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魔国文官物語  作者: 丘/丘野 優
第1章
32/52

第32話 想定の範囲外

「単純じゃ、ない?」


 私はフェラード氏の言葉を鸚鵡返しする。

 彼の説明を聞く限り、非常に単純な話のような気がしたのだが、間違いだったのだろうか。

 前にセーラが教えてくれた常識によると、魔族は魔力を直接扱えるが人間にはそれは無理で、だから人間と魔族の使う魔法は異なる、という話だったはずだ。

 であるなら、私の覚えるべき魔法は、体系魔法ということになるのが必然ではないか。


 そう、フェラード氏に言うと、彼も一応頷く。


「うん。よく理解しているね。確かに、普通は、そうなる」

「……普通は?」


 こてり、と首をかしげる私にフェラード氏は言った。


「つまり君の場合はそうはならない、ということだ」

「……ちょっと待ってくださいよ。それっていったいどういう……!!」

「まぁ、いろいろあるんだけど、まず君にやってもらいたいことがある」

「はぁ……なんでしょう?」

「まず、目をつぶって」

「……はい」

「そうしたら、心の中で、ぽっかりと空いた大きな穴を想像するんだ」

「……それに何の意味が?」

「いいから。説明はあと」

「分かりました……」


 私はなんだか釈然としない気がしながらも、言われたとおりにする。


 心の中に、穴……。


 それはきっと暗い、真っ暗な穴だろう。


 寂しげで、つらそうで、何もかもを飲み込む、悲しい穴。


 なんだか後ろ向き過ぎる想像だが、仕方ない。


「想像した?」

「はい」

「じゃあ、次は、その穴に飛び込むようなイメージを……できる?」

「……はい」


 穴に飛び込む……。

 飛び込む、というより落ちる感じだろうな。私だし。

 穴がそこに開いていることに気づかないで、のんきに歩いている私。

 そのまま、まっすぐ進むと、落ちる。

 それなのに、のんきに歩いている、馬鹿な私。


 踏み外し、あわてて、でも、伸ばした手は淵をつかむことが出来ずに……。


 なんだか、ほんわりと暖かいものが胸の内側から湧き上がってくる気がした。


 これは……。


「いいね。そのまま、湧いてきた力を、固めて……」

「……どうやって」

「なにか、浮かべやすい形をイメージして」

「かたちを……」


 私はが思い浮かべたのは……。


 その瞬間、辺りに風が吹いた。



  *


 執務室の扉が乱暴に開かれる。


「何があったのですか!?」


 似合わずあわてて執務室に入ってきたのは、セーラだ。

 一体どうしてそんなにあわててるんだろう?


 私は首をかしげた。


 目の前ではフェラード氏がこちらを見ながら、微笑んでいる。


 先ほどまでと、なにも変わりはない。


 ……?


 本当に?


 なんだかよく分からない焦燥感にかられた私を、フェラード氏はくっくっくと笑いを噛み殺しながら言った。


「なるほど、そうなったか。おめでとう」


 一体なにを言っているんだろう?

 

 そう(・・)なった?


 あわてていたセーラも私を見て、安心したようで、フェラード氏と似たような表情で言う。


「……キリハ様……!!そうですか!そうなんですか!」


 なぜか心なしかうれしそうである。


 だから一体なんなんだ!


 どたどたと音がして、開け放たれた扉からミリアもやってきた。


「何があったのよ!……って。そうなの。なるほどなのよ……ちょっと残念なのよ……」


 なんでかがっくりとするミリア。


 みんなの反応を見るに、状況をつかめていないのは私だけのようだ。


 納得ばかりしてないで、私にも説明してほしいものである。


 そう思った私は、その旨きっちりと主張すべく、叫んだ。




















にゃにゃにゃ(みんな何に)にゃにゃにゃ(納得してるんですか)ー!!……にゃ(えぇ)!?」




 ……あれ?

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