第33話 現状確認
「はい、鏡」
そう言って目の前の机の上に置かれたのは精緻な薔薇の縁取りが施された縦長の鏡だ。
どこから出てきたかと言えば、セーラが魔法で出してフェラード氏に手渡していた。
しかも無詠唱かつ魔法陣なしでである。魔族の規格外さがわかる。
「……にゃ……」
前足で私は自分の顔をさすった。
前足で。
肉球がぷにぷにして気持ちいいが、これはつまりそういうことなのだろう。
「いやはや。実に可愛らしい姿だね。自分がどうなってるか、確認できた?」
「……にゃ」
鏡に映っているのは見間違いようのない生命体の姿だ。
地球でもよく見かけていた好き勝手生きている生物代表。
そうつまり……、
「にゃ……」
全身真っ黒の猫が鏡に反射している。
ただ、通常の猫と違う点は背中からなんだか悪魔っぽい形の羽が生えているという点だ。
結構長めなので、背中は見えないが、正面から鏡を見ても羽があるのが見える。
もしかして飛べるのだろうか……?
そんなことを考えていると、
「キリハ様!まさか私の姿に似せてくれるとは……!!」
「うう。狼になってくれなかったのよ……」
セーラはそういって抱きついてきた。ミリアはしょんぼりしているが、とりあえず私のことを撫でることにしたらしい。
体も小さくなってしまったため、二人に軽く持ち上げられてすりすりされる。
セーラの本性は猫だ。色こそ違うものの、同じ姿になったことがうれしいらしい。
ミリアは自分の本性が狼だからがっかりしてるのだろう。私としては狼の方がかっこいいからなるならそっちがよかったのだが、なぜ猫になってしまったのか……。
まぁそれはともかく……。
「にゃにゃーにゃにゃにゃにゃ?」
そう、なぜ私はこんなことになってしまっているのか。
その理由の確認がもっとも重要なことだった。
フェラード氏が私に指示したことが原因なのはあまりにもわかりきっているが、そもそもここでいう原因というのは私にはそういう変身能力はなかったのにもかかわらずなぜそれが出来てしまっているのかということである。
だから私はセーラの腕にぶら下がりながら質問した。
フェラード氏は私の疑問を正確に受け取り、そして答える。
「まず、君は君に魔法がかかっている、ということを覚えているかな?」
「にゃあ」
「その魔法はね、実は君を半魔にするものだったんだ」
「にゃ!?」
「で、もうひとつ。勇者/聖女召喚に伴う特殊能力の発現、というのを覚えてる?」
「にゃ」
「君にはそういうのなかったんだって話はしたよね。でも、今の君には魔力が溢れていた。不思議なことにね。全く魔力のない人間に、魔力が生まれることはありえないんだ。だから、君の魔力は君が異世界からこっちにわたってきたことによるものだと考えるほかないんだけど……」
「にゃ」
「でも、君にはいつまで経っても魔力鳴動はなかった。これはおかしい。それでね、研究所でずっと調べていたんだよ。そしたら……」
「にゃにゃにゃ?」
「君にかけた魔法が捻じれていることが判明した。半魔になる魔法だったんだけど、完全な魔族になる魔法にね」
「……にゃ、にゃにゃ?」
「今は、そうとしか言いようがない状態だ。正直こんなことは僕らが意図しても出来ないことだ。だから非常に困惑しているんだけど、まぁこの際だしね。都合いいじゃないかと思って」
「にゃー……にゃにゃにゃ」
「……君はほんと怒らないね。ふつう怒るよ?」
「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ?」
「そうだけど……まぁ、そんなわけで、君は栄えある魔族の一員というわけだ。これから、よろしく」
「……にゃ(よろしくおねがいします)」
猫の姿でお辞儀した。
シュールである。
フェラード氏はそんな私を見ながら言った。
「それとさ」
「にゃ?」
「なんで猫語?」
「……にゃにゃにゃにゃーにゃにゃ」
「僕らはふつう、本性になっても普通に話せるよ」
「にゃ……そんなわけ……あ、本当だ」




