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魔国文官物語  作者: 丘/丘野 優
第1章
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第31話 夢実現?

「じゃあ、そろそろ魔法の練習しようか」


 魔法符に付与された通販機能により思いがけず美味しいお茶のお取り寄せに成功した私は、ついでにと毎日執務に追われている宰相閣下にひと時のティータイムをと思い、給仕に来ていた。


 私の手元には、私とフェラード氏の分のティーカップと私が厨房を借りて作ったスコーンとジャムが載っている。この世界にも焼き菓子の類はあるにはあったが、いろいろと異なる部分があるために一度作ってくれと常々頼まれていたために、この機会にと思って作ってきたのだった。


 私としては、このままお菓子を食べて談笑し、そのまま出て行って自分の部屋で読書でもしようと思っていたのだが、その目論見を見事破壊してくれたのが、先ほどのフェラード氏の一言である。


「なんだい、その顔は」

「いえ……今日は私は休日……もとい惰眠をむさぼ……じゃなくて、宰相閣下はお仕事がお忙しいのではないかと思いまして」

「最後の言い換え、いる? そこまで言うなら今日は面倒くさいからやめてくれでいいじゃないか」

「ただの冗談ですからあんまり真面目に受け取らないでください」

「そう?」


 にこにこと笑っているフェラード氏。分かっていっているのか本気で言ってるのか、よくわからない。

 ともかく、私の台詞についてはただの冗談である。


 そもそも、魔法、というのは地球においては夢の存在。マンガ肉と並び立つであろう誰もが欲する幻想だ。

 この世界に来て、魔法があるとわかってからというもの、私は使いたくてたまらなかったと言っていい。


 にもかかわらず、君は魔力ないね発言で一時絶望の淵に落とされ、その後、あれもしかしてつかえるかも発言により賦活した私の魔法への渇望は、いまこの時をもって燃え上がりはじめている。


 たとえ今日が休日であろうと宰相閣下のお仕事の邪魔だろうと作ったお菓子を食べてもらえなかろうと、魔法が使えるようになるのならばかまわないと言い切れるぐらいには。


「……まぁ、僕の仕事の邪魔はともかく、お菓子は食べるよ? お茶もね」


 フェラード氏は駄々漏れになっていた私の心の叫びに返答しながら、私の手からお盆を取って、執務室の一角にある応接セットにお茶とお菓子を並べた。テーブルを拭かなくていいのかと聞くと「このテーブルは清潔の魔法がかかっている魔導具なんだよ」と言ってテーブルの一部を指差す。


 そこには見るも複雑な魔方陣――悪戯勇者やミルトと名乗る魔法使いが魔法を使用するときに使ったものと似ているもの――が刻まれていた。


 フェラード氏はそのまま私に席を勧め、自分も腰をかけて話し始める。


「君は、魔法についてどう考えているかな?」

「……お菓子食べるんじゃなかったんですか?


 そう聞くと、フェラード氏はお菓子は話しながら食べたほうが美味しいだろう、といった。

 その考え方には賛否両論ありそうだが、私は人と食事をしながら話すのが好きなほうだ。

 だから頷いて、フェラード氏の質問に答えた。


「魔法って言われると、前にミリアが《読み願う魔法》と《描き顕す魔法》がどうって言ってたのを思い出しますね」

「あれ、そんなこと話したんだ」


 なぜか不思議そうなフェラード氏。


「ええ。悪戯勇者が使ってましたから」

「なるほどね……それならおかしくない」

「どういう意味ですか?」

「なんていうかな、魔法、特に僕ら魔族が使っているのはそういう体系的なものとは違うものなんだよ。だから、そういう説明の仕方は、魔族はあまりしない」

「体系的、なんですか? 《読み願う魔法》と《描き顕す魔法》というのは」

「そうだね……どちらも人間が長い年月をかけて組み上げたものだ。魔族はそういった体系とは異なる次元で魔法を使っているから、あんまり体系的ではないね」

「そもそも、魔法ってなんなんです?」

「いい質問だ。そこにはいろいろ解釈の余地があるけど……大体の学者が言っているのは、“生き物が魔力を使用して起こす現象”のことを魔法という。だから、人間が使う体系的な魔力行使は魔法だし、僕ら魔族が魔力を使って起こす現象も魔法という。さらに言うなら魔物が体内に魔力を取り込んで身体強化をすることも魔法に分類される。しかし魔力が自然に凝って起きる災害は魔法とは呼ばない、という感じかな」

「生き物が魔力を使えば、すべて魔法ですか」

「そう。だから一言で魔法、と言ってもいろいろなものが入っているんだよね。そして君にはここで選択の余地がある」


 フェラード氏は指を立てていった。


「選択?」

「うん。君はどのような魔法を修めるか、という話さ」

「その前に聞きたいんですけど」

「なにかな」

「私に魔法を使える素養はあるんですか?」

「そうだね。今の君を見る限り、君の体内には魔力が充実している。いつごろから始まったのか、正確なことはわからないけど……ガッスールのところに泊まったあたりからかな。その辺から、君の体から魔力が生まれ始めていた」

「それは依然おっしゃっていた、魔力鳴動というやつですか?」

「いや、そうではないね。鳴動、というわけではない。ごく自然に魔力が発生しているんだ。これは……なんていうかな。子供が魔法に目覚めるときに似ている」

「子供……」

「いや、別に君が童顔だって話をしているんじゃないよ?」

「わかってますよ!」

「おこらなくても……まぁ、とにかく、君は魔法を使えるよ。練習すればね」

「そうですか。じゃあ、選択ってなんです?」

「うん。魔法には種類がある。人間の体系魔法、魔族の非体系魔法、それに魔物の固有魔法。君はどれを覚えたいかな、という話さ」

「私は人間なのですから、人間の体系魔法しか覚えられないのでは?」


 ごく自然に、私はそう聞いた。

 けれど、フェラード氏は難しそうな顔をしながら、言う。


「いや、そんな単純な話じゃないんだよね、実は」

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