捜索
次の朝、雨蛙はヌシ様の元を訪れ、友人蛙が行方不明であることを伝えた。真っ青な顔をして家に飛び込んできた雨蛙にヌシ様は驚き、落ち着かせてから話を聞くと、急いでスイレン会の皆を集めてくれた。
「皆の者、本日は急に呼び出して済まない。実は友人蛙くんのことなんじゃが……」
ヌシ様が周りの蛙たちに事情を説明をしている間も、その脇で雨蛙は真っ青な顔をしながらおろおろしていた。今まで几帳面な友人蛙が何も言わず、書置きを残さず家を一日空けたことはなかったからだ。きっと彼の身に何かあったに違いない。そう思うと恐ろしさと不安がこみ上げ、涙として溢れそうになった。
「というわけで、スイレン会の皆で我々の仲間、友人蛙くんの捜索にあたる。皆の者、どんなことでも良いから手がかりを見つけるよう頼むぞ」
周りの蛙たちはギッギ! ギッギ! と強く返事をすると、二、三匹のグループを作って捜索に出かけた。
「ぼ、僕も……!」
ふらふらと外に出ようとした雨蛙をヌシ様が止めた。
「おぬしはここで少し休め。昨晩はずっと友人蛙くんを待っていたせいで眠れなかったのじゃろう?」
やや強引に雨蛙を来客用の部屋に案内して続けた。
「それにわしの家におれば、何か情報を掴んだ蛙たちの話を一番最初に聞くことが出来る。闇雲に探すより、おぬしはここで情報を待つのが得策じゃ。いいか、少し眠るのじゃ。何かあったらわしがすぐに知らせる」
ヌシ様はドアを閉めて居間に戻った。一人になった雨蛙は小さくため息をついて部屋を見回し、ヌシ様に言われたとおりベッドにもぐりこんだ。
その日も一日、友人蛙は帰ってこなかった。
雨蛙はヌシ様の家に気が遠くなる程居るような気がした。あれから二度ほどヌシ様に懇願して自ら友人蛙を探しに行ったが、手がかり一つ掴むことが出来なかった。
友人蛙が帰らなくなってから四日、捜索を始めてから三日たった日の午後。捜索に当たっていた一つのグループがあるものを見つけたと息を切らしながらヌシ様の家に帰ってきた。
「これです」
居間の机の上にグループの隊長蛙が置いたのは、茶色い鞄と白い木材だった。
「この近辺の捜索はし尽くしましたので、隣の森の奥まで足を伸ばしたところ、この鞄と散らばったサルスベリの木材を発見いたしました。この鞄には見覚えがあったのでもしやと思い持ち帰った次第です」
この鞄には雨蛙も確かに見覚えがあった。友人蛙の誕生日に自分がプレゼントしたものだった。
「これは……以前僕が彼にあげたものです。ま、間違い、ありません」
雨蛙は顔面蒼白になりながら鞄を指差した。
「鞄と木材を出先で置いてどこかに行ってしまうとは考えにくいのう。やはり何かあったと見てよいな……」
ヌシ様は沈んだ顔をして鞄を見つめた。少しするとグループの蛙たちの方を向いた。
「……しかし、落胆するのはまだ早い。おぬしら、よく手がかりを見つけてくれた。友人蛙くんが帰ってきた暁にはわしから欲しいものを一つずつ、なんでもやろう。おぬしらは捜索を続けながら、この鞄が見つかった隣の森の奥を重点的に探すよう、他の者たちにも伝えよ!」
グループの蛙たちは揃って「ギッ!」と強く返事をすると急いで隣の森へ捜索に向かった。
それを見送ったヌシ様が雨蛙を見ると、雨蛙は真っ青な顔をしたまま椅子にもたれて呆然としていた。ここ数日の精神的な疲れからか、悲観視しか出来なくなっているようだった。「僕のせいか……?」と小さく呟いては、ぽろぽろ涙を流して震えていた。
ヌシ様が「大丈夫じゃ」と声をかけるも、「はい……はい……」とうわごとのように返事をするだけだった。
そして泣き止んだと思えば雨蛙はしばらくピクリとも動かず友人蛙の鞄を見つめていた。十分ほどすると急にガタリと立ち上がった。
「サルスベリの木材……そうか、彼は僕と合作をするという約束を覚えていたんだな。……ということは自ら望んで帰宅していないわけではないんだな! ヌシ様! 彼はきっと生きている! 少し不都合なことがあっただけだ、違いない、違いない!」
わずかな希望を見い出した雨蛙は興奮気味にヌシ様のお腹にすがりついた。
ヌシ様はゆっくりと雨蛙をお腹からひきはがすと、優しく言った。
「落ち着け雨蛙よ。そうじゃな。彼はきっと帰ってくる。だからおぬしも落ち込んでばかりいないで、彼がいつ帰ってきても良いように酒宴の計画でもたてておれ」
「はい! そうしますヌシ様!」と明るく返事をして、雨蛙は来客用の部屋に戻った。
「この部屋に置かれているノートをお借りします!」
雨蛙は来客用の部屋からヌシ様に断りを入れた。
「ああ、好きに使うとよい」
ヌシ様は居間から雨蛙に返事をして、雨蛙が持ち直したことに安どの表情を浮かべた。
友人蛙が見つかったという一報が入ったのは、それから二日後のことだった。
朝、ペタペタペタペタという慌てた足音が近づいてくると思うやいなや、バタンと乱暴にヌシ様の家のドアが開けられた。
「失礼致します。失礼致します。見つかりました! み、見つかりました!」
そう叫びながら、先日友人蛙の鞄を見つけたグループの隊長蛙が居間に飛び込んできた。相当慌てて駆けつけたのか、全身は泥まみれで所々軽い擦り傷を負っている。
「見つかったじゃと! どこだ、どこにおった!」
ヌシ様はガシャンと椅子を倒すほどに勢いよく立ち上がり、雨蛙は来客用の部屋から何かを書いていたノートを抱えたまま居間へ飛び出してきた。
「先日の森の奥、ニンゲンが良く現れる広場に一番近い池のほとりで見つかりました!」
切らした息を整えながら隊長蛙は続けた。
「ですが……」