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7話

「ありえねぇ…」

 3人の定員に、まさかのシングルが2部屋という事態。怒りというより脱力した。

 年度末の連休の真ん中、他のホテルだってそうは空いてはいないだろう。

 引率で来ているのは久我ではなく副顧問の高畑で、明日の試合の段取りで別行動になっていた。

 指示を仰ごうかと真直が電話を手にした時。

 地央が至極不機嫌そうな声で「もういいだろ。寝るだけだし」と言い放つと、アメニティの追加と値段交渉を勝手に済ませ、もう一部屋を高畑へ残して与えられた部屋へ歩きだした。

 確かに今から揉めると休めるのが先の話となり、真直もドップリと疲れていたから、何も言わずそれに従う。

 あー…にしても、この人と相部屋とか間持てるのか?

 超気まずい。

 肉体的な疲労感と、精神的な疲労感。重い足が一層重くなる。

 二人は射撃部の上位者で、今日はエアライフルの合同練習を兼ねた遠征試合にきていた。ビームライフルの面々は明日からの合流となっている為、今日宿泊するのは二人と副顧問の3人だったわけだが……。

 地央は真直の一年先輩で、競技の被る二人は一緒に行動機会も多い。だが、基本的に無口でとっつきにくい地央とは親しくはなかった。

 シングルに二人と思えば気が滅入る。

「せまっ」

 地央がドアを開けた瞬間、真直が思わず声をあげた。

 一人で使うにはそこそこゆったりした部屋なのだが、二人分の荷物を置くだけで床がいっぱいになる。

 とりあえず携帯を取り出して、付き合って三日目の彼女に現状を嘆くメールを打っていたら、

「風呂先行くぞ」

 と地央はさっさとシャワー室に消えた。

 狭いベッドにため息がこぼれる。

 まだ肌寒い季節だからいいようなものの、男とシングルベッドなんてマジで笑えない。

 『先輩が男前だからまだ救われる。副顧問とか熊のクリーチャーだから』とメールを送れば『アブナい世界に目覚めないでね』とハート付きの返信。 『目覚めるかアホ』と返しながら、一昨日の彼女のエロエロな舌技を思いだして少しにやけた。

 淫乱な女。

 男に開発されつくしたようなあの体を許せないと思う男もいるかもしれないが、セックスが目当ての真直には申し分ない。

 豊かな胸やうねる細い腰、卑猥な舌を思いかえしてエロメールのやりとりをしていたら、地央がシャワーから出てくる音がした。

 目を向ければ、水も滴るイイ男。

 普段青白い地央の頬にほんのりと赤みが差し、気怠げな様子と湿った唇がなんだか情事の後のようだ。

 背徳的な色気。

 猫目と細高い鼻梁を持つ、決して男臭くない美形の地央。女子たちがイケメンだと騒ぐのは当然として、しどけない今の姿をみれば、顧問の久我とデキテルなんて噂もあながち本当なんじゃないかと思わせる。

「お先」

 その声についガン見していたことに気づいて慌てて目をそらした。



<p>


 シャワーから出て脱衣所で髪を乾かし歯を磨き終えた時には、地央はすっかり熟睡していた。

 体を横たえているのはシングルベッドのキッチリ半分。

 20センチ近い身長差を考えたらなんだか損した気分だ。

 開いている半分のスペースに片膝を立てて座り、何とはなしに地央の顔を見るれば、いつもとりすました顔をして感情を見せない射撃部エースの寝顔は意外に幼く見えた。

 頬には相変わらず赤みがさしているけれど、今はもうさっきの色っぽさは失われている。

 目が強いんだな、きっと。目開けてれば綺麗で、目閉じてたら可愛い。

 ……って、おいおい。

 17の男捕まえて何言ってんだ俺は。

 真直はベッドサイドライトをつけてから、体を伸ばして部屋の電気を消した。

 腕を枕にして横になると、地央のうっすら開かれた唇からもれる静かな寝息がやたらと近くで聞こえる。

 何故かかすかな罪悪感。

 いや、こんなクソセマイベッドなんだから近くもなるわ。

 柔らかい光に照らされる長い睫は自然に少しカールしていて深い影を作り、肌理細かい白い肌は絹のような光沢を生んでいた。

 肌綺麗だなぁ。

 今まで情を交わした女の中にも、こんな綺麗な肌の持ち主はいなかったと思う。

 猛烈に触りたい衝動が湧き上がった。

 性的なものではなく、気持ちの良さそうなものに触れたいという本能。

 唇で触れたら絶対気持ちいい。

 女だったら良かったのに。

 うん。女なら好み。

 多少の性格の悪さも愛想のなさも、体が良けりゃ問題ない。

 いや、逆に、いつもスカしたこの人が乱れる姿とか絶対ヤバイだろ。

 ギャップがエロい。

 あ。なんか見てみてーかも。

 絶対そそる。

 ああ……でも女じゃないんだよな。

 横になれば急激に疲労に飲まれ、真直は地央の顔を見ながら沈むように眠りに落ちた。

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