10話
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「学校であーゆーことすんなよな」
校門に近づいた頃、人気がないのを見計らってか右を歩く地央が下を向いてぼそりとこぼす。
じゃあ寮ならいいんだ、と言ってやろうと思ったが、未だ残るむこう脛の痛みに口にするのは止めておいた。
ジンと残る脛の痛みはさっき物理教室で調子に乗ってジャケットを脱がそうとし、革靴で蹴られたもの。
それまで可愛く腕の中でキスに応えてくれていたのに、つい手が伸びてしまって、全く惜しいことをした。
急いては事を仕損じる。
マジ名言。
それもこれも、ついつい過去の自分に煽られてしまったせいだ。
あー、脛いてえ。
「あーゆーことって?」
蹴られたお返しとばかり解っていて聞いてみれば、地央はそっぽを向いて早足で歩き始める。
……だから耳が赤いんだってば。で、きっと顔は仏頂面。
可愛いすぎだろ。
そんなんだから、にやけるのを止めるなんてできるわけなくて。
「ちーひろさんっ」
名を呼んで横へ並べば、地央は眉を跳ね上げて少し距離をとる。
「気色の悪い呼び方をするな」
照れ隠しで怒った口調になるのも想定内だ。
再び傍に寄ろうとしたらシッシッと手であしらわれた。
「ひでーなぁ」
惚れてる方が弱い。
そうなんだけど、二歩下がっても三歩進んでればそれでいい。
「ニヤニヤすんなっ!」
とってつけたような不機嫌な声で、こっちを見ずにそんなことをいう地央。
ああ。俺の表情もバレてる。
なんか解り合えてる感じ?
うーわ。だめだ、もう。顔がとんでもなく緩む。
案外、下がってるのは一歩かも。
案外、「学校であーゆーことすんな」っての額面どおりに受け取ってよかったりして?
案外、部屋ならオッケーだったり!?
そんな風に調子に乗っていたら、突然の現実に叩きのめされた―――。




