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不定感触

作者: 如月弥生


九月のはじめ。

夏休みも終わり、また憂鬱な日々が学校生活が始めってしまった。

夏が終わったといえど、放課後の教室に差し込む光はまだ暑さが残るこの時期らしい夕日になりきれない夕日だった。

そして、カリカリとシャーペンを走らせる音だけが教室に響いている

……わけではない。

外からは野球部かサッカー部か分からん運動部の掛け声や遠くの方から伝え聞こえる楽器の音が聞こえる。

まだ暑いというのに元気な奴らめ。

俺も好き好んで放課後学校に残っているわけではない、どうせなら早く帰りたい。帰って、ゲームしたいアニメ見たい。

しかし、帰れない事情があった。

今年の担任であるクソ佐々木はあろうことか、『夏休みの宿題が終わってない奴は放課後教室に残ってやるように。』とのたまったのだ。

去年の担任はそんな事言わなかったし、俺はほとんど夏休みの宿題に手を付けず新学期を迎えた。

そのせいでほとんど宿題を提出してない生徒として目をつけられ、放課後の教室に隔離されてしまった。

進学校ということもあり、宿題をやってきてない生徒なんてこのクラスだと俺くらいらしい。

部活のある連中は夏休み最後の一週間が部活動休止になるのでそこで仲間内一気に終わらせるらしい。

そんな訳でこの教室には俺一人と言いたいところだったのだが、この日は最悪だ。嫌いな奴が一緒にいる。


もう一人一緒に居残りしているギャル。

話したこともないし、名前も覚えていない。関わり合いのない人種だ。

どうやら、今日提出のはずだった宿題が終わってなかったらしく、一人のはずの教室に異物が紛れ込んでしまった。

どうせなら、全部やっておけよとかギャルのくせに他の宿題はやってたのかよ生意気だなとか思ってしまう。

何故か馴れ馴れしく近づいてきて、『キモいのしか残ってないけど、一緒にやった方が楽しいし。』とか言って机を正面にくっつけてきた。

喋っていないと生きていけなさそうだから、単純に話し相手が欲しかったのであろう。

その後何か色々と喋っていた気がするが、無視した。もしかしたら、『ああ』とか『うん』とかの相槌くらいは無意識に打っていたかもしれない。

だが、それではお気に召さなかったのかその内喋らなくなった。静かしていろ、クソギャルが。

静かになったところで、俺は最後の宿題にとりかかった。

イライラを晴らすように、軽やかにシャーペンを走らせる。


俺は最後のページを書き上げ、シャーペンを置く。

ふとノートから目を離し、見上げると宿題を真面目にやってるギャルの姿が目に入った。

何とも思うはずがないのに、何故かギャルの唇に視線が吸い込まれた。

何故か目を離せなくなる。

夕日に傾き始めた日差しがその唇を綺麗に染め上げる。

いつの間にかギャルは顔を上げて、こちらを見ていた。


吸い込まれていく、触れたい……


ただただその微かに震える唇に触れたくなる。


どんどん近づいていく度に更に引き寄せられていく、重ねたい……


分からない、判らない、解らない――


近づく吐息、何も聞こえなくなる。

そして、俺は唇でその唇に優しく触れる。

その瞬間頭が真っ白になる。何も考えられない。

もっと触れ合いたいという衝動だけが全てを支配する。

すると、今度はその唇が俺の唇に触れてきた。

軽く触れ合うだけの逢瀬、それだけで脳を溶かしていく。

ああ、これがキスというやつなのか……



……き、キスだと?


え、え、どどどどど、どういうあれ? あれなの!?


真っ白になっていた頭が急速に冷めていく。現実を取り戻し始める。

目の前にはあいつの顔があって、そして、俺は唇を……


「ああ、ああ、ああ、ああああああああああああ!」


おれはつくえにかけてあったかばんをもってはしりだす。

なにをした、なにをしたんだおれ。


家に飛び込み、部屋に飛び込み、ベッドに飛び込む。

無理無理無理無理無理。

理解不能、理解不能、理解不能!


自分でもどうしてあんなことをしたのか分からない。

碌に喋ったこともないし、そもそもギャルなんて嫌いの部類だ。

でも、してしまった……キスを……


「ダメだ、死のう……学校にもう行けない……」


どうせ、キモいオタクに無理やりキスされたとか友達に話してるんだろうな……


そして、俺は考えるのをやめた。


当然、キスしたギャルが家を訪れるなどという漫画的要素もなる眠りついた。

ただ、その夜はふと頭をよぎる感触にのたうち回った。


朝起きると朝だった。当たり前だ、しかし願いが通じるのならば来てほしくない朝。


「今日は休もう……」


リビングにいた母親と出会うと、『顔が真っ赤だけど?』と言われた。

『きっと季節外れの夏風邪だ。』と言って、休ませてもらった。

きっと、顔から火が出るほど恥ずかしいだけだけどな。


色々と考えたが、結論は出なかった。


次の日には学校に行った。考えても仕方ないということにした。

そう思い込んでも、学校に行く足取りは重かったし教室の扉は鉛のように思えた。

ただクラスメイトに何も変わりはなかったし、ギャルの態度も変わってはなかった。

昨日一昨日と俺を苛ましたのはただの悪夢だったのだろうかと思う。


しかし、あの感触は夢だと思えない。


夏休みの宿題も全て終えたので、放課後のチャイムと同時帰ろうとした。

帰ろうとしたが、担任に呼ばれて職員室に寄らせれた。今度から真面目に宿題をしろとさ。


下らない説教を終えて、今度こそ帰ろうとした。

だがしかし、校門にはギャルが待ち構えていた。

何を言われるのかと、ビクビクしながら近づいていく。ただ友達と待ち合わせであってほしい。

出来れば、俺のことなど無視していてほしい。

ギャルは近づいていく俺に何も言わない。

大丈夫、あれは夢だったんだ。そう心を落ち着かせる。


そんな俺の考えをぶっ壊すように、すれ違いざまにこうつぶやいた。


「私も気持ちよかったよ?」


振り返ると、ギャルは笑いながら友達の方へ駆けて行く。

そして、何事もなかったように友達と駄弁りながら街へと消えていく。


「どうすりゃいいんだよ、俺……」



こんなキモいことは現実にありません。

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