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魔国文官物語  作者: 丘/丘野 優
第1章
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閑話 グラーレンとミリアの出会い4

 そんな風に学生生活がある程度落ち着いた頃だろうか。

 ふと、クラスメイトの一人をしばらく目にしていないことに気づいた。

 告白合戦も時期を過ぎ、カップルも何組かできてきたころで、しかもその一人は最初期にカップルになった者だったから、余計に気になったのだ。


 どうしたのかとほかのクラスメイトを引き留めて「あいつ来てないけど何かあったのか」と聞いてみた。

 すると、そのクラスメイトは首を傾げて「分からない」と答えた。

 けれど、どうにも他に何か思うところがあるようで、そいつは何だか微妙な顔をしている。


「なんだ、何か知ってるのか?」


 そう聞くと、そういう訳ではないが、と前置きして、そいつは最近広がりつつある噂について語りだした。


「あいつ、ほら、異形持ちだったろ」


 異形持ち。

 それは差別用語である。ただ、他に表現しようもないし、あまりにも定着してしまったその言葉は未だ排除されずに残っている。今、国が広めている異形持ちの別名は獣相持ちだが、今のところは異形持ちの方が一般的だ。

 ところで異形持ち、というのが何かと言うと、つまり人にはあるまじき形相を体の一部に持つ人間のことを指す。それは腕であったり、背中であったり、頭であったり、顔であったり、足であったりするが、親がそうであるからと言って必ずしも子供がそうなるわけではないしまた、親がそうでないからと言って子供がそうはならないということもまた出来ないという遺伝なのかどうかも怪しい特別な容姿を持った人間なのだ。

 そして、そのように生まれた人間は通常の人間より遥かに強力な力を持っていたり、また特殊な能力を有している場合が多い。単純に力が強かったり、また空を飛ぶことができたり、他人の心の声を聴くことが出来たり、など、その能力には枚挙にいとまがなく、共通性がない。ただ、容姿によってある程度想像することもできる。たとえば、肉食獣の獣相を持つ者は単純に力が強かったり、反射神経が以上に鋭いことが多い。草食獣の獣相を持つ者は他人の心を読めたり動植物の声が分かったりすることが多い。また異形持ちは総じて魔力が強いのが普通だ。

 そのことだけ見れば、普通の人間よりも明らかに有用なようにも思えるが、そうではないことは歴史が証明している。

 彼らは強く、また有用だ。そしてその才能は主に戦争で使われてきた。しかも見た目が人間と異なることを理由の、ほとんど使い捨ての存在として。また生まれて数年で――つまり子供のうちに親よりも力が強くなることも普通だ。だからこそ、彼らは精神が成熟する前に、近くにいる者に多大なる被害を与えることもある。そう言ったことの積み重ねが、異形持ちを忌子とする慣習を人間の間に作ってしまった。結果として、彼らは差別され、その差別は未だに残っている、という訳だ。


 ただ、グラーレンたちの世代――子供の間では、あまりそう言った差別意識は希薄なのも事実だ。国を挙げて意識改革をしていることも大きく作用している。異形持ち、という言葉を何の気なしに使っているのはその言葉が意味する強い差別意識を感じることが出来ないからだった。

 だから、問題なくカップルを作ったりするわけだが、その今回いなくなった異形持ちについて、何か話があるらしい。

 グラーレンは話を継いだ。


「そうだったな。たしか尻尾と耳が生えてたっけ。彼女」

「ああ。猫の獣相持ちだったから人気があったな……ってそんなことはどうでもいいんだよ。そうじゃなくて、どうも最近、ここに限らず、若い異形持ちが行方不明になる事件が多発してるらしくてな。今回のあいつもそれに巻き込まれたんじゃないかってのがもっぱらの噂だよ」

「そんな事件が……誰かが獣相持ちを攫ったりしてるってことか?」

「分からないな。殺しているのかもしれないし……国が意識改革してるとは言え、大人たちは未だに異形持ちって言うと嫌な顔するだろ。そういう奴らがやってるんじゃないか」

「なるほどね……」


 そうして、クラスメイトは去って行った。

 グラーレンはその背中を見ながら、


「誘拐? 殺人? どっちなんだろうな……」


 そんなことを呟いたのだった。


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