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24話

「サッキー、俺帰るわ」

 居酒屋に戻り、咲和田に声をかける。

「なに!?お持ち帰り決定か!??」

「なあ、おまえさ、さっきの子見たことある?」

「はあ?知らねえよ、お前の爛れた女関係なんてさ。つか、メチャ美人だったな、さっきの子。いやー、羨ましいわ。これからあの子と爛れた……いやーっ!!鼻血でちゃうっ」

 咲和田の空気の読めなさに若干苛立ち、つま先で太ももを蹴った。

「やかましわっ!あの子はもうさっさと帰ったよ」

「えーマジかー。桑折明里似の美女だったのになー」

「くわおりめいり?」

「知らね?鳴り物入でデビューした新人女優。けど一発目の映画がコケてさ。なんか残念なの。ぬーん。お。これこれ」

 酔っている割に的確な操作でスマホを弄り出てきた画面。

 何かの役を演じているその綺麗な顔は、間違いなく芽依里のものだった。

「似てるだろ?つか案外本人だったりして。出身こっちらしいし」

 笑いながら目を向けた咲和田の顔が、真直の表情を目にして一瞬固まった。

「え?ご本人登場の巻?きちゃった?これ」

「いや、違う。じゃあ、門限だからもう行くわ。暖人によろしく伝えといて」

「お、おう……」

 門限まではまだ時間はあったけれど、ざわついた不安に胸を掻き回されて、気がつけば駅までの道を駆け出していた。

 芽依里の目を見て浮かんだ、耐え難い不安の原因は、なんだ?

 考えて浮かぶのは、芽依里への仕打ちと逆の、地央との関係。

 ―――天罰なのかも知れない。

 男である地央を好きになったのも。

 今、こんなふうに地央に振り回されてるのも。

 でも、それでも、そばにいられるうちはいい。

 心でも、体でも、共通の時間でも、地央を感じさせてくれるものならなんでもいい。

 だから、先が見えないからって、俺を切らないで―――。

 恐怖にも似た、予感にも似た不安が、冷たい湿気のように真直にからみついて離れなかった。

 

 

 

 



 

 

「おかえり。ライブどうだった?……て、おい、ちょっと!!」

 ドアを開け、そう聞いた瞬間真直に抱きしめらた地央。しばらくなかったスキンシップに驚きつつも、何より開いたドアに慌てる。

「ほんと、すんません。ギュッとするだけだから、ほんと」

 取り憑かれたような口調に、何かあったのだろうとは察するものの、とにかくこんなところを誰かに見られてはかなわない。

「すむもすまないもないんだって、こら、ちょっとだけ放せっ!!」

 なんとか体を捩って脚でドアを閉めると、後ろ手に施錠した。

 その間も、真直はまるで地央の体温を確かめるように離れようとしない。

「大丈夫か」

 肩口にある真直の耳にそう問えば、真直の肩が揺れた。

「……地央さんがいてくれたら……」

 大きな体に似合わない、あまりにも頼りない声。

 ライブハウスは真直の実家の方にある。

 ひょっとしたら、また家のことでなにかあったのだろうか。

「いるだろ。つか実際お前に捕まってる」

 うん。

 比喩的な部分でもそうなのかも知れない。

 多分、俺はお前に捕まってる。

 そうしてそんな風に思う自分の心を素直に認めていることに気づく。

 だからもう。

「はなれらんないだろ?」

「すんません。でも、あとちょっとだけ……」

 なんだよ、ちょっとしたら離れるのか?

 ポッカリと心に浮かんだ気持ち。

 そのまま声に出して真直に言えば、喜ぶんだろうな。

 想像したら、自然と笑みがこぼれそうになる。

 でも―――。

 言わない。

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