表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/55

13話

立ち去る背中を見れば可哀相だなと思うけれど、正直電話がかかってきたのは渡りに船だった。

 嫌かと問われれば、嫌なわけじゃない。

 そもそも真直じゃあるまいし、地央にとってはキスも十分な愛情表現で、それに応えてるのが既に真直の質問への答えだ。

 ただ、その感情がどこに分類されているのかわからないから、きっちり言葉で認めてしまうのは怖かった。

「地央?」

 啓太郎の声に引き戻される。

「あ、うん。会うのほんと久々だよな。すげー楽しみにしとく」

「僕も。こないだの行けなかったから、今回のは倒れても行くよ」

「いやいや、あんまムリすんなよ。……医学部って、やっぱキツいよな」

「んー。生物とってなかったから、それがキツい」

 中学の時から工学部に行くと言っていた啓太郎は、当然物理をとっていた。

 去年二人で組んだ課題研究では、地央が途中で居なくなった後一人で課題をこなし、予定よりずっといいものに仕上げ県知事賞を取った。

 自分の目の障害が、そんな幼なじみの人生を変えてしまったのではないかと、今でも胸がチリチリする。

「まあ、でも、充実してるよ。勉強ばっかりで余計なこと考えなくて済むしね」

 自嘲が混ざっているように聞こえるのは、地央の後ろめたさのせいなのか。

「……なあ、地央、おまえ黒川と……」

「……ぇえ?」

 突然啓太郎から飛び出した真直の名に、たった一文字発した音がひっくり返る。

「……黒川が居て良かったな」

 その言葉に深い意味なんてないのだろうが、ついさっきのキスや真摯な姿を思い出してドキドキと息が苦しくなった。

 真直とのそれは、絶対に啓太郎にはいえない関係。

「仲良い後輩いたから、学校戻りやすかったろ」

「いや、まあ」

 そうなんだけど。

 その名の通りの真っ直ぐさに流されそうで、今は正直寮に戻りにくい。

「ほっといていいの?さっきの黒川でしょ?拗ねてるよ、きっと」

 確実に拗ねてる。

 でも……。

「うん。いい。つか啓太郎の方こそ時間大丈夫か?」

「もうちょっとしたらバイト行くけど、まだ平気」

「バイトしてんの?」

「カテキョを二本ね」

「何?女子?可愛い?」

「可愛いよ。小学生と高校生の男の子」

「はあ?小学生で家庭教師!?」

「お受験大変なんだよ」

 たわいない会話に癒やされる。

 真直とは違う距離感を持つ唯一無二の存在。

 恋愛感情が絡まないことにホッとする。

 恋愛―――。

 俺は、あいつの想いにどこまで応える気なんだろう。

 何故そこまで固執するのかわからないという程の愛情を向けてくる真直。

 たまに息苦しくなるけれど、無条件で愛される喜びを実感したことのない自分にはその苦しさまでたまらなく心地よくて、傍に居て欲しくなって、だから、自分の存在意義を確かめたいだけに利用しているんじゃないかという後ろめたさが拭えない。

 そう。

 きっと。

 俺はおまえが欲しいんじゃないんだ。

 お前が好きだと言ってくれる俺を感じたいだけ。

 だから俺のことを欲しがってほしくない。

 ああ、いや、違う。

 ずっと欲しがっていてくれと、ただバカみたいに無条件で俺を欲しがってくれと、そう思ってる。

 俺は自分が可愛いだけ。

 サイテーだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ