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2話

ミス訂正しました。

「あー、リレーも7組に負けちまったなー」

 日に焼けるとヒリヒリ痛くなって翌日大変なことになるからと日焼け止めを塗っていたはずの地央だったが、こちらを向いて笑ったその顔は赤く火照っていてやたらと可愛い。

「ちょ、ジッとしてて」

 真直は、地央が肩からタスキ掛けにしていたハチマキを一旦はずすと、それでゆったりとした輪を作り、地央の後頭部に回して頭の上で素早くリボン結びにした。

「チョー可愛い」

 本当は抱きしめて頬ずりをしたいところだが、さすがに運動場ではそれはできない。

 地央はと言えばその言葉でやっと気づいたらしく慌てて頭からハチマキを外した。

「あほか!!」

「あー、せっかく可愛いのにー。つか、気づくの遅っ」

「面白いじゃないか、おまえ。よし、俺がお前に首輪をつけてやろう」

 ハチマキを手に持つ地央の目が荒んでいて、真直は慌ててその手からハチマキを奪った。

「絶対締める気だ!!」

「締めないからっ!ちょっと返せ!いい結び方があるんだってっ!!」

 地央の手が届かないよう、ハチマキを頭上に差し上げる。

「嫌っすよ!!」

 20センチ近い差は大きい。ジャンプして奪い返そうとする地央をなんとかかわした。

 目の前でぴょんぴょんと跳ねる姿が愛らしくて顔が緩むのを、地央は背が低いのをバカにされたと勘違いしたらしく、今度はムキになって真直がタスキ掛けにしているハチマキを奪おうとした。

 結び目が背中にあるので、地央がおのずと抱きついてくるような形となる。

 不意に密着されて真直は思わずドキリとしてしまった。

「ちょ、地央さん!襲うんなら人目のないとこでして!!」

 本当は嬉しくてたまらなかったけれど、初恋の少年のようなときめきを悟られたくなくてわざとからかうように言えば、地央は顔を赤くして慌てて体から離れた。

 そんな地央を見ればついついイジってしまいたくもなる。

 地央の肩に手を置き、その手に微かに体重を載せるようにして顔を近づけ、地央の視界に入っていることを確認してから上目遣いで覗き込んだ。

 そして喧騒の中では地央にしか届かないであろう低い声で囁く。

「今から人目のつかないとこ行きます?」

「……!?」

 地央はその囁きに耳まで赤くなり照れて……くれるかと思いきや。

 ペシっと頭をハタかれた。

「痛てっ」

 そっぽを向く地央に尚も苦情を言おうと口を開いた時だった。

「真直さーん!ちょっといいすかぁ?」

 大きめの声で呼ばれて振り返ると、少し離れた校舎側で射撃部一年の勝馬がこちらに向いてチョイチョイと手招きしていた。

「んだよ!!てめーがこい!」

 声を張って言い返すと、片手を顔の前の上げて拝むポーズをとる。

「頼んますって!」

 地央はため息をつくと、地央とのジャレ合いを邪魔したことに腹を立てつつも、地央にハチマキを返して勝馬の傍へ歩みよった。

「すんませんね」

 勝馬は中学時代通っていた射撃クラブからの知り合いで、仏頂面でやってくる真直を目にして、薄っぺらな謝罪を口にする。

「お前絶対すまないとか思ってないよな。んだよ。ジュースでも奢ってくれんのか?」

「わー。こないだまで中学生だった俺によくまあたかろうとか思えるっすよね」

「……おまえ、昔の野球部だったら今絶対尻バットだぞ」

「ええ。まあでも俺今の射撃部なんで問題ないっす」

 もともとの性格に加えて小さな頃から顔見知りだっただけに、先輩に対する礼儀などどこ吹く風だ。

「で、何?用あったんじゃねえのか?」

「俺はないっすけどね」

「はあ!?」

 普段からあまり感情の色を表情には出さない勝馬は今も変わらぬ無表情で、唖然とする真直を見返した。

「はい」

「じゃ、誰が呼んだんだよ?」

「いや。呼んだんは俺っすよ、もちろん。真直さん見てたでしょうが。つか、だから来たんでしょ?」

 何当たり前のこと言ってんの、馬鹿じゃないの的なニュアンスがそのセリフの中に含まれていたと思うのは、真直の僻み根性のせいではないだろう。

 小さな小さなパニック。

 とにかく勝馬と話をすると、いつも虚脱感を味わうことは断言できた。

「じゃ、なんで呼んだんだよ」

「あれっす。真直さんが邪魔だからとりあえず引き止めろって言われてー」

「はあ?」

「あ。これ内緒ね。真直さんには言うなって言われてるから」

「いやいやいや。意味がわからん。え?どういうこと?」

「だからまあ、あれっす」

 勝馬が真直の肩の向こうを指し示した。

 振り返り目に入ったのは、地央が女子二人と話をしている姿。

「え?地央さん?」

「そ」

 一生懸命な女子に困ったような表情を浮かべる地央。

「告るとかってことか?」

「まあ。予約?あの女子らの友達が平林大先輩のこと狙ってるらしいんすけど、俺へんなとばっちりで真直さんに睨まれることになって、マジ可哀想」

 こらこらこら。

 人のもんに何で告白なんてしようとしてんだ?

 ありえないだろ。

 まあそりゃ確かに地央さんはカッコカワイイけれどだなあっ。

 惚れる気持ちもわかるけれどだなあっ。

 くそー。

 拡声器で「地央さんは俺のものだっ」って叫べたらどんだけいいだろう。

 拳を握る真直のそんな心境を知る由もない勝馬は、ボリボリと頭を掻きながら地央と女子二人を見ている。

「もう俺行くからな」

「平林さんとこすか?つか、ほんっとに仲イイっすよね。あんたらがいつもベッタリだから俺こんなつまんないことやらされてんすよ」

「嫌ならなんでやってんだよ?弱みでも握られたのか?なんだ、女子の縦笛でも舐めたのか?」

「女子の縦笛舐めたのが弱みとか超イカス」

 やはり勝馬は変わっている。

「あー、もうつきあってられるか」

「えーもう行っちゃうんすかあ?」

 勝馬の声を無視し真直が地央の元へ歩み寄ると、ちょうど女子がその場から居なくなるところだった。

「地央さん。今の、告られたんでしょ?」

 背後からの真直の声に驚いたらしい地央の体がビクッと揺れた。

 ふん。どうせあんたのことだから、断り切れなくて気をもたせるようなこと言ったんだろ。

「ビックリした。あー、いや。校陸終わったあと時間あるかって聞かれただけ」

「で、なんて?」

「行かなきゃいけない謂れないだろ」

 あっさり、しかも結構冷たい言葉を口にする地央。

 ……すっかり忘れていた。

 そういやこの人ってこんな人だったわ。

 仲良くなるまで本当にとっつきにくい人だと思ってたんだ。

 今では結構子供っぽくて可愛い人だとわかってるけど、それは俺だけに見せてくれる特別で……。

 堪らず抱きしめたら、やっぱり頭をハタかれた。

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