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魔国文官物語  作者: 丘/丘野 優
第1章
35/52

第35話 魔法行使

 ミリアの手元には黄金で縁取りされた茶色の装丁の本が青い雷光を帯びてふわふわと浮かんでいる。


 前に悪戯勇者も魔法を行使するときに出していたが、もっと地味なものだった。


「それは何?」


「これは“本”なのよ。人間の作り上げた体系魔法の中で、読み願う魔法を使うときに使用する魔力で構成された媒体」


 なんだか難しい説明が来た。長年生きる魔族、しかも魔導学院で魔法について学んできただけある。私とて今までの人生でそれなりに勉強してきたわけだし考えることを放棄するようなタイプの人間でもないのだが、それにしても魔法についてはそもそもその存在すら考えてこなかった代物だ。それについての説明をすぐに理解しろと言ってもなかなか難しいものがある。


 私が眉を寄せていることに気付いたミリアは笑って言う。


「まぁ難しいことはいいのよ。つまりはここに書いてある文章を読めば魔法を使えるのよ。たとえば……、“火よ、灯れ”」


 ミリアが人差し指を上に向けつつ“本”を見ながらその言葉を唱えた瞬間、“本”は僅かに輝いてミリアの指先にぼわりと小さな火が現れた。


 私は感動の目線でミリアを見る。


「すごい……! これが私にも出来るんですか!?」


「そうなのよ。本当なら、自分の“本”を呼んで使った方がいいのだけど、それには少し練習がいるのよ。だから本格的な修行の前にちょっと使ってみたい、というときには誰かの本を読ませてもらうのよ」


「へぇー……」


 ミリアは“本”を持って私の横に立つと書かれている文章を指でなぞる。彼女の黄金の髪がさらりと流れていい匂いがする。まぁ幼女なので香水とかというよりかは太陽とかミルクの香りがするのだが。


 “本”には大量の文章が書かれていてぱっと見、どれが呪文に当たるのかよく分からない。ミリアの指している部分はもっと長い文章の一部に過ぎないのだ。


 そのことについて質問すると、


「読み願う魔法で使う“本”は術者によって書いてある文章が異なるのよ。初めは単語がいくつかしか書かれていない。けれど、修行すれば徐々に文章が伸びていくのよ。長い文章であればあるほど強力な魔法になるのよ。その文章の一部だけ抜き出して読む方法は威力調節に使われるのよ。人間は魔力の扱いが上手くないから、そういう方法に落ち着いたのよ。ただ、例外として魔族は長い文章を読みながら弱めの威力にしたり、また反対に短い単語で強力な魔法を発動させることも出来るし、人間も慣れと研究次第で似たようなことを可能にしてるけど、それはまた今度なのよ」


 確かに悪戯勇者の唱えたものはそれほど長くはなかった。にもかかわらずかなり強力な魔法だったように思うが、あれは通常のものとは少し毛色が違うものだったのだと考えた方がいいのかもしれない。


「それで、私が魔法を使うにはこの文を読めばいいの?」


「そうなのよ。さっき私が唱えたものと同じ……用意はいいのよ? 指先から火が出るから、気を付けるのよ」


「うん……“火よ、灯れ”」


 唱えると同時に、体の中をなにかが流れていくのを感じる。


 これが魔力なのだろうか。あまり大きな流れには感じないが、これで発動するのだろうか。


 しばらく指先を見ていると、そこがほんのりと暖かくなっていくのを感じた。


 そして、指先に集まった何かは、私の体の中を離れて外部へと出ていく。


 私がそう感じると同時に、指先から少し離れた地点にぽわ…と、ミリアのものより若干小さな火の玉が浮かんだ。


「うん。初めてにしては上出来なのよ。出来た感想はどうなのよ?」


 ミリアが笑ってそう言った。


「これが魔法なんですか……」


 呆然としている私に、拍手が送られた。セーラとフェラード氏だ。


「よくできましたね、キリハ様。」

「うん。悪くなかった。魔力も全く暴走してないようだし」


 なんだか聞き捨てならないセリフが聞こえた。


「……暴走?」


「うん。初めて魔法を使うときって、自分の魔力を暴走させちゃう子がたまにいるんだよね。大爆発になるから結構危険なんだ」


「そういうことは前もって言っておくべきでは」


「前もって言っておくと緊張するじゃないか。そうすると余計に失敗しやすくなるし……。黙ってやらせるのが通例なんだよ」


「……そうですか」


 なんとなく釈然としない思いがするが、言っていることが事実ならその理屈は正論だろう。そもそもフェラード氏がそんなことで嘘をつく意味などないのである。


「じゃあ魔法も使えたみたいだし、今日のところは解散かな。明日からはミリアから体系魔法の特訓を受けてね」


「……特訓?」


 嫌な響きだ。


 なんとなくセーラの言語修行を思い出してしまう。


「そう、特訓だよ」


「特訓なのよ? お兄様」


 ふふふふふ、と兄弟二人そろって怪しげな笑みを浮かべる。

 

 その光景を見た私は、極めて似たもの兄妹だと、そう思ったのだった。


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