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5話

「もしもし御崎?」

 夕食を終え、明日も続く総体に備え宿題を片付けようと部屋に帰ってから、思い出して地央のポッキーゲームの相手に電話を入れた。

「おう。どした?」

「あれ、ヤバかったな。今週のシャドーミスト。兄貴死ぬと思ってなかったからビックリした」

 真直の言葉に、通話口の向こうからものすごい絶叫が響いた。

「はああああ!!!!?何ネタバレしてんだよ!!俺まだ読んでないっつのっっ!!!!」

 もちろんそんなことは知っている。

 知っててわざわざ電話をかけたのだ。

 御崎の好きな漫画。雑誌発売前の最新話が動画サイトに上がっていたらしく、朝、試合前に今のようなやり取りと絶叫が聞こえたので真似をしたのだが、見事に当たった。

 ザマーミロ。

 試合会場ではネタバレをした方が首を絞められていたが、電話越しなのでその辺の心配はない。

「あ、ワリ。お前すげえファンだから絶対知ってると思って」

 そう言って舌を出した。

「ざけんなよ!!おまえ何の恨みがあるんだよ!!!」 

 あるからやってんだっつの。

 あんな至近距離まで近づきやがって。

 お前が地央さんの肩にかけた手とか、地央さんがお前の肩に載せた手とか許せねんだよ!!

「ほんとないわ。マジ意味わか……」

 とその時、御崎の言葉に被すように、通話口の向こうからやたらとデカイ声。

「ただいまー!おお健太!シャミス!上総の兄貴死んだらしいな。つかオヤジも死ぬらしいぜ」

 多分それは御崎の兄。

 嫌がらせであろうことは声に含まれる笑いでわかる。

 どうやら伏兵がいたようだ。

「バカばっかりだ!!お前らが死ねっ!もおおおーーー!なんなんだよ!!!」

「ワリワリ。じゃな」

「黒川!!てめ、こらっ」

 御崎の言葉の途中で通話をブチ切りすれば少しは気が晴れた。

 あの写真でこっちは心臓が止まるかと思ったんだ。これくらいの復讐はしないと。

 タッチの差で御崎の実兄に持っていかれるところだったのは想定外だった。

 それにしても―――。

 地央からのまさかのプリッツキス。

 いや、キスに持っていったのは俺なんだけど、でも……。

 あの人はたまにああいうことをするから本当にコワイ。

 理性のブレーキがおかしくなってしまいそうだった。

 今思い返しても細胞が沸き立つような堪らない気持ちになる程のキスはバッサリと地央に終止符を打たれてしまったけれど、妄言でもなんでもなく、一時間はしていられたと思う。

 何なんだろう。今まであんなにキスをしたいと思ったことなんてなかった。

 要はさっさと突っ込んで気持ちよくなりたくて、キスはそれにつなげる通行儀礼みたいなもんで、逆に言えばヤらしてくれない相手とのキスなんで時間の無駄以外ありえなくて。

 地央にキスをしかけた初めの頃は、癖というかまあ、当然の流れで服を脱がしかけたけれど、何度か叩かれてしまえば、キスさえも拒否されてはかなわないと今ではすっかり現状に甘んじている。

 惚れた方が弱い。

 まさにそう。

 でも自分にそんな日がくるなんて……。

 半年前の暴挙とも言える地央への押し付けがましい愛情表現は今思い出しても自分で苦笑するほどだ。

 地央の傍にいられないなら目を潰したって構わないと思いつめていたあの時。自分に酔っていた、どう考えてもイタイ奴。

 あれがあったからこそ同情して今傍に居てくれてるんだろうが、思い返せば恥ずかしい。

 もちろん根っこのところは変わってない。

 今だって地央の代わりに死ねと言われれば死ねるだろう。

 でも今は半年前のただ熱い気持ちとは少し違ってもっと深い部分で地央に囚われている。

 多分、もう二度とこんなに誰かを欲しいと思うことはないだろうから。

 だから誰にも奪われたくなくて、誰にも触らせたくなくて、それでも確固たる関係ではない今、地央を繋ぎとめる手段も持てなくて、だから余計に固執する。

 自分の独占欲に自分でも驚いているほどだ。

 御崎への子供っぽい報復が余裕のない自分を露呈している。

 まあ。うん。確かに子供っぽかったな……。

 確か初期のシャドーミストのグッズ持ってたから、欲しがればあれをやろう。

 だって何かの条件なしではキスさせてくれない地央からプリッツキスを引き出してくれたのは結果的に御崎なわけだし。

 いやあ。それにつけてもありえない程エロいシチュエーションだった。

 まさか地央が自分の膝に跨るなんて……。

 正直あの時股間はギンギンに張り詰めていて、バレないかとヒヤヒヤしたのだ。

 わかる範囲で地央のそこはそうなっていなくて、あっさり夕食に行こうとした温度差に寂しくもなったりしたが、唇を合わせている途中地央の漏らす吐息は超絶にエロくて……。

 あ。

 いかん。

 あのエロいキスを思い出せばズボンの前がまたきつくなる。

 実はあの後、荷物を部屋に置いてから行くと地央を見送って、トイレの個室に飛び込んだ。

 地央が帰ってきてからというもの、ひとりエッチの回数が増えたという悲しい現実。キスをした回数より確実に多い。頭の中で地央を穢すのは後ろめたいけれど―――。

 ヤらしてくれないからしょうがない。

 オカズにするくらい許してもらわないとっ!!!

 真直は自らを慰める行為の正当性を主張し、宿題そっちのけでズボンの前をくつろげた。

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