第34話 種族は何?
「ま、ともかく魔法の練習しようか。どれにするか決めた?」
「その前にこの姿をどうにかしたいんですけど」
フェラード氏の腕にねこぱんちしながらそう言ってみる。
すると、
「あぁ……そうだったね。さっき猫になった時と逆……人間の姿を思い浮かべながら集中してみるといい」
言われたとおりにすると、ほんわりとした光に包まれていつの間にか目線が高くなっていた。
一瞬違和感がするが、すぐにこれが自分のもとの姿だったと思い出す。
手を見つめると見慣れた人間の手だ。……いや、もう魔族なんだったか。
「戻ったね」
「あぁ、はい……」
なんだか呆然としてしまい、ミリアとセーラに笑われた。
*
魔法を扱うのに最も大事なのはイメージなのだという。
とは言っても魔力にはその流れる方向や性質があるから、それだけではどうにもならないのだが魔族ほどの魔力があるなら多少強引な使い方も出来るということだ。それに魔族は本能的に魔力の性質や流れを認識することができる。魔族は本能で魔法を使っているのだ。
人間にはそこまでの魔力はないし魔力もあまり認識できないため効率的な魔力運用方法を追及することになりその努力の結果は体系魔法という形で結実することになった。
魔物はそもそも魔力で動いているため外部から魔力を取り込むことによりいわば燃料を追加するような形で身体強化をすることができる。
三者三様であり、どれを修めることができるかは生まれた種族により初めから決定しているのが普通だ。
しかしキリハは違う。
まず魔族であるから魔族の非体系魔法の使用が可能だ。これは本能で行使するものであるから基本的な部分以外は自ら開発し研鑽していくことになる。
次に人間の体系魔法だが、これは魔族であっても当然行使可能なものだ。ミリアが学んでいることからもそれは明らかで、魔力の性質を利用した合理的な魔力行使方法だからである。
最後に魔物の身体強化だが、これはふつう魔族は使えない。魔族の肉体は魔力で動いているわけではないからだ。
しかし、
「私は違うんですか?」
私はフェラード氏に尋ねる。
すると、彼は申し訳なさそうな顔で言った。
「違う。半魔にする魔法を君にかけたけどなんだか捻じれて完全な魔族になっちゃったって言ったけど、君の性質それ自体がかなりおかしなことになっているんだ。君は魔族だ。そしてそれと同時に魔物、そんなおかしな体になっちゃってるんだよ」
「魔物の体っていったい……」
「僕らの身体構造はほとんど人間と同じなんだけど君の体はその重要な部分が魔物と同一になってしまっているということだよ。――つまり、君の心臓は魔石なんだ」
「魔石……?」
「そう。君の心臓はいま生身の心臓じゃない。そうだな……試しに脈、とってみなよ」
私はあわてて手首をおさえて脈をとる。
……脈が、ない。
うそでしょ。
蒼白になった私の顔を見て、フェラード氏はあっけらかんと言う。
「そんなわけだ。だからね、まぁ、今の君は魔族かつ魔物だね。だからどんな魔法でも使用できる可能性があるわけだけど」
「そんな……」
しかし、絶望的な顔をした私を、フェラード氏はいつになく真剣な顔をして見つめた。
「治す方法はわからない。けれど必ず見つける。だからあんまり心配しないでほしい」
「フェラード様……」
「結構、今回のことでは責任感じてるんだよね。さすがに僕らも勇者/聖女召喚については研究不足だった。ここまで魔法に影響が出るとは思ってなかったんだ」
だから、ごめん。
意外にも、そう言ってフェラード氏は謝ったのだった。
*
とにもかくにも、こうなってしまったものはしょうがない。
私は立ち直りが早かった。
「いいのかな、それで」
「まぁ仕方ないものは仕方ないです。たしかにびっくりしましたけどね」
「キリハびっくりするほど立ち直り早いのよ……」
「キリハ様はなんだか割り切りが早すぎると思います」
セーラもミリアも目を丸くしている。
いいのだ。
私はこういう人間なのだから。
「で、どうやったら魔法を使えの?」
「本性への変化も魔法なのよ」
「いや、もっと魔法っぽいのを」
「魔法っぽいってなんなのよ……」
どうやらミリアにはわたしのイメージは伝わりにくいらしい。
「こう、火がぼわっとかしてる感じだよ」
「あー、それがキリハの魔法っぽい、なのよ……」
「それなら体系魔法が一番手っ取り早いのでは?」
セーラがそう提案する。
ミリアはそれもそうなのよ、と納得して手元にぼわんと本を出した。
前に悪戯勇者が見せたものに似ていた。




