4話
頭上にある地央の唇から生える一本のプリッツ。
真直は意表をつかれたように瞬きをした後、眉根を寄せ、拗ねているような、笑っているような複雑な表情で差し出されたプリッツの端を噛んだ。
近すぎる距離は地央の欠けた視界に入らず二人の視線が合うことはないけれど、食べ進めていけば少しずつ距離が縮まり、やがて唇が触れ合う。
―――と。
真直が口を開き、薄く開かれた地央の唇を覆う。そしてその温かな舌がまだ地央の歯で挟んだままのプリッツの欠片を奪い取るように差し込まれた。
「……んっ………」
この瞬間。地央はいつも困ってしまう。
そう。それはその表現が一番似つかわしい。
真直とのキスが嫌いなわけではなく、舌を絡み取られ、音を立て、強弱をつけて吸い上げられれば痺れる程に心地いい。
でも、吐息を漏らして口づけに応える自分に、男相手になにやってんだ、と冷めた自分がいるのも確かで。
気持ちのやり場に困ってしまう。
「…んん……ん…」
真直の舌が自分の口の中を探るように這い回れば、自ずと地央の咀嚼したプリッツを絡め取ることになるわけで、気持ち悪くないのだろうかと考えたり。
それでも真直に髪をかき乱され、角度を変えて何度も舌をとろかすようなキスをされれば、気持ちは昂って、そして………怖くなる。
体の中心が熱を持ちそうになるのがわかった。
やばい――。
地央は慌てて真直の頬を掴むと、終わりの合図に大きくチュッと音を立ててキスを落とし、頭をあげた。
「はいっ。以上!おしまい!飯行こう」
「もうちょっとだけ……」
距離が生まれて真直の顔が視界に入る。
地央の首に手を回して引き寄せようとしながら、離された地央の唇を切な気に追いかける真直の顔がやたらと色っぽくてゾクリとしてしまう。
流されそうになるのをなんとか踏みとどまり、詰まる距離を遮るようにして真直の口を手で塞いだ。
「だーめ。もう終わり」
ガッチリと腰に回された腕を、開いた手で引き剥がそうとするが強い力にビクともしない。
「俺腹減って……ひゃっ!!!」
真直の口を塞いでいた掌を舐められて、地央は声をあげると慌てて手を離した。
「こらっ!!」
微かに視界に入る真直の顔は笑っている。
その笑顔からは色っぽさが払拭されていて諦めたかと安堵した次の瞬間、力いっぱい腰から抱き寄せられた。
「おいっ」
逃れようとする地央の肩口に真直が顔を埋める。
「……あと5分だけこのままでいさせて」
声の振動が、温もりと共に肩から伝わる。
地央は真直の体を押し返そうとして肩をつかんでいた手を緩めると、
「だめ」
言いながらそっと、両腕でその頭を包んだ。
「あと3分な」
硬い黒髪に口元を寄せてそう囁けば、肩口の熱が少し上がった。