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11話

え……何…で?

 校門の外にいるのは、小柄なフワフワの美少女。

 川迫高の女子の制服をきた八坂綾愛似のその姿に息が詰まった。

 地央が言っていたとおりの「ヤバかわ」。

 容姿だけとれば地央の好みの完全体のような姿は、いくら地央が「外見の問題じゃない」と言ってもやはり心を乱される。

 膝丈スカートの下には黒いタイツをはいていて、パッと見は義足とわからなかった。

「あ。平林さん!」

 笑顔を向けてくる友に地央が当たり前のように片手を挙げて挨拶をするから、思わず地央の袖を掴んだ。

 だって、地央さん、ちゃんと話したって。

 付き合わないって。

 なのに。

 袖を持つ手に力がこもり、そのまま自分の方へ引き寄せる。

 胸に当たる地央の肩の重み。

 渡せない。

「昨日も遅くにメールしてすみませんでした」

 友が言いながら距離を詰める。

 真直は地央の姿を自分の後ろに隠したい衝動にかられた。

 メールって何?

 昨日もって?

「たいした返事できなかったけどな」

 さらりと優しく返す地央に真直は瞬きもできず立ち尽くす。

 ……こいつとのことは終わってたんじゃなかったのかよ。

 どす黒い感情。

 三歩進んでも、退がっても、ゴールが別にあるならたどり着けないのはおんなじだ。

 数分前の気分の高揚が嘘のように落とされた。

 だから、これ、俺んだから、気安くかかわってくんなよ。

 たまらず声が漏れたかけた時―――。

「サッカー、もう練習終わってたから、もうじき出てくると思うわ。頑張れよ」

「はい!!頑張りますっ」

「じゃあな」

 地央は小さく拳を握る友に優しく言うと、真直に袖を掴まれたまま歩きだした。

 自ずと、母親の袖に縋る子供のように後についていく形となる真直。

 歩を進めながらも呆気にとられて両者を見比べる真直に気づいた地央がクスリと笑った。

「おまえ、女の子相手に顔怖いんだよ。……つか、今はマヌケすぎ」

「え。だって……」

「ああ。ほら、中里とガストで会った日、サッカー部来てただろ?」

 サッカー部から二人がガストで会っていると聞いたのだった。

「んで、そん時あいつら罰ゲームか何かで桐山に猫の耳のヘアバンドつけさせてたんだよ」

 その時の光景を思い返したのか、瞳をぐるりを回して苦笑した。

 それも久住から聞いた。

 サッカーで退場になったらって賭けに負けて、あの凶暴な美人が苦汁を舐めさされたとか。

「それ見て中里、一目惚れしたらしいぞ。こないだそんなメールが来てさ。サッカー部の練習時間とか聞かれて」

「はあ?」

 ん?なんだか様子がおかしいぞ。

「え?あいつ、地央さんに告白してきたんじゃん」

「まあ、あんなんはファン心理みたいなもんだろ。だって話どころかそれまで会ったこともなかったわけだし」

「いや、まあ、そりゃそうかもしれないけど……。で、何?次は桐山カイ?」

 節操がないとかなくないとか……ん? 

 要は顔と、二次元要素含んでるかどうかじゃんか。

 え?俺は、そんな相手にあんなに嫉妬して苦しまされたわけ?

「それがな、桐山じゃなくて、久住だってよ」

 それもまさかの変化球。

 コンビニで、久住が嬉しそうにカイの猫耳話をしていた姿が蘇る。

「気の強そうな美人を虐めて喜んでるSっぽい笑みに萌えたらしい」

 ……は。

 ははは。

 脱力。

 為替動向ですらこんなにアゲサゲしない。

「振られたんすね、地央さん」

「うっせ」

 カラカラと笑う地央の笑顔がやけに可愛く、安堵感がこみ上げれば無性に抱きしめたくなる。

「地央さん」

「ん?」

 てらいのない笑顔を向ける地央にキスをしたくてたまらなくなる。

 好きすぎるんだ。俺は。あんたが。

「ギュッてさせて」

 言えば一瞬地央の笑顔が驚いたように固まって、急に赤くなってそっぽを向くから、袖を掴む手に一層力がこもる。

「……部屋、来てくんない?」

 声が掠れた。 

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