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41話

ドキドキしながら地央からの返信を待つ。

 …………。

 ………。

 ……。

 あれ?

 さっきまで即返信だったメールがピタリと途切れた。

 いや、ちょっと止めてくれよ。

 さすがに「俺も」とか「みーちゅー」的な返信は期待してなかったけどまさかの無視!?

 いやいやいや。

 ちょ、なんか返信して。

 え?寝落ち?

 それとも俺……、やらかした感じ?

 動揺して中腰になった時、真直のスマホが震えた。

 今度はメールではなく着信だ。

「もっ、もしもし」

 声が上ずる。

「よお」

 たった二文字。

 低めの甘いそれが耳元で聞こえてゾクリとした。

 妙な緊張感がこみ上げる。

「昼間のことだけど……」

 言いよどむ地央。

「あ、違う。夕方」

「……?」

「いや、夜か。……まあ、なんでもいいんだけど」

 真直の嫉妬がもとで空気を悪くした件かと思いきや、どうやらそうでもないらしい。

「お前の部屋に行ったらお前腹全開にして寝てたから、ライダーベルトを油性マジックで腹に直書きしようとした。……悪かった」

「……はい?」

 いきなりの告白と謝罪に間の抜けた声が漏れた。

 ん?そういえば床にマジックが……。

「……!!?」

 慌ててTシャツをめくった。

 良かった。とりあえず未遂のようだ。

「あの……、マジでやろうとしたんすか?」

「うん」

「いやいやいや」

 何の話だ。

 ドキドキしていた自分がアホらしい程の告白。

 そもそもあんたとの重い空気が無理で、挙句御崎とのことでムカついて、テスト前だってのに勉強もせず走りに出て、カイとスケボーして……。いや、それはそれで楽しかったわけだけど、それでもずっと、それこそ授業中まで変な選択話をふったことを後悔していて……。

 なのにあんたはライダーベルト?

 何なの?

 あー、まあ昼間のあれは、俺程度の人間を啓太郎様と天秤にかけるなんてことをしたせいでしょうし?結局俺は地央さんのこと好きでいさせてもらってる立場でしょうし?

 そんでもさあ……。

「ねえ、地央さん」

「ん?」

 俺が好きな気持ちの、せめて一割くらい俺のこと好きでいてもらってますか?

 本当はそう聞きたかったけれど、口から出るのは当然違う言葉。

「やっぱバカ林っすわ」

「未遂じゃないか」

 ……ああ。

 好きって送ったメールには、なんの応えもくれないんだな。

「リアルにやってたら、あれっすよ、俺消さないで学校行って地央さんに描かれたって見せまくってるわ。つーか絶対みんなあんたがそんなキャラって知らないから、描いてくれてたら逆に面白かったのに」

 いつも俺からの好きに返してくれるのは「うん」とか、そんなんだけ。

 今日にいたってはその「うん」すらない。

「おまえの自作自演だって言うから大丈夫だろ」

「うーわ、黒っ」

 決して地央さんから「好き」なんて言葉もらえるとは思ってないけど、そんなことは承知の上だけど、でもスルーは……。

「酷くないすか?……あの、あれ、無防備なとこ襲うの」

「は?お前が言うか?まあ、いいや。明日どうする?」

「どうって?」

「図書室で勉強。一緒にやる?」

「あ、いや、明日はカイ……桐山と一緒に」

 ねえ、カイの名前出したらヤキモチとか妬いてくれないもんですか?

「いや、実は今日も一緒で。あいついつも怒ってるけど笑ったらやっぱスゲー可愛かったっすよ。ビックリ」

「まあ、そうだろな。あんだけ綺麗なら」

 驚く程普通に、あっさりと返される。

 女顔好きの節操無しらしいっすよ、俺は。それがザ・美人を褒めてもなんも気にならないわけ?

「話したら結構気があって、それでまあ、明日はカイの家で……」

 あんたに「行くな」なんて言われたら、きっと俺は天にも昇る気持ちになれるのに……。

 なのに――。

「桐山、成績いいらしいから、生物みてもらえよ」

 はいそうでした。

 地央さんと俺の温度は違う。一方通行。

 そんなんわかりきってることじゃないか。今更落ち込むようなことじゃない。だって男が男と遊びにいくのに、普通は嫉妬なんてしないから。俺が嫉妬するのは地央さんが好きでたまらないから。地央さんが嫉妬してくれないのは……。

「じゃあ、邪魔したな。勉強頑張れよ」

 真直は通話の切れたスマホをベッドの上に投げ捨てた。


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