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カエルの品評会  作者: 水玉カエル
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友人蛙の品評

 光に当たってきらきらと輝く品に「ギィッ」とヌシ様は低い声をあげて身を乗り出した。周りの蛙たちもギッギッと言いながら視線を集中させた。

「松ぼっくりを使用して作り上げた湿度計でございます」

 ヌシ様の反応が良かったことに安心したのか、友人蛙は得意そうにそう続けた。



「松ぼっくりはこのように水分を与えることによってカサが閉じ、乾燥すると開きます。今回はこの松ぼっくりの習性を利用しました。カサの部分には様々などんぐりの殻を割ってモザイク状にあしらい、実に美しい色合いに仕上げることが出来ました。我々は水中と陸上のどちらでも生活することが出来ますが、乾燥が常に大敵です。日々乾燥に気をつける生活にも楽しみを見つけて欲しいと思い、この湿度計を作成しました」

 そこまでいうと友人蛙は一歩下がって、

「いかがでしょうか」と品評を乞うた。



 思わぬ友人蛙の力作にすっかり魅せられてしまった雨蛙は、是非僕もあのような発想のものをと思いながら、ヌシ様の品評を待った。

「季節のものを素直に取り入れ、母なる大地より賜ったものにこだわった美しさ。素晴らしい芸術品と認められよう。そこにはただの美しさだけではなく、機能的にも優れることを兼ね備えておる。ああ、本当に美しい品じゃ。君も腕をあげたのう」

 そう言ってヌシ様は機嫌の良い時にする、腹を撫で回すクセをしながら微笑んだ。友人蛙は安心と喜びで少し顔をへにゃへにゃさせながら、深々とお辞儀をした。

「この上ないお言葉ありがとうございます」



 そして湿度計をそこに置いたまま石の上から降り、周りの蛙たちがキィキィ話しかけてくるのを軽くあしらいながら、雨蛙の元へ戻った。友人蛙がゆっくり隣に座ると雨蛙は少し俯きながら、

「やはり君はすごいな。友人として誇らしいや。しかしおかげで僕は一段と不安になってきた」と声をかけた。

「褒めてもらえるのはありがたいがね、ぼくは君の品で自分の作品が忘れられてしまうのが怖いよ」

友人蛙はそう言いながら小さな枝で土をほじくり返したあと、あたりを見回して続けた。



「もしかしたら次のご指名、君じゃないか? 今日の発表、予定だと三匹だったろう。確か今日発表するはずのもう一匹は昨日の暑い中、森を長いこと散歩していたせいで干からびかけてしまって寝込んでいるそうだよ。散歩が命取りになるぐらい暑い日、最近増えたもんだね」



 なんということだ、と雨蛙は思った。発表する蛙が複数匹いるときは何だかんだ序盤の指名を逃れて、終盤やトリを任されることが多い。もう一匹の発表を聞いてなんとか心を落ち着かせてから挑もうと思っていたばっかりに、雨蛙は更に酷い緊張に苛まれた。

その緊張を察した友人蛙は気を紛らわせるために続けて話しかけるが、雨蛙は小刻みに震えながら「うん……うん……」と繰り返すだけであった。



 しばらく友人蛙の湿度計を眺めて楽しんでいたヌシ様は、ハッと思い出したように一度目を見開いて、品評会の進行を待っていた蛙たちのケリョケリョという雑談をさえぎった。

「すまんすまん。つい作品に魅了されてしまった。さて、次をはじめようかの」

その声を聞いた蛙たちはすうっと静かになり、ゆらゆらと揺れながら次の言葉を待った。



「ん? あそこだけ妙に揺れている者がおるな」

 ヌシ様は目を細めながら雨蛙を見るようにずいっと身を乗り出した。

ヌシ様がこちらを見た! そう気付いた雨蛙は蛇に睨まれたように硬直し、どうしたらよいのか分からずキョロキョロと目を泳がせる。



「ああ、雨蛙じゃったか。本日は頼んでおいた例の品、持ってきてくれたかの?」

 ヌシ様が穏やかに微笑みかけるにも関わらず、先ほどからの緊張で混乱気味の雨蛙は、ぷっくりと頬を大きく膨らませた後、「はい!」とやや大きすぎる声で返事をした。



 雨蛙の突然の大声に、隣に居た友人蛙はもちろん、近くに居た蛙たちが一斉にビクッと肩を揺らして驚き、口をパクパクとさせた。その様子を見てギッギッギと笑ったヌシ様は、

「威勢が大変よろしい! おぬしの品は最後にしようと思っていたが、その様子だと出来栄えに自信たっぷりと見る。次は雨蛙で行こう」と言って前のめりになっていた姿勢を戻した。



 ヌシ様に指名を受けた雨蛙は、ついに来てしまったかと思い、その途端に緊張がピークに達して、一瞬頭が真っ白になった。しかし、一回身体をブルリと震わせて何とか持ち直し、もう一度大きな声で「はい! お任せください!」と返事をして広場の中央の石に向かった。



 友人蛙は立ち上がった雨蛙を見上げて何か声をかけようと思ったが、雨蛙の喜怒哀楽が混乱している何ともいえない表情を見てしまい、今何を言っても雨蛙には逆効果だろうと考えた。そして苦笑いをしながら何も言わずに見送った。



「よいしょ」と小さく呟き、石の中心に大きな箱を置いた雨蛙は広場の蛙たちをぐるりと見渡し、一度深呼吸をしてからヌシ様の方を向いた。思いのほか大きい箱に広場の蛙たちが興味深そうにひそひそと話しをする中、雨蛙は緊張を感じさせないようなはっきりとした口調で話し出した。



「それではヌシ様、御覧下さいませ。先日ご依頼頂いた、どんぐり湯のみでございます」

少しばかり震える手で箱を開け、中の物を取り出した。

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