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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

To flee=Battle, ある冒険者の終わり 

――白煙が岩肌を覆い、炎の揺らぎに類似した揺らぎ、煙の先が空気に溶け込むように消える。

“それ”を知らない者が見れば不思議な煙だと推測するだろう。



「くそッ!」


険しい坂のある山道を、ツインテールで銀髪を束ねた髪を激しく揺らして冒険者のような格好をした見た目まだ幼き褐色の少女、リーン・エヴァンはただの少女とは思えない速度で駆ける。

この足場が不安定でいつ崩れてもおかしくない山の地形に崖がすぐ隣にあるにも関わらず疾風のような速度で駆けること事態、明らかに自殺行為に等しい。


しかし危険を承知でやっているのだろう。

普段は強気だろうそのリーンの表情から恐怖を噛み締め必死になっている只ならぬ表情を窺えば何か危険な非常事態に遭遇したには違いないと思うだろう。


「ちぃっ!」


可愛らしくも苛立ちの混じった舌打ちをしながら崩れそうになる岩場からステップして避け壁のように立ちはだかる木や岩を把握し流水のように流れに逆らわず擦れ擦れで疾走するリーンの姿はさながら妖精のよう。


だが、木や岩が立ちはだかっているにも拘らずリーンに匹敵する凄まじい速度で迫り来る白煙。

地形や一定の周囲からも意識を逸らさず、振り返りもせず前方を向いたまま白煙から身を避ける為に体を捻り軽くその場から飛んで白煙から避けた。



――知るモノ、或いは推測できるモノが居れば“それ”の違和感に気付き埃や砂が巻き上げられて発生したモノではないと理解しただろう。



「とと、あっぶねえなッ!!」


少女とは似つかわしくない言動で呟き、不安定な足場に気を取られながらも白煙が通り過ぎた道筋を確認する。

通り過ぎた白煙の跡にはまるで、その場所の生命だけを抜き取ったように草木が枯れ、小動物も干乾びたミイラになり、土も荒れ果てた土地のように地盤が割れ、岩石すらも小さな砂山に変えられていた。


「はぁ、はぁ、想像以上、だなこりゃ。流石は……」


そのあまりに悲惨な光景に自分もそうなるのでは、と嫌な思考が頭に過ぎり重なる。リーンは恐怖で背筋に悪寒が奔り、額から嫌な汗が大量に流れ手足が僅かに震える。


(気をしっかり持つんだよアタイ! 今は全身全霊ただ逃げる事を考えるんだ!)



――煙とは塵や埃や砂など、または有機物を不完全燃焼した微粒子等を含んだ空気の塊である。

“それ”にはそういった微粒子が一切含まれていないまるで純粋に穢れの無い雲のよう。

では煙ではないのか? と問うならばそれは煙であるとしか答えるしかない。


――しかし“それ”はただの煙ではない。

先程微粒子は含まれて無いと説明したが塵や埃や砂を差す意味であり、この煙には“別種の微粒子”と“ある力”が含まれておりそれがこの“白煙(それ)”の正体である。



「ぬあ!」


突如目の前で白煙の爆発が起こる、それを瞬間的に危惧し険しかった表情をさらに険しく変えるリーン。

その場から姿がブレて消え、十メートル程離れた場所にタイムラグ無しで瞬間移動しさらにバックステップで距離をとる。


(ちっ、あと三回……いや、今のままじゃ精々一回か、やばいな)


先程の瞬間移動の正体、これはリーンが持つ腰に着けたベルトにぶら下げてる六つの白い宝石を無駄に派手に装飾したキーホルダーような形をしたアイテム《偽物・短距離瞬間移動(レプリカ・ショートカット)》の能力。


その能力は自治範囲から半径十メートル以内ならどこでも瞬時に移動できるという中々希少で強力な代物。だが強力ゆえにその分制約があり、リスクも存在する。

このアイテムは一つにつき四十時間に一回までしか使用ができず、さらに精神力と魔力を大幅に削るという非情にハイリスク。


常人の魔力量が十ならこのアイテムの能力使用料は千。およそ百倍もの燃料が必要で常人では不発で終わり多大な魔力損失は死に至る場合もある。


リーンの精神力と魔力は常人よりも遥か上とはいえ燃費が悪く連続して多用はするのはもってのほか。

本来なら魔力を回復させる冒険者必須のアイテム、魔力回復薬(マナ・ポーション)を使いたいところだが、回復行為はどうしてもスキができてしまう。


(クソクソクソクッソッ! せめて一回は魔力回復薬(マナ・ポーション)飲まないと、この先絶対に死ぬのは確実、ヤバ過ぎる!)


そのスキを見逃す程、相手は甘くは無い。見せたら一瞬であの世逝き確実の相手な為、リーンの回復行為は封じられたも同然。


現在の精神力と魔力量では所持しているアイテムの六つの内一回が限界。三個は四十時間以内に使用している為、もし全て使うものなら残り三回はこのアイテムを使用する事ができる。


(アタイってばホンと運が無い尽いていない! ああぁ何であの時の特売セールのオークションであと四個は買わなかったんだろうなあ! 

四個全部買っとけば何とか三分の一位は逃げられる確率が上がれるのに希望が持てたのにっ、あの時“これであなたの胸もぼいーんなるよ牛乳!”なんて物を買わなければ、て言うかそもそも結局胸大きくならなかったじゃねえかあのクソ詐欺師っ!!)


見た目幼きとはいえ乙女の宿命に切磋琢磨と戦う一人の女性。

傍から見ても何故か自分から見ても微笑ましい姿をこの短時間の間に起こった出来事に走馬灯の様なモノを感じ悲しくなるリーン。


(って現実逃避する余裕なんか無いぞアタイッ!)


深い思考の中から厳しい絶望的な現実に戻ったリーン。

偽物・短距離瞬間移動(レプリカ・ショートカット)》使用が残り三回と他ある手札、戦略、奥の手、今この状況打開するカードは相手が相手だけに幾らあっても足りない。

今持っている自分の手札だけでは今この危機に対してあまりの心許無さと不安の重圧、そして己の失態と後悔の念と乙女の宿命という名の怒り、絶望の波に押しつぶされそうな感覚がリーンを容赦なく襲う。


事実、リーンが今直面している危機の相手はそれほどまでに、存在が、力量が、全てが自分よりも勝る格上の存在。


爆発が起こった中心にナニモノかの影が浮かぶのをリーンは確認した、その瞬間、白煙が生き物の如くうねり上げ影が浮かぶ中心にとぐろを巻いた。


「チィイッ!」


恐怖を紛らわすような舌打ちより小言に近いのを吐き、


(召喚、アルマシリーズ!)


虚空から光が溢れ収束すると具現化し手にしたのは自分の最で信頼に於ける獲物である武器。


曇りの無い蒼空を想わせる刃渡り八〇センチの蒼銀の刀身に無駄なくシンプルに施された銀の柄、中心に十センチはある菱型の宝石が埋め込まれている。

綺麗な碧色をして淡くも光る剣は何処か神秘的なものを感じさせる片手剣《精霊の集う蒼い空(エサルテトスカイ)》を右手に逆手で持つ。


五個の魔法陣のような模様が施され五つ共に鎖が繋がれた銀色の指輪《繋がれる五本の奇跡(クルセリ・レイ・アー)》をつけた左手を重心の前に置く。


体内にある残りの魔力を身体能力強化の恩恵を用いるベルトと共に巻かれた白雪のようなコートのような毛皮《鬼狼の毛皮の腰布(ローンドイト)》に流し身体能力を数倍に跳ね上げ即座に戦闘態勢で構えるリーン。


リーンはそれなりに強いと自負している。ダンジョンと呼ばれる現在の解析分析力では説明不可能な摩訶不思議の迷宮がこの世界には存在しており、リーンはあるダンジョンを単独で制覇(クリア)した経歴がある。


そのダンジョンは世間ではAランク下位に位置する、正式名称《双頭の飛竜(オルセイアワイバーン)の巣窟迷宮(・ダンジョン)》。

このダンジョンの(ボス)、《双頭の飛竜(オルセイアワイバーン)》はその名の通り双頭の飛竜で、竜種の中では中位の分類だがそれでもこの世界の最強生物の一角であるのは伊達ではない。


一般の人々にとっては充分過ぎるほどの脅威の強大な力のドラゴンである。


頑丈な岩すら容易く切り裂く爪牙。

鋼鉄並みかそれ以上の硬度を持つ竜鱗。

何をも破壊し尽くす竜の息吹。

数十万人もの住む小国すらも蹂躙するその圧倒的な強さは人々に畏怖と尊敬を抱かせる。


そのボスまで辿りつくまでの経路も決して簡単なものでもなく困難極まる茨の道。

その迷宮をたった一人で制覇(クリア)した。世間では《竜殺し(ドラゴンスレイヤー)》という呼称され、呼ばれるだけの実力があり強者である。


(ハッ、何が竜殺しだ。その竜相手にヤバイってのに……イヤ間違えた)


しかし、上には上が居るのもまた然りと叩き付けられた。今のリーンの実力では逆立ちしても勝負にすらならない、大きな“力量差(かべ)”がある計り知れない存在。


対峙する影の周りから白煙が晴れ、今度はその姿を露にした存在を自分の眼で、伝承や紙に書かれた資料でしか知りえなかったその存在は視認する。

視覚に入って確認した瞬間、場の重圧が上がたのをリーンは骨髄まで感じた。


「くぅっ」


怖気づき、反射的に後退(あとずさ)る体を無理矢理抑え今すぐ背を向けて逃げたい衝動を必死に耐えながら呟く。


「龍神・天照(アマテラス)


――白煙の主、龍神は静かにその太陽の如く輝く黄金の眼で、リーンを視線で射抜く。



□ 



再び隠れた白煙に姿を隠し紛らわすが明かりに照らされた障子のように影が映る。

影ながら龍神が下顎を開き、白煙が収束していく。白煙が飛ばされるのをリーンは身体能力強化の恩恵を受けた視力で確認し予測した。

すぐさま左掌を前方に伸ばし指輪についた鎖をシャラリンと鳴らしながら歪に複雑な魔法陣を出現させ、龍神の口から飛ばされた何かを防ごうとして、意識と視界が突如切り換わる。


切り替わった意識と視界で見たものは――胴体がポッカリ消滅し何がなにやら分からないように死んだ自分の様を。


「――ァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


明確な死の恐怖から逃れるよう雄叫びを上げ、身体能力強化を脚力に意識を集中し瞬間的に加えた脚力強化で分裂したと見間違う残像を残す速度で避けた。

最初に居た場所は一際大きく爆砕、さらに地面に幾つかの小規模の爆発が起きた。


爆発の際、大小合わせて複数の土柱が上がりその全てに孔ができる。


(さっきの白煙とは違う!?)


喰らうように土柱を通過した何かは、無数の白煙の弾丸。

龍神により射出された弾丸がリーンの居た場所居る場所を次々と襲い掛かり被弾した場所は全て大きく抉られ、貫通したような孔が出来て行く。


(ワッ、こ、この野郎、のうっ、連続で俺の移動する場所を、ひあッ、て的確に狙ってきやがる!)


直撃は何とか避け続けられるが、冒険者風の衣服や銀髪の一部を際どく削っていかれ今も胸に当たりそうだった弾丸は小柄な体格と軽やかな身のこなしに功を奏し腹に風穴が開けられるのを免れた。

が、またしても胸の衣服に掠り、彼女がコンプレックスとする将来の希望が見えない絶壁の胸を露出してしまう。


(わあっ! あっぶねえ胸に、今この時ほど胸が大きくなくて良かったと思ったあ! って何自分で言ってるんだ悲しい! おあっ今の髪に掠った! 髪に掠っ……ツッっ!)


足から流れた鈍い痛覚に苦虫を噛み潰したような顔になるリーン。


(この痛みは、チッ。経験上これは何時か足が動けなくなるパターンのヤツか、やっぱり負担がデカイ。ますます不利になってきたぜクソッタレッ!)


最初の移動時に両足共に相当の負担を掛けており今も無茶振りギリギリで動き回っているせいでまた足に負担を掛ける、このままいけばすぐに足に限界が訪れるだろうが加減できない今は形振り構っていられない。


りーンですら何とか避けきれるかの危うい速度の弾丸。

一つでもまともに白煙の弾丸に直撃すれば即死は必須の死の弾丸が、数限りなく襲い来るのを文字通り神経をすり減らし、避けて、かわし、飛び退き、免れる。


(チッ防戦一方! こちとら身体能力強化で運動能力メチャクソ上がっているのに≪繋がれる五本の奇跡(クルセリ・レイ・アー)≫がなかったら死んでるじゃねえか!) 


繋がれる五本の奇跡(クルセリ・レイ・アー)≫の能力の一つ、自分が確実に死ぬ未来を予知し映し出すというもの。これにより先程の白煙の弾丸を魔法で防ぐという愚かな選択を選ばずに済んだ。


何故愚かな選択なのか、すぐさま理解する。

先程リーンが試しに最小限のコストで魔力弾を左掌から発射し白煙の弾丸にぶつけるが相殺する事も威力を軽減する事もなく消滅した。


(あの白煙の弾丸、魔力が効かない!? 魔力軽減かその上位互換の能力もあるのか!!)


もしも魔法で防いでいたらまず間違いなく胴体を抉られ絶命していた。

この能力のメリットはまず魔力や精神力を削がず自動的に能力が発動するという点で、デメリットは“自分が確実に死ぬ未来”ではないと映し出さないという点だ。


だが、その能力も先程から白煙の弾丸が飛ばされる度に切れ目なく映し出されては気が参る。


(クッソタレ! アタイじゃなかったら発狂している所だ!)


こんな絶え間なく能力が発動するのは今までの経験上初めてではない為何とか正気を保っていられる。

双頭の飛竜(オルセイアワイバーン)戦でこのような現象は幾度となくあった。

その時の戦いは主にこのアイテムにより勝利の切欠を作ったのだと言っても過言ではないとリーンは思っている。


だがここまで連鎖的に発動はしてはいない、精々三、四回程までで一旦区切ったり軽傷を負うような攻撃だったりでずっと連鎖的に発動する事はなかった。


死亡を塞ぐ事ができるアイテムと聞こえは良いだろうが、タチが悪い事にそれ毎回毎度自分の死に様を強制的に見せさせられる。

この力のおかげで生き長らえるとはいえ何度も自分が死ぬのを見せられるは当然良いものではなく精神的な拷問であり、強靭な精神力を持つリーンでさえも相当応えていた。


常人ではとても耐えれなくまず間違いなく発狂する。

これが二つ目の≪繋がれる五本の奇跡(クルセリ・レイ・アー)≫のデメリットと言える点だろう。


(……ん? 何か、妙だ)


白煙の弾丸をかわし何度目になるかの自分の死に様を見てまた避けていくのを繰り返す危険な作業をこなして行く内にリーンは一つの疑問符が浮かび上がった。


(何で、アタイはまだ生きていられるんだ?)


龍神を相手にここまで、衣服や髪に掠りはするが直撃を幾度も避けられるのは、自分で言うのもなんだが奇跡にも等しいとリーンは思い至る。

遥か格上の筈なのに、何故? 致命的な一撃を受けていないのは何故? 自分の実力? アイテムの力のおかげ? 違う。


相手はあの龍神、大陸をも滅ぼす理不尽無比の力を持つ生物という理から離れた超生物、本来ならすでに五臓六腑すら残らず消し飛ぶだけではとてもすまない。

最悪、魂魄すら残さず存在そのものを消しかねない化け物。


ぶっちゃけ中堅クラスのドラゴンを倒した程度で鼻を高く括っていたのは不定しないけど超弩級の最強クラス相手なんて無理難題、というか勝負にすらならないというのが本音。


(この事から推測するに……………成る程、さっきからちょっと疑問に思ったけど確信したぜ)


刹那、発破のようにリーンの居た足場が今まで以上の轟音を上げ爆裂し、砂塵の柱を巻き上げ影と共に空高く打ち上がった。


「舐ンじゃァ、ねェぞゴッォオラァアアアアアアッ!!」


大いに少女とは無縁の猛獣さながらの怒号を空高く舞い上がった影、リーンが龍神に向けて言い放つ。


何故生きていられたのか、否、生かされていたのか。

様々な結論、それは本気を出さず弄んでいるという事。

龍神は何時でもリーンを容易く楽々と殺生できる自信と余裕があるほどの実力。


そう、虫けらが自分を殺せるとは思っていないのと同じ心情なのだろう。


(クソ龍神がッ、テメェのその油断が命取りだぜっ!)


足も精神も限界が近い、魔力もこのままのペースで行くとすぐガス欠。

このままでは遅かれ早かれ、どうせ死ぬ。なら一矢報いると、激情した感情が覚悟を決める後押しとなりリーンは残っていた魔力を一気に最大限に振り絞った。


落下しながらリーンの足元に辺りの空中で巨大な翼が描かれた金色の魔法陣と風のような模様が画かれた銀色の魔法陣が二つが浮かび、二重に重なるように出現した。


逆手に持った≪精霊集う蒼い空(エサルテトスカイ)≫を天に掲げる、すると蒼銀の刀身が徐々に蒼に深く染まっていく。

そして金銀の二つの魔法陣に向かって≪精霊が集う蒼い空(エサルテとスカイ)≫を投槍のような構えをとり魔法陣の中心に、全力投擲した。


(翼には早き疾風の願いを! 風神は嵐を呼べ! 我が剣、風の恩恵を受け給えて敵を滅せよッ!!!)


刹那、二つの魔法陣が肥大化し金銀の光の(きぬ)のようになり投擲された蒼剣を束ね、


「くたばりやがれ、龍神ッ!」



――大気を裂き、音速を超え、馬鹿げた速度を叩きだし、山河を穿つ金色の燐光を纏い蒼銀の流星が解き放たれた。



精霊が集う蒼い空(エサルテトスカイ)≫は空に満ちる自然魔力を吸収し、吸収した魔力を≪精霊が集う蒼い空(エサルテトスカイ)≫の魔力付加に変換、強化する能力が在り、さらに空に高ければ高いほど威力を倍増する能力を持つ。


今できる最大の加速魔法を行使し音速を越えて放たれた≪精霊が集う蒼い空(エサルテトスカイ)≫の投擲。

最大にして最強の一撃、これを防いだ者は過去一人も居らず龍神が相手では殺すとまではいかなくと傷一つはつけられると絶対の自信と信頼を持つリーン。


蒼銀の流星は龍神が纏う白煙を切り裂き龍神に傷を負わす、そうリーンが確信した。


次の光景を目にする前は、


「――………は?」


蒼銀の流星が白銀の極太光線に呑まれた。

その光景を理解する前に体が勝手に動いたのと同時に≪繋がれる五本の奇跡(クルセリ・レイ・アー)≫の能力が発動した。塵一つ、生きた痕跡さえも残らず消滅した自分を。


「――ッ間に合えェッ!」


(うなじ)に電流が奔り、嫌な汗が大量に噴き出、第六感が最大音で危険を知らせにし互い回避行動をとろうとした時には、時すでに遅かった。


彼女の体を真っ赤な鮮血の華で飾り付けた。 





思考が追いつけば、或いはその展開を予測していればこんな事にはならなかっただろう。

唖然と、呆然と、彼女は自分の身体を見開かれた瞳で焼き付ける。彼女の左半身、正確には肩関節から股関節に位置する部分が消失した。


そして思い出したかのように身体の異常に気付かず血流を巡らせようと機能を再開し、身体から夥しい量の血液を身体の外へ噴出する。


「……ガ……ゴフッ……」


リーンの口から赤黒く濁った血を吐き、焦点が合わない虚ろ目を剥き糸が切れた人形のように微動だにせず大地に向かって落下していく。


もう自分は助からない、と今頃になって察した。


(……あぁ死ぬのか、「私」)


驚くほど今のリーンの心境は意外にも冷静だった、痛みも死への恐怖も今はそこまで無かった。


(ハハハ、どうかしちまったな私。だけどここまでボロ雑巾並みに簡単に負けると悔しさを通り越して、清々しいなあ)


ただ自身の命の灯火はあと僅かなのを心身に感じながら不思議なほどゆっくりと、世界がスローモーションになったような視界で迫る大地に向け、再び目を閉じる。


(碌な人生じゃなかったけど、それなりに面白かったかな。悔いは無いさ)


次の瞬間には痛みすら感じずに短い人生に終わりが告げられるのを、ただ単に待った。


(………だけど、)


だが最後に彼女が心から思った事は、


(やっぱりまだ、死にたくなかったなあ)


未練がましく死の運命に逆らおうとする僅かな生へ不適な望み。

その願いを神という存在にでも聞き届いたのか、優しいまどろみが自分を包み込んだような気がしたのを感じた。

不思議な体感、まるで優しさに触れたような抱きかかえられたような、肌身と心が温まるそんな気持ちになる何かに触れられ今度こそ意識が暗い闇の中に涼んでいくのを感じながら意識が闇に溶けた。

 

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