君に会いたくない 【最後のワガママ『続、君に会いたい』(3) 全3話 B面】
亮介がいなくなって5年……。
月日は残酷だ。結婚をし、子供が生まれた。
私は薄情者だ。彼を忘れた訳ではない。中心はいつでも亮介だ。
生きていて欲しい。どんな顔をして会えばいいのかわからない……。仮に、今の生活と亮介を天秤にかけたとしたら、どちらに傾くのか?
会ったとしたら、途方に暮れてしまうかもしれない。
今でも唯一、絶対の存在。中心ではあるが、それでも……。
それでも、5年と言う月日は私を変えてしまうのに、十分な時間だった。極論、旦那はともかく、子供は選ばざる得ない。
私は何と無く、答えらしきものを用意してしまっていた。とても後ろめたい、
出来る事なら表に出したくはない。気持ち。
ーー
「亮介、橘亮介に会ってみる気はないか?」
「え?」
「奴は生きている」
「……」
「お前に会いたがっている」
「あなたは……誰?」
「亮介の上司みたいなものさ」
子供が寝息を立てる横で、私は震えた。5年、散々考えたそれ。思ったような形ではないけれど、
ーー
「亮介!」
彼は背を向けたまま、右手を上げた。寂しそうな背中、答えるように上げた右手が震えていた。
今すぐ駆け寄り抱きしめたい。
しかし、引き留めるように子供の鳴き声が聞こえる。寒さで、張り詰めた空気が私の嗚咽をハウリングさせた。
[終わり]