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紅茶とペンギンとコイン

作者: がんじん

最近は即興小説だったり、身内向けだったりを書いていたのでこちには久しぶりの投稿です。

先程気がついたのですが、自分は一年に一回程度こちらに投稿してるみたいなので、おそらく次回は2014年に新作が投稿されるはずw

 サッカーボールがぽんと飛びはね白い枠に収まると、学生達はクスリで頭が飛んだペンギンのような合唱をした。

 あのような連中を見ると例の機械――ケバブを作るのに使うヤツ――で串刺しにしてくるくると回しながら炙りたくなってくる。このようなことを思いついたのは私が初めてと言う訳ではないだろうが、未だに誰も実行してないことが不思議でならない。もしかしたら、私の知らない所でこっそりと回しているかも知れないが。

 審判が笛を鳴らしペンギンたちは再び騒ぎながらボールを追い始める。私はその光景をスプーンで紅茶をかき混ぜながら見ていたがすぐに飽きてしまった。

 近くにいたウェイターに声を掛け会計を済ませると私は店を出る。石が敷き詰められた道に沿って並ぶ街路樹は、どれもすっかり紅葉している。

 かん高い金属音が私の耳を貫く。思わずそちらに目をやると、そこには硬貨が落ちていた。腰をかがめ手に取ると、一人の男と視線があう。おそらく、彼が落としたのだろう。渡そうとしたが、彼は一瞥したのち着ていたバスに向かって走っていってしまった。男を乗せたバスが、酔っ払いの様な低いうめき声を上げながら発車する。気まずい空気だけが後に残った。なんだか私が金をネコババしたみたいではないか。もちろん、そんなつもりはこれっぽちも無いのは明白だ。私の全財産に誓っても良い。

 良心的な私は警察に届けようとも思ったが、豆つぶよりも小さい金額のコインなど彼等が受け取るわけが無い。財布に入れるわけにも行かず仕方なく、ズボンの後ろポケットに硬貨を突っ込んだ。むかし学校で宿題を忘れ一人たたされて授業を受けたことがあったが、あの時と同じ気分である。枯れた枝がメガネをかけたような教師であった。彼がポッキリと逝ってしまってることを願ってやまない。

 私はミキサーに豚肉を突っ込んでグシャグシャにした様な気分を抱えながら歩いていると、いつの間にか見知らぬ道に迷い込んでいた。はて、ここは何処なのだろう。この辺りで自分が知らない道など無いはずなのだが。少し悔しい気分になりながら来た道をを引き返すと、やはり見覚えの無い場所に出た。少し意地になりながらともかくがむしゃらに歩くが、何処までいっても知らない道ばかり。石で出来た道に石造りの家、見た目がガス式の街頭。こんな道この辺りでは有触れていたが、それでも私なら道に迷うわけが無い。そのうえ誰かに道を尋ねようにも、人と全くすれ違わなかった。

 いくつかの家を窓から覗き込んでみたがやはり誰も見当たらない。風が枯葉を撒き散らしながら通り過ぎる音だけが今や私のただ一人の友人であり、それ以外の一切がこの世界から取り除かれてしまっていた。全く持って突然すぎる話だ。こういう事は事前になにかしらの前触れがあって然るべきである。

 私は近くの家の扉を開けると、キッチンを拝借し紅茶を淹れた。この状況に対処するためには気分転換が必要である。更に冷蔵庫を覗くと、運が良い事にリンゴがたっぷりと使われた冷たいタルトを見つける。これを湯気にしばらく当てると、程よく柔らかくなった。席に着くとタルトをフォークで一口ほおばる。甘くて程よい酸味の利いたリンゴが香と共に広がり、しばし私の心からこの悲惨な状況を忘れさせた。砂糖とミルクをたっぷり入れた紅茶を飲みながら、木枯らしが吹くさまを眺め続ける。これぞ人生の贅沢であり、贅沢は出来るときに出来るだけしておくに限る。そう開き直りながら私が眺めているとカサカサと何かが動く音が聞こえてきた。人間だろうか? などと私は考えなかった。この展開なら次に来るのはチェンソーを持った怪物などもありえる。既に覚悟を決めた私は全く物怖じせずに、物陰から外の様子をうかがう。はたして、そこには予想に反しかわいらしい怪物がいた。腰ぐらいまでの高さがあり、二足歩行でよちよち歩き、白いお腹に黒い胴体と手足。ペンギンが枯葉をガサガサと踏みつけながら歩いて来るのだ。何故こんな所にペンギンがいるのだろうか。私は相手を脅かさないように後ろをこっそりと着いていった。

 いくつかの道を曲がったり戻ったりしているうちにペンギンの姿が消えてしまった。ふと振り返ると丘の中腹まできたらしく、私の暮らしている町が眼下に広がりその先には海と今にも沈みそうな太陽が見える。

 はて、こんな丘があったであろうかと私の記憶を漁るが当然そんなものは無い。それと、ひとつ気がついたのだが、どうもペンギンは坂の上をめざして歩いていたらしかった。

 せっかくここまで上ってきたので、ついでに丘の上まで行ってみようと再び歩き出す。てっぺん付近の急で長い階段を上る。何度も引き返そうかと思ったが、ここまで来たら最後までやり遂げなければという気持ちもあり、その二つの間を私の心はいったりきたりした。そうこうしてるうちに最後の一段を踏みしめる。

 すでに肩で息をしているような体たらくである。日ごろから体を動かしておくべきであった。

 息を落ち着かせ改めて周りを見ると、御伽噺にでも出てきそうな非常に小さな教会があった。それは本当に小さく小人の為に作ったようなサイズ大きさであり、こんな所よりおもちゃ売り場にでも置いてあったほうがまだ納得ができる代物であった。近寄ってよく見ると小さく募金箱と書かれている。いったい何の募金なのかは解らなかったが、ふと私の頭に名案が湧きあがった。ポケットをまさぐり見知らぬ男が落とした硬貨を取り出すと、小さな教会の塔に開いた穴に滑り込ませた。自分の捨てた金が他人の役に立ったのだから、あの男も納得するだろう。私は気分が良くなると戻ろうと後ろを振り返った。

 しかし、そこには道がなく細い棒があるだけであり、私はその上に立っていた。更に後ろを見るとそちらもひたすら棒が延びているだけである。落ちないように手でバランスを取りながら足元だけを見つめる。そうやって少しずつ進んでいくうちに辺りはペンギンの鳴き声で騒がしくなってきた。棒から目を離し周りを見渡すと、学生達がサッカーをしている。改めて下を見ると私はサッカーのゴールの上に立っている事に気がつき顔を赤らめた。

知り合いが海外の文学ものが好きなため、そんなイメージで書いてみました。

ちなみに、その人からの感想は「ひと昔まえの海外作品っぽい」だそうですw

皆さんはどんなイメージをもたれたでしょうか?

なにはともあれ、楽しんでいただけたならば幸いです。

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