戦を知っていたわけではない。

 ただ、活躍しっぱなしのリョウを後輩や同僚として扱うのが面倒に―――もとい、難しく感じ始めていたのは確かだった。


 ギルモアが居なくなってしまったのでシスティーナ一人で武官をどう再編するかは分からないものの、実力といい今回の功績といい、彼をただの親衛騎士に戻すのは違和感がありすぎる。


「ちょっ……! 突然なにを言い出すの!?」

「アルさん、不敬ですよ!」

「あのあの、それは飛躍しすぎでは……」

  

 効率的で理想的なはずの解決策に飛び上がったのは三人だった。


 予想より一人多かったアーレニウスがおっぱいちゃんもかよと苦笑していると、エリザベスを揉む手を止めたカッツが名案ではないかと笑う。


「救国の英雄が王女と結ばれて国王になる、か。良くある英雄譚ではないか、ははは」

「カッツもやめなさい!」


 主権者たる者、なにがあろうとどっしり構えて冷静に対処すべきだと知ってはいたものの、動揺したシスティーナはこのところ繰り返していた妄想を見透かされたのかとテーブルに突っ伏してしまった。


 触れなくても分かるほど熱く真っ赤になっている顔をみんなに見られたくなかったし、リョウがどんな表情なのかを知るのも怖い。


 思わず声が出てしまった自分に驚くレオナも俯いており、左右の女性を見比べたギルガメシュは相手がリョウでは勝ち目がないと落ち込んでしまう。


 そして、当の本人はと言うと。


「情報集めに行ってくる」

「あっ! 逃げんなコラァ!」


 様々な思惑や気持ちが入り乱れる室内からささっと出て行ってしまい、結局そのときの彼がどんな表情をしていたのか誰にも分からなかったのである。

いつも読んでくださってありがとうございます(´・ω・`)

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